ジェームズのショートショート
×
×
ジェームズの部屋
ジェームズのショートショート
愛は複雑だという人があれば、
愛は単純だという人もいるよ。
本当はどうなんだろうね。なんちゃって愛理論。
~「純粋無垢」~
俺は美味しいものが好き。
なんたってネズミだからね。
でも、最近なんだか物足りない。
そんな風に思ってた日常の中で。
アルフレッドが作るお料理だけは特別で。
毎日食べても飽きないんだ。
俺は子どもだけど、グルメだ。
だから分かるんだよ、原材料がなんなのかーとか。どれくらい時間をかけて作ったのかーとか。
「フレッドー、今日はなあに?早く食べたいな。」
「はいはい、ちゅー太君。待っててね。」
俺がなにを食べたいか伝えると、嬉しそうにご飯を作ってくれる。
お鍋を準備して、食材の下準備をする音が聞こえてくる。
準備をするとき俺はキッチンには行かない。
だってお行儀悪いし、せっかく作ってくれるのだから、邪魔しちゃ悪いしね。
そのうちに鼻歌が聞こえてくるころには、食材のにおいがしだす。
ぐつぐつと音をたてて、きっと今日はビーフシチューなんだ。
「ちゅー太君、召し上がれ。」
笑顔で食事を差し出すフレッド。
まるでお母さんみたいだな、と思った。
でも、これはママゴトなんだ。
フレッドは優しいお母さん、俺はその子ども。
毎日何気なく、平凡な毎日をおくる親子。
不思議なことに、俺はそんなママゴトを認めていた。
心の底から、面白いな、と思っている。
「いただきまーす。」
口に頬張ると、中で油がジュワっと広がった。
俺は無言で頬張った。
「おいしいかい?」
「うん。」
俺はやっと返事をした。口の中の肉が舌先で踊りだす。
スプーンの中に収まっていた肉がぼろりと白い皿の上に落ちた。
すかさず、それをすくって食べた。
相手の視線は柔らかくて心地の良いものだった。
「ごちそうさま。」
食べ終えて、充実した気持ちになった。
なぜだか、とても穏やかな気持ちになれるんだ。
まるで人一人分の愛情でもつまっているかのように。
次の日はステーキだった。
ナイフで押さえると、肉から茶色く濁った赤い血がにじみ出てきた。
100%ビーフ。
とても美味しかった。でも、もっと美味しいものが食べたい。そう思った。
「フレッド、明日はなあに?」
期待に満ちた質問に、アルフレッドは笑顔で応えてくれた。
「明日は、シュウマイにしようか。」
次の日、
彼が言った通り、シュウマイだった。
美味しいな、だけど僕はワガママなんだ。
もっともっと食べたい。美味しいものを。
だから、毎日アルフレッドに要求した。
あの人の愛情を貧欲に貪るように、俺は料理を平らげ続けた。
周りの人たちは知らない。
俺とアルフレッドだけの秘密のお食事会。
そんなある日、レンが人を探していた。
「なあ、アルバート見なかったか?」
「ううん、見てないよ。」
「そっか。じゃあな。」
俺は嘘をついた。本当はどこにいるのか知ってるんだ。
でも教えてあげない、だって「俺たち」の秘密だから。
「はい、チュー太君。」
「わあ・・・!俺、チキンカレー食べたかったんだぁ。」
「おかわり、たくさんあるからねぇ。」
そう言って頭を撫でてくれた。
俺は夢中で食べた。
美味しくて舌がとろけそうだ。
鶏肉がとても柔らかくて、残さず食べてしまった。
アルフレッドがお母さんを演じるなら、俺は良い子を演じるようにしていた。
片付けは俺がやるんだ。
今までもそういしてきたし、これからもずっとそうするつもり。
「ちゅー太君、いつもありがとね。生ゴミは、いつもの場所に捨ててきてね。」
「はーい。」
焼却炉が牧場の中にある。俺は食材に感謝しながら、焼却炉に入れた。
明日にはもう、全部灰になっているだろう。
中を覗くと、入れるときに引っかかってしまったからか、袋が破けていた。
中からは、星の形が見えた。
茶色い髪の毛に絡まって、少し黒ずんでいる。
俺はそっと蓋を閉めた。
今、俺の胃袋の中でドロドロに溶けている頃かな・・・。
そう考えると、なんだか愛おしく感じるんだ。
そしてアルフレッドに感謝したくなる。
俺の欲求を満たしてくれる、素晴らしい「お母さん」なんだって。
これからもずっと、ずっと。俺のお母さん。
だから・・・帰ったら、言うんだ。
「フレッド、明日はなあに?」
~「純粋無垢」~【完】