このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ひとやまアンソロ企画 紡ぐ舞台へ 明日の輝きを

生い茂る夏草の匂い、万物を照らす太陽の光。その強く優しい光に包まれた小さな無人駅に降り立った。全てが私にとっては懐かしい。
「…ただいま」
誰もいない駅に声をかけ、私は歩き出した。何年ぶりかも分からないこの場所に私が帰ってきたのは、あることがきっかけだった…。



「オフの予定…ですか?」
劇団ビュルレ座の稽古終わり、考えてもいなかったことをルカが訪ねてきた。
「そうよぉ~。休演日で一日だけオフとかはあったけどまとまった休みはなかったでしょぉ?」
「確かに、劇団自体が三日間も休みになるなんて珍しいからですからね!」
「まあ私達もビュルレ座も、ずっと忙しかったらね」
ここ、劇団ビュルレ座は長い間数日間休演するということがなかった。特にCrazy∞nighTが上演され、経営危機を乗り越えてからは様々な作品を上演し続けてきた。しかし、人気作品であった「雪降る夜の静寂」の再演が終わり、レンが旅に出たことを機に、劇団の舞台設備のメンテナンスを入れることが座長のカイトから提案された。メンテナンスには時間を要するため、必然的にビュルレ座の劇団員に三日間のオフが与えられたのだった。
「本当だったら個人のお仕事とかもあるんだけど、それもたまたま皆お休みだからね~!リンはルカ姉と旅行するんだぁ~!」
「まぁ、そうねぇ…リンみたいなおこちゃまと行くと年増に見られるかもしれないけどぉ」
「ちょっとどういう意味よルカ姉!!私もう十七になるんだよ!!大人だもんね!!」
「そうやってすぐ怒って反論してくるあたりがおこちゃまよねぇ~。未だに激辛クッキーとかも食べられないし…」
「それとこれとは別でしょ!!!ルカ姉だってお化け苦手なくせに~!」
「なっ…なんですってぇぇぇ?!」
本気で怒り始めたルカとリンの喧嘩を横目に、私はメイコ達と話を続けた。
「メイコさんとメグちゃんはどこかへお出かけになるんですか?」
「そうね、私はカイトと近場のリゾートでゆっくりするつもりよ。普段は外に出るとかなり呼び止められることが多いし、喧騒から離れたいもの。メディアにだけは気をつけなくちゃね」
「私は家で脚本を書きます!この前新しいアイディアを思いついたんですよ!」
「メグ…貴女、また昔みたいに徹夜して公演に寝坊して来たりしないでね…?」
そう、メグはかつて公演初日に寝坊してくることもある遅刻常習犯だった。しかし、二年前のCrazy∞nighT終演以来寝坊したことは一度もない。もう起こしてくれる人はいないから…それが彼女の言葉だった。

「ところでミクはどうするの?」
メイコにオフの予定を聞かれて気付いた。そういえば決めていない。オフの日は大体自主稽古をしていたし、「雪降る夜の静寂」の上演が決まってからは、ありがたいことに劇団の外でのお仕事もあってオフ自体がほとんど無かった。だからいざ聞かれると何も考えていないことに気付く。
「そうですね…私は自主稽古を…」
「ちょぉっとぉ!せっかくのオフなんだから、たまには別のことでもしなさいよねぇ!」
急に喧嘩していたはずのルカに遮られてしまった。
「あなたオフの度にいっっつも稽古ばかりしていて、たまには休みなさいよぉ?!稽古ばかりしていてもいい役者にはなれないわよぉ?!」
「そ、そうかもしれないですけど…」
「そうかもしれないじゃなくてそう、なのよぉ!!」
ファンの間でも有名なお嬢様ポーズを取ったルカの強すぎる押しに何も言えなくなってしまう。確かに役者にとって体力や技術は勿論、いかに人を騙し「虚像の世界」へ誘うことが出来るかも重要である。そのためには自分自身がプライベートも含め、様々な経験をする必要がある。しかし。
「う~ん…もしお休みに旅行に出かけるとしても、自分の力で行ける場所が…」
そう、旅行で欠かせない物。それがお金、経済力であった。働いていたパン屋を辞め、念願であった女優の道に進んでからまだ二年と少し。遠くへ羽を伸ばしに行く余裕は無いに等しい。なら近場で…となるとCrazy∞nighT以来、ファンの方に声をかけていただくことも多くなったのでゆっくり休むことは難しいだろう。
「結構悩むよね~。三日間のオフだとあまり遠すぎるところは難しいもんね。ミクちゃんが行きたい所次第…って感じだけど…」
「行きたい所…でも私そういう情報に疎くて…」
う~んと悩んでいるところでメイコから提案がされた。
「それなら、久しぶりに帰省したら?」
2/4ページ
スキ