後始末
夢主の名前
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一方、置き手紙を残してベルベット達のもとを離れたキキョウは、業魔からの襲撃の用心棒を請け負う代わりに、荷馬車を乗り継ぎ、ある場所へと向かっていた。
「悪いけどここまでだ」
「充分です。ここからは一人で歩いていけますから」
「なぁ、今からでも考え直さないか?
あんた訳ありみたいだが、悪い奴じゃないし、今は聖寮もかなり混乱してる。
ここから先は……」
「平気です。“故郷”ですから。
ありがとうございました、お気をつけて」
荷馬車から降りて、歩を進めていく。
少し前は、ミッドガンド王国の剣と呼ばれる名門の貴族が治めている伯領ということで、それなりに賑わっていたのに今は見る影もなく寂れてしまっている。
無理もない。
その名門の剣は“二振りとも”すでになく、当主自身が業魔となって一族を皆殺しにしたのだというのだから。
分家の末席のキキョウは、直に顔を見ることなどなかったが、とても気位の高い男だったと聞く。
シグレが聖寮の特等対魔士として、自分より上の立場に、それも政権を聖寮に奪われたことが我慢ならなかったのだろうことは、容易に想像がついた。
そう、ここはキャスパリーグ領、いや今となっては旧キャスパリーグ領と言った方がいいだろう。
キキョウとロクロウの故郷だ。
寂れた領都を抜けて、山へ入る道を行く。
元から一般人の往来を想定した道ではないとはいえ、もはや獣道同然のそこを歩き進めていけば、迷家の如く廃墟が現れた。
そこは“ソウマ邸”。
二年前、一夜にして折れてしまった、キャスパリーグ家のもう一振りの剣だった一族。
キキョウの生家、その跡地だ。
ここにキキョウが訪れたのは勿論、里帰りなどと言う生温い理由などではない。
王都ローグレスの宿で、血翅蝶のメンバーがキキョウを訪ねてきた。
曰く、ソウマ邸跡地は業魔達の巣窟となっており、人目も人通りも関係者以外ないことを幸いに、聖寮が山ごと立入禁止区域としていたらしい。
しかし、寂れたと言っても、全ての人々が、キャスパリーグ領から出ていけるわけもなく、ましてや四聖主を起こしたことで聖寮の対魔士達は力を失ってしまった。
領主もいない。聖寮は手が回らない。
事実上、管理を放棄されてしまったここから、いつ業魔達が外に出てくるかわからない。
だから“後始末”をつけろ、と言われたのだ。
今はまだ、四聖主達の力がカノヌシと拮抗しているが、それもいつまでも保つかはわからない。
アルトリウスとの決戦が控えているベルベット達に、“自分の不手際の片付け”を手伝わせるという考えは、キキョウの中にはなかった。
朽ちて歪んだ門戸に手をかければ、ぱらぱらと木屑を溢しながら、耳障りな音を立てて開く。
一部が崩れた屋根、手入れされていた庭は雑草が生い茂り、一見誰もいないようだが、明らかに“人だったもの”が蠢いている気配が幾つかある。
「……」
大丈夫。
“あの日”と同じことをやるだけ。
一夜にしてソウマ家を滅ぼしたのは、他でもないキキョウ自身なのだから。
「悪いけどここまでだ」
「充分です。ここからは一人で歩いていけますから」
「なぁ、今からでも考え直さないか?
あんた訳ありみたいだが、悪い奴じゃないし、今は聖寮もかなり混乱してる。
ここから先は……」
「平気です。“故郷”ですから。
ありがとうございました、お気をつけて」
荷馬車から降りて、歩を進めていく。
少し前は、ミッドガンド王国の剣と呼ばれる名門の貴族が治めている伯領ということで、それなりに賑わっていたのに今は見る影もなく寂れてしまっている。
無理もない。
その名門の剣は“二振りとも”すでになく、当主自身が業魔となって一族を皆殺しにしたのだというのだから。
分家の末席のキキョウは、直に顔を見ることなどなかったが、とても気位の高い男だったと聞く。
シグレが聖寮の特等対魔士として、自分より上の立場に、それも政権を聖寮に奪われたことが我慢ならなかったのだろうことは、容易に想像がついた。
そう、ここはキャスパリーグ領、いや今となっては旧キャスパリーグ領と言った方がいいだろう。
キキョウとロクロウの故郷だ。
寂れた領都を抜けて、山へ入る道を行く。
元から一般人の往来を想定した道ではないとはいえ、もはや獣道同然のそこを歩き進めていけば、迷家の如く廃墟が現れた。
そこは“ソウマ邸”。
二年前、一夜にして折れてしまった、キャスパリーグ家のもう一振りの剣だった一族。
キキョウの生家、その跡地だ。
ここにキキョウが訪れたのは勿論、里帰りなどと言う生温い理由などではない。
王都ローグレスの宿で、血翅蝶のメンバーがキキョウを訪ねてきた。
曰く、ソウマ邸跡地は業魔達の巣窟となっており、人目も人通りも関係者以外ないことを幸いに、聖寮が山ごと立入禁止区域としていたらしい。
しかし、寂れたと言っても、全ての人々が、キャスパリーグ領から出ていけるわけもなく、ましてや四聖主を起こしたことで聖寮の対魔士達は力を失ってしまった。
領主もいない。聖寮は手が回らない。
事実上、管理を放棄されてしまったここから、いつ業魔達が外に出てくるかわからない。
だから“後始末”をつけろ、と言われたのだ。
今はまだ、四聖主達の力がカノヌシと拮抗しているが、それもいつまでも保つかはわからない。
アルトリウスとの決戦が控えているベルベット達に、“自分の不手際の片付け”を手伝わせるという考えは、キキョウの中にはなかった。
朽ちて歪んだ門戸に手をかければ、ぱらぱらと木屑を溢しながら、耳障りな音を立てて開く。
一部が崩れた屋根、手入れされていた庭は雑草が生い茂り、一見誰もいないようだが、明らかに“人だったもの”が蠢いている気配が幾つかある。
「……」
大丈夫。
“あの日”と同じことをやるだけ。
一夜にしてソウマ家を滅ぼしたのは、他でもないキキョウ自身なのだから。