一輪の白い薔薇
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何度か廊下ですれ違うことがあった。でも琴璃は跡部を見つけるとすぐに下を向いてしまう。避けられているとすぐ分かった。何故そんな態度をとるのか。言いたいことがあるならはっきり言えばいい。そう問い詰めようと思った。けれど呼び出して皆の前で言うほど野暮じゃない。電話をかけるにもそもそも連絡先すら知らない。
「どしたの跡部、イラついてんじゃん」
部室で作業をしているとジローが入ってきた。今日も完璧に遅刻である。まだ会話は愚か目も合わせていないのにそんなことを言われた。
「よく分かったなジロー、大したもんだ」
本当にそう思う。周りにばれてしまう程気が乱れていたというのか。
「なんかあったの」
「あったからイラついているんだろうな」
ふーん、と適当な返事をしてジローはロッカーに荷物を押し込んだ。そしてソファにぼすっと身体を沈めた。その振動で部誌に書いていた文字が歪んだ。別に跡部は何も言い返さない。八つ当たりはみっともないことくらい分かっている。なのに自分が苛ついているのをジローに読まれてしまった。フ、と自嘲気味な笑みが出る。ペンを投げ出してジローのようにソファに深く沈み込んだ。
「あのさ、琴璃ちゃん、なんか跡部のこと避けてるっぽい?」
「それは知ってる」
「あ、知ってんのか」
見に覚えがないのにどうして避けられなければならないのだ。それが分かればもう少し心にゆとりができていたのかもしれないのに。というか何故それをジローが知っているのか。疑問をぶつけようとした時、それより先にジローが口を開いた。
「んー。口止めされたけど、それでもしかして跡部の機嫌が直るなら教えてやるか」
と言って、ポケットから携帯を取り出して操作をし始める。
「そのかわりじょーほーてーきょーはトクメー希望だかんね」
慣れない言葉を意気揚々と使うジローに、
「勿論だ。悪いようにはしない」
跡部がニヤリと笑って返す。ジローはその返事に安心すると携帯画面を見せてきた。そこに映っているのはジローと赤毛の青年だった。
「コイツは確か立海の丸井か」
「そ。こないだ丸井くんオススメのジャンボパフェ食べに行ったんだ。超うまかったし甘かった」
それがどうした、と突っ込みたくなった。だがスクロールした次の写真に、
「琴璃だ」
完全にパフェを頬張る丸井にピントが合っているのだが、それでも斜め後ろに映っているのは琴璃だった。白いシャツに黒のギャルソンエプロン姿で微笑んでいる。
「ここ、琴璃ちゃんのバイト先だったんだよ。そんなの知らなくて普通にパフェ頼んだら運んできたのが琴璃ちゃんでさ。マジでびっくりしたんだー。向こうも俺が来たのにびっくりしてて、今度跡部とかみんな連れてきてあげるねって言ったら、跡部にだけは教えないでって言われた。だから喧嘩でもしたんかなって思った。跡部、なんかしたの?」
「俺が聞きたいほうだ」
「ふーん、そっか」
写真の琴璃は笑っている。でもどこか寂しそうな雰囲気もとれる。コイツらの勢いに負けて無理矢理撮らされたんだろうと思った。
成程ここに行けば外野も居ないし琴璃と話ができる。
「しかしお前ら、やってることは女子だな」
「なんだよー、いいじゃんかよ別に。いい情報だっただろ」
「ああ、恩に着るぜ」
ジローが少し得意気になって携帯をしまう。
「んで、ここに行くの?マジで?」
「ああ、マジだぜ」
「うへーっ、強引。けどなんか琴璃ちゃん忙しそうだから心配だなあ」
「そんなにバイト三昧なのかよ、あいつは」
「んーん、そうじゃなくて。別のクラスの女子に呼ばれてどっか行くの何回か見たから。友達なのかな。俺、女の集まりよく分かんないしさー」
「なんだそれは」
「だから分かんないんだってば。でも嬉しそうに行かないからきっと疲れてんだろね。もしかして、部活の勧誘かな?」
それはないと思った。部活に入らないからバイトをしているのだろうし、そんなに本腰入れて3年の生徒を引き入れたがる部活動なんてない。別のクラスの女子。ジローの言葉に不穏なものを読み取った。琴璃は転入生だから別のクラスに友達なんて居るわけがない。
「そうか、お前ら同じクラスだったな。琴璃のことを見てたのか」
見守ってくれていた、のほうが正しいか。いつも寝てばかりいる友人は、肝心な時にはしっかり頼れる働きをしてくれる。
「跡部の友達は、俺の友達でしょ?」
「そんな理屈聞いたことねぇよ」
ジローがニカッと笑う。跡部に褒められているのだと理解している。
「あーあ。でも琴璃ちゃんとの約束破っちゃった。うまく言い訳してよね。俺、嫌われたくないし」
「安心しろ。今まで俺がお前の期待を裏切ったことがあったかよ」
誰からの期待にも完璧に応えてきた男が言う。その言葉に、さっすがあ、とジローが笑った。
もう一度携帯画面に目をやる。微笑む琴璃と目が合った。跡部は微かに目を細めた。
尚更、琴璃に会わなくては。お前は今1人で戦っているのか。そして俺の助けを求めているのか。ちゃんと会って、確かめる必要がある。
「どしたの跡部、イラついてんじゃん」
部室で作業をしているとジローが入ってきた。今日も完璧に遅刻である。まだ会話は愚か目も合わせていないのにそんなことを言われた。
「よく分かったなジロー、大したもんだ」
本当にそう思う。周りにばれてしまう程気が乱れていたというのか。
「なんかあったの」
「あったからイラついているんだろうな」
ふーん、と適当な返事をしてジローはロッカーに荷物を押し込んだ。そしてソファにぼすっと身体を沈めた。その振動で部誌に書いていた文字が歪んだ。別に跡部は何も言い返さない。八つ当たりはみっともないことくらい分かっている。なのに自分が苛ついているのをジローに読まれてしまった。フ、と自嘲気味な笑みが出る。ペンを投げ出してジローのようにソファに深く沈み込んだ。
「あのさ、琴璃ちゃん、なんか跡部のこと避けてるっぽい?」
「それは知ってる」
「あ、知ってんのか」
見に覚えがないのにどうして避けられなければならないのだ。それが分かればもう少し心にゆとりができていたのかもしれないのに。というか何故それをジローが知っているのか。疑問をぶつけようとした時、それより先にジローが口を開いた。
「んー。口止めされたけど、それでもしかして跡部の機嫌が直るなら教えてやるか」
と言って、ポケットから携帯を取り出して操作をし始める。
「そのかわりじょーほーてーきょーはトクメー希望だかんね」
慣れない言葉を意気揚々と使うジローに、
「勿論だ。悪いようにはしない」
跡部がニヤリと笑って返す。ジローはその返事に安心すると携帯画面を見せてきた。そこに映っているのはジローと赤毛の青年だった。
「コイツは確か立海の丸井か」
「そ。こないだ丸井くんオススメのジャンボパフェ食べに行ったんだ。超うまかったし甘かった」
それがどうした、と突っ込みたくなった。だがスクロールした次の写真に、
「琴璃だ」
完全にパフェを頬張る丸井にピントが合っているのだが、それでも斜め後ろに映っているのは琴璃だった。白いシャツに黒のギャルソンエプロン姿で微笑んでいる。
「ここ、琴璃ちゃんのバイト先だったんだよ。そんなの知らなくて普通にパフェ頼んだら運んできたのが琴璃ちゃんでさ。マジでびっくりしたんだー。向こうも俺が来たのにびっくりしてて、今度跡部とかみんな連れてきてあげるねって言ったら、跡部にだけは教えないでって言われた。だから喧嘩でもしたんかなって思った。跡部、なんかしたの?」
「俺が聞きたいほうだ」
「ふーん、そっか」
写真の琴璃は笑っている。でもどこか寂しそうな雰囲気もとれる。コイツらの勢いに負けて無理矢理撮らされたんだろうと思った。
成程ここに行けば外野も居ないし琴璃と話ができる。
「しかしお前ら、やってることは女子だな」
「なんだよー、いいじゃんかよ別に。いい情報だっただろ」
「ああ、恩に着るぜ」
ジローが少し得意気になって携帯をしまう。
「んで、ここに行くの?マジで?」
「ああ、マジだぜ」
「うへーっ、強引。けどなんか琴璃ちゃん忙しそうだから心配だなあ」
「そんなにバイト三昧なのかよ、あいつは」
「んーん、そうじゃなくて。別のクラスの女子に呼ばれてどっか行くの何回か見たから。友達なのかな。俺、女の集まりよく分かんないしさー」
「なんだそれは」
「だから分かんないんだってば。でも嬉しそうに行かないからきっと疲れてんだろね。もしかして、部活の勧誘かな?」
それはないと思った。部活に入らないからバイトをしているのだろうし、そんなに本腰入れて3年の生徒を引き入れたがる部活動なんてない。別のクラスの女子。ジローの言葉に不穏なものを読み取った。琴璃は転入生だから別のクラスに友達なんて居るわけがない。
「そうか、お前ら同じクラスだったな。琴璃のことを見てたのか」
見守ってくれていた、のほうが正しいか。いつも寝てばかりいる友人は、肝心な時にはしっかり頼れる働きをしてくれる。
「跡部の友達は、俺の友達でしょ?」
「そんな理屈聞いたことねぇよ」
ジローがニカッと笑う。跡部に褒められているのだと理解している。
「あーあ。でも琴璃ちゃんとの約束破っちゃった。うまく言い訳してよね。俺、嫌われたくないし」
「安心しろ。今まで俺がお前の期待を裏切ったことがあったかよ」
誰からの期待にも完璧に応えてきた男が言う。その言葉に、さっすがあ、とジローが笑った。
もう一度携帯画面に目をやる。微笑む琴璃と目が合った。跡部は微かに目を細めた。
尚更、琴璃に会わなくては。お前は今1人で戦っているのか。そして俺の助けを求めているのか。ちゃんと会って、確かめる必要がある。