許さない怒り、許されていた罪
夢主の名前
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暫くして、どうにか落ち着いたキキョウは、やっと立ち上がる。
「大丈夫ですかキキョウ……?」
「すみません、あまり時間ないのに……泣く資格なんてないのに……」
「そんなことは……!」
とどめを刺したのはロクロウだが、キキョウとて四聖主への贄にする為、シグレを死に追いやることに加担したことに変わりなく、そしてシグレへの怒りもまだ胸の内で燻っている。
なのに、その死を悲しいと思うなんて烏滸がましいにも程があると、キキョウが俯いていた時だった。
「……例え他の兄貴達が生きてても、誰もシグレの為には泣かなかったさ」
「!」
「ロクロウ……」
「お前に泣いてもらえたんなら、あいつにしちゃ上等な死に方だよ」
クロガネの思いも受け継いで、やっと果たせた悲願だが、ロクロウだって何も思っていないわけではないだろうに。
それでもキキョウを気遣い、不器用な言葉選びで、慰めようとしてくれるロクロウの言葉はキキョウに胸を刺すような痛みを与えながらも、その優しさを確かに嬉しく思った。
そこでやっとキキョウは、残されたムルジムの方を見る。
ベルベットに巻き込まれないよう逃げた方がいい、と忠告されながらも、まだもう少しだけここにいたいと言うムルジム。
シグレはあれで寂しがりやなところがあった、と彼女が口にしたことで、ロクロウは目を丸くした。
「そうなのか?」
「そうかもしれません」
同時に、けれど全く正反対のことをキキョウが口にしたため、ロクロウは呆気に取られてキキョウを見た。
「……そうなのか?」
「今思えば、ですけど……」
「兄弟なのにわからなかったの」
「俺もシグレも剣の修行ばかりだったからな……」
「ああ、ごめんなさい。皮肉じゃないの」
「子供の頃から気にかけて、可愛がってくれたことは嬉しく思います……」
家族であっても、互いを一、剣士として見ていたランゲツ家の兄弟達。
ソウマの人間ではあったが、シグレを“義兄様”と呼んで、実兄同然に慕い、懐いたキキョウ。
時々、シグレ自ら、キキョウに稽古をつけてくれることがあった。
それを見たときの他のロクロウの兄達は、シグレにキキョウが振り回されてると思って
「ほっとけ」
「律儀にあいつに付き合わなくていい」
と、声をかけてくれたが、キキョウは嫌ではなかったし、むしろ嬉しかった。
もしかしたら、弟達に素直に兄として接することが出来なかったことを、シグレ自身も無意識にキキョウを構うことで紛らわせていたのかもしれない。
「あなたのこと、シグレはよく話してたわ。危なっかしくて、つい構ってやりたくなるって。
素直に懐いて、慕ってくれた貴女がシグレは可愛かったのね」
「……それでもやっぱり、義兄様を許せない気持ちはまだ消えないです……」
「ええ。それでいいわ。
そんな人間が私、好きだもの」