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キザキ
僕、やっぱり見る目があるなあって思って。
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ユヅキ
…え?
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キザキ
好きなってほんとによかったって、改めて思った。
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ユヅキ
……
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キザキ
…って、
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キザキ
さりげなく暴露しちゃったけど。
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ユヅキ
………えっ、
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ユヅキ
あ…、
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ユヅキ
やっぱり…?
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キザキ
うん…、
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キザキ
僕ね——
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ユヅキ
キザキさんの事務所の女性のことですか?
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ユヅキ
ほら、さっきキザキさんと一緒にいた。
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記憶を手繰り寄せるようにしながら模索して。
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ユヅキ
(そこまで好きな人に出会えるなんて、ちょっと羨ましいかも…)
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もうこれはしっかり応援せねばと、
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想いが成就することを素直に願ってしまいながら、心根で頷いた。
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ユヅキ
分かります、綺麗な人ですもんね…、
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ユヅキ
キザキさんとお似合いだと思いますよ。
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キザキ
……
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ユヅキ
どうかしました?
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キザキ
……いや、
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キザキ
もしかして…、
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キザキ
ユヅキちゃんって、想像以上にすごく鈍い?
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
鈍いとは?
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キザキ
僕の好きな人って、あの子じゃないんだけど。
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ユヅキ
えっ、違うんですか?
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ユヅキ
私はてっきりそうだと…、
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キザキ
……いいよ、
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キザキ
うん、
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キザキ
勘違いは誰にでもあるから…、
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『気にしないで…』と、
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続けたその言葉尻が笑声で揺れ始めている。
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徐々に肩を揺らして笑い出すキザキさんのことがなんだか不愉快で、少しムッとなった。
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キザキ
ユヅキちゃんってとっても利発なのに意外と…、
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ユヅキ
……帰る。
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キザキ
あっ、
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キザキ
ちょっと待ってよ。
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ユヅキ
嫌です。
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キザキ
そうだ、さっきの続き…、
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キザキ
手を繋いで帰ろうか。
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ユヅキ
い、いきなり何を…っ、
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ユヅキ
どうしてそうなるんですかっ。
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キザキさんを置き去りにして早歩きをすれば、
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まるでお互いが見えない糸で繋がれてるみたいに、彼も付き従うように地を蹴る。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(キザキさんの好きな人、か…)
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どんな人なのだろうかと、少しだけ興味が湧きつつも、
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そもそも自分には関係のないことだと打ち消すように首を振る。
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……けど。
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キザキ
ね、ユヅキちゃん。
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キザキ
せっかくだから、あの店のサンドイッチ買って帰らない?
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キザキ
おいしいって評判なんだよね。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
キザキさんの奢りなら。
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キザキ
いくらでも買ってあげる。
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ユヅキ
いやあの、奢りって、冗談で言ったんですけどっ。
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ユヅキ
買うなら自分で買いますっ。
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キザキ
僕が買おうって言ったんだからいいの。
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キザキ
その代わり、家に帰ったら一緒に食べよう?
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ユヅキ
…一緒に?
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キザキ
うん。
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キザキ
前にオムライスを一緒に食べて以来、すれ違ってばかりだし…。
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ユヅキ
……、
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キザキ
ね、いいでしょ?
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ユヅキ
…分かりました、
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ユヅキ
じゃ、一緒に食べますか。
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キザキ
やったっ!
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キザキさんとこうして過ごす時間も意外と悪くないのではないか、と…
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自然にそう思い始めていた。
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Vol. 6 END
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