後始末
夢主の名前
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誰もいない部屋で見つけた置き手紙と硬貨を手に、ロクロウはベルベット達を呼び集めてそれらを見せた。
テーブルの上に置かれたその簡素な文面を見た瞬間、それを目にした時のロクロウと同じ驚きと動揺が皆に走った。
「そんな、キキョウ……!?」
いち早く声を上げたのはエレノアだった。信じられないというように手紙とロクロウを交互に見やり、すぐさま手にする槍を握り直す。
「急いで探さないと!まだ王都を出たばかりなら、今からでも間に合うはずです!」
「ほっときなさい」
慌てるエレノアを、ベルベットの冷ややかな声が制した。
振り返るエレノアに視線も合わせず、ベルベットは手紙を一瞥して腕を組む。
「ベルベット!」
「キキョウ自身の意思で出て行ったんなら、あたしたちがわざわざ追いかける義理はない。アルトリウスとの決戦を前に戦力が一人消えたのは痛いけど、時間と労力を使ってまで探し回るようなことでもないわ」
「ですが……!」
「ベルベットの言う通りだ」
食い下がるエレノアを窘めるように、アイゼンもコインを弾きながらベルベットに同意した。
「あいつ自身が自分の生き方を決めて舵を切ったんだ。他人の俺たちがとやかく口出しする筋合いはない」
「そもそもキキョウは、共に暮らしておったクロガネが船に乗った成り行きで、儂らと行動を共にしておった。
そのクロガネはもうおらんし、母親の仇じゃったらしいシグレもロクロウが斬った。
無理に儂らとおる理由はなかろうて」
「でもロクロウがいるのに……」
「“だからこそ”かもしれんぞ?」
「……」
さらにマギルゥが追撃のように、ニヤリ、と口の端をあげながらキキョウを追う理由のなさを補強する。
来る者は拒まず、去る者は追わず。自分の道は自分で決める。
それが、このはぐれ者たちの流儀だ。誰の目から見ても、ベルベットとアイゼン、マギルゥの言うことは完全に理にかなっていた。
「……待ってくれ」
だからこそ、ロクロウは一歩前に出て、静かに、だが強い語気で口を開いた。
「ベルベットの言う通り、これからアルトリウスとカノヌシに挑むんだ。戦力が戻るなら、それに越したことはないだろう」
「……だから?」
もっともらしい建前。
だが、それだけでベルベットが頷くもはずもない。
彼女は値踏みするような鋭い目で、ロクロウを睨め返す。
「……すまん」
ロクロウは小さく息を吐き、見栄も、都合のいい建前も、すべてかなぐり捨てるように、まっすぐにベルベットの目を見た。
「どうしても、追いかけたいんだ。俺が、あいつを追いかけなきゃならない理由がある。頼む」
少しの沈黙の後。ベルベットは呆れたように小さくため息をついた。
「……キキョウの状況を確認しに行くだけよ」
「ベルベット……」
「向こうが戻ってこないつもりなら、無理に連れ戻したり説得したりはしないからね」
冷たい言葉とは裏腹に、ロクロウの不器用な覚悟を確かに受け入れていた。
「ああ。恩に着る」
「そうと決まれば、手がかりが必要だ」
アイゼンがすぐさま思考を切り替え、王都の街並みへと視線を向ける。
「この王都で情報を得るととすれば、あそこしかない」
「ええ。“血翅蝶”ね。行くわよ」
キキョウが残していった手紙をロクロウが懐にしまい込むと、一行は足早に王都の酒場へと向かって歩き出した。
「タバサ」
ローグレスの酒場、血翅蝶のアジトである店のドアをやや乱雑に開け放つ。
その慌ただしい剣呑な様を、裏組織の頭領である老女は少しも狼狽えることなく、泰然とベルベット達を出迎えた。
「その様子だとあのお嬢さん一人で行ってしまったようね」
「キキョウがどこに行ったのか知ってるんだな?」
「ええ。彼女に“依頼した”のは私だもの」
「依頼?いつものように強力な業魔を倒せというような?それともキキョウに何か探って欲しい情報でも……?」
「どっちにしろこのタイミングで余計なことしてくれたわね」
「それは私も重々承知しているわ。けれど、以前の鎮静化の影響でうちもすっかり人が減ってしまった……だから、あの“ソウマ家のお嬢さん”に頼んだの」
「何処にあいつを行かせた」
いつもの明るい笑みはなく、射殺せそうな程の鋭い視線で、タバサを見据えるロクロウ。
タバサはそれに怯むことなく、余裕と笑みを消すことはなかった。
「その様子だとあなたは知らないのね」
「何をだ」
「キャスパリーグの双剣、その片割れであるソウマ家は二年前、一夜にして滅んだの。
今はもうあのお嬢さんしか生き残りはいないわ」
「「「「「「!」」」」」」
テーブルの上に置かれたその簡素な文面を見た瞬間、それを目にした時のロクロウと同じ驚きと動揺が皆に走った。
「そんな、キキョウ……!?」
いち早く声を上げたのはエレノアだった。信じられないというように手紙とロクロウを交互に見やり、すぐさま手にする槍を握り直す。
「急いで探さないと!まだ王都を出たばかりなら、今からでも間に合うはずです!」
「ほっときなさい」
慌てるエレノアを、ベルベットの冷ややかな声が制した。
振り返るエレノアに視線も合わせず、ベルベットは手紙を一瞥して腕を組む。
「ベルベット!」
「キキョウ自身の意思で出て行ったんなら、あたしたちがわざわざ追いかける義理はない。アルトリウスとの決戦を前に戦力が一人消えたのは痛いけど、時間と労力を使ってまで探し回るようなことでもないわ」
「ですが……!」
「ベルベットの言う通りだ」
食い下がるエレノアを窘めるように、アイゼンもコインを弾きながらベルベットに同意した。
「あいつ自身が自分の生き方を決めて舵を切ったんだ。他人の俺たちがとやかく口出しする筋合いはない」
「そもそもキキョウは、共に暮らしておったクロガネが船に乗った成り行きで、儂らと行動を共にしておった。
そのクロガネはもうおらんし、母親の仇じゃったらしいシグレもロクロウが斬った。
無理に儂らとおる理由はなかろうて」
「でもロクロウがいるのに……」
「“だからこそ”かもしれんぞ?」
「……」
さらにマギルゥが追撃のように、ニヤリ、と口の端をあげながらキキョウを追う理由のなさを補強する。
来る者は拒まず、去る者は追わず。自分の道は自分で決める。
それが、このはぐれ者たちの流儀だ。誰の目から見ても、ベルベットとアイゼン、マギルゥの言うことは完全に理にかなっていた。
「……待ってくれ」
だからこそ、ロクロウは一歩前に出て、静かに、だが強い語気で口を開いた。
「ベルベットの言う通り、これからアルトリウスとカノヌシに挑むんだ。戦力が戻るなら、それに越したことはないだろう」
「……だから?」
もっともらしい建前。
だが、それだけでベルベットが頷くもはずもない。
彼女は値踏みするような鋭い目で、ロクロウを睨め返す。
「……すまん」
ロクロウは小さく息を吐き、見栄も、都合のいい建前も、すべてかなぐり捨てるように、まっすぐにベルベットの目を見た。
「どうしても、追いかけたいんだ。俺が、あいつを追いかけなきゃならない理由がある。頼む」
少しの沈黙の後。ベルベットは呆れたように小さくため息をついた。
「……キキョウの状況を確認しに行くだけよ」
「ベルベット……」
「向こうが戻ってこないつもりなら、無理に連れ戻したり説得したりはしないからね」
冷たい言葉とは裏腹に、ロクロウの不器用な覚悟を確かに受け入れていた。
「ああ。恩に着る」
「そうと決まれば、手がかりが必要だ」
アイゼンがすぐさま思考を切り替え、王都の街並みへと視線を向ける。
「この王都で情報を得るととすれば、あそこしかない」
「ええ。“血翅蝶”ね。行くわよ」
キキョウが残していった手紙をロクロウが懐にしまい込むと、一行は足早に王都の酒場へと向かって歩き出した。
「タバサ」
ローグレスの酒場、血翅蝶のアジトである店のドアをやや乱雑に開け放つ。
その慌ただしい剣呑な様を、裏組織の頭領である老女は少しも狼狽えることなく、泰然とベルベット達を出迎えた。
「その様子だとあのお嬢さん一人で行ってしまったようね」
「キキョウがどこに行ったのか知ってるんだな?」
「ええ。彼女に“依頼した”のは私だもの」
「依頼?いつものように強力な業魔を倒せというような?それともキキョウに何か探って欲しい情報でも……?」
「どっちにしろこのタイミングで余計なことしてくれたわね」
「それは私も重々承知しているわ。けれど、以前の鎮静化の影響でうちもすっかり人が減ってしまった……だから、あの“ソウマ家のお嬢さん”に頼んだの」
「何処にあいつを行かせた」
いつもの明るい笑みはなく、射殺せそうな程の鋭い視線で、タバサを見据えるロクロウ。
タバサはそれに怯むことなく、余裕と笑みを消すことはなかった。
「その様子だとあなたは知らないのね」
「何をだ」
「キャスパリーグの双剣、その片割れであるソウマ家は二年前、一夜にして滅んだの。
今はもうあのお嬢さんしか生き残りはいないわ」
「「「「「「!」」」」」」