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ジェームズの部屋
誕生日?それなら昨日だったけど。


多分、あの人は古くから生きてる人だから、恋愛だの、誕生日だの興味ないんだろうな。


それとも、そんなものは、子供特有のものなんだろうか。

ボクは、中学生だし、やっぱり期待しすぎかなーとか思ってる。

でも、それでいいのかな。
一生、こんなヘンテコな気持ちのまま過ごしていかなきゃならないの?

あの人は龍だ。ボクはといえば、小さな鳥。
差がありすぎるなーとは思ってる。多少ね。

気付いたら、ボクは十二支荘の外でに出ていた。
もし、大魔王クラスの魔法使いなら、こんなことで悩まないだろう。

「あーあー、こんなつもりじゃなかったのに」

目の前の石ころを蹴って呟いた。
横に勢いよくファウルする。まるで今の気持ちみたいだ。

石蹴りも上手くコントロールできないボクに何ができるっていうんだ。
気持ちを告る?そんなこと出来るわけないじゃん。

「はぁ・・・」

馬鹿みたいだ。こんな臆病な自分が。

その時だった。足は勝手に駆け出し始めた。

そして心は踊るように、不安がるような感じで、くすぐったい。

どんどん近づいていく、その先には。

「天龍さん。」

「アルバートか、どうしたこんな夜更けに。9時はとうに過ぎている。」

「夜更けっていうほどじゃないと思いますけど。天龍さんこそ、なんでこんなところにいるの。」

ボクはそれを質問してしまったと思った。

前にも全くおんなじ質問をしたことがあったからだ。

だけどこの人は、律儀にも全くおんなじように答えてくれた。

「私は、精神統一のためには、この時間が良いと感じているからだ。」

ボクは相槌を打った。ただそれだけしかできなかった。
だってこの続きも前に聞いてしまったからだ。

だったら、思いきって他の話題をふってみよう。


〇選択肢を選んでください
1.「ヒゲを引っ張っていいっすか?」
2.「俺の嫁に来ませんか?」
3.「今日は月が綺麗ですね。あなたほどじゃありませんが、ふふふ。」
4.「黙って俺に奉仕しろ。」




「・・・。いうわけねえだろ、んなもん!」

ボクは、危うく、間違った選択肢を選んでしまうところだったと思う。

なぜか知らないけれど、たまにこういうことがある。

邪気眼だとか、お前なら立派な魔法使いになれるだとか、言ってくるんだ。

「アルバート、何を独り言を言ってるのだ?」

相手は神妙な面持ちでこちらを見ていた。
やっぱり、怪しまれてる。

頼むから、今は出てこないでくれよ。
ほうっておいてくれよ。

ボクは必死に願った。

もしかすると、ボクの中のもうひとりのボクが暴れているのかもしれない。

それで、ついつい口にだしてしまった。

「もう!やめてよ!ほっといてってば!」

僕の声が虚しく響く、そうだ。こうなってしまったのも、全部ボクのせいなんだ。

天龍さんは、そんなボクを見て、気を使ってくれたのか、優しくなだめてくれた。

「何があったか、知らんが、そう自分を戒めるんじゃない・・・。なんなら、話を聞くことだって、できる。」

ボクはぼーっとした頭で、こちらに差し出される手のひらを眺めた。

その手のひらは繊細な物書きのもので、きれいだなあと思ってしまった。

こんな風に考えてしまうのも、今までなかったのにな。

だけど、ボクはそんなに素直じゃなかった。
だから気付いたら、その手を払いのけていた。

「いや、大丈夫です・・・。ボクは。」

本当は大丈夫じゃねえのに。
やっぱりダメだな、この人の前でもボクは臆病だ。
いや、この人だから、かもしんない。

あー、もうわけわからないよ。

相手もおんなじように思ったに違いない。
こいつは変な奴だなって。
別に人にどう思われようが、どうだっていいんだけど、いいんだけど・・・

「そうか・・・私はただ・・・。いや、お前が一人で悩んでいるのなら、助けたいと思ってな。
思春期というのは、色々と悩みが多い年頃だ。
私も若い頃は、些細な事で心を折られたりしたものだ。」

「些細なこと・・・そうかもしれないな」

ボクは天龍さんが一回で聞き取れないくらい、か細い声で呟いた。

しかし、相手は龍だ。常人の能力では計り知れない聴力、視力、その他もろもろを持っている。

すぐに聞き取られてしまったようで、少し慌てたように、前言撤回を求めた。

「先ほどの言葉は語弊だった。すまない。」

天龍さんの赤い目が見開いて、輝いた。
天龍さんでもこんなふうに、慌てることあるんだなあと思った。

やけに客観的な思考で、ボクはこの人の動作を眺めていた。

「別に、いい・・ですよ。ボクは気にしていませんから。」

「そうか・・・すまないな。」

だから、謝らなくていいんだってば。
心の中で、そう突っ込んでみた。

夜の風はやけに冷たい。

秋だからな。

天龍さんとボクはしばらく談笑し、
時間も丁度良い頃、別れることにした。

理由は「お前は中学生だから、遅くまで起きててはいけない」

だそうだ。

じゃあ、ボクが大人だったら、もう少し遅くまでいても問題ないのかな。
そんな言葉を反芻しながら、自分の部屋へと戻っていった。
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