春風と君と


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ジェームズの部屋
春風と君と
さて、うちに帰って中身を見てみると、タイトルが春風と君とというタイトルだった。

「なかなか、情緒感でとるやないの」

華やかなオープニングが流れたあと、一人ひとり、登場人物が紹介されていった。

「なんや、韓国ドラマみたいやなあ」

日本のドラマは突然物語が始まるのに対し、韓国のドラマはオープニングのときに必ずといっていいほど登場人物が出てくる。

しかも大体その登場人物紹介で、そいつらの関係性がわかってしまうのだ。

なぜ青汰がそんな事情を知っているかというと、なにせ実家の母親のために韓国ドラマのことでネタにしたことがあったからだ。

お笑いをやっている以上、世の中で流行っていることには敏感なのだ。

さて問題のビデオだが、主要登場人物が一通り紹介されると、
ドラマの序盤が始まったようだ。韓国のイケイケ女子がアヒル唇しながら、軽快な音楽のなか闊歩していた。

「なんやベタベタやなあ」

こういうドラマのヒロインがイケイケ女子の場合、気が強く、たくましい女子である場合が多い。
その後も、お決まりの展開がなされ、半ば、仕事の疲れで眠くなり始めていると、
物語の終盤にかかるところで、異変に気付いた。

このドラマ、一見ベタな韓国ドラマだが、出演者の間に妙なものがあったのである。

青汰は眠気まなこでもう一度目をこすり、画面を注視した。

やはりそこになにかある。

「なんや、これ。」

なにやら、黒い物体がうねうねと動いている。

「ん?あれこれ・・・えっ!?」

青汰は驚いた。一時停止ているのにも関わらずその黒い物体は動いていたのである。

「あかんやつや、これ・・・」

青汰はそのビデオを取り出すと、少し電気が一瞬消えた。

ほんの一瞬暗くなるくらいだった。

その日は疲れも溜まっていたこともあり、すぐに床についた。

次の日、青汰はビデオを元の位置に戻しておいた。

すると、いきなり後ろから白い手が伸びてきて青汰の目を塞いだ。

「みぃーたぁーなぁー」

青汰はさすがに青ざめた。思わず体が硬直した。

「なぁんてな!」

しかし、後ろを振り返ってみると、陽気な笑顔のきつねが手を振っていた。

「な、なんや。急に。脅かさんといてえな。」

「青汰がこそこそあやしい動きしとったからや。」

「してへんよ。」

「そうかぁ?ま、それより撮影いこか!」

「あいよ!」


それからというもの、青汰のまわりでよく物がなくなるようになった。

スッタフが原因を探ったが、結局不明のままであった。




【完】
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