手を取って mi princesa

クラベル「この部屋に隠し通路があるわ」

マリア「ここって…大広間よね?こんな所にあるの?」

クラベル「うん。大広間右奥から2番目の暖炉…そこに」

マリア「わかった!」


クラベル「セオ!ラナ…!」

セオ「クラベル?!王女様?!?!」

マリア「お父様…!」

ラナ「…あーあ…。この瞬間だけは王女様に見られたくなかったのにな…。」

アローガンス「殺せないか?私のことを。そんな弱い意志ではお前らごときに国は守れない」

ラナ「うるさい!!!お前を殺すことには変わらない…!!お前は、何も知らなかった…!民の悲鳴を、命の重さを…自分の犯した罪を!!!」

マリア「ラナ…!」

セオ「止めないでください王女様。貴女だって知っているはずです。俺たちの…怒りを、悲しみを、憎しみを…」

マリア「…」

アローガンス「そうか、この2人はお前が下町から連れてきたんだったな」

ラナ「違う。王女様は…私を救ってくれたんだ…!お前が贅沢のためにかけた重税で母親を失った。お前が勝手に始めた戦争のせいで、父親を失った。王女様がいなかったら…貴族の馬車に轢かれて妹まで失うところだった!それも…貴族が何をしても許される世界で!!」

セオ「俺もそうだ。なぁ国王。お前は知らないよな?俺みたいに町で仕事をしていた人間はお前らが湯水のように使う金のせいで、いくら働いても食べていけなかった。だから…人から奪うしか無かった。そんなことしたくなかったのに…。居場所もなかった、未来もなかった俺を、王女様は救ってくださった。そしてくれたんだ。俺が欲しかった暖かな居場所を…!お前は…人の心を持たないお前は、知らないよなぁ!!」

アローガンス「あぁ…知らないね。知る必要も無い。大体、マリアが勝手に連れてきた時点で面倒だったしお前らごときのこと知ったことではない。大体、何がそんなにおかしい?私には愛だの、優しさだの、恩返しだので踊り狂うように騒ぐお前らの方がおかしく思える。お前らも、マリアも、エリーも…全員だ。民は貴族と王族のために税金を納める…道具で、雑草だ。」

クラベル「…!!!」

ラナ「許せない…!王女様と王妃様を…皆を馬鹿にして…!!お前なんか死んでも呪い続けてやる!!」

アローガンス「やれるもんならやってみろ」

ラナ「…うわああああああああああああああああ!!!!!」

マリア「止めてラナ!!」


クラベル「マリア!!」

マリア「お願いラナ!この人を殺さないで!!」

セオ「王女様…!」

ラナ「そこを…どいてください。貴女を傷つけたくはありません…」

マリア「いいえ、どかないわ」

ラナ「どうして…!!」

マリア「確かにこの人は許されない罪をいくつも重ねたわ。私だって蔑ろにされて許したくないことだってある。でも…それでもこの人は…私の、たった1人の肉親なの!!」

ラナ「!!」

マリア「お願いラナ!罰なら私も一緒に受けるわ!何だってしてくれて構わない!だからお願い、命だけは…!!」

クラベル「マリア…」

アローガンス「…ありがとうマリア」

マリア「お父様…」

アローガンス「それでこそお前は…俺の、優秀な手駒だ」

マリア「え…?」



クラベル「マリア!!!」


アローガンス「ぐはっ…!!!」

セオ「お前…本気で許さねぇ…!!救ってくれようとした実の娘まで道具扱いしやがって…!!!」

アローガンス「何が…おかしい…?女は、ただの駒だ…お前は、永遠にそうなる…マリア…。」

クラベル「させません、そんなこと…。マリアは、運命に抗い幸せになる…。貴方とは違います」

アローガンス「…よく、言ったものだ…生まれついた運命も…私が築き上げた…この国も…お前らには変えられ…ない…」


ラナ「…変えてみせる…時間がかかっても、運命に呪われても…私たちは苦しい過去を知っている…お前とは違ってな」


クラベル「…終わった…」

マリア「ラナ…手を退けて」

ラナ「…見せられません。貴女には…」

マリア「退けて…お願い」


マリア「…いつか、こうなるって心のどこかで思っていたわ。私もお父様も…人の上に生まれてきてしまったんですもの。せめて、安らかに…」

セオ「王女様…」

ラナ「…でも2人とも無事で良かった。今ならまだ安全に城を出れます。王女様も、もうこれ以上苦しむ必要もありません。私達でアジトまで案内して…」

マリア「ごめんなさい」

ラナ「王女様…?」

マリア「ごめんなさいラナ…一緒には、行けないわ。私はこの国を離れるの」

ラナ「…え…?何を…おっしゃっているんですか…?」

マリア「…」

ラナ「嘘…ですよね…?クラベル…」

クラベル「…ごめんなさい。本当よ。私とマリアは、2人でこの国を出ていく」

セオ「クラベル…!!」

ラナ「ふた…りで…?」

マリア「えぇ…本当にごめんなさい。何と言ったらいいか…」

ラナ「何だ。そういう事でしたか」

マリア「え?」

ラナ「クラベルが王女様を名前で呼んでいたり、王女様が今までにないくらい真剣な顔をして私達に謝られるのでもしかして…と思っていました。それに二人の目を見ればわかります。大きな覚悟をした、未来を見る目をしてます」

マリア「止めたり、しないの?」

ラナ「…確かに私たちの革命の目的は貴女を女王とした新たなビリア王国を築き上げることでした。ですがそれが王女様の望みと違ったなら…私は素直に王女様の意志を応援します。そうですね…。皆には王女様とすれ違ってしまった風に演じておきますね」

マリア「ラナ…ありがとう」

ラナ「私達は王女様に救われ、たくさんの幸せをいただいたのです。今度は王女様が幸せになってください。大切な人と一緒に!でも…王女様の故郷はここビリアです。私達は貴女の味方であること、どうか覚えておいてくださいね」

マリア「うん…いつかまた、必ず会いに行くわ」

セオ「…おめでとうございます。王女様…で、あっていますか?」

マリア「合っているわ。ありがとう」

セオ「王女様…。本当に今までありがとうございました。貴女がくれたこの場所を、俺は全力で守ります」

マリア「うん…この国の未来を、よろしくね」

セオ「…必ず」

クラベル「ありがとう、セオ」

セオ「良かったな。一緒にいることが出来て」

クラベル「うん」

セオ「…王女様のこと、幸せにしてやれよ?」

クラベル「勿論」

ラナ「…王女様、ご無礼を承知の上でお聞きするのですが…クラベルと少し話してもよろしいでしょうか?」

マリア「え?えぇ勿論!許可なんて取らなくて平気よ!」

ラナ「そう、言っていただけるだけで嬉しいです」

クラベル「ラナ…?」


クラベル「ラナ…」

ラナ「おめでとう、クラベル!本当に…本当に良かったね!」

クラベル「うん…ありがとう。ラナが背中を押してくれたおかげだよ」

ラナ「…あのね?クラベル…。私、クラベルのことが好きだったんだよ?」

全員「え?!」

ラナ「勿論、ちゃんと【愛している】って意味でね」

クラベル「嘘…いつから」

ラナ「クラベルが王女様を愛してるんだって気付く、もっとずっと前から。私隠すの上手だからね!」

クラベル「そんな…ラナ…ごめ…」

ラナ「謝らないで!…私の愛する人が、両思いになって永遠の愛を誓えたのよ?こんなに嬉しいことないんだから!」

クラベル「ラナ…でも…」

ラナ「…じゃあ一つだけ、お願い言ってもいい?」

クラベル「うん…何でも言って。私に出来ることなら、何でも」

ラナ「…さっきさ、セオはクラベルに王女様のこと、幸せにしてあげてって言ってたでしょ?勿論私もそう思う。でも…でもね、それと同じ位、クラベルに幸せでいてほしいんだ。それが、私のお願い」

クラベル「…うん。約束するよ。幸せにするし、幸せになる」

ラナ「破ったら、許さないんだからね?」

クラベル「うん…!」


クラベル「ラナ…私のこと、好きになってくれてありがとう。私、ラナと一緒に働けて楽しかったし、嬉しかった…ラナのこと、私好きだよ」

ラナ「…ありがとう、クラベル。でもその好きは王女様への好きとは違う…でしょ?」

クラベル「…うん」

ラナ「…私に愛を教えてくれてありがとう、クラベル。ずっと、幸せでいてね」

クラベル「ありがとう…。ラナも、幸せでいてね。私はラナの幸せをずっと願ってる」

ラナ「…うん!ありがとう!」


セオ「まずいぞ!城が崩れるのも、もう時間の問題だ!クラベル達はどうするんだ?!」

クラベル「大丈夫。隠し通路から逃げていくわ」

セオ「分かった!」

クラベル「さぁ、行こう。マリア」

マリア「うん!」


セオ「俺達も逃げるぞ。これだけ炎が燃え広がっているなら皆外に出ていると思うし、通路もいつ塞がれるか…おい、ラナ?!」

ラナ「…ねぇ、セオ…あの二人、もう行った?二人で…自由に、幸せに生きられる世界に行った…?」

セオ「…ッ!…あぁ、行ったよ…。ここからどれだけ名前を呼んでも、もう二度と届くことはないだろう」

ラナ「そっか…」

セオ「…よく、頑張ったな。ラナ」

ラナ「…ッッ!!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



クラベル「1735年11月25日。くしくも200回目の建国記念日を迎えるはずだった日。国王アローガンス・ドミナ・ビリアの死によって…ビリア王国はその長い歴史に、幕を下ろした」
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