姉弟波乱組
名前
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──パァンッ
あの春雨と繋がっていた怪しい奴の護衛というどうにも士気が上がらない任務に、退とミントンをしていたら案の定トシにバレて逃げていたら、近藤さんの叫び声と共に銃声が辺りに響いた。
一気に空気が張り詰める中、近藤さんへ視線をやれば、天人を庇って肩を撃ち抜かれた彼の姿が見えた。
「近藤さん!!」
屋敷に配属されていた皆が近藤さんを呼びながら、次々に囲う。おれも一目散に近づいて、近藤さんを抱きかかえる総悟と一緒に声をかけるが反応がない。肩から流れる血を見て、おれはどんどん頭が真っ白になる。
自身を庇ってくれた近藤さんを見下ろし、禽夜は嘲笑う。
「フン、猿でも盾代わりにはなったようだな」
その言葉に真っ白だった頭に血が上った。考えるより先に殴りかかろうとしたが、一希にぎゅっと腕を捕まれ阻まれる。
そこでハッとし、前を見ると瞳孔が開き、鯉口を切った総悟を止めるトシの姿があったのだった。
*
あの後すぐに医者を呼び、屋敷の一室を借りて近藤の診察と処置をしてもらった。そのまま彼は布団の中で眠ったままである。
禽夜を狙い、近藤を撃ったのは間違いなく噂を聞いた攘夷志士によるものだろう。警備をしつつ、そちらの動向も調べるため屋敷内は忙しない。
「姉貴…?」
一希は近藤の様子の報告係として土方のところへ向かう途中、人気がない縁側に座り込み暗い顔をした綾日を見つける。今にも泣きそうな彼女の横に静かに座る。
「…おれのせいだ」
少しの沈黙の後、ゆっくり口を開いたのは綾日だった。
「記憶さえあれば、近藤さんは怪我しなかったのに……!!」
余程悔しいのか膝の上にある握りこぶしに力が入り、少し震えている。そんな珍しい姉の姿に何も言わずただ話を聞こうと一希は口を閉ざしたまま待つ。
「一希、今まで黙っててごめんな…。
こっちに来た次の日には記憶なくなってたんだ。皆のことは覚えてるんだけど話が全く思い出せなくて…」
コクリ、コクリと一希はゆっくり頷く。綾日ほど漫画の内容を覚えていた訳ではないが、自分も結局思い出せないでいたのは一緒だからだ。それに今日までの彼女の言動からでもそうじゃないかと薄々気がついていた。
「姉貴のせいじゃないッスよ。僕だって覚えてないッスから」
「でも、それでも!おれは…ッ!一方的だけど、
まだ鮮明に近藤が撃たれた姿が蘇る。
いつ誰が死んでもおかしくない世界だと分かってたはずなのに、まだ数回だが出陣して斬り合いをしたのに、改めてその危険さを思い知った恐怖と、守れたかもしれないのに何も出来なかった自分への怒りと相手への申し訳なさとで感情がぐちゃぐちゃになる。
それが言葉より先に涙として溢れ出す。
「失うのがこんなに怖ェなんて。覚悟したのに…」
「大丈夫、近藤さんは生きてるッスよ」
「分かってる!!」
一度大声を出すと
彼女がようやく落ち着いた頃には日が沈みかけていた。
「…ごめんな」
「謝るなんて!姉貴らしくないッス!」
「お前なぁ……」
わざとらしく驚く一希に綾日は呆れた。でもそんな弟のおかげで気持ちは軽くなったのだから、それ以上は何も言わなかった。
「それに、仕事サボれたッスしね!」
ふふん、と満足気に笑う彼に今度は青ざめる。
少し休憩をもらっただけで警備の仕事はまだあったのだ。疑われないよう何だかんだ今日まで真面目に仕事をしてきたのに、まさか近藤が怪我したタイミングで仕事場に戻らなかったら怪し過ぎるにも程がある。
涙の次は冷や汗が止めどなく溢れ出す。慌てて立ち上がると既に土方が近くまで来ていることに気がついた。
まさかこんなすぐに会うなんて思ってなくて気持ちばかりが急ぎ、口はパクパクとしか動かない。それでも話さなきゃと声を絞り出す。
「か、勝手に、仕事抜けてすまねぇ!」
「…山崎が襲撃した奴の尻尾を掴んだ。近藤さんのいる部屋に集合だ」
「え…ああ…?」
いつも総悟や一希が仕事サボった時はもっと怒るし、襲撃された後に消えたら敵の手引きしてたとか疑われるのでは、とか色々考えていた綾日に土方から告げられたのは今の仕事現状で。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする彼女に土方は頭を小突いた。
「そんなに疑われていると思うなら、見張りがいないか考えるんだったな。警察なめんなよ」
まだまだ餓鬼だな、と鼻で笑われる。そして見張りがいたとつゆほどにも思わず周りをキョロキョロする。
「何の為に補佐に就けたと思ってんでィ。最初にも言ったのに忘れてるとはとんだ馬鹿でさァ」
「な…」
自分がいた縁側の近くの部屋から沖田が顔を出す。まさか最初からいたのかと思うと、自分の失態の恥ずかしさに言葉が出なかった。
「まあ、近藤さんが決めたとは言え、本当にアンタらが怪しければ追い出すか拷問でもしてまさァ。それをしなかったのは、土方さん、あの時のコイツらの目を見て嘘はないと思ったんでしょう?」
「さぁな。ただこんだけ近藤さんの、真選組の為に涙してくれた奴なら少しは信用に足るだろ」
「やっぱり聞いてたのか…!!」
顔に熱が集まるのが手に取るように分かる。言葉にならない唸り声をあげる綾日だが、ハッと思い出す。
「じゃあ、記憶がないことも…?」
「ああ、そんなこと言ってたな」
「…あんだけ詮索してたのに役立たずで悪ぃ」
「違ぇよ。未来が分かるお前に勝手なことをされると面倒だと思ったからだ」
「ああ、そっち…」
思った以上に綾日自身のしそうなことを把握されていて苦笑いしかできなかった。確かに今回だって記憶があれば、襲撃した奴を1人で先回りして捕まえてたかもしれないと思うと否定はできない。
話が一通り終わると、土方は踵を返し、それに続くように沖田も姉弟も山崎たちが待つ部屋へ向かうのだった。
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