姉弟波乱組
名前
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案内された道場には誰もいなくてとても静かだった。
一礼してから中へ入る。
いつもの稽古と同じように一希は端の方で柔軟体操を始める。それを見た綾日も簡単にだが体操を済ませた。
「それにしても変わってるよね、君たち」
手合わせに必要な木刀を倉庫から取り出しながら山崎は言った。綾日は不思議そうに首を傾げる。
「だって、あんなに俺達のこと知っていながら入隊したいだなんて」
「そりゃあ、夢だったんだよ。真選組の皆に惚れて、憧れて剣道を始めたぐらいなんだ。その真選組に入隊できるならするしかねぇじゃん」
迷いなくそう言い切った彼女は微笑んだ。
そして、山崎が持っていた木刀を受け取る。
「だから、退も応援してくれよな!」
「俺、君よりだいぶ年上なんだけど…呼び捨てなんだね」
「知ってる!でも、前の世界でそう呼んでたから…やっぱりダメかな?」
内心良くないのだと分かりつつ尋ねているであろう彼女に「仕方ないなぁ」と苦笑するしかなかった。
そんなやり取りをしていたら入口がやけに騒がしいことに気が付く。
「待たせたな!準備はいいかな」
姉弟の手合わせが楽しみなのか少しテンションが高い近藤が入ってくる。後ろには土方と沖田もいた。
そして、彼らに続くようにぞろぞろと数十人の隊士たちも道場に入ってきた。
「観戦多くないッスか?!」
「いやぁ、新人隊士2人が手合わせするって言ったら見たいと言って聞かなくてね」
そう言って近藤はまた大きな声で笑った。
まさかこんなギャラリーが増えるとは思ってなかった一希だが、逆に好都合だと考えることにした。
──総悟とは2歳差ッスけど、自分が歳下なのは変わらない。これから隊士達に侮られないように色々考えてたけど、ここで姉貴を打ち負かせばきっと大丈夫ッスね。
「おい、一希!本気でやるつもりだろ?!目が笑ってねぇぞ!!」
「何言ってんスか。腕試しなら本気でやらなきゃ意味ないでしょ」
「確かにそうだけど!」
くそ、勝つのはおれだ、と綾日は意気込んだ。彼は彼で思うことがあるだろうが、彼女は彼女で負けられない理由があった。
いよいよ手合わせの時。近藤が中央に立ち、姉弟に木刀を構えるよう声をかける。
「始めっ!!」
近藤がそう言った瞬間に姉弟は踏み込んだ。
通常の剣道の試合では滅多に見られない光景だ。
そして必然的に姉弟はせめぎ合う。
「珍しいな、一希が最初から本気だなんて」
「そりゃそうでしょ、今いる隊士には舐められたくないッスからね!」
そう言いながら相手の木刀を強く押し込む。
一希の押しに体勢が崩れる前に慌てて綾日は一足一刀の間を取った。
「まあ、本気の方がおれは嬉しいけどな!」
先手必勝と言わんばかりに再び間合いを詰め、一希に木刀を打ち込んでいく。彼はその綾日の太刀を全て受け止める。
力強いがその分振りかぶる際に隙が多い。
その隙をついて彼女の腹に一撃を与える。その痛みに耐え切れなかった綾日は片膝をついた。
もう決まったか?と周りで見ていたほとんどの隊士がそう思ったが、彼女は「まだだ」と立ち上がった。
「へぇ、女の癖に根性あるんですねィ」
面白ぇ、と隊士達に混じって見ていた沖田は小さく呟いた。隣にいる土方はずっと黙ったまま手合わせを見ている。
「1本目は僕の勝ちッスね」
「上等だ、トシと退の前で負けてたまるか」
顔を伝う汗を拭うと木刀をしっかりと構える。
木刀を抜き合わせながら相手の次の攻撃を読み合う。
今回、先に動いたのは一希だった。
かけ声とともに振り下ろした木刀を綾日はさばいて受け流す。いなされた一希は振り向きざまにもう一度振りかぶるが、今度は木刀のもの打ちで受け止められた。
「段だって僕の方が上だし、そろそろ諦めてくれないッスか」
「それは誰かが定めた基準なだけだろ!『実践』ならおれの方が上だ!!」
「うわ?!」
せめぎ合った状態から綾日は一希の右足を蹴っ飛ばした。そのまま体勢を崩した彼の木刀を薙ぎ払う。
カランッ、と一希の木刀は音を立てて転がった。
「足絡みは反則ッスよ、姉貴」
「誰も正式な試合だなんて言ってないだろ?」
得意げに笑う姉に悔しがる。もう1本勝負しようと木刀を拾いに行こうとしたら、既に土方が木刀を手にしていた。
「そこまでだ」
土方は道場に入ってきてから初めて口を開いた。
まだ自分たちはやれると、まだ勝負はついてないと言いたげな姉弟に彼は話を続けた。
「もう充分だ。後はこれからの仕事で腕を磨けばいいだろ」
「それは認めてくれたってことか?!」
「そうじゃねぇ。疑惑も残ったままだし、仮入隊もそのままだ」
ピシャリと否定した土方に肩を落とす。
綾日は女だからって思われたくなく、何より一番憧れている人物から少しでも自身の疑いが晴れて欲しかったのだ。
それでも、落ち込んでいても仕方ないと前向きに頑張ろうと決心していたら、周りで見ていた隊士達が押し寄せて来た。
「なかなかのもんだな!」
「次、俺と手合わせしてくれよ!」
「これからよろしくな!!」
一斉に話しかけられ姉弟は困惑したが、皆に受け入れて貰えたことが嬉しくて、笑顔で返事をしたのだった。
To Be Continued.
2019.10.13.
一礼してから中へ入る。
いつもの稽古と同じように一希は端の方で柔軟体操を始める。それを見た綾日も簡単にだが体操を済ませた。
「それにしても変わってるよね、君たち」
手合わせに必要な木刀を倉庫から取り出しながら山崎は言った。綾日は不思議そうに首を傾げる。
「だって、あんなに俺達のこと知っていながら入隊したいだなんて」
「そりゃあ、夢だったんだよ。真選組の皆に惚れて、憧れて剣道を始めたぐらいなんだ。その真選組に入隊できるならするしかねぇじゃん」
迷いなくそう言い切った彼女は微笑んだ。
そして、山崎が持っていた木刀を受け取る。
「だから、退も応援してくれよな!」
「俺、君よりだいぶ年上なんだけど…呼び捨てなんだね」
「知ってる!でも、前の世界でそう呼んでたから…やっぱりダメかな?」
内心良くないのだと分かりつつ尋ねているであろう彼女に「仕方ないなぁ」と苦笑するしかなかった。
そんなやり取りをしていたら入口がやけに騒がしいことに気が付く。
「待たせたな!準備はいいかな」
姉弟の手合わせが楽しみなのか少しテンションが高い近藤が入ってくる。後ろには土方と沖田もいた。
そして、彼らに続くようにぞろぞろと数十人の隊士たちも道場に入ってきた。
「観戦多くないッスか?!」
「いやぁ、新人隊士2人が手合わせするって言ったら見たいと言って聞かなくてね」
そう言って近藤はまた大きな声で笑った。
まさかこんなギャラリーが増えるとは思ってなかった一希だが、逆に好都合だと考えることにした。
──総悟とは2歳差ッスけど、自分が歳下なのは変わらない。これから隊士達に侮られないように色々考えてたけど、ここで姉貴を打ち負かせばきっと大丈夫ッスね。
「おい、一希!本気でやるつもりだろ?!目が笑ってねぇぞ!!」
「何言ってんスか。腕試しなら本気でやらなきゃ意味ないでしょ」
「確かにそうだけど!」
くそ、勝つのはおれだ、と綾日は意気込んだ。彼は彼で思うことがあるだろうが、彼女は彼女で負けられない理由があった。
いよいよ手合わせの時。近藤が中央に立ち、姉弟に木刀を構えるよう声をかける。
「始めっ!!」
近藤がそう言った瞬間に姉弟は踏み込んだ。
通常の剣道の試合では滅多に見られない光景だ。
そして必然的に姉弟はせめぎ合う。
「珍しいな、一希が最初から本気だなんて」
「そりゃそうでしょ、今いる隊士には舐められたくないッスからね!」
そう言いながら相手の木刀を強く押し込む。
一希の押しに体勢が崩れる前に慌てて綾日は一足一刀の間を取った。
「まあ、本気の方がおれは嬉しいけどな!」
先手必勝と言わんばかりに再び間合いを詰め、一希に木刀を打ち込んでいく。彼はその綾日の太刀を全て受け止める。
力強いがその分振りかぶる際に隙が多い。
その隙をついて彼女の腹に一撃を与える。その痛みに耐え切れなかった綾日は片膝をついた。
もう決まったか?と周りで見ていたほとんどの隊士がそう思ったが、彼女は「まだだ」と立ち上がった。
「へぇ、女の癖に根性あるんですねィ」
面白ぇ、と隊士達に混じって見ていた沖田は小さく呟いた。隣にいる土方はずっと黙ったまま手合わせを見ている。
「1本目は僕の勝ちッスね」
「上等だ、トシと退の前で負けてたまるか」
顔を伝う汗を拭うと木刀をしっかりと構える。
木刀を抜き合わせながら相手の次の攻撃を読み合う。
今回、先に動いたのは一希だった。
かけ声とともに振り下ろした木刀を綾日はさばいて受け流す。いなされた一希は振り向きざまにもう一度振りかぶるが、今度は木刀のもの打ちで受け止められた。
「段だって僕の方が上だし、そろそろ諦めてくれないッスか」
「それは誰かが定めた基準なだけだろ!『実践』ならおれの方が上だ!!」
「うわ?!」
せめぎ合った状態から綾日は一希の右足を蹴っ飛ばした。そのまま体勢を崩した彼の木刀を薙ぎ払う。
カランッ、と一希の木刀は音を立てて転がった。
「足絡みは反則ッスよ、姉貴」
「誰も正式な試合だなんて言ってないだろ?」
得意げに笑う姉に悔しがる。もう1本勝負しようと木刀を拾いに行こうとしたら、既に土方が木刀を手にしていた。
「そこまでだ」
土方は道場に入ってきてから初めて口を開いた。
まだ自分たちはやれると、まだ勝負はついてないと言いたげな姉弟に彼は話を続けた。
「もう充分だ。後はこれからの仕事で腕を磨けばいいだろ」
「それは認めてくれたってことか?!」
「そうじゃねぇ。疑惑も残ったままだし、仮入隊もそのままだ」
ピシャリと否定した土方に肩を落とす。
綾日は女だからって思われたくなく、何より一番憧れている人物から少しでも自身の疑いが晴れて欲しかったのだ。
それでも、落ち込んでいても仕方ないと前向きに頑張ろうと決心していたら、周りで見ていた隊士達が押し寄せて来た。
「なかなかのもんだな!」
「次、俺と手合わせしてくれよ!」
「これからよろしくな!!」
一斉に話しかけられ姉弟は困惑したが、皆に受け入れて貰えたことが嬉しくて、笑顔で返事をしたのだった。
To Be Continued.
2019.10.13.