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菫の花と悠久の雫

第二幕

ミク「…ただいま、おばあちゃん」



ミク「帰ってくるの、久しぶりになっちゃった。去年のクリスマスも帰って来れなくてごめんね。最近は舞台だけじゃなくて、雑誌とか歌のお仕事もあって…。女優として、たくさんの人に想いを紡ぐことが出来ているの。昨日から久しぶりに休みでね。この後、皆が好きって言ってたワインのお店を探しに行くんだ。…私はもう1人じゃないよ。それに、おばあちゃんとの約束、しっかり守ってる…だから、見守っててね…。」



ミク「…そういえば、今日はおばあちゃんの命日だから誰かがお花置いて行ってくれたんだね。菫の花束にライム色のリボン…毎年置いてあるけど、同じ人なのかな?…あれ?」



ミク「手帳?何で花束の下に…ってこれ、おばあちゃんの手帳…?!どうして?!私が街に出る時に遺品は整理して全部片づけたはずなのに…!一体誰が…」



ミク「…やっぱり…この文字、おばあちゃんのものだ…!夏の日差しが大地を照り付けた日。愛おしい孫娘が産まれた…」



ミクの祖母(声のみ)「貴方にそっくりな、とても可愛い子…でもその数日後、貴方は突然いなくなってしまった。貴方だけじゃない。私達の娘も、あの娘が愛した人も。ごめんね、それだけ残して…悲しかった。でも貴方との別れは何故か、分かっていたような気がしたの。いつまでも美しい姿を、隣で見ていたから…」

ミクの祖母(声のみ)「あれから、季節が巡っていった。両親がいないあの子は寂しい素振りも見せず、いつからか、ただ空を眺めるようになった。両親を探しているのかしら…。その横顔は、出会った時の貴方にそっくりだった」

ミクの祖母(声のみ)「あの子が8歳の誕生日を迎えた時にビュルレ座の舞台へ連れて行ってあげたの。覚えてる?貴方が好きだった「雪降る夜の静寂」…。その日の夜は目をずっっと輝かせていたわ。それにね、感動して可愛らしい瞳から涙を流していていたの。貴方とお揃いで作った私のハンカチまで借りてね…。それから、あの子も、その世界観の虜になって女優になることを目指しているの。…貴方に、その姿を見せてあげたいわ」

ミクの祖母(声のみ)「私の命は、もうすぐ途切れてしまうでしょう。自分のことだもの…それくらいわかるわ。ただ1つ…いいえ。2つ後悔があるわ。1つはミクのこと。貴方の形見を渡したときの喜ぶ姿、女優を目指して稽古をする姿、菫のような笑顔…あの子はきっと、素敵な女優になる。その姿を見れないのは…悔しくて、たまらない。もう一つは…貴方の夢を、見れなかったこと。先逝く私と会ってくれた時、初めて出会った時…語ってくれたわよね?貴方はワインが大好きで、いつか自分が1から作ったワインを特別な人に送れたら…って。その特別な人が、ミクであることを…私は願っているわ。貴方が愛し、私達が初めて出会った場所」

ミク「豊穣の町、エレインで…。確かこの町って、ウエストエンドから汽車で半日以上かかる遠い場所だったよね?そこでおばあちゃんは…大切な人と…おじいちゃんと、出会ったの…?ワインが好き…豊穣の町…誰も知らないバー、vin bourquetヴィン・ブーケット…。せっかくの休みだし、探しに行ってみよう」

ミク「おばあちゃん。ありがとう…また、会いに来るね」


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