姉弟波乱組
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「副長ォ!!局長が女に振られた上、女を賭けた決闘で汚い手を使われて負けたって本当ですか?!」
河原で倒れている近藤を見つけた翌朝、会議ではその話で持ちきりだった。隊士たちは煙草を吸っている土方に凄い剣幕で問い質していた。
「女に振られることはいつもの事だが、喧嘩に負けたって信じられねぇよ!!」
「銀髪の侍って何者なんです?!」
「会議中に喧しいんだよ、あの近藤さんが負ける訳ねぇだろうが。そんなくだらねぇ噂垂れ流してんのは誰だ?」
騒ぎ立てる彼らに淡々と返すと、彼らは一斉に沖田と一希を指で指す。そして土方の隣に座っていた綾日が口を開く。
「総悟と一希がスピーカーで触れ回ってたぞ」
「俺は土方さんから聞きやした」
「姉貴からもッス!」
「ハァ……こいつらに言った俺が馬鹿だった」
「だから、止めとけって言ったのに」
「結局アンタらが元凶じゃねぇか!!」
「てことは何、局長が負けたってことも本当なのかよ?!」
頭を抱える土方を見て、先程の疑惑が確信に変わり再び隊士たちは騒ぎ始める。終わりそうにない言い合いに土方の堪忍袋の尾がついに切れた。
「うるせぇぇぇ!!!」
目の前にあるちゃぶ台を蹴っ飛ばしながら怒鳴れば、それまでの騒ぎ声が一瞬にして静まり返る。
「会議中に私語した奴ぁ、切腹だ!俺が介錯してやる、山崎お前からだ」
「え゙え゙え゙?!俺、なにもしゃべってな…」
「喋ってんだろうが、現在進行形で」
「わあ、パワハラだあ」
ひっくり返った湯呑みや灰皿を拾っていた綾日が思わずツッコんだ。既に鞘から抜かれた刀を山崎の首に向けていると、ふいに襖が開かれた。
「ウィース! おお、いつになく白熱した会議だな!
よーし、今日も元気に市中見回りに行こうか」
大惨事な会議室を見ながらいつもと変わりなく話す近藤の左頬は大きく膨れ上がっていた。一昨日には無かった怪我を見てそこにいた全員が悟った。そんな隊士達の様子に彼は少し不思議そうに「どうした?」と問う。
土方は本日2度目のため息を吐いたのだった。
*
「何ですって?斬る?」
市中見回りをしながら、『銀髪の侍へ!真選組屯所へ出頭しろ』と書かれた貼り紙を見つけては剥がしている。今朝騒ぎ立てていた隊士達による仕業のものだ。
もう何枚目か分からない貼り紙を丸めて袋に詰めていた時に沖田が聞き返した。
「ああ、斬る」
「件の銀髪の侍をッスか?」
「真選組の面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの
「土方さんは2言目には『斬る』で困りまさァ。古来、暗殺で大事を成した人はいませんぜ」
「暗殺じゃねぇ、堂々と行って斬ってくる」
「そこまでしなくても、適当に銀髪の侍を見繕って連れて帰れば納得するんじゃないッスか?」
「なあ、彼なんてどうよ?銀に近い白髪だぜ!」
「いいッスね!この木刀を持たせれば完璧ッス」
「ジーさんその木刀でそこの馬鹿
路地裏に居たであろうジャージに褌を穿いたおじさんを連れてくる。沖田もその彼に近づいて目元を隠していた丸眼鏡を外すと、キリッとした目と吊り上がった太い眉毛が現れた。
「まあまあ、土方さん。パッと見冴えないですが…ホラ、武蔵じゃん」
「何その無駄なカッコ良さ!!」
「これなら皆納得するッスよ!」
「しねぇよ!!」
あまりも女を取り合あった相手ではなさそうな彼の佇まいに納得できない土方は3人の提案を却下した。仕方なく武蔵っぽいおじさんと別れて、再び市中見回りを再開する。
「本気で殺るんですかィ?こっちには銀髪って情報しかないってのに」
「近藤さん負かすからには只者じゃねぇ、見れば分かるさ」
それか…、と小さく呟きながら土方は綾日と一希を睨みつける。
「お前らから聞き出せば早ぇな?」
「さあ?銀髪の侍なんていたかなぁ」
綾日はわざとらしく考え込むフリをし、一希は肩を竦めるだけだ。知らない訳がないが教える気もさらさらないようだ。
昨日と同じような態度をとられ舌打ちをしていると、上から気だるげな声が飛んだきた。
「おーい、兄ちゃんたち危ないよ」
何だ?と声がした屋根の上を見ると建築材料の束が降ってきた。近くにいた土方と綾日は叫びながら寸でのところで躱した。
「危ねぇーだろうがァ!!!」
「し、死ぬかと思った……」
「だから危ねーつったろ」
「もっとテンション上げて言えや!!分かるか!!」
「うるせーな、他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねぇよ」
梯子から降りてくる彼は土方に不満そうに言い返し、わずわらしそうにヘルメットを取る。そこに現れた銀色の髪と顔を見て、土方は驚いた。
「ああ!てめぇは池田屋の時の…!! そうか、てめぇも銀髪だったな」
「えーと…君誰?ああ、もしかして多串君か?
アララすっかり立派になっちゃって。まだあの金魚デカくなってんの?」
小さく首を傾げた後、誰かと勘違いしたまま土方の肩に手を置いてペラペラと話し出す。そんな彼に土方も沖田も姉弟も呆気を取られていた。
「おーい!銀さん、早くこっちも頼むって!」
「はいよ。じゃ、多串君、俺仕事だから」
そう言い残してさっさと屋根の上へ登ってしまった。
「行っちゃったッスね、多串君」
「どうしやすかィ?多串君」
「誰が多串君だ」
「多串、アイツ斬るか?」
「てめぇもかァァァ!!!」
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