手を取って mi princesa

ラナ(声のみ)「この地に再び、太陽が登りし時。この国は我らがマリア・ヴォルディエンテ・ビリア王女様にふさわしい国となろう!我らの炎の意志でこの国の悪を焼き払い、未来を照らそう!!」

革命軍(声のみ)「おおーーー!!!」

ラナ(声のみ)「行くぞ!!革命だ!!!」


マリア「ううん…クラ…ベル…クラベル!!」


マリア「ここ…私の部屋…?一体いつ…」


マリア「これ…手紙…クラベルからだわ!」


クラベル(声のみ)「マリア様へ
先程はご無礼をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。安心のために言っておくと、マリア様のお口にあてたのは私がたまに使っている睡眠薬です。用量は守られていますし成分的にも問題はありませんので安心してください。
と、前置きはこのくらいにしておいて…。先程は驚かせてしまいましたね。ですがマリア様。私はきちんと考えたのです。悩み悩んで、そして気づいたのです…。
マリア様。以前マリア様は私に、マリア様の幸せは私の幸せだとおっしゃってくださいましたね。それは私も同じです。マリア様の幸せが、私にとって何よりの幸せなのです。そして…私はその幸せを邪魔してしまう。そう考えたのです。これから貴女はきっとより多くの国民に愛されることでしょう。その優しさで国を平和に導き、マリア様が望んだ幸せを掴む日だって、そう遠くはありません。目を瞑ればすぐに想像出来てしまう。ですが…そこに、私はいないのです。どう頑張っても、私がこれから先、貴女の隣で、心から貴女の幸せを喜べる未来が描けないのです。そして気づきました。これが私の、もう1つの「わがまま」だったんだ、と…。貴女の幸せを守るために、私は覚悟を決めたのです。
その一方で私はもう、貴女以外の誰かに仕える気にもおそばにいる気にもなれません。この10年、貴女といた日々があまりにも幸せだったから…。
だから私は、この国を出ようと思います。勝手ではありますが、この手紙が、専属メイドとして貴女へ送る最後の言葉です。
マリア様。私に幸せをくださってありがとうございました。優しさをくださってありがとうございました。私の名前を呼んでくださって…ありがとうございました。私は貴女に、「人を愛する幸せ」を教えていただきました。そして、【好き】と【愛している】が違うことも、私が抱いた感情の名前も…全て。純粋に主の幸せを願えないなんて、専属メイド失格ですね、私は。
マリア様。もしも1つだけ願っていいのならば…どうか、幸せでいてください。貴女を尊敬してくれる仲間と、貴女を信じてくれる国の皆と、いつか出会う貴女を愛する人と…。私はそれだけで、心から幸せです。
マリア様といられたこと、心から誇りに思います。
…追伸。
やっぱりもう少しだけ、伝えさせてください。
マリア様、貴女を愛してしまってごめんなさい。
マリア…貴女を愛せて、幸せだった。
ありがとう
さようなら
クラベル」

マリア「…クラベル…!国を出て…まさか、もう…!!」


兵士1「うわっ!」

マリア「きゃっ!」

メイド1「王女様!ご無事ですか?!」

マリア「平気よ。それより、何、これ…。どうしてお城が燃えているの…?」

兵士1「王女様。あまり詳しいことは言えませんが…。今この国で、革命が起きています。これ以上、貴女を危険な目に合わせないために、安全な場所へお連れします。こちらへ…」

マリア「待って!クラベルは?クラベルはどこにいるの?!」

兵士1「クラベル…は…」

メイド2「クラベルならこれからご案内する場所で、王女様を待っていますよ。作戦のためにどうしても王女様のそばにいられなくて…。さぁ、参りましょう。今なら…」

マリア「嘘ね」

メイド2「え?」

マリア「私、これでも一応王女なの。社交界に…嘘だらけの汚れた世界に17年いたの。目を見れば分かるわ…。離して!!」

メイド1「王女様!お待ちください!!」

兵士2「しまった…!!」

兵士1「早く追いかけて、王女様を何としても保護するんだ!!」



クラベル(声のみ)「…まさか皆やお城との別れが、こんな炎の海の中だとは思わなかったな…。でもきっと…この正門から出れば炎が消えない傷を作って、私の顔を変えてくれる…誰にも気づかれずに、幸せを願えるよね…。さようなら…愛しているわ…」

マリア(声のみ)「クラベル!!!」


クラベル「マリア様…!どうしてここへ!兵士やメイドが迎えに行ったはずでは…!!」

マリア「そんなの、振り払って来たわ…だって、クラベルがいないって気付いて、出ていくって…!それで、私…!」

クラベル「…驚かせてしまったことは、本当に申し訳ありません。ですが、あの手紙に書いた内容に嘘偽りはありません…。私は貴女の幸せのためにこうしなければならないのです!」

マリア「…違う…違うわクラベル…貴女がいなければ、私は永遠に幸せになれない!」

クラベル「マリア様…」

マリア「どんな時でも、私の隣にはクラベルがいてくれたわ…。クラベルがいてくれたからどんなことだって頑張れたし、前を向けた。クラベルがいてくれたから…私は、幸せだった!だからお願い…私から幸せを奪わないで…!」

クラベル「ですが…ですが、私は…たとえ側にいたとしても、マリア様の幸せを素直に喜べない…願えない…!私に、貴女の側にいる資格なんて…!!」


マリア「クラベル…。私クラベルのこと、大好きよ。心から。…私には【好き】と【愛している】の違いの正解は分からない…。でもね、クラベルがいない日々を想像したら…辛いだけだった。何もわくわくしない、楽しくも嬉しくもないの。クラベルがたとえ今までみたいにそばにいてくれてクラベルが幸せだったとしても…それも、心からおめでとうって言えないの。胸が苦しくって…。クラベルの【幸せ】に、私がいればいいのにって思っちゃったの。それが…私のクラベルに対する想いが【愛している】なのかなって思ったの…。クラベル。私は専属メイドじゃない、クラベルという人を愛しているの」

クラベル「マリア様…」

マリア「愛しているわクラベル。私と一緒に…生きて欲しい」

クラベル「…駄目ですよ…貴女はこの国を導いていく人…。例え貴女が望んでくださっても…周りはそれを許さない…」

マリア「…なら、一緒に行こう?愛する人と共に、自由に生きられる世界へ」

クラベル「え?」

マリア「元々、建国記念日の今夜に逃げる予定だったのが少し早まるだけ。それに…今まで、二人で色々なことを乗り越えてきたんだもの。きっと私達ならどこへだって行けるし、どんな未来だって描けるわ。私、言ったでしょう?プリンセスらしくないって。ちょっとやそっとのことじゃ折れないわよ?」

クラベル「…本当なら、無理やりにでも貴女を突き放さなければならないのに…それが出来ないほどに弱くなった私は、もう専属メイド失格ね。」

マリア「クラベル…!」


クラベル「マリア様…いいえ、マリア。私はどこかの国の王子様みたいにかっこよくもないし、お金持ちでもない。普通にも戻れない。もしかしたら貴女に苦しい想いをさせてしまうかもしれない…。それでも、私と一緒に生きてくれる?」

マリア「…!!えぇ…!!ずっとずっと、生きていこう!二人で!!」


クラベル「マリア…ありがとう、マリア…大好きよ…ずっと愛している…!!」


マリア「うん…うん…!私も…クラベルのこと愛してるわ…!!」



マリア「大変!瓦礫で正門が…!このまま炎の海が広がったら出口どころか命すら危ないわ…でもどうしたら…」

クラベル「大丈夫。私だけが知ってる隠し通路があるわ。母さんと先代王妃様に教えてもらっていたの。革命軍の皆にも伝えてないし、まだ使えるはず」

マリア「…分かった!」

クラベル「行こう、マリア!」

マリア「えぇ…!」
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