銀魂
名前
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日曜日の夜の海岸、人は誰もいない。
今日も静かな海にあの子の歌が響き渡る。
俺は迷うことなく岩場のある場所まで歩く。ここは昔から俺の特等席で、落ち込むことがあれば必ずここへ通ったものだ。
「…あ、山崎さん!こんばんは」
その特等席に近づくと、俺に気がついた綾ちゃんは歌うの止め、鈴のような声で挨拶をしてくれる。
彼女は最近知り合った人魚の女の子。
天人が蔓延るこの大江戸で綾ちゃんと初めて会った時は驚いたが、優しく明るい彼女と仲良くなるのに時間はかからなかった。
何故なら彼女の歌声は昔から知っていたからだ。
ここに通い始めて数ヶ月経ったある日、その歌声は聴こえ始めた。近くに誰か居るのかと焦り、何度も場所を変えようとしたが、歌声の主は見つからず、何よりその歌が俺を励ましてくれている気がした。
だから、落ち込むことがあれば必ずここへその歌を聴きに来ていた。
最近になってようやく知り合えたのだが、それも偶然に過ぎない。特等席の近くにある岩の上で歌っている綾ちゃんを見つけ、歌声の主だと気がついた時には声をかけていた。
「今日は遅かったですね」
彼女の横に座ると少し心配そうな顔をして話しかけてくれる。俺は少し苦笑いをしながら遅れた原因を話す。
「うん、ちょっと仕事が長引いて…」
「もしかしてまた沖田隊長という方のせいだったりします?」
「そうそう、副長を怒らせるから報告したいものもなかなかできなくてね。あの人ドSだし、俺がミントンしてるとすぐ副長にチクるし…もう大変だよ」
「それは大変そうですね…。私も一緒に働いて、傍でお仕えできたらいいのに」
ぷぅ、と可愛らしく頬を膨らませながらそんな嬉しいことを言ってくれる。
知り合ってからはこうして直接仕事の愚痴などを聞いてもらってる。もちろん互いの趣味や楽しい話もする。
「危険な仕事だからダメだよ」
「それでも、もっと山崎さんとお話ししたいですもん」
「それは俺も。でもほら、隊長が君をいじめたりでもしたらさ…」
「ふふっ、本当に優しいですよね山崎さんって」
「そんなことないさ、君の方が優しいよ」
何度、君の歌声に救われたか。
…なんて思っても伝えない。俺が勝手にそう感じただけだし、「自分のために歌われた唄などない」とかよく言うだろう?
「あの…実はですね、聞いてほしいことが…」
山崎が自虐気味に考えていると、綾は今まで彼にみせたことない真剣でかつ不安げな顔をして話を切り出した。
「怒らないで下さいね…?」
「え、どうしたの?」
「その…人間になれるというか、尾ビレが足になる薬をもらったんです」
「え?!」
「そのままでいい、と言ってくれる山崎さんには申し訳ないんですけど……どうしても私は山崎さんともっと一緒にいたくて…」
「その、声とか代償を取られなかったの?」
童話のような話に、思わず疑問が口から出た。
すると何故か綾ちゃんはキョトンとした顔をした。
「代償というかお支払いしましたよ…? あ、意外と私達人魚って外の世界に憧れるのが一定数いるので、高いですがそういう薬はよくあるんですよ」
そんな子供には聞かせられない人魚の現実に驚きつつ、代償はなかったことに安堵する。そして、そんな高い薬を買ってまで俺といたいと思ってくれていたことがとても嬉しい。
「何で俺が怒ると思ったの?」
だからこそ何故そんなにも不安げに話したのか分からなくてそのまま問う。
「だって、よく外の世界は危険だとか、人魚のままでいいんだよ、と言っていたので…。それに実はもう薬飲んでるんです」
返ってきたそれは確かに覚えがあった。俺の話を聞く度に目を輝かせる彼女にそれこそ童話のような結末になって欲しくなくて、つい悪い部分もたくさん話した。
しかしそれより薬を飲んでいたことが驚きだ。
咄嗟に彼女の下半身を見るが、まだ人間の足ではなく尾ヒレのままだった。
「効果は出てないよね?」
「3日かかるって言われてて、今日がその3日目なんですけど」
「そっか。あと俺は怒んないよ、むしろ嬉しい」
「え、本当ですか………っ?!」
喋ってる途中で綾ちゃんの尾ヒレが光りだした。彼女はびっくりしたのか、海に落ちてしまった。
「大丈夫?!」
慌てて俺は海を覗くが、夜の海は黒くて、さっきの光は見えても彼女が確認できない。光が弱まると彼女が、ぷはっ、と顔を出した。
「大丈夫です!それにしても凄いですよ、ちゃんと足があります〜!!」
余程嬉しいのか、いつものように泳ぎ回る彼女を見て俺はホッとする。
「よかったじゃん」
「はい!これで山崎さんと一緒です!」
にこにこと笑う綾ちゃんにどうしようもない愛しさが溢れ、ある決心をする。
俺と一緒ということは真選組に来るってこと。なら彼女が他の人にとられる前に…俺のものにしないと。独占欲強くてごめんね?
「「あのっ……あ」」
まさかここで声が被るとは…。話しやすいように俺が、何?と聞き返すと綾ちゃんは真剣な瞳で見つめる。
「実は私、山崎さんに見つけて欲しくて歌ってました」
「え?」
「山崎さんに会う前から、ここに毎週来るあなたを見てました。いつも疲れた顔をしていて…少しでも元気づけられればと歌ってました!でも山崎さんを想いながら歌ってるうちに話してみたくなって…初めは好奇心で、偶然を装ってあなたに出会ったんです。
でも…話していくうちに、いつの間にか山崎さんのことで頭がいっぱいになって……私っ、山崎さんのことが!」
そこまで大人しく聞いてた俺だけど、海に飛び込んでやる。偶然だと思っていたことが、全て彼女の意思だったなんて、これは自惚れても仕方ないよな?
「な、何で飛び込んだんですか?!」
「その先は、俺に言わせて」
あわあわとする君の唇に人差し指を添える。
「俺、君がヒトになってくれて嬉しいよ。いろんな所に連れてってあげるし、ミントンも一緒にやろう。だけど、1つだけ約束してくれない?」
「何ですか…?」
俺以外の男に惚れないで
(君のことが大好きだから)
(わ、私も山崎さんが好きです!)
END.
20.08.20.
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