春風と君と
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春風と君と
青汰は女性の格好をしていた。
しかも全然似合わないのに自信に満ちた笑顔で女装をしていた。
その真正面にいる狐耳の青年こと紫姫は、相撲レスラーの着ぐるみを着て、
どすこーい!としこを踏んでいた。
すると、女装をした青汰は、ツッパリ紫姫に向かって突進をする。
紫姫も負けじと対抗するが、着ぐるみのせいでうまく動きが取れない。
「くっ!腕を上げたやないの、青汰はん!」
「女装レスラー・青汰を舐めるんやないで?これからが本番じゃい☆彡」
「ふをおお!!どすこーい☆」
「おりゃああ!!うっふん♥」
さて、この戦いの結果は・・・!
「はい、カット~!二人共いい感じですよ。今度の「どっこい相撲レスラーと鉛筆少女の恋」は大ヒットの予感!」
2人は今度放送される深夜ドラマの撮影をしていた。
ドラマのコンセプトは、純愛コメディ。
ストーリーは粒あん入りのあんぱんを口にくわえて走っているところを
主人公の少女が運転する車と正面衝突するところから始まる。
事故にあい、血だらけになっているレスラー紫姫を担いで病院まで運び、
そこでなんとなく恋に発展してしまうという、
なんともベタベタな展開のシナリオである。
今は丁度、その事故による後遺症を治すためのリハビリシーンだった。
「監督、泣けますね!このストーリー、うっううぅ・・・」
シナリオライターの隣にいる、番組ADが自分のアロハシャツの袖で涙を拭いていた。
「はは、まだ泣くのには早すぎるよ。田中さん。これからだ。」
そして、2人が掴みかかるシーンに突入する。
おやつのプリンを看護婦さんに強奪されてしまったことに腹を立てた少女・青汰が、
レスラー紫姫とともに取り返しに行くというところである。
「おおおっし!やるぞ!きゃつからプリンを取り返そうぞ!レスラー!」
「せやなああああ!!」
こうして2人は何度かNGを出しつつ、撮影をこなしていった。
~撮影後~
「ふぅ、しんどいわあ。」
「お疲れ~。やっぱ着ぐるみ重たいわあ。」
「ていうか、監督さんほんまにあのシナリオでいける、思ってるんかいな?」
「あー、やっぱり青汰君も思っとった?でもしゃあないねん。
やるだけやらんと。芸能界厳しいところやで~?」
「わかっとるわぁ。ま、ちょっと楽しいけどな。どすこーいとか紫姫が言うの。」
「ははは、変な楽しみ方せんといてー。
ん?ところでさ、僕のリップクリーム知らへん?」
「知らんよ?ていうか最近物なくなる率高くなーい?」
「やんなぁ?ぼけてもうたかな。」
紫姫は鞄の中をしきりに探すが、見当たりそうになかった。
「わいのは無くならへんのや、やっぱぼけたんちゃう?」
面白そうに青汰が言うと割と本気でうなづかれてしまった。
「せやなあ、この前も無くなってしもうたし。」
「それから、眼鏡の上にサングラスかけるしー?」
「青汰、それネタやから。」
2人は対して気にもとめず、談笑するとドアから突然ノックの音が響いた。