-
ルイ
良かったら、手伝おか?
-
隣の煉瓦塀から顔を覗かせている声の主は、そんな私の様子を目の当たりにして気遣いながらも、
-
ルイ
手伝った分の時給、もれなく発生するけど。
-
少しばかり悪戯な笑みで付け加えた。
-
その言葉に小さく苦笑いを浮かべつつ、ホースを手早くリールに巻き戻してから改めて声の主に向き直る。
-
ヒナ
教えてくれてありがと、ルイくん。
-
ルイ
どうしたん、突っ立ったままボーっとしてたけど?
-
ヒナ
…ううん、なんでもないよ。
-
ルイ
……そっか。
-
ルイ
それにしても、いい天気やなー。
-
ルイ
ちょっと暑いくらいやで。
-
秋にしては眩しい陽射しがルイくんの端正な顔を晒して、吹き付けたそよ風が栗色の前髪をさらう。
-
ルイ
…確かに、洗車日和なんは認めるわ。
-
ルイ
俺、暑いの嫌いやから、時給高くなるな…これは。
-
そう続けながら両手を上に軽く伸びをしたルイくんは、こちらに向かって歩を進めた。
-
ヒナ
時給、いくらくらいがいい?
-
ルイ
嘘や嘘、そんなん冗談やで。
-
ルイ
時給なんていらんよ。
-
ヒナ
でも、
-
ヒナ
手伝ってくれるなら、何かお礼がしたいよ。
-
ルイ
お礼も別にええよ、
-
ルイ
ちょっと微妙にラグいから。
-
ヒナ
…ラグい?
-
ルイ
今ちょっと力が入らんから、動きが鈍いんよ。
-
ヒナ
えっ、どうしたの?
-
ヒナ
体調崩しちゃったとか?
-
途端に具合を憂う眼差しを向けると、ルイくんは私の前に立って小首を傾げて見下ろした。
-
ルイ
ヒナがそんな顔したら…ちょっと嬉しいわ。
-
ヒナ
…、どうして?
-
ルイ
……俺のこと、心配してる顔やから。
-
ヒナ
…、もう、なに言ってるの。
-
ルイ
……
-
ヒナ
…そ、それより、どうしたの?
-
ヒナ
力が入らないなんて…大丈夫?
-
ルイ
…なんも心配せんでええよ。
-
ルイ
ちょっと腹減ってるだけ。
-
ヒナ
えっ?!
-
ヒナ
おなか空いてるの?!
-
ルイ
そ。
-
ルイ
腹を満たしたら、元気になるパターン。
-
ヒナ
お昼ご飯、まだ食べてないの?
-
ルイ
…おん。
-
ルイ
いつもは婆ちゃんが作ってくれてるんやけど、
-
ルイ
昨日から爺ちゃんと二人で温泉行ってるから、家におらんねん。
-
長く伸びた前髪を手で軽く束ねたルイくんは、
-
手首に付けていたヘアゴムでちょんまげを作ってちょっぴり甘えるように続けた。
-
→
タップで続きを読む