一足遅く
夢主の名前
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キキョウに割り当てられた宿の部屋の前で、ロクロウは無言で立ち尽くしていた。
「……」
ライフィセットによって、無垢に無自覚に突き付けられた、あまりにも情けなくて虫の良すぎる理由。
人間だった頃、キキョウを愛しい、守りたいと言っておきながら、その優しさに甘えて、才能に嫉妬し、突き放して、挙げ句の果てに業魔にまで堕とした。
業魔になってからも、自分のことを想い続ける、案じてくれていたのにもう、想いはないと言い放って絶望させた。
挙句に、さも、向こうからあの甘い香りの毒で誘い、惑わされるから仕方なく、だなんて都合の良い建前で何度もその体を貪った。
今更、どの口が寂しいなどと言うのか。今更向き合いたいなどと、虫が良すぎるにも程がある。
「(けど……)」
キララウス火山でのキキョウの血を吐くような叫びを聞き、そして今、自らの奥底にある醜い本音を突きつけられてしまった以上、もう目を背けることはできなかった。
昔と違って、今のキキョウは、少しずつではあるが、自分の中の負の感情を、“怒り”を吐き出せるようになった。
今更なんだ、と罵られるかもしれない。蔑まれるかもしれない。それでも構わない。
自覚してしまったからには、腹を括って向き合わなければならない。
意を決してドアを叩く。
しかし、中から反応はない。
叩く音が小さかったのか、いや、聞き逃すほどの音ではなかったはすだが。
「キキョウ……?」
今度は声を出して呼びかけてみるが、依然とドアの向こうは静か過ぎるまま。
嫌な予感がして、ドアノブを回してみれば、鍵はかかっておらずあっさりと開いた。
キキョウがいるはずの部屋には、最初から誰もいなかったように温度がなく、その代わりにテーブルの上に簡素な置き手紙と、無機質に光る幾許かの硬貨だけが残されている。