ジェームズのショートショート
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ジェームズの部屋
ジェームズのショートショート
「仏の顔も三度まで」というけれど、
君は何度剥がせば、いいのかな・・・
~「仏様」~
俺は昔から神や仏なんて信じてなかった。
だから、悪いことをしたって、罰なんてあたらない。
友だちが積み上げた積み木だって、平気で崩したし、怪我だってさせた。
相手が悪いことをしなくても、腹が立ったら、「仕返し」した。
そんな俺だから、嫌う人だってたくさんいたと思う。
でもね、そんな俺でも好きになってくれるやつがいるんじゃないかって、希望を持った時もあったよ。
ママには嫌われないようにしたし。
児童相談所のやつらが来た時だって、ママを庇ったんだ。
けれどもママは・・・俺を好きになってはくれなかった。
けれども俺はママを今でも愛してるんだ。
一度殺そうとしたけれど、それはママが教えてくれた愛し方だから・・・ね。
そんなママはもういない。
きっと俺をおいて逃げちゃったんだ。
ママは愛していない。俺を。
ふと、俺の前に現れる影法師。
「ママ・・・?」
けれども違った。代わりにいたのはミーロンだった。
「うふふー、僕はママじゃないですよ~?」
「あ、ミーちゃんだった。ねえねえ、なにか用なの~?」
「えーと、あ、そうだ。この前、ロップが欲しいって言ってたでしょう~?」
「んー?なんだっけ、てへ」
「僕が部活で作った、兎のぬいぐるみ~。あれ、作品展覧会に飾られなくなったら、あげるって約束したでしょー?」
ああ、そんな約束したんだ。俺。いつもその場のノリで言ってるから忘れてた。
「ありがとぉ!めちゃうれしい!えへへ」
「うん、これだよ。ラッピングも少し上達したかなー。」
「ミーちゃんったら、女子力たかーい!ははっありがとー」
ラッピングに包まれた兎は華やかなフラワーリボンで装飾されていた。
なんか、俺より可愛い。おんなじ兎なのに。
なぜか、むかつく。
俺は、好奇心にも似たような心境である思いつきを実行しようとした。
その行為は非常識で、相手に精神攻撃をするようなもの。
なのに、俺はわくわくした。
これを、目の前で―
ビリリッ
「あ、」
壊してあげたらどんな顔をするかなと想像したら・・・!
ミーロンは一瞬表情が変わったかのように思えた。
「・・・ミーロン?」
けれど、彼は笑っていた。
変わらない微笑みを浮かべていた。
気味が悪い。
なんで怒らないの?
悲しくないの?
ねえねえ、どうして・・・
「笑ってるの?」
その日から、俺はミーロンを困らせたくて仕方がなかった。
いつも笑っている、その顔が不自然に思えたからだ。
今までだって、物を壊されたら、みんな怒ったり、泣いたりした。
それはもう、「思い」がたくさん詰まっていれば詰まっているほどに。
ある時は、ミーロンがいつも身につけていたマフラーを破いた。
ある時は、彼の時計を。まだ笑っていた。
また別の日なんて、彼の作品だって壊した。
いくつも壊した。
なんども、なんども、壊して。直して。
けれども、彼は仏のように、笑顔のまま。
それどころか、彼は俺にこう言ったんだ。
「僕は君が好き」
おかしいよね?こんなのおかしいよね?
ねえねえ、君は変なやつだよ。
俺は嫌い。いつも笑っている君が嫌い!
俺は、また思いついた。
そうだ、彼が一番大事なものを壊せばいい。
ミーロンが俺を見る目は、いつだって。
大切なものを見る目だった気がする。
昔から、ずっと変わらず。
そんな君が、本当は好き・・・?
本当に俺が好きで大切ならば、
彼は泣くだろうか、怒ってくれるだろうか。
「ロップ・・・やめなよ。ね?相談に乗るから―」
「ミーちゃん、俺のこと好きー?」
「うん、好きだよ。だから、だから降りておいで・・・」
「そっか。それじゃばいばい。」
俺が壊れる瞬間。
全ての時がゆっくりと動いていた。
風の通り抜ける音だけがかするが、大きな声が聞こえた。俺を呼ぶ大きな声。
やった、やったぁ。仏様が泣いている。
大声出して、歪んだ顔で泣いている。
やったーやったー
俺は大切にされてたんだ。ありがとう。ごめんなさい。
ドサッ
~「仏様」~【完】