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MIRROR

医者(声のみ)「疲労の蓄積から来る風邪ですね。しばらく休めば大丈夫でしょう。熱が下がっても調子が戻るまでは学校を休んだ方がいいかもしれませんね。」

ひまり母(声のみ)「はい、ありがとうございました。…ひまり、ベッドボードにおかゆ置いてあるから食べられそうなら食べてね。」

ひまり「うん…。…本当に…何やってるんだろう…こんなところで倒れてる場合じゃないのに…私は…」


サイラス「お医者様も言っていたでしょう?疲労の蓄積が原因だって!休まなきゃだめだよ!」

ひまり「う…うるさい…こんなの、何だってない…」

サイラス「全く…一体、何をそんなに焦っているの?」

ひまり「何って…全部よ。今日は生徒会関係でやらなきゃいけないことがあった。明日は会議があるからその前にスケジュールと担当候補を決めないといけないの。部活だって今日大会メンバーが発表された。練習日程と大会に向けてのメニュー組み、それから授業の課題だって…模擬試験も近いのよ…?こんなところで休んでいたら、迷惑しか…」

サイラス「違う。休んだから君は迷惑をかけずに済んだんだ。」

ひまり「…?」

サイラス「考えてごらんよ。立っていられないくらいの頭痛と熱、倦怠感。それを我慢したところで、どうせ道端で意識を失って救急車を呼ばれるのがおちだろう。そう考えたら意識を失う前に自力で帰って来たことは正解だし、何より君が普段から考えている大人とか周りに余計な心配や応急処置をする迷惑をかけさせなかった。充分じゃないか?」

ひまり「…それも…そうね…」

サイラス「やっと素直になった〜!」

ひまり「う、うるさ…」

サイラス「その方が君に合っているよ…ひまり」

ひまり「…!貴方…私の名前を…」

サイラス「昔の君は、それこそ太陽のような明るさを持っていた。いつだって前向きで、自分を忘れないでいて、宝石のような眼をしていた…。それなのに、いつのまにか周りに怯えるようになって、笑顔だって作り物になった。目は曇ってしまったし、苦しくたって、辛くたって、誰にも助けてなんて言わなくなった…どうしてそうなっちゃったの…?」

ひまり「…何で…何で私の過去を知っているの…?!誰も、もう…私のことなんて忘れているはずなのに…!」


ひまり「その傷…!私と同じ…!何で…!」

サイラス「僕は鏡の中の住人…でも本当は違う。何年も前から、ううん…生まれた時から、僕達はずっと…一緒だったんだよ」


サイラス「思い出して…ひまり」

ひまり「あれは…昔の、私?」

サイラス「そうだよ」


サイラス「小さい頃は外で遊ぶことも、本を読むことも大好きだったよね。色々なものに興味を示してさ」

ひまり「そうね…あの頃はまだ、何も知らなかったから…」

サイラス「…ほら、友達が来たよ」


サイラス「この時はまっていたのは…変身物だっけ?君は何になりたかったの?」

ひまり「…シャインレッド…常に皆をひっぱって、恐ろしい敵にも勇敢に立ち向かって人々に勇気や笑顔という名の輝きを渡すの…。周りがよく言ってくれた…私の名前、ひまりは太陽のような明るさと勇敢さをという意味。まさにシャインレッドだって…」

サイラス「うんうん、いい名前だね!この頃は本当に楽しそうだった!」

ひまり「えぇ、でも…」


ひまり「…ッ!」

サイラス「そうだ…ひまりが小学校にあがってすぐかな?いじめにあったんだっけ…」

ひまり「…」

サイラス「理不尽だよね〜。ただ自分の好きなことをして目標に向かって努力を重ねただけなのに、その結果が裏切りと孤独だったんだから」

ひまり「…うるさい…」

サイラス「ひまりは何にも悪くないのにさ…君は皆にいじめられる理由も分からなくて何をしても裏目に出て…最後には親や先生にも言われてしまったんだよね…」

ひまり「お願い…やめて…」

サイラス「相手も相手だけど、貴女も悪いのよって…」

ひまり「もうやめて!!!」

サイラス「…」

ひまり「ごめんなさい…私がいけなかったの…私が…望んでしまったから…!!貴方だってそう思うでしょう?!空気を読めない、何も見えない私が悪いんだって!ねぇそうでしょう…?!サイラス!!」

サイラス「…僕は…僕が許せないのは…自由を望んだ君じゃない…己を捨てた君だ、ひまり」

ひまり「…!!」



サイラス「君はその一言で気づいてしまったんだ…。生きていくためには普通にならなくちゃいけない。周りに合わせなくちゃいけない。自分を…抑えないといけないって。だから、君は捨てた」


サイラス「まずは周りを引き付けるおしゃべりを。次に素直な表情を、未来を見つめる眼の輝きを、自分の興味関心を、己の願いを…」


サイラス「何かを捨てていくたびに、君は拾っていった。義務を、責任を、社会の当たり前を、普通を、相手が求める理想を…背負う必要のない、その全てを」

ひまり「…あぁ…あぁあ…」

サイラス「そして、君が自分の全てを捨てて、重い物を拾った。その最後に、禁忌を犯した…己を、本当の自分を!自分の手で!呪い殺したんだ!!」



ひまり「あぁぁぁぁぁああああああああ!!!」



サイラス「…やっと気づいた…?君がこの十年でどれだけ己を傷つけ、殺してきたか…」

ひまり「…」

サイラス「言ったよね?僕はひまりと生まれた時から一緒だったって…」

ひまり「言った…」

サイラス「僕の名前、覚えている?」

ひまり「…サイラス…」

サイラス「そう。かの有名なアルタ神話にもその名前は出てくる」

ひまり「…知っているわ…アルタ神話…天地に恵みの輝きをもたらし、悪魔の集う闇を追い払った太陽神…サイラス…。…太陽神…?まさか…!!」

サイラス「そう。僕はサイラス…君と同じ、太陽の名前を持つ者…もう分かるだろう?僕は君なんだよ、ひまり。君が捨てていった…もう一人のひまりだ。」

ひまり「嘘…そんな…」

サイラス「思い出せば分かるよ…君が捨てていったものを…」


ひまり「私の、おしゃべり…表情…興味…関心…願い…全部…貴方が持ってる…」

サイラス「そうだよ。ひまりが捨てていったものだよ。でも一つだけ、僕に拾えなかったものがある」

ひまり「…未来を見つめる眼…」

サイラス「正解。鏡を通した君のことしか知らないから未来予想とか…そういうことは出来ないんだ。だから君みたいに未来に目を輝かせることだけは出来なかった。だから…」

ひまり「傷を…つけた…?」

サイラス「そう。忘れない為に。僕が君で、君が僕だという証として」

ひまり「まさか…」

サイラス「じゃあ、君は覚えているの?一体いつ、どこでその傷をつけたのか」

ひまり「…覚えて…いない…思い出せない…気づいたらあったの」



ひまり「隠してきた…ずっと見たくなくて…誰も触れてはこなかったけど、それでも…!」

サイラス「あぁ、そりゃ皆は気付かないよ?だって見えてないから」

ひまり「え?」

サイラス「言っただろう?忘れない為の証だって。それを他の誰かに見せる必要はないじゃないか?」

ひまり「…!!」

サイラス「ねぇ、ひまり…僕は、君の中で、傍で。17年生きてきた。本当の君を知る者は世界で僕たった一人。でも…もういいんじゃないか?君は充分に頑張って来た。努力して、努力して。でも決してそれを表に出すことも誇る事もしなかった。ただひたすら…君が作り上げる「誰か」のためだけに生きてきた。苦しい事があっても立ち止まらずに…だから、認めてあげてほしい。自分の価値を、努力を、本当の自分が持つものを。最後に自分を信じてあげられるのは自分自身だ。それを自ら裏切りに行かないで!僕は君が…大好きなんだ」

ひまり「…!傷が…!」

サイラス「僕が見つめる未来はただ一つ…大好きな、ありのままの君が、自分らしく生きることだ…。お願い」


サイラス(声のみ)「素直になって…ひまり」
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