手を取って mi princesa
マリア(声のみ)「すぐに返事を、とは言わないわ。貴女を危険な目に合わせてしまうし…とても、大きな決断だもの」
クラベル(声のみ)「…分かりました。少し、考える時間を頂いてもよろしいでしょうか」
マリア(声のみ)「分かったわ…建国記念日の前夜には聞かせてね。…クラベル。私の幸せは、貴女が幸せであることよ。それだけはどうか…覚えていて」
クラベル(声のみ)「…はい…」
イライザ(声のみ)「は~い」
イライザ「お帰りなさい、クラベル」
クラベル「ただいま…母さん」
イライザ「久しぶりね、クラベルが帰ってきてくれるの。ちょうど紅茶を入れたのよ。飲む?貴女の好きなルイボスティーよ」
クラベル「うん…ありがとう」
イライザ「お休みもずっと取らないから心配してたの。今日は、王女様は?元気にしてる?」
クラベル「…うん。今は、色々…忙しいみたいで。今日はマリア様もお部屋で休むって」
イライザ「そう…はい、紅茶」
クラベル「ありがとう…美味しい」
イライザ「良かった!」
クラベル「…」
イライザ「ねぇクラベル…王女様と、何かあった?」
クラベル「…え?何で…?」
イライザ「何となく。長年のメイドとしての勘かしら?」
クラベル「…母さんは、さ。どうして…メイドを辞めたの?」
イライザ「…そっか。貴女にはまだ…ちゃんと話してなかったね。」
クラベル「5年前…王妃様が亡くなってすぐに、母さんは突然メイドを辞めてお城を出ていった。あの時…私は何も声をかけられなかったし、何も聞けなかったなって…。」
イライザ「…私がメイドを辞めたのは…存在意義を失ったからなの」
イライザ「…今からちょうど20年前、貴女が2歳で、王妃様…エリーが17歳で嫁いできた頃、私は彼女の専属メイドになった。」
イライザ「その頃はちょうど貴女が産まれてから職場復帰するタイミングで家同士の利益のために嫁いできたエリーのお世話…。恐らく心を閉ざしたプリンセスの最低限のお世話を頼むにはちょうどいいと思われたんだろうね。でも…そんな私さえも、エリーは優しく受け入れてくれたの」
エリー「そう…専属メイド…私の側にいてくれるのね!ありがとう!私はエリー!よろしくね!…まぁ、イライザには子どもがいるのね!何て可愛いレディなの…!そう、クラベルって言うのね…お仕事大変でしょう?私の部屋で良ければこの子も連れてきて大丈夫よ!皆には内緒ね」
イライザ「仕事場に、ましてや一国の王妃の前に使用人の子どもを連れてくるなんて、まずありえないんだけどね…ふふっ、今でもあの時の出会いは忘れられないわ。そうして少しずつ私達は色々な話をするようになった。明るくて、おしとやかで、美しくて、誰に対しても優しい…「プリンセス」って言葉が本当によく似合う人だった…。私はそんな彼女の側にいられる時間がとても幸せだったわ。それは王女様が産まれた後も変わらなかった。」
エリー「私はね、イライザ。夢があるの。それは身分や性別関係なく皆が明日を望めることよ。難しいし、アローガンスは聞いてくれないんだけど…。でも、皆が明日を生きようと思える国こそがどんな意味でも強い国だと私は思うのよ。」
イライザ「…今思えば、王女様は…とっても良く、エリーに似ているわ…。」
エリー「この娘にも…マリアにもね、そうなってほしいの。誰にでも手を差し伸べられる、優しい人。誰かのために行動出来る人…。後は、ちょっとわがままかもしれないけど、この娘には…自分が望んだ…心から愛した人と幸せに、自由に生きて欲しいわ…。私が、その幸せを…奪われる辛さを知ってしまったから」
イライザ「…彼女の深い優しさと悲しみを知った私は…貴女が12歳になってメイドとして認められる頃を見計らって王女様の専属メイドに推薦した。彼女の未来を、貴女の幸せを願ってね…。」
エリー「…想いは、紡がれていくわ。そして、いつか現実になる…。この娘たちが生きる未来を私は作らなくちゃね、イライザ!」
イライザ「彼女の瞳は…輝いていたわ。ダイヤモンドよりも、美しく…。私もあの時はエリーが望んだ未来が来ると信じていたわ…。でも…輝いていたダイヤモンドは…ある日突然、悪魔に奪われてしまった」
イライザ「彼女は…病に倒れていたの。元々、王女様を産んでからもう子どもは望めないとお医者様に言われる程ひどかった。彼女は諦めなかったんだけど…世の中って残酷なものね…」
エリー「イライザ…マリアは…?…そう…クラベルと一緒なのね…。あの娘には…こんなに弱い…死に逝く私を見せたくないもの…。そんな、顔…しないで、イライザ…私…貴女がいてくれて幸せだったわ…。お城で…私の言葉は、風と同じ…。誰も、聞いてくれない。届かない…。それでも、貴女だけは、聞いてくれたわ…最期まで私の側にいてくれた…だから、思うの。イライザ…私は…わた、しは…悔しい…!!」
イライザ「…最期の一言が…悔しいだなんて…。あんなに誰かのために生き続けたエリーが言うなんて…。悔しくて仕方が無かったわ…。そして…想いを貴女たちに託して…エリーは亡くなった。私の手を握って…涙を流しながら…。夫である国王は、一度たりともお見舞いに来なかった。」
イライザ「彼女と一緒にいた時間があまりにも幸せ過ぎて。彼女の届かなかった想いがあまりにも辛すぎて、残酷な運命を許せなくて…。心の支えを失った私は、もうメイドとして他の誰かに仕える気になんてなれなかった。」
クラベル「…それでメイドを辞めたの?」
イライザ「えぇ…。勿論娘の貴女をお城に置いて行ってっしまうことも分かっていたわ。だけどその時貴女は17…。メイドとして充分だったし…それに、」
クラベル「王妃様がいないお城には残れなかった?」
イライザ「それは…」
クラベル「分かるよ…何となく、その気持ち。母娘とも、友達とも、何か違う…でも特別な関係…。だからこそ、幸せで、とても苦しい。」
イライザ「…ごめんね」
クラベル「いいよ、謝らなくて。むしろ今同じ立場にいるから分かる…私でもきっと、そうなっちゃう。」
イライザ「…ねぇ、クラベル。私はもう、お城を離れてメイドを辞めてしまったし、親として娘の貴女を裏切るようなことをしてしまったわ。今貴女が抱えている悩みを分かって、解決してあげることだって出来ないわ」
クラベル「だからそれは…」
イライザ「でも!!…でもね、貴女には覚えておいて欲しいの」
クラベル「母さん…」
イライザ「人生は…険しいことばかりよ。いつかきっといいことがある、なんて言えない日が来てしまうのが現実なの。私もそうだった…。それでもね、クラベル。私は…貴女に幸せでいてほしいの。娘の幸せが…今の私にとって、何よりも幸せだから」
クラベル「…ありがとう、母さん。…ちょっとすっきりした」
イライザ「そう?なら良かったわ。…あ、お腹空かない?クラベルが帰ってくるって手紙くれたから今日は貴女の好きなシチューを作ってあるの」
クラベル「…うん!食べたい…!」
イライザ「分かった。すぐに用意するわね」
クラベル「私の幸せが幸せ…か…本当に、そっくりだなぁ…」
クラベル(声のみ)「…分かりました。少し、考える時間を頂いてもよろしいでしょうか」
マリア(声のみ)「分かったわ…建国記念日の前夜には聞かせてね。…クラベル。私の幸せは、貴女が幸せであることよ。それだけはどうか…覚えていて」
クラベル(声のみ)「…はい…」
イライザ(声のみ)「は~い」
イライザ「お帰りなさい、クラベル」
クラベル「ただいま…母さん」
イライザ「久しぶりね、クラベルが帰ってきてくれるの。ちょうど紅茶を入れたのよ。飲む?貴女の好きなルイボスティーよ」
クラベル「うん…ありがとう」
イライザ「お休みもずっと取らないから心配してたの。今日は、王女様は?元気にしてる?」
クラベル「…うん。今は、色々…忙しいみたいで。今日はマリア様もお部屋で休むって」
イライザ「そう…はい、紅茶」
クラベル「ありがとう…美味しい」
イライザ「良かった!」
クラベル「…」
イライザ「ねぇクラベル…王女様と、何かあった?」
クラベル「…え?何で…?」
イライザ「何となく。長年のメイドとしての勘かしら?」
クラベル「…母さんは、さ。どうして…メイドを辞めたの?」
イライザ「…そっか。貴女にはまだ…ちゃんと話してなかったね。」
クラベル「5年前…王妃様が亡くなってすぐに、母さんは突然メイドを辞めてお城を出ていった。あの時…私は何も声をかけられなかったし、何も聞けなかったなって…。」
イライザ「…私がメイドを辞めたのは…存在意義を失ったからなの」
イライザ「…今からちょうど20年前、貴女が2歳で、王妃様…エリーが17歳で嫁いできた頃、私は彼女の専属メイドになった。」
イライザ「その頃はちょうど貴女が産まれてから職場復帰するタイミングで家同士の利益のために嫁いできたエリーのお世話…。恐らく心を閉ざしたプリンセスの最低限のお世話を頼むにはちょうどいいと思われたんだろうね。でも…そんな私さえも、エリーは優しく受け入れてくれたの」
エリー「そう…専属メイド…私の側にいてくれるのね!ありがとう!私はエリー!よろしくね!…まぁ、イライザには子どもがいるのね!何て可愛いレディなの…!そう、クラベルって言うのね…お仕事大変でしょう?私の部屋で良ければこの子も連れてきて大丈夫よ!皆には内緒ね」
イライザ「仕事場に、ましてや一国の王妃の前に使用人の子どもを連れてくるなんて、まずありえないんだけどね…ふふっ、今でもあの時の出会いは忘れられないわ。そうして少しずつ私達は色々な話をするようになった。明るくて、おしとやかで、美しくて、誰に対しても優しい…「プリンセス」って言葉が本当によく似合う人だった…。私はそんな彼女の側にいられる時間がとても幸せだったわ。それは王女様が産まれた後も変わらなかった。」
エリー「私はね、イライザ。夢があるの。それは身分や性別関係なく皆が明日を望めることよ。難しいし、アローガンスは聞いてくれないんだけど…。でも、皆が明日を生きようと思える国こそがどんな意味でも強い国だと私は思うのよ。」
イライザ「…今思えば、王女様は…とっても良く、エリーに似ているわ…。」
エリー「この娘にも…マリアにもね、そうなってほしいの。誰にでも手を差し伸べられる、優しい人。誰かのために行動出来る人…。後は、ちょっとわがままかもしれないけど、この娘には…自分が望んだ…心から愛した人と幸せに、自由に生きて欲しいわ…。私が、その幸せを…奪われる辛さを知ってしまったから」
イライザ「…彼女の深い優しさと悲しみを知った私は…貴女が12歳になってメイドとして認められる頃を見計らって王女様の専属メイドに推薦した。彼女の未来を、貴女の幸せを願ってね…。」
エリー「…想いは、紡がれていくわ。そして、いつか現実になる…。この娘たちが生きる未来を私は作らなくちゃね、イライザ!」
イライザ「彼女の瞳は…輝いていたわ。ダイヤモンドよりも、美しく…。私もあの時はエリーが望んだ未来が来ると信じていたわ…。でも…輝いていたダイヤモンドは…ある日突然、悪魔に奪われてしまった」
イライザ「彼女は…病に倒れていたの。元々、王女様を産んでからもう子どもは望めないとお医者様に言われる程ひどかった。彼女は諦めなかったんだけど…世の中って残酷なものね…」
エリー「イライザ…マリアは…?…そう…クラベルと一緒なのね…。あの娘には…こんなに弱い…死に逝く私を見せたくないもの…。そんな、顔…しないで、イライザ…私…貴女がいてくれて幸せだったわ…。お城で…私の言葉は、風と同じ…。誰も、聞いてくれない。届かない…。それでも、貴女だけは、聞いてくれたわ…最期まで私の側にいてくれた…だから、思うの。イライザ…私は…わた、しは…悔しい…!!」
イライザ「…最期の一言が…悔しいだなんて…。あんなに誰かのために生き続けたエリーが言うなんて…。悔しくて仕方が無かったわ…。そして…想いを貴女たちに託して…エリーは亡くなった。私の手を握って…涙を流しながら…。夫である国王は、一度たりともお見舞いに来なかった。」
イライザ「彼女と一緒にいた時間があまりにも幸せ過ぎて。彼女の届かなかった想いがあまりにも辛すぎて、残酷な運命を許せなくて…。心の支えを失った私は、もうメイドとして他の誰かに仕える気になんてなれなかった。」
クラベル「…それでメイドを辞めたの?」
イライザ「えぇ…。勿論娘の貴女をお城に置いて行ってっしまうことも分かっていたわ。だけどその時貴女は17…。メイドとして充分だったし…それに、」
クラベル「王妃様がいないお城には残れなかった?」
イライザ「それは…」
クラベル「分かるよ…何となく、その気持ち。母娘とも、友達とも、何か違う…でも特別な関係…。だからこそ、幸せで、とても苦しい。」
イライザ「…ごめんね」
クラベル「いいよ、謝らなくて。むしろ今同じ立場にいるから分かる…私でもきっと、そうなっちゃう。」
イライザ「…ねぇ、クラベル。私はもう、お城を離れてメイドを辞めてしまったし、親として娘の貴女を裏切るようなことをしてしまったわ。今貴女が抱えている悩みを分かって、解決してあげることだって出来ないわ」
クラベル「だからそれは…」
イライザ「でも!!…でもね、貴女には覚えておいて欲しいの」
クラベル「母さん…」
イライザ「人生は…険しいことばかりよ。いつかきっといいことがある、なんて言えない日が来てしまうのが現実なの。私もそうだった…。それでもね、クラベル。私は…貴女に幸せでいてほしいの。娘の幸せが…今の私にとって、何よりも幸せだから」
クラベル「…ありがとう、母さん。…ちょっとすっきりした」
イライザ「そう?なら良かったわ。…あ、お腹空かない?クラベルが帰ってくるって手紙くれたから今日は貴女の好きなシチューを作ってあるの」
クラベル「…うん!食べたい…!」
イライザ「分かった。すぐに用意するわね」
クラベル「私の幸せが幸せ…か…本当に、そっくりだなぁ…」