Vol. 3 Rainy Day ・5

  • キザキ

    あはは、

  • キザキ

    社交辞令って、ビンゴでしょ?

  • ユヅキ

    ビンゴならなんです?

  • キザキ

    それでも、

  • キザキ

    ユヅキちゃんからの言葉は嬉しいからね。

  • ユヅキ

    …また、何を言って…、

  • キザキ

    それにしても遅かったね。

  • キザキ

    …はい、これ、どうぞ。

  • ユヅキ

    え…?

  • 畳み掛けるように言ったキザキさんは、

  • 私の頭上から肩先までをふわふわのバスタオルですっぽりと覆う。

  • ユヅキ

    (……、あったかい…)

  • ちょっぴり凍えそうになっていたから、この気遣いは素直に嬉しい。

  • キザキ

    車で通勤してるのに、

  • キザキ

    ここまで雨に濡れるなんて器用だね、ユヅキちゃん。

  • ユヅキ

    …どうして濡れてるの分ったんですか?

  • キザキ

    僕の勘。

  • タオルに手を伸ばしたキザキさんは、私の濡れた髪を優しく拭いながら笑った。

  • ユヅキ

    …別に、

  • ユヅキ

    これはたまたま濡れただけなので。

  • キザキ

    ふーん?

  • ユヅキ

    ……

  • タオル越しに、キザキさんの手が私の髪をたおやかに梳いてゆく。

  • 不思議と今は、そうされることが嫌ではなかった。

  • キザキ

    誰かに置き傘を貸したんでしょ。

  • ユヅキ

    …、

  • ユヅキ

    別に…、

  • キザキ

    図星だね。

  • キザキ

    僕の勘、すごいでしょ?

  • ユヅキ

    ……

  • キザキ

    知らないよ?…風邪引いても。

  • ユヅキ

    大丈夫です、生まれつき頑丈なので。

  • キザキ

    医者の不養生って昔からよく言うけど、
    キミも気を付けないとね。

  • ユヅキ

    言われなくても分かってます。

  • キザキ

    これからは、
    傘を2本用意しておいたほうがいいね。

  • ユヅキ

    ……

  • バスタオルが覆う中で、眉を顰めて押し黙る。

  • キザキ

    ほんとユヅキちゃんって、気が良すぎるところがあるっていうか。

  • キザキ

    自分が風邪引いて苦しむことなんて、少しも考えないんだから。

  • ユヅキ

    …うるさいな、もう。

  • キザキ

    うん?

  • ユヅキ

    キザキさんにそこまで言われる筋合い、ないですから。

  • 憤りを孕んだ声音を遠慮なくぶちまける。

  • ただ共同生活をしているというだけで、お互いにそこまで近い距離感でいるわけでもないのに、

  • どうでもいいことをとやかく言われることに、カチンと来てしまった。

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