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おお、かみよ!ウェルカム~絶頂の彼方へ~
ある日、学校の科目は全てトップクラス。
そして人気者という、超羨ましい人間がいた。
なんでも副会長をやってるというから驚きだ。
そこまで、すごい奴があえて副会長を選んでいる、そんな現実を私は目の当たりにしたわけだ。

さて、今回の主人公は、オオカミの大上さんである。実にわかりやすいネーミングだ。グッジョブだ。

大上さんは、見た目こそ怖そうなのだが、実は植物系男子である。

しかも書道が得意なのだ。

そんなわけで彼は今日も書道に励んでいた。

達筆に書かれるその字はまさに芸術である。
下に敷いてある新聞紙がやぶれるほどの力強い筆使いで、今日もまた、一枚の芸術品を仕上げた。

「ふう、人間が苦手な俺だが、人間という字をかいてやった。
やはり文面には苦手意識が少なからず反映されてしまうんだな。
書いている最中も手が震えたぜ・・・」
そう、彼は何を隠そう、人間が苦手なのである。恐らく、人間とプロレスをすれば彼が勝つほどの腕っ節だが、どうもダメなのだ。

大上さんはその中でも特に苦手としている分類の人間がいる。それは、つかみどころのない、人間である。その名も綾川だ。

彼は人気者なのに、1番になりたがらない。普通は周りにちやほやされれば、ナンバーワンを狙うはずだ。しかし、彼はそういう野心メラメラ人間ではなかった。

だからだろうか、大上さんは彼になら親しみをもてると思う反面、ちょっと怖いと思っている節もある。

裏では、どんな顔をしているのかわからないのが人間だ。彼らは時に美しく、時に残酷なのだ。

「俺のこの習字に込めた思いを綾川なら理解できるのだろうか。」

大上さんの手は震えていた。

人間のことを考えると、震えずにはいられない体質である。

綾川という人間に興味を持ちつつ、恐れている部分があった。

赤井さんのように、あからさまな変態なら、逆に近寄らなければいい話だ。

しかし、彼は赤井さんと同じ匂いのする人間だと理解しつつ、どこかでまともな人間なのではと期待している部分もあった。

「習字はもうやめよう。」

文鎮を手にとったその時!

「大上じゃないか、習字の練習でもしてたの?」

今まで思考の中で廻りまわっていた彼が突然登場したのである。

手に持っていた文鎮を思わず足先に落とし、悶絶する。

「いってえ・・・」

しかし、そんなことはお構いなしに綾川は用事を伝えてきた。

「大上さ、この前の学園祭(今年も盛り上げようプロジェクト~未来編~)の下書きどこいったか、知ってるか?」

相変わらず、完璧な抑揚である。一切訛りのない、標準語である。

「あれなら、ももちが持ってたと思うけどな。」

「ああ、そうなんだ。」

用が済んだらさっさと行けばいいのに、彼は微笑んだままそこに立っていた。

大上さんは疑問に思った。

もし、この人が変態なら、よからぬことを考えるだろうが、そういう人間ではないと心の中ではすっかり安心していた。

それが間違いだったのかもしれない。

彼は突然、俺の頬に触れてきたからだ。
突然のことに、反射的に飛び退いた。

その様子を見て、相手は苦笑した。恐らく苦笑だと思う。

それともからかって楽しんでいるために発生した苦笑だろうか。

どちらにしても嫌な汗が流れた。
大上さんは人間が苦手だ。なのにいきなりスキンシップをはかられると、正直困惑してしまう。
「いきなりなんだよ、くそが。」

「いや?大上こそ、どうしてそんなに顔が真っ赤なの?」

大上さんは気づかなかった。まあ、自分が真っ赤になってるかなんて、鏡みなきゃわからないわけだが。

しかし、顔面に熱が集まっていることに今更気がついた。

「うるせえ、用が済んだら、とっとと行けよ。」

「・・・そっか。じゃあね。大上。あと、顔に炭ついてるよ。」

「は?まじかよ」

大上さんは改めて洗面台の鏡を見てみると、先ほど綾川さんが触れたところに炭がついていた。
これは恥ずかしい。

恐らく、これを教えてくれるために触ってきたのだろう。そう解釈した方が良いと彼は考えた。

「それなら、口で伝えろよな。たくっ、驚かせやがって。」

すでに、綾川さんはそこにいなかった。

彼のようなつかみどころのない人間は苦手だと再認識させられた大上さんであった。


【完】
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