春風と君と
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春風と君と
「二人とも、今日はお疲れ様でした。」
中に入ってきたのはスタッフだった。
黒いキャップを目深に被り、マスクをしてサングラスをしているが、決してあやしいスタッフではない。
彼曰く、風邪予防である。
「お、カジバはん。今日は飲み誘ってくれへんの?」
と青汰。
「せやで~うまい店しっとるんやろ?」
と紫姫。
「ひひひ・・・そうは言っても、今日は残業でねえ・・・ふひひひ」
根暗そうに見えるが、決してそんな暗くないと評判のスタッフ、カジバは楽屋の管理を行いにきたようである。
ちなみになぜ彼がカジバと呼ばれているかというと、ポケットモンスター金銀に登場する火事場泥棒に似ているからである。
「ところで、お二人さん。最近物がなくならないかね?」
「あ、そういえば。よくなくすようになりました。自分ボケてもうたんでしょうか、と心配で・・・」
「そうですかぁ・・・やはり。ふひひひ」
すると青汰はハッとしたように言った。
「まさか!最近物がなくなってるのって・・・」
「そのまさかなんすよ・・・他の楽屋でも物がなくなっとるんです。はい。」
そう言ってカジバはマッチを取り出した。
言っておくが、決して放火をするわけではない。
彼は胸ポケットから風呂敷を取り出すと(盗みを働くわけではない)、中からタバコを取り出した。
「困ったもんですねえ・・・スーハー・・・誰かが楽屋のものを盗んでんのかねえ。」
サングラス越しだからわかりにくいが、彼は目を細めていた。
タバコを吸うときに少しだけ顔をしかめるので、鼻毛は上下に出たり入ったりを繰り返していた。
「ほんまかいな。いややわ~。」
青汰は、困ったような顔で紫姫を見た。
「しかし、僕がなくしたものは、リップクリームやで?ドロボーさん、えらいちゃっちいもん盗んでいくんやなー」
「やんな。けどわいの聞いた話によると、芸能人の小物っちゅうのは、ファンの子に売られたりするそうやで?
そういった類のもんやないの?」
するとカジバは小声で囁いた。
「その通り・・・昔から、芸能人のプライベートを知りたいってやつが多いのさ。何を使っているのか・・・とかね。」
そう言うとマスクを紐ごと前に引っ張り、胸ポケットから取り出した仁丹を口に放り込んだ。
なにしろ、彼は煙草のヤニ臭いことで有名で、本人もやっと最近気にし始めたのだ。
「そんなら、何を使ってるかぐらいなら言ってもいいのになあ。」
紫姫はそういうとふうっとため息をついた。
「それがいかんのや。まったく紫姫ぽんはー」
「なあ、さっきからなんで「ぽん」呼びなんー」
「味ぽんみたいやろー」
「意味不明や」
2人が談笑をしはじめたのを見計らって、カジバは咳払いをした。
「とにかくだ、2人とも今後貴重品管理は徹底してくれ。それじゃ。失礼するよ、ふひひひ・・・」
「はーい!わかりました。」
と青汰。
「わかりましたー」
と紫姫。
2人はカジバが去っていったあと、しばらく仕事の話や世間話をし、帰宅した。
2人が帰っていったあと、楽屋に入ろうとする一つの人影があった。
その正体は・・・コナンの犯人のごとく真っ黒だったのでわからなかった。