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キザキ
…ねえ。
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キザキ
早くその手を離しなよ…、
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穏やかなのに、強圧的な声色。
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キザキさんのこんな声を今までに聞いたことがない。
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キザキ
…聞いてる?
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顎先を軽く上に、男に向ける視線は強い怒りを孕んでいて、
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それは紛れもなく、私が初めて見るキザキさんだった。
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キザキ
早く離さないと…、
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キザキ
君、どうなっても知らないよ?
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ブンッと力強く下方に角材を一振りし、鋭利に空(くう)を切る。
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*
て、てめえ…っ、
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キザキ
今の僕、前よりもずっと怖いもの知らずだから。
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キザキ
そういえば、
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キザキ
前にも一度、軽く痛い目に合わせた気がするけど?
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*
…!
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キザキ
今日は、前以上の経験をしてみる?
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手にした角材を男の鼻柱寸前の場所まで掲げて、
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その尖った先端は、今にも鼻先を砕きそうに威圧感を放った。
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*
ッ、ち、ちくしょう…、
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キザキ
うん?
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*
こ、今度会ったときには、ただじゃおかねぇからな!
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ビリビリとした殺気を漲らせたキザキさんの態様に男は歯が立たないと判断したのか、
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怯えた様子で慌てて踵を返す。
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*
お、覚えてろよっ…!
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キザキ
忘れる。
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逃げ去るその背に向けてケロリとして短く切り返したキザキさんは、
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手にしていた角材を元あった場所に軽く投げ入れる。
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そして、男が立ち去ったのを見届けてすぐ、こちらに駆け寄った。
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キザキ
ダメじゃない、ユヅキちゃん。
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キザキ
キミが何かされたかと思って、一瞬心臓が止まりそうになったよ。
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ユヅキ
ご、ごめん…!
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キザキ
車からは出ないでって言ってたでしょ?
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ユヅキ
…ほんとにごめんなさい…
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キザキ
怖かったよね…、もう大丈夫だから。
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キザキさんのいつもの優しい声と眼差しが私を包む。
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男に対してはあんなに冷酷に振る舞っていたのに、
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今、私を労るように耳に届く彼の声は少しばかり震えていた。
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キザキ
……
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ユヅキ
…、
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そっと肩に乗せた手の温もりが、どれほど心配したのかを伝えてくるから。
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キザキ
…、
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ユヅキ
…っ、!
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そのまま引き寄せられて強く抱き締められても、おとなしく従ってしまった。
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素直に身を委ねた対価のように、次第に恐怖が安堵に置き換わってゆく。
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キザキ
……文句、言わないんだね…。
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ユヅキ
…、
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キザキ
ごめん、意地悪な言い方しちゃった…、
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キザキ
怖い思いした女の子に言う言葉じゃないよね。
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ユヅキ
い、いえ…、
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キザキ
寄りにもよって、アイツに会うなんてね…。
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ユヅキ
…あの男の人…、
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ユヅキ
キザキさんは前から知ってるんですか?
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キザキ
うん。知ってるも何も…、
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キザキ
久しぶりに僕と再会して、向こうは厄日だと思ってるだろうね。
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ユヅキ
…あの男が放火の犯人だったんですね?
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キザキ
…、
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先ほどの二人の会話を回顧しながら問うと、
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キザキさんんは私の頭上で、うん…、と小さく頷いた。
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もっと早い段階から目星が付いていたが、警察に情報提供しないままでいるのは、
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それよりももっと大きな事件に絡んでいることを突き止めるためだったと、
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あの男はいわゆる半グレで、
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今までにも巧い話で女の子を誘う場面に遭遇しては阻止してきたのだと、静かに続けた。
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キザキ
ほんと良かった…、
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キザキ
ユヅキちゃんになにもなくて…。
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ユヅキ
…ありがとうございました、ほんとに…
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キザキ
気にしなくていいよ。
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キザキ
僕がキミを守りたいだけだし…、
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キザキ
それに今、ちゃんとお礼もらってるから。
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ユヅキ
…、お礼…?
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キザキ
こうやって、ユヅキちゃんを抱き締めること。
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ユヅキ
…っ、
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キザキ
…照れた?
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ユヅキ
べ、別に…っ、
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ユヅキ
こんなのがお礼だなんて、ほんと物好きですね。
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キザキ
なんとでも。
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キザキ
……
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キザキ
…ねえ、ユヅキちゃん。
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ユヅキ
…なんですか?
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キザキ
何かのときは、僕が守ってあげるからね。
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ユヅキ
…、
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キザキ
ユヅキちゃんのためなら、
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キザキ
僕、なんでもするよ?
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ユヅキ
……『なんでも』?
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キザキ
うん。
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ユヅキ
ほんとですか?
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キザキ
ほんと。
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ユヅキ
じゃあ…、
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ユヅキ
まずは、そろそろ離れてもらえます?
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キザキ
あっ、上手いこと言うなあ。
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一本取られました、というように、キザキさんは苦笑いしながら素直に私を解放する。
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ユヅキ
……
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少し後方に下がった私は、その普段通りの笑顔に背中を押されるように、
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前から疑問に思っていたことを訊ねることにした。
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ユヅキ
あの、
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キザキ
…なあに?
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ユヅキ
最近、その…、
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ユヅキ
私に触れたり、抱きつこうとするの…多くないですか?
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キザキ
そう?
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ユヅキ
できれば、その、やめてもらいたいんですけど…。
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キザキ
イヤ。
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ユヅキ
——なっ…、即答!?
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キザキ
うん。
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ユヅキ
あ、あなたには、遠慮ってものはないんですかっ。
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キザキ
うーん…、ないなあ。
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ユヅキ
——…
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ここまで豪快に開き直られると、唖然として反論する気も責める気も失せる。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
キザキさんって、もしかして甘えっ子?
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キザキ
うん。
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ユヅキ
…おまけに、くっつき魔?
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キザキ
うん。
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ユヅキ
やっぱり…、
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ユヅキ
そうやって見境なく女性に——
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キザキ
ううん、違う。
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ユヅキ
え?
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キザキ
僕がくっつきたいって思うのはたった一人…、
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キザキ
ユヅキちゃんだけ。
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ユヅキ
——!
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キザキ
本当のことだよ?
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ユヅキ
…やっぱり、
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ユヅキ
相当物好きですね…。
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キザキ
なんとでも。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(相変わらず飄々と…)
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本気とも冗談とも取れるキザキさんの言葉に混乱しつつも、
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なんだか今は、この距離感が嫌ではない。
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キザキ
…さてと。
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キザキ
事務所の様子も見れたし、
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キザキ
そろそろユヅキちゃんを大学病院に送り届けなきゃね。
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ユヅキ
…、よろしくお願いします。
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助手席のドアを開けてくれたキザキさんに頭を下げて、車に乗り込む。
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キザキ
ねえ、ユヅキちゃん。
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ユヅキ
…はい。
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キザキ
僕、駐車場で待ってるから、
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キザキ
病院での用事が終わったら、どこかでご飯食べて帰らない?
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
考えておきます。
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即行で断るという選択肢が、近頃の自分にとっての最優先事項になっていない。
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ユヅキ
……
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そして。
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キザキさんと出会えたことを、
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ほんの少しだけ嬉しく思う自分がそこにいた。
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Vol. 8 END
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