地球滅亡企画


第二話「怖がり坊やと愉快なグラサン兄さん」 ランクB ~アルバート×青太

アパートの一室。1人の少年がアホ毛をシュンとさせ、日曜の朝日を眺めていた。肩が震えているのはきっと寒さのせいだけではないだろう。
「落ち着けー落ち着けーボク・・・大丈夫、星の神様に頼んだんだ、隕石なんてどっかに飛んでっちゃうって。はは・・ははは」

しかし、朝日が登りきってしまうと、もう我慢の限界なのか、そのまま部屋を飛び出していってしまった。

小高い丘の上にて少年は叫んだ。

「ボクは・・・ボクは死にたくない!みんなにも死んで欲しくない!神様お願いです!お願いだからこの星を壊さないでえええ!」

しかし、こだますらも返ってこず、この期に及んで神なんてものが助けに来てくれるわけがない。むしろこれは神様の仕向けたことなのかもしれない。

泣き崩れるアルバート。風がさわさわと心地よい。本当ならば素晴らしい日曜の朝のはずなのに。
アルバートはそのまま、丘の上に寝転んだ。何も考えずに寝てしまおう。そして忘れてしまった方がいいんだ。そんなことを考えながら。けれども、彼の頭の中では思い人の顔が浮かんで消えなかった。

すると、アルバートの顔全体を何か温かいものが包み込んだ。

「オチビさん、そんなとこで寝とったら風邪ひくでー?」
口角を大きくあげながら、その思い人こと青年は言った。

「誰がオチビさんだし。青太こそ、なんでそんな寒そうな格好しているの?」
見れば彼は白いワンピースを着て頭には花かんむりをつけていた。明らかに変質者だ。

「こんな日くらい、ええやん?いつもと違うことしたってええやん?隕石落っこちて来るなんて、かなりレアやで?記念になることせな、もったいないわー。」

アルバートは顔を少しだけしかめると、言った。

「記念って・・・バカじゃないの?」

すると青太は、アルバートの手を握り締め、執拗にそれを弄びだした。

「ほな、うさぎさーん。」
アルバートの手でうさぎのシルエットを作る。きっと青太は受けると思っているのだろう。いつもなら、なにやってんだと笑ってあげられるのだが、どうやら今のアルバートには逆に苛立ちの種となってしまったようだ。
アルバートは青太の手を振り切った。
「ふざけんなよ!ふざけんなよ・・・!なんでそんなにのんきでいられるんだよチキショウ!」
しかし、そんなアルバートの様子をただ微笑みながら、相手は言った。
「アルバート君、これから遊ばへん?」

「だから、さっきからいってるだろ!ふざけんなって・・・」

「わいのこと、好きなんやろ?」

「・・・!?す、好き・・・なんて思って・・・」
突然、そう言われて素直にはい好きですなんて言えるわけがない。アルバートはとっさに顔を背け、少し後ずさった。しかし、向こうはじりじりと近寄っていく。

「なに、簡単な遊びやで?そんな顔赤くならんでもええやん。ほな、こっちきい」
そういって腕を強引に引き寄せ、目の前に座らせる。

「いや、だ・・・青太変だ・・」

「真っ赤っかになってかわええなあ。お兄さん、襲われたくなってもうたわ。」

そういって、アルバートの腕を自分の背中にまわし、顔をその小さな胸にうずめてきた。
「ほな、ええ子、ええ子してえな。」
「えっ・・・」

このお兄さんは一体何を考えているのだろう。そんな思いが頭の中を巡っていった。目の前のこの人はまるでボクの反応を楽しんでいるみたいだと。
アルバートはためらいがちに、青太の黄緑色の髪をなでた。

「・・・ええ子やなあ。お次は、わいの好きなところ、脱がしてええで?」

アルバートは思わず押しのけようとしたが、青太に手首を掴まれてしまった。そのまま、それを胸元に押し当てられる。そして、徐々に下へ下へと、滑り込まされる。その動きがやけにゆっくりでじれったい。

「ボクは・・・」

「はよ、脱がさないと、アルバート君痴漢になるで?」
痴漢はどっちだ。心の中で叫んでは見てもこの状況を止める術を知らないのだ。

「わかりましたよ、脱がせばいいんだろ」

そういって、青太の頭の後ろに手を伸ばすアルバート。青太を抱きしめるような形で後ろ髪をそっと解いた。いつも上げられた髪の毛は、ぱっと開き、下ろされた。

「髪の毛下ろすと思ってたより長いんだ・・・ってそうじゃない、もう脱がしたからいいだろ!」

「ほんまにそれだけでええの?もう少し脱がせばええんとちゃう。それとも、女装したお兄さんじゃ、嫌なん?」

相手は返事をする隙も見せずに、そのまま仰向けに倒れ込んだ。アルバートはその上を覆い被さっていた。腕を掴まれ、逃げることもできない。青太の下ろされた髪が芝生の上に広がり、やけに色っぽく感じた。

「もうやめようよ、こんなこと・・・恥ずかしいよっ。」

「恥ずかしいんや?大丈夫、アルバート君の恥ずかしいとこ見るのわいだけやから。それにわいの恥ずかしいとこを見るのもアルバート君だけ、どうやおあいこやろ?」
アルバートの右手が自分の意思とは関係なしに青太の頬を撫でる。気持ちよさそうに目を細める姿が普段の青太っぽくなくて、違和感を感じる。

「アルバート君・・・好きや。」

頬をほんのり染める青太にアルバートの心の中の何かが弾け飛んでいったような気がした。次の瞬間、自分でも信じられないほどに、青太の唇に深いキスを何度も落としていた。

全身でお互いの気持ちを取引しているような、そんなやりとりの中、突然アルバートは我に返ったように寸前でやめた。

「やっぱり、ボクには無理だよ・・・でも、青太のことは、その・・・」

青太は優しくアルバートの背中に腕をまわすと、壊れ物に触れるようにそっと抱きしめた。そして耳元で囁いく。

「ええねん。最初からわかってた。ただアルバート君の気持ちをもっと近くで感じたかっただけやから。だからええねん。無理せんでも。わいの可愛いアルバート君はそれでええねん。」

「青太・・・ありがと。」

ああ、この人も同じ気持ちだったんだ、何を今まで逃げていたんだろう、きっとボクの片思いだって、どうして決め付けていたのだろう、とアルバートは思った。

そして、青太の丸っこい耳元にそっと、だけど強く囁いた。

「ボクも好きだよ。」


【完~怖がり坊やと愉快なグラサン兄さん~】
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