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【刀剣乱舞】おじいちゃんが闇堕ちする話

「嫌っ……‼︎」
ガシャリ。戦場に一際嫌な音が響いた。
敵陣は本丸目前まで迫っていた。
重症を負って戦闘不能になる刀たち。そんな仲間を護るように奮っていた姿は敵さえも魅了してしまうほど美しかった。圧倒的戦力差を覆すほどの三日月宗近の猛攻。勝機が見えてきたその時、非情にも大太刀が彼の身体を斬り裂いた。
「宗近‼︎」
宗近のもとへ行こうとしたがすぐに止められてしまった。貴方が死んだら代わりはいないのですよ⁉︎刀は刀。再び作ることは出来るのですから。
「でも…‼︎」
その言葉は私に見捨てろと訴えていた。
私のせいだ。
これ以上進まずに退却させておけばよかった。完全に私の采配ミスだ。
「宗近ぁ‼︎‼︎」
宗近の手に握られていた刀が粉々に砕け散ってしまった。その場に膝をつく彼の姿はとても痛ましい。
ごめんなさい。貴方に無理をさせてしまって。みんなをボロボロにしてしまって。結局私は…ちゃんと全員をみれていなかったんだ…‼︎
「まあ、形あるものはいつか壊れる… 」
ははっ…と笑うと宗近は穏やかに言葉を紡いだ。畑仕事を終えた時、縁側で一緒にお茶を飲んだ時…その時と同じようにゆっくりと。
「それが今日だっただけの話だ…」
力のない掠れた声で寂しげに呟き、私のいる方向を向いてにこっと笑うと、何かを言い遺して消えてしまった。
「うわああああああっ!!!!」


どれだけ泣いたのだろう。どれだけ謝ったのだろう。
その日の夜、縁側で一人眺めた三日月は、見たことがないくらい綺麗な月だった。後悔しても…隣に宗近は、いない。


*****


あれから数ヶ月が経った。
「じゃあ、今日の内番はこの6人でお願いします」
刀の手入れをして、内番の割り振りを終えた私は自室で帳簿を書いていた。何度も鍛刀をしてみたけれど、三日月宗近が出来上がる事はなかった。他の刀たちも彼を失った悲しみを中々忘れられず、以前の勢いを取り戻すのにはかなり時間がかかってしまった。…勢いを取り戻すも何も、一番立ち直れていないのは私自身だ。宗近が破壊された戦場に一度も出陣していなかった。審神者としての使命を果たさなくてはならない。けれど、また誰かが破壊されてしまったら…と考えると怖くて仕方がなかった。

「主、ご報告がございます」
「入って大丈夫だよ」
「失礼致します」
帳簿を一度閉じ、入室した長谷部を座るように促した。とても緊張しているようで、どうやら任務の報告でもなさそうだった。
「どうしたの?」
尋ねると長谷部は少し困った顔をして答え辛そうにしていた。
「言いづらかったら、無理しなくてもいいからね?落ち着いてからで大丈「いえ、報告させてください。」
私の言葉を遮って、長谷部は答えた。
「実は先程、遠征から戻ってきた者から報告がありまして……」



言葉を失った。
「それって本当……なの?他の審神者の刀とかじゃ…」
「私もにわかには信じ難いのですが、間違い無いかと」
「嘘っ…………」
いる筈がない。彼が………まだこの世にいるなんて。きっと他の審神者の刀だよ!そうだ!そうに違いない!
「…主よ。あの場所へ、出陣させて頂けないでしょうか」
「…‼︎」
心を見透かされているようだった。思い出すだけで震えが止まらない。
「失礼致します」
長谷部は震える私の手をそっと握った。
「私たちは、決して貴方を恨んでなどいません。貴方の指示が無ければ動くことが出来ないのですから。その指示があるから私たちは戦うことが出来る、主に尽くすことが出来る。きっとその気持ちは三日月宗近殿も変わらないのでは…と」
その言葉に涙が溢れてしまった。こんなに心配かけてたなんて……みっともないなぁ…。
「あーー!!もう泣くなよな!!」
勢いよく襖が開き、愛染国俊が姿を現した。私のもとへ走ってくると、額を軽く小突いた。
「お前が泣いたら…俺らだって悲しくなるんだからよ」
「そんなこと言っちゃって、さっきまで泣きそうになってたの誰だったかなー」
「清光!お前どこで見てたんだよっ!」
すると、竹箒を持った加州清光が少し意地悪そうにニィと笑った。
「べーつに。庭掃除してたらたまたま目に入っただけ」
重苦しい空気が何事もなかったかのように、掻き消された。喧嘩している彼等の姿を見ていると自然と笑みがこぼれて気がつくと声を出して笑っていた。私の笑い声を聞いて、彼らが驚いたようにこちらを見ていた。
「………?どうしたの?」
「やっと笑ったな」
襖の陰から現れた鶴丸国永がとても嬉しそうに笑った。
「ずっと主の笑顔を見ていないのです」
「そうそう、いつも暗い顔しててよ」
「俺のことも構ってくれないしさー」
「え……」
確かに、言われてみればそうかもしれない。いつも考え事ばかりして、その度に思い出しては押しつぶされそうになっていた。こんな風に笑ったなんて…いつ以来だろう?
「…出陣しよう」
『ーーーーーー‼︎‼︎』
「さっきの件、確認しておかないとね。みんなも自分の目でみたいと思うし」
破壊され、消失したはずの三日月宗近が戦場にいる。何故、彼がまだいるのか。他の審神者の刀なのか…それとも………

*****

「状況は?」
長谷部は部下の兵達に戦況を尋ねた。
薄暗い戦場。遠方に敵がいるのは確実であるが、何かがおかしい。
「敵陣確認できました!……が、次々と撃墜されています!!」
少しずつ敵陣との距離を詰めていく。そらそろ衝突してもいい距離なのに、まったくと言っていいほど姿がない。いや、正確にいうと姿はあるというのだがどれも斬られたものばかりだ。長谷部と鶴丸を先頭に進んでいく。すると、高い金属音が聞こえた。

「嘘、だろう………⁉︎」

鶴丸はすぐに刀を握り直して構えた。
地面には無数の屍が横たわっていた。囲まれるように真ん中に立っている者が一人。彼等が見ている目の前で恐らく最後と思われる兵士が斬り伏せられた。見惚れてしまうほど迷いのない綺麗な太刀筋。無駄のない優雅な動き。禍々しいオーラを身に纏い、ほんの少し異形な姿をしたそれは穏やかな笑みを浮かべてこちらを向いた。

「今宵の月は、美しいな……以前は茶でも飲みながら眺めたものであったが今は相手がいなくてな。さて、暇を持て余していたこのじじいの相手は…はっはっは、沢山いるようだな」
慣れた手つきで刀についた血を振り払って構えた。同時に放たれる鋭い殺気。

「まぁ良い……順に殺してやろう」
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