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神威がくぽ誕生祭2022短編集

研究日誌××日目。
今日も私の研究は滞りなく進んだ。不可能とされる不老不死…「永遠」を手に入れるためにこの塔に入って、もう長い時が経った。けれど、まだ、まだ、足りないのだ。「永遠」に辿り着く、そして美しい彼女を…「花」を取り戻すための、歯車が…。


「お疲れ様です。本日分になります」
そう言って私の研究所に入って来た役員が重たいものをごとり、と置いた。研究に没頭していたため振り向きもせず軽い返事だけしたが中身は分かっている。研究に必要なパーツ…いわば「贄」だ。天才科学者ともてはやされた私はここで培養液に入れられた贄を利用しながら不老不死の研究をしている。もう何年も続けているが答えには辿り着けない。今までにどれくらいの贄が貢がれたのか…それを知る者はほとんどいないだろう。

「…そういえば、今日はがくぽさんのお誕生日ですよね。おめでとうございます」
「…は?誕生日?」
予想もしない役員からの言葉に研究の手を止めて振り返った。と同時に私は今日が自分の誕生日であることを思いだした。月末に誕生日があるため、何かと忙しなくていつも誰かに言われるまで気付くことが出来ない。まぁ、そんなもの…。
「興味ないな。祝ってくれるのはありがたいが」
「そう言わず…。たまには休んで外に出たらどうですか?夏に入り、この頃はとてもいい天気ですよ。国民だって、天才科学者の貴方に会いたいでしょうし…。」
「悪いが、私はこの塔から出る気はない。今は研究に集中したい。余計な気は使わなくても構わない」
「…。」
「すまないがそれを置いたら戻ってくれるか。」
そう言って私は再び研究に戻る。誕生日に休んでいるなんてもったいないことはしたくない。役員も理解したのか私の研究室を後にしようとした。しかし、その刹那聞こえたのだ。

人殺しのくせに、と呟く声が。

「…おい待て、貴様。今何と言った?」
聞こえていないと思ったのだろう。研究者が慌てた様子で気のせいだと言ってくる。だがもう遅い。私には分かっていた。誕生日だから外に出たらどうかと聞いていた時の、蔑んだような視線も、明らかなお世辞に聞こえる話し方も、「人殺し」そう見下してくる醜いものも。全て、すべて、スベテ。
「いいか。私は貴様らの醜い欲のために動いているわけではない。私には私の野望がある。それを貴様らが上手く利用して、手柄も利益も奪おうとしているだけだ。貴様らの方がよっぽど醜い、醜い、あまりにも汚らわしい…それこそ、人殺し以上にな!不老不死が!永遠が!どれほど美しいものかも分からず、目先の欲に捕らわれ、とどめに…人殺しか…!!」
ならば、こんな奴にそれを享受する資格など、いや…もう、「贄」になる資格すら、ない。

私は「裁き」を終え、その場に佇んでいた。私だって何も知らないわけではない。国民が天才科学者に会いたがっている?…そんなもの、戯言だ。人々は私を、人殺しだと、悪魔だと批判する。私の研究は「神に対する裏切りと冒涜行為」だという者がいることも全て知っていた。しかし…私からしたら存在もしない「神」を勝手に創り上げ、虚空のそれにすがり祈り続ける方がよほど狂っている。「無神論者」?好きなだけ笑うがいい。そう思って私は水色の培養液の中で眠り続ける彼女を見上げる。

「貴方の夢は…きっとたくさんの人を救うわ!絶対叶えて、その瞬間を私に見せてね!約束よ!」

あぁ…懐かしい声が聞こえる。彼女…「花」の美しい、私が心から愛した声が。私の人生を変えてくれた人が今、目の前で眠り続けている。君のために…僕は何でもしよう。たとえここが禁忌に満ち溢れた楽園だとしても、踊り狂うように研究する場所が醜い者の鮮血で彩られていたとしても。
「もう少し、もう少しだけ…そこで待っていてくれ。必ず君の時がもう一度動き出し、刻まれるために…私は…」

今宵も、君のために救いのメスを振るう。
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