★君と……Pocky
11月の前半には、白恋中グラウンドはもう白い雪景色になる。
会長職出張と吹雪のオフが重なった数日のあいだ、俺たちはこの町にある別荘に留まっていた。
白恋中は少年サッカー協会の特別強化プログラムの指定校だ。
俺は一ヶ月に一度ここへメンバーの成長ぶりをじっくり見に来て、指導もする。
その上、今回はコンサドーレのスター選手が臨時コーチとして同伴しているのだから、メンバーも、そして俺自身も気持ちが最高潮に昂っていた。
その愛すべき臨時コーチとは………言うまでもなく、吹雪士郎だ。
「ふふ……もうすぐ休憩だよね」
「ああ、そうだな」
しばらく姿が見えなかった吹雪の声を背後で聞きながら、俺はグラウンドから視線を外さず頷く。
俺が脚を組んで座るベンチの横に、カタリと何かが置かれた。
「………?」
ひんやりとした冷気を発する“それ”に目をやると―――
「どう?」
ベンチの背凭れから、得意げに俺を覗き込んでいる吹雪。
俺は自分と並んで鎮座する”雪だるま“を呆れ半分に眺めた。
それも、その雪だるまはただものではない。
一風変わった―――“髪”があるのだ。
「うふふ、いつかの誰かさんも、こんなツンツンした髪型してたよね~」
吹雪は愉しげに微笑しながら、ひとさし指で、雪だるまから数センチ飛び出している、玉子の“髪”を綺麗な指でつついた。
「休憩しよう。次の開始は15分後だ」
キャプテンの雪村に声をかけると、メンバーを引き連れて全員がベンチに引き上げてくる。
少数でまとまりがいいとはいえ、今日の練習のキツさにふらつく足を運び、それぞれがやっとのことで辿り着いた。
「おつかれ、みんな。さぁ、もぐもぐタイムだよっ♪」
スター選手兼コーチの気さくな声かけに、彼らは水分を補給しながら、ベンチの雪だるまに気づきはじめる。
そして、不思議そうに雪だるまの玉子色の”髪“に手を伸ばし…………次々に顔を輝かせた。
「わあっ、ポッキーだ☆」
「チョコ冷えててウマっ」
「甘さが身にしみるぅ~」
あっというまにヘンテコな雪だるまの頭は、普通の雪だるまになった。
そして、20分もたてばまた雪景色のグラウンドに、ボールが飛び交い白熱しはじめる。
グラウンドをとりまく景色の美しさにはもちろん、疲労困憊でもいきいきと輝く中学生たちにも、それを見守る吹雪の表情にも、すべてに心洗われる――――
「さて……と♪」
再開した練習が落ち着いた頃。
吹雪は悪戯っぽい上目遣いで俺をチラリと見上げる。
「これ………」
吹雪の白い指が、何の変哲もなくなった雪だるまから、一本のポッキーをそぅっと抜き取った。
「なんだ……自分のもちゃんと隠してあるのか」
「うふふ、ちがうよ。“僕たち”のだよ」
そう言って吹雪は目を閉じ、チョコのついてない端をくわえたポッキーを、俺の方に差し出してくる。
「………おい、子どもたちの前だぞ」
「大丈夫。サッカーに夢中で見てないよ」
鼻にかかった甘い声と、形のきれいな唇の誘惑。
ひんやりと冷たいチョコのコーティングを唇で挟んだ俺の心は、もうすっかり心奪われている。
もちろん、ポッキーの先の極上のスイーツを溶かすことに、だ。
会長職出張と吹雪のオフが重なった数日のあいだ、俺たちはこの町にある別荘に留まっていた。
白恋中は少年サッカー協会の特別強化プログラムの指定校だ。
俺は一ヶ月に一度ここへメンバーの成長ぶりをじっくり見に来て、指導もする。
その上、今回はコンサドーレのスター選手が臨時コーチとして同伴しているのだから、メンバーも、そして俺自身も気持ちが最高潮に昂っていた。
その愛すべき臨時コーチとは………言うまでもなく、吹雪士郎だ。
「ふふ……もうすぐ休憩だよね」
「ああ、そうだな」
しばらく姿が見えなかった吹雪の声を背後で聞きながら、俺はグラウンドから視線を外さず頷く。
俺が脚を組んで座るベンチの横に、カタリと何かが置かれた。
「………?」
ひんやりとした冷気を発する“それ”に目をやると―――
「どう?」
ベンチの背凭れから、得意げに俺を覗き込んでいる吹雪。
俺は自分と並んで鎮座する”雪だるま“を呆れ半分に眺めた。
それも、その雪だるまはただものではない。
一風変わった―――“髪”があるのだ。
「うふふ、いつかの誰かさんも、こんなツンツンした髪型してたよね~」
吹雪は愉しげに微笑しながら、ひとさし指で、雪だるまから数センチ飛び出している、玉子の“髪”を綺麗な指でつついた。
「休憩しよう。次の開始は15分後だ」
キャプテンの雪村に声をかけると、メンバーを引き連れて全員がベンチに引き上げてくる。
少数でまとまりがいいとはいえ、今日の練習のキツさにふらつく足を運び、それぞれがやっとのことで辿り着いた。
「おつかれ、みんな。さぁ、もぐもぐタイムだよっ♪」
スター選手兼コーチの気さくな声かけに、彼らは水分を補給しながら、ベンチの雪だるまに気づきはじめる。
そして、不思議そうに雪だるまの玉子色の”髪“に手を伸ばし…………次々に顔を輝かせた。
「わあっ、ポッキーだ☆」
「チョコ冷えててウマっ」
「甘さが身にしみるぅ~」
あっというまにヘンテコな雪だるまの頭は、普通の雪だるまになった。
そして、20分もたてばまた雪景色のグラウンドに、ボールが飛び交い白熱しはじめる。
グラウンドをとりまく景色の美しさにはもちろん、疲労困憊でもいきいきと輝く中学生たちにも、それを見守る吹雪の表情にも、すべてに心洗われる――――
「さて……と♪」
再開した練習が落ち着いた頃。
吹雪は悪戯っぽい上目遣いで俺をチラリと見上げる。
「これ………」
吹雪の白い指が、何の変哲もなくなった雪だるまから、一本のポッキーをそぅっと抜き取った。
「なんだ……自分のもちゃんと隠してあるのか」
「うふふ、ちがうよ。“僕たち”のだよ」
そう言って吹雪は目を閉じ、チョコのついてない端をくわえたポッキーを、俺の方に差し出してくる。
「………おい、子どもたちの前だぞ」
「大丈夫。サッカーに夢中で見てないよ」
鼻にかかった甘い声と、形のきれいな唇の誘惑。
ひんやりと冷たいチョコのコーティングを唇で挟んだ俺の心は、もうすっかり心奪われている。
もちろん、ポッキーの先の極上のスイーツを溶かすことに、だ。
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