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【八犬伝】信乃パニック⁉︎♀

それはあまりにも唐突過ぎる出来事だった。

「荘…起きてくれよ、荘!」

妙な違和感を感じつつも、荘介は目を覚ました。
そして、思考が停止した。

バタッ

「荘ォォォォォ‼︎⁉︎」

信乃パニック⁉︎♀



信乃の叫び声がこだました早朝。
四白の姿の荘介は、信乃の姿をみてベッドから落下した。
人間の姿へと戻った荘介は起き上がり、改めて信乃を見つめる。

「信乃…ですよね?」
「それ以外に誰がいるんだよ」

いつもより少し高く柔らかい声で話す人物は紛れもなく信乃であった。
背は高く、華奢で、艶のある髪をしたその姿に荘介はただただ見惚れるしかなかった。
元の姿に戻るだけでも信乃はかなりの美形だというのに…
それが…

女になるなんて…‼︎

「信乃」
「何だ、荘」
「…俺、このままこの部屋にいたら色々と我慢出来ないので、浜路呼んできます。お願いですから、部屋から出ないでくださいねっ」
「お、おう…」

顔を真っ赤に染めて部屋を飛び出して行く荘介に首をかしげる信乃だった。

なんか、スースーするなぁ…
そう思い、胸に手を当てる。
そこには普段ない柔らかい感触が。
浴衣は突然成長した信乃の体を包むことが出来ず、はだけていた。
突然、顔に熱が集まるのがわかった。

「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎‼︎‼︎」

信乃は考えるよりも早く、毛布に包まり枕に顔をうずめた。

犬塚信乃、人生初の体験である。


***********

「いやぁ、しーちゃん可愛いね」
「どこからどう見ても完全に女だな」
「見事過ぎるわ…」
「信乃、可愛いです」

要、莉芳、浜路、荘介の4人が信乃に見惚れていた。
浜路に頼んで女物の服を調達してもらい、着替えた信乃の姿はあまりにも綺麗過ぎて、予想していたよりもはるかに美しいものだった。

そして、どこからその騒ぎを聞きつけたのか、一時間も経たないうちに小文吾を始めとして、毛野、現八が駆けつけたが、現八は数分で小文吾によって強制退室となった。

女装ならまだしも、身体つきから何から何まで全て女であった。
小悪魔のような信乃本来の雰囲気は残っているものの、何故か信乃に落ち着きのようなものが感じられた。
その姿のせいだろうと、誰もが思ったがあえて誰も口にしなかった。

「腹減った。」

と、呑気に信乃は言うが荘介と莉芳は内心落ち着かなかった。
何が原因で信乃がこのようになったのか…
原因がまったくわからないからである。
村雨もいつも通りで、信乃と声を合わせて腹減った、腹減ったと繰り返すばかりだ。
単なる村雨の気まぐれなのだろうか…
よくわからないが、成長した信乃を見れた荘介の心境はまるで親のようであった。

「お前、ホントは女だったんじゃねーの?」

毛野は信乃の長く艶のある黒髪を撫でて羨ましそうに呟く。

「ンなワケあるかー‼︎」
「女だったら、稼げたのに…勿体無い。ま、信乃はまだ子供だしなっ」
「子供扱いすんな!」
「じゃ、女扱いでもするか…?」

毛野はニヤリと笑うと、指を信乃の顎にかけ、くいっと上を向かせる。
その直後、

「はい、アウトー」
「ぐあっ…って、いってぇ〜。おい、小文吾、俺の顔に傷がついたらどう責任とってくれるんだよ!顔が命なんだからな!この商売は!」
「顔の責任どーこーの前に、男としての責任を持て!アホか!」

手に持っていた御盆を毛野に叩きつけなんとか阻止した小文吾。
毛野が頭をさする中、その他一同小文吾を見てキョトンとしていた。

「「小文吾、男前」」
「…はぁ?」

何言ってんだコイツら…と、信乃のほうを向くと、

「あ、…ありがとな、小文吾」

満面の笑みを浮かべる信乃。

バタッ

小文吾、アウト。

ーあの笑顔は反則だ。ー


とりあえず、古那屋へ向かう事になった。
前は小文吾。
横には四白。
後ろには浜路。
そして、現八を抑えるための毛野。
こんな美少女を囲むように、青年が歩いていたら、勿論街の注目の的となり…

「俺、このまま消え去りたい…」
「もう少しの辛抱ね♪」

信乃恥ずかしさのあまり、俯くしかなかった。

古那屋に着くと、そこには大角がいた。
道節とは、行き違いになったらしい。
女になっている信乃を見て、特に驚くこともなく、相変わらず綺麗だなと頭を撫でるだけだった。

「人形のモデルには適さない大きさだがな」

遠回しに小さい信乃のほうが良いと思った大角であった。

「力になれなくて悪かったな」
「別に構わない」
「なら、いいけどよ」

信乃は大角の真意には気づかなかったのだった。
その直後、仁が廊下を走り信乃の元へとやってきた。
初めて信乃の本来の姿を見た仁は一瞬理解が出来ず停止したが、すぐに目を輝かせて信乃に駆け寄った。

「信乃でしょ⁉︎すっごく綺麗だよ!やっぱり信乃は美人だね!」
「それもう何回も言われた」
「えっ、そうなの?」

無邪気に尋ねる仁に信乃はただただ頷くしかなかった。

ー…結局、男だろーが女だろーが一緒じゃんー

昔から身体が弱かったから、女のように大切に育てられてきた。
荘介も浜路も、今はもう強くなったけれど今も尚俺に対しては過保護だ。
村雨の影響で子供の姿だからって、みんな俺のこと子供扱いするし、元の姿に戻ったら戻ったで綺麗だのなんだの…

「…………っ‼︎」

気持ちが突然溢れ出してきて我慢出来ずに古那屋を飛び出した。

「信乃⁉︎」

**************

別にこの姿でも、何でもないだろっ。
一日中監視なんかされてるとか無理無理!
しかも浜路と一緒だったら、何されるかわかんねーし…
でもなぁ、この姿で下手に動いたら後から荘介と里見がうるさそうだし…

信乃は色々考えながら歩いていると、ふと我に返った。
人通りの少ない道。
思い浮かぶ顔はただ一つ…
本能的ヤバイと感じた。
きっとこのままここに居ればいずれ遭遇してしまうだろう。
早めにここから立ち去らねーと…

そう思った時

「やっぱり信乃だ。」

ぐいっとやや強引に腰を抱かれ後ろを振り向かされた。
気づいたらすでに腕の中で、荘介と同じ温もりを感じた。

「来て欲しくない時に限って来るよな…お前って」
「ふーん…勢いに任せて宿を飛び出して、こんな所に来たら、俺に会いたかったとしか思えないけど?」
「随分と都合の良い頭だな」
「そりゃどーも」
「褒めてない。」

何故かわからないけど心臓の音がうるさかった。
いつもこんなことにならないのに…
この身体の所為なのか?
「信乃女の子になったんだ」
「好きでなった訳じゃない」
「可愛いよ」
「そんなこと言われても嬉しくねーよ」
「じゃあ…何で顔赤いの?」
「はぁ⁉︎」

蒼はひたっと信乃の頬に触れた。
いつも温かいはずの蒼の掌が冷たく感じた。
それどころか、蒼が触れたところこら熱がじわじわと伝わってくる。

「あ…お…っ、俺、どーなってるの…?」

熱のこもった瞳で信乃はじっと蒼を見つめた。
別に深い意味がある訳でもなく、ただ自分の身に起きている事が理解出来なくての戸惑いの目だったのだか…

「信乃…それって、誘ってる?」
「誘う?…何を?」
「いや、何でもない…多分」

蒼の理性決壊数十秒前。
そんな時、信乃の様子がどんどんおかしくなっていった。

「はぁ…はぁ…っ、熱いっ…蒼…」
「信乃‼︎」

目が虚ろになってきていた。
腕に抱かれていた信乃は次第に身体をこちらへと預け自分で立てないくらいになっていた。

ー困ったなぁ…ー

きっと、今の状態の信乃なら、今何より頼りたいのはきっと俺ではなくもう一人の‘‘荘介”なのだろう。
確かに、今の俺では何も信乃のために出来る事がない。
このまま連れて行っても、姫に会ったら信乃大変だからな…
放っておいたら心配だし…
どうすればいいんだ?
俺にしがみつく信乃の力はどんどん弱くなっていく。

「蒼っ…荘介…助けてっ」

何で…何で…

俺は‘‘荘介”じゃないんだ…?
荘介なら、俺は信乃の側に居れるのに…


***************

信乃が飛び出した直後、荘介もすぐに古那屋を飛び出した。
残された仁はただどんどん小さくなってゆく荘介の背中を見ていた。

「僕…何か悪い事言っちゃったかな?」

僕も…普通に成長していたら、今の信乃みたいに大きくなれたのかな?
自分の身体に手を当ててみる。
成長しきっていない、未成熟な身体。

「僕…大きくなってみせるからねっ」

そう空に呟き、鈍く光る太陽へと手を伸ばしたが、雨雲により掴めず消えてしまった。
顔に落ちてきた冷たい粒。
やがてシャワーのように降り始めた。

「無事戻って来てよ、信乃」

信乃に荘介さんが必要なように、荘介さんにも、僕たちにも信乃は必要なんだから。
だって、信乃は僕の大切な友達だからね。

仁は信乃が戻ってくるまで、ずっと玄関で待っていたという。


*********

信乃…どこにいるんです?
雨が降り始め、傘の群れの中を荘介はひたすら走り続けた。
目撃情報は彼方此方で聞くが、どうしても見つからない。
雨が降ってしまえば匂いを追うのも困難になってくる。
信乃は傘を持っていない。

…となると、雨宿りでも何処かでしているのだろうか?
雨宿り出来そうな所を探して行くうちに人通りの少ない場所にたどり着いた。
ふと路地裏に目を向けると、うずくまっている男がいた。
そのマントから、女物の着物が見えた。


静かに近寄る。

「お前は……」

そこには、抱き合うようにしてうずくまる影と信乃がいた。

その声に反応したのか、男は静かに顔をあげた。

「あぁ、やっと来たのか。遅いなぁ…あんなに過保護なくせして、信乃を見つけられないなんて。」

影の言葉が心に刺さる。
雨水を拭い、目を開いた影に驚いた。

「目が……」
「あぁ、これ?この間から視れるようになってさ。ただの飾りだったのに、役に立つもんだね」

ニヤリと笑う影。
その腕の中で信乃が眠っていた。

「ほら、早く連れて帰りなよ」

影はそのまま信乃を壁に寄りかかるようにして座らせた。

いつもなら自分の殺しにくるのに、珍しい。

「何を企んでいる」
「別に。何も企んでなんかいないさ。ただ…


‘‘俺が選ばれたってだけの事だ”」

***********

古那屋に連れて帰ると、信乃はすぐに目を覚ました。

「ここは…」
「信乃っ‼︎」

信乃が目を覚まし瞬間、浜路が飛びついてきた。

「泣くなって、浜路」
「泣いてなんかないわよ…っ」

たかが飛び出したくらいで大袈裟な…なんて、思ったけどあえて口には出さなかった。

「ちょっと着替えてくる」

信乃は立ち上がると、荘介が着替えを持っていたので別室へ向かった。


「信乃…っ」
「荘介、一応俺今女なんだから「俺にとって信乃は信乃です」いや、だからそーじゃなくて」

荘介は俺を抱きしめて離さなかった。

「もし信乃がこのままずっと女性だったら…」

荘介が静かに耳元で囁く。
信乃は身体を強張らせ、ぶるっと震えた。

「俺はどうなるんでしょうね?」
「しっ…知るかっ」
「現八さんが一番厄介ですよね…やっぱり」
「俺からすれば、荘も現八も同じくらい危ないと思うけど」
「そうですか?俺は信乃以外の方に興味はないですけど」
「もーやだ、怖い」
「冗談ですよ。真に受けないでください」

すると、着替えを渡し信乃の服を脱がせた。
そのまま全て着替えて、髪も梳かし、荘介は最後信乃に優しく口付けた。

「んんっ…」
「やっぱり信乃は可愛いです。特にこの姿の信乃は格別ですね」
「可愛いとか言うなーー‼︎」

騒ぐ信乃を落ち着かせるように、荘介は信乃の髪に飾りをつけた。

「これは?」

「勿忘草です。綺麗だったので、持って来てしまいました」

では、戻りますか。
荘介に手を引かれ信乃はみんなの元へと戻った。

浜「あら、信乃素敵ね!」
現「信乃、随分とまた可愛らしくなったな」
小「完全に女扱いだろ、荘介」
毛「信乃もうそのままでいんじゃね?」
大「似合うな」
仁「勿忘草かな?信乃に映えて綺麗だよ」

「……俺帰る。」
「あまりお邪魔しては迷惑ですからね」

不機嫌な信乃と一緒に荘介は先に教会へと帰った。
勿論、この後要と那智に見つかり爆笑されるのだが。

「真実の友情」
「は?」

莉芳が呟いた。
勿忘草の花言葉だ、とだけ言い残し部屋へと戻って行ってしまった。


勿忘草の花言葉は、真実の友情。

私を忘れないで。
誠の愛…か。

荘介らしいと思い、莉芳は小さく笑った。


次の日、信乃は元の姿に戻った。
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