Vol. 2 苛立ちのメカニズム ・5

  • 少し続いた沈黙の後。

  • ユヅキ

    …ちょっと、コーヒー飲みに行ってくる。

  • おもむろに立ち上がって、キッチンカウンターに置いたままの愛車の鍵を手にする。

  • ユヅキ

    (今日は本当にいろんなことがあった日だったから…)

  • なんとなく、一人になりたい気持ちになった。

  • それは、疲れたときに多く見られる私のルーティン。

  • ソウタ

    コーヒー?

  • ソウタ

    そんなのここで飲めばいいじゃん。

  • ユヅキ

    なんかちょっと、カフェで味わいたい気分なんだよね。

  • ソウタ

    それじゃ、俺も付き合うよ。

  • 言うが早くその場から立ち上がったソウタは、ジャケットを手に取りソファーから離れた。

  • ユヅキ

    ……

  • ユヅキ

    (…マズイな…、)

  • ユヅキ

    (こういったときのソウタは、言うことを聞いてくれない確率が高い)

  • 鼻歌混じりにジャケットの袖に腕を通すソウタを見つめながら、断る理由を巡らせる。

  • ユヅキ

    …あのさ。

  • ユヅキ

    ちょっと、本も読むかも、だしさ。

  • ソウタ

    本?

  • ユヅキ

    うん。

  • ソウタ

    じゃ、俺もマンガ読もっかなー。

  • ユヅキ

    いやあの、

  • ユヅキ

    無理に付き合ってくれなくても大丈夫だから。

  • ソウタ

    無理なんかしてねーよ、

  • ソウタ

    俺も行きたい。

  • ユヅキ

    ほとんど話とかしないと思うよ?

  • ソウタ

    構わねーから、俺も行くっ。

  • ユヅキ

    はあ…、

  • ユヅキ

    まるで駄々っ子だな。

  • ソウタ

    俺が運転するからさ、

  • ソウタ

    な、ユヅキ、いいだろ?

  • ユヅキ

    ……

  • ユヅキ

    (…仕方ない)

  • 懇願するようなソウタの瞳の煌めきに、つい押し負ける。

  • ユヅキ

    放置されても文句言わないでよ?

  • ソウタ

    絶対言わねー。

  • ユヅキ

    分かった…、じゃ、行こっか。

  • 一人でのブレイクタイムを諦めて、

  • 廊下に続くドアへと踵を返したそのとき、

  • キザキ

    女の子がこんな時間から外出なんて、
    あまり感心しないね。

  • 踏み込んでくるように届いたキザキさんの言葉は、

  • 足早に進もうとする私の歩みを止めた。

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