銀魂
名前
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まだ日が出て間もない冬の早朝、誰もいないはずの厨房にある2人が甘い香りを漂わせながらせっせっと何かを作っていた。
「チョコ溶けたッスよ」
「あー…メレンゲできるまで待って」
「じゃあ、型にキッチンペーパー敷いとくッスね」
「ありがとう」
ハンドミキサーを片手にひたすら卵白をかき混ぜているのは真選組紅一点の綾だ。その隣で次の工程の準備をしているのは彼女の弟の一希。
こんな朝早くから厨房でお菓子作りに励んでいるのは、今日がバレンタインだからである。
そのイベントにあやかり、日頃の感謝を込めて真選組 に手作りのガトーショコラを渡そうと一希が綾に提案したのだ。
「それにしても意外だわ」
「何がッスか」
「いや、一希が言い出したじゃん、これ」
「姉貴の唯一の女子力が発揮できるイベントッスからね!」
「喧嘩売ってる?」
「それとせっかくだし、もっと皆と仲良くなりたいでしょ」
「…まあ、喜んでくれたらいいけど」
普段あまり照れることのない綾の表情に満足すれば、彼女が作ったメレンゲを他の材料と混ぜ合わせていく。それを型に流し込み、オーブンで焼いている間に片付けも済ます。久しぶりのお菓子作りにしては手際よくできて安心する。
すると、食堂の外から賑やかな声がし始め、そろそろ朝食の時間だと気がつく。ガラリ、と扉が開かれ、厨房にいる姉弟に気がついた山崎は驚いた顔をする。
「部屋にも稽古場にもいないと思ったら……何してたの?」
山崎に続いてぞろぞろと近藤や隊士達が入ってくる。何だ何だ、と興味津々な皆に綾と一希は顔を見合せてから得意げに笑う。
「ハッピーバレンタイン!!」
2人声を揃え、焼きたてのガトーショコラをカウンターへ並べる。1ピース毎に切り分けられ、ホイップを添えたそれは見映えもよく美味しそうだった。
「これは…!綾ちゃんと一希君で作ったのかい?!」
「ふふ、実は姉貴の趣味はお菓子作りなんスよ」
「え、一希君じゃなくて?」
「ちょっと退、それどうゆう意味?!」
「毎朝、男どもをぶっ倒してたんじゃ仕方ねぇだろう!」
「右之まで!そんなおれ女子力ねぇの?!」
何を今更、と笑う隊士達に綾は思わずむくれてしまう。そんな姉を宥めながら、日頃の感謝を込めた、と一希が説明すると皆嬉しそうに皿を持っていき食べてくれた。
一通り配り終え、残りは各自で食べてもらうことにした姉弟は、未だ姿を見せない土方と沖田にそれぞれ渡しに行くことにした。
「総悟はまだ寝てるだけだと思うッスけど…土方は珍しいッスね?」
「まあ、仕事だろ」
「そろそろ本当に過労死しそうスね!」
「何で嬉しそうなんだよ!!」
最近ますます沖田に似てきたな、と綾はため息を吐く。
「じゃあ、大好きな推しに渡すの頑張るッス〜」
これで流石の姉貴も少しは意識するッスかね?戸惑いながら渡して、土方もつい戸惑ったら最高に面白いんスけど…どうなるか楽しみッスね!!
ニヤける口元を手で覆いながら、自分は沖田の部屋へと向かった。
襖越しに声をかければ、やはり寝てたのか生返事だけ返ってくるのでゆっくり襖を開ける。
「おはようッス」
人懐っこい笑顔で挨拶をし、布団の上で座る沖田の近くに腰を下ろした。すると一希から甘い香りがして沖田は不思議そうな顔をする。
「何でさァ、それ」
お盆の上にあるのを指差して問うと、一希は隊士達と同じように、日頃の感謝だと答える。
「姉貴に頼んで抹茶の生チョコにしてみたッス。僕の勝手な総悟のイメージなんスけど」
「へえ。俺のこと好きすぎだろィ」
「仲間としてって意味ッスよね?!」
「当たり前でさァ、男に興味ねぇやい」
「知ってるッスよ!」
どこかで聞いたようなセリフとケラケラと笑う沖田に、敵わないな、なんて思いながらチョコと一緒に持ってきたお茶を湯のみに注ぐのだった。
*
一方、綾は土方の部屋の前でぐるぐると思考を回転させていた。
直接、推しに渡せる機会なんて有り得ていいのか?……待てよ、推しに手作りお菓子渡すの?待て待て待て普通に重くね?いや、感謝の気持ちなだけで、そんなそれ以上の意味は…。
別れ際に言われた一希の言葉にハッとした綾は、彼の思惑通り、戸惑っているようだ。しかし、このまま土方にだけ渡さないのも失礼だと襖の前で立ち尽くしていた。
「…いつまでそこにいるつもりだ」
中にいる土方に襖越しで声をかけられ、びくりと肩を震わせる。どうやらずっと綾がいることに気がついてたらしい。
意を決して、ゆっくり襖を開ける。
「お、おはよう」
「おう」
書類と向き合ったままの土方に挨拶をした綾はとりあえず自身の仕事机の前に座る。
カチャリ、とお盆を置く音に気がついた土方は顔を上げる。
「茶、貰っていいか」
普段から綾が仕事の合間にお茶を用意するので、いつものように頼んだのだが、もちろん、と返事した綾の様子がおかしくて訝しむと、急須と湯のみの他にあるものが目に入る。
「チョコレートか?」
「あ!その、えっと…日頃お世話になってるから…作ったんだけど…」
「お前が?」
「ど、どうせらしく ねぇよ!」
「…ああ、そうか」
普段の男勝りで威勢のいい綾の珍しい表情を見て、今日が何の日か思い出した土方は思わず小さく笑う。
笑われた綾は悔しくて、お茶と彼用に作ったチョコレートを少し乱暴に机に置く。
「ありがとよ」
お礼を言われた綾はふいっと顔を逸らす。
仕事で疲れた土方は茶を一口飲んだ後、綺麗に固められたチョコレートを一粒口に入れる。甘さ控えめのそれは口の中で割れ、中からマヨネーズが出てきた。
思わぬできごとに土方は一瞬驚いた顔をし、ずっと様子を伺っていた綾は少しだけ満足気になる。
「…驚いた?ウィスキーボンボンじゃ仕事前に食べられないからな」
「それでマヨネーズか」
「これなら甘いのも美味しく食べれるでしょ」
綾の気遣いにもう一度お礼を言えば、今度は「どういたしまして」といつもの笑顔が返ってくるのだった。
僕らのチョコレート大作戦
(ちぇ、もっと慌てる姉貴が見たかったッスのに)
(やっぱりアレわざと言ったのか!!)
(干物女の姉貴は救いようがないッスからね)
(表出ろやァァァ!!!)
END.
「チョコ溶けたッスよ」
「あー…メレンゲできるまで待って」
「じゃあ、型にキッチンペーパー敷いとくッスね」
「ありがとう」
ハンドミキサーを片手にひたすら卵白をかき混ぜているのは真選組紅一点の綾だ。その隣で次の工程の準備をしているのは彼女の弟の一希。
こんな朝早くから厨房でお菓子作りに励んでいるのは、今日がバレンタインだからである。
そのイベントにあやかり、日頃の感謝を込めて
「それにしても意外だわ」
「何がッスか」
「いや、一希が言い出したじゃん、これ」
「姉貴の唯一の女子力が発揮できるイベントッスからね!」
「喧嘩売ってる?」
「それとせっかくだし、もっと皆と仲良くなりたいでしょ」
「…まあ、喜んでくれたらいいけど」
普段あまり照れることのない綾の表情に満足すれば、彼女が作ったメレンゲを他の材料と混ぜ合わせていく。それを型に流し込み、オーブンで焼いている間に片付けも済ます。久しぶりのお菓子作りにしては手際よくできて安心する。
すると、食堂の外から賑やかな声がし始め、そろそろ朝食の時間だと気がつく。ガラリ、と扉が開かれ、厨房にいる姉弟に気がついた山崎は驚いた顔をする。
「部屋にも稽古場にもいないと思ったら……何してたの?」
山崎に続いてぞろぞろと近藤や隊士達が入ってくる。何だ何だ、と興味津々な皆に綾と一希は顔を見合せてから得意げに笑う。
「ハッピーバレンタイン!!」
2人声を揃え、焼きたてのガトーショコラをカウンターへ並べる。1ピース毎に切り分けられ、ホイップを添えたそれは見映えもよく美味しそうだった。
「これは…!綾ちゃんと一希君で作ったのかい?!」
「ふふ、実は姉貴の趣味はお菓子作りなんスよ」
「え、一希君じゃなくて?」
「ちょっと退、それどうゆう意味?!」
「毎朝、男どもをぶっ倒してたんじゃ仕方ねぇだろう!」
「右之まで!そんなおれ女子力ねぇの?!」
何を今更、と笑う隊士達に綾は思わずむくれてしまう。そんな姉を宥めながら、日頃の感謝を込めた、と一希が説明すると皆嬉しそうに皿を持っていき食べてくれた。
一通り配り終え、残りは各自で食べてもらうことにした姉弟は、未だ姿を見せない土方と沖田にそれぞれ渡しに行くことにした。
「総悟はまだ寝てるだけだと思うッスけど…土方は珍しいッスね?」
「まあ、仕事だろ」
「そろそろ本当に過労死しそうスね!」
「何で嬉しそうなんだよ!!」
最近ますます沖田に似てきたな、と綾はため息を吐く。
「じゃあ、大好きな推しに渡すの頑張るッス〜」
これで流石の姉貴も少しは意識するッスかね?戸惑いながら渡して、土方もつい戸惑ったら最高に面白いんスけど…どうなるか楽しみッスね!!
ニヤける口元を手で覆いながら、自分は沖田の部屋へと向かった。
襖越しに声をかければ、やはり寝てたのか生返事だけ返ってくるのでゆっくり襖を開ける。
「おはようッス」
人懐っこい笑顔で挨拶をし、布団の上で座る沖田の近くに腰を下ろした。すると一希から甘い香りがして沖田は不思議そうな顔をする。
「何でさァ、それ」
お盆の上にあるのを指差して問うと、一希は隊士達と同じように、日頃の感謝だと答える。
「姉貴に頼んで抹茶の生チョコにしてみたッス。僕の勝手な総悟のイメージなんスけど」
「へえ。俺のこと好きすぎだろィ」
「仲間としてって意味ッスよね?!」
「当たり前でさァ、男に興味ねぇやい」
「知ってるッスよ!」
どこかで聞いたようなセリフとケラケラと笑う沖田に、敵わないな、なんて思いながらチョコと一緒に持ってきたお茶を湯のみに注ぐのだった。
*
一方、綾は土方の部屋の前でぐるぐると思考を回転させていた。
直接、推しに渡せる機会なんて有り得ていいのか?……待てよ、推しに手作りお菓子渡すの?待て待て待て普通に重くね?いや、感謝の気持ちなだけで、そんなそれ以上の意味は…。
別れ際に言われた一希の言葉にハッとした綾は、彼の思惑通り、戸惑っているようだ。しかし、このまま土方にだけ渡さないのも失礼だと襖の前で立ち尽くしていた。
「…いつまでそこにいるつもりだ」
中にいる土方に襖越しで声をかけられ、びくりと肩を震わせる。どうやらずっと綾がいることに気がついてたらしい。
意を決して、ゆっくり襖を開ける。
「お、おはよう」
「おう」
書類と向き合ったままの土方に挨拶をした綾はとりあえず自身の仕事机の前に座る。
カチャリ、とお盆を置く音に気がついた土方は顔を上げる。
「茶、貰っていいか」
普段から綾が仕事の合間にお茶を用意するので、いつものように頼んだのだが、もちろん、と返事した綾の様子がおかしくて訝しむと、急須と湯のみの他にあるものが目に入る。
「チョコレートか?」
「あ!その、えっと…日頃お世話になってるから…作ったんだけど…」
「お前が?」
「ど、どうせ
「…ああ、そうか」
普段の男勝りで威勢のいい綾の珍しい表情を見て、今日が何の日か思い出した土方は思わず小さく笑う。
笑われた綾は悔しくて、お茶と彼用に作ったチョコレートを少し乱暴に机に置く。
「ありがとよ」
お礼を言われた綾はふいっと顔を逸らす。
仕事で疲れた土方は茶を一口飲んだ後、綺麗に固められたチョコレートを一粒口に入れる。甘さ控えめのそれは口の中で割れ、中からマヨネーズが出てきた。
思わぬできごとに土方は一瞬驚いた顔をし、ずっと様子を伺っていた綾は少しだけ満足気になる。
「…驚いた?ウィスキーボンボンじゃ仕事前に食べられないからな」
「それでマヨネーズか」
「これなら甘いのも美味しく食べれるでしょ」
綾の気遣いにもう一度お礼を言えば、今度は「どういたしまして」といつもの笑顔が返ってくるのだった。
僕らのチョコレート大作戦
(ちぇ、もっと慌てる姉貴が見たかったッスのに)
(やっぱりアレわざと言ったのか!!)
(干物女の姉貴は救いようがないッスからね)
(表出ろやァァァ!!!)
END.
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