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ひとやまアンソロ企画 紡ぐ舞台へ 明日の輝きを

故郷なら昔の私を知っている人が多いから周りを気にする必要もないだろう。せっかくなら夢を叶え、ビュルレ座の一員になったことを報告して来たらどうか。それが彼女の考えだった。確かにオーディションに合格して、稽古が始まってからは帰っていなかったため、この機会に少しだけ帰省することにしたのだ。

私が生まれ育った町は田舎で、歩いていても馬車が通ったりすることはあまりない。それどころか人が通ることもほとんどないため、駅を出た後の交通手段は歩くか、あっても自転車位だ。
普段、ビュルレ座のある町は日中だけではなく、夜も賑やかだからこんなにも穏やかな空気は久しぶりだ。帰ってきて良かったと思いながら畦道を進んで行く。そして歩くこと数十分、私は最初の目的地に辿り着いた。そこは町の小さな共同墓地だった。ここに私の会いたい人が眠っている。
「ただいま、遅くなってごめんね…おばあちゃん」

おばあちゃん。遠い所で働いていた両親の代わりに私を育ててくれた人。幼かった私に優しくしてくれて、何よりも女優になりたいという夢を応援してくれていた。女優は私と、おばあちゃんの夢でもあり、約束でもあったのだ。
ビュルレ座の創始者であり劇作家でもあるビュルレが大好きだった私に、彼のブレスレットをくれたのもおばあちゃんだった。女優を目指して大きな町に出た時も、ビュルレ座のオーディションを受けた時も、あのCrazy∞nighTの舞台に立った時も。おばあちゃんの形見であり、尊敬してやまないビュルレの遺産はずっと私の左腕にあった。緊張した時はずっとブレスレットを握りしめていたっけ…。私は何も着いていない左腕をさする。
ブレスレットはビュルレ座がピンチになった時も助けてくれた。最初は仲間のためとはいえ、ブレスレットを売ったことでおばあちゃんに対して罪悪感があったが、今は私やおばあちゃんのようにビュルレを大切にしている人のもとにいることを願ってやまない。

「…」

私はおばあちゃんとの日々を思い出して、目の前が霞んでしまった。頬を冷たいものが伝っていく。

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(Illustration: 里音様)

大好きなおばあちゃん。誰よりも私の夢が叶うことを信じていたおばあちゃん。だが、私が叶える前に天国へと旅立ってしまった。
「約束…叶えたよ」
きっとこの言葉が、女優としての活躍がおばあちゃんに届いていると信じて。私は目を閉じて静かに祈りを捧げた。
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