一輪の白い薔薇
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正門から少し離れた所に昨日と同じ車が停車していた。側まで来ると昨日の運転手が出てくる。本当に今更だけど、この人はやっぱり正真正銘のお坊ちゃまだったんだな、と思い知る。
「やっぱりさっきの女に答えてやれば良かったか」
「何を?」
「お前は俺のものだと」
車は音も立てずに滑らかに走る。琴璃には今どこを走っているのか全く分からない。少なくとも、自宅の方面ではないことくらいは察した。東京のどのへんなのかな。走り始めて数分が経ち、気持ちがすっかり寛ぎ出していた頃。不意に跡部がそんなことを言ってくるもんだから琴璃の心臓はキュッとなった。と同時ににまた顔が熱くなる。
「だが、まだお前の口から聞いていなかったからな。ちゃんと返事を貰ってからにするぜ」
とっくに琴璃の気持ちを見抜いてるくせに。優しいんだが意地悪なんだか良く分からなくなってくる。
「……そんなことしなくても、もう分かってるくせに」
「フン、俺だけが言って終わる話なわけねぇだろ」
それはそうだけど。どうしても琴璃の口から自分が好きだと言わせたいらしい。暢気にこれからどこに行くんだろうとか考えてる場合じゃなくなってきた。そうこうしているうちに車は停車した。窓の外は交差点でも何かの店の前でもなかった。スモークガラスで分かりづらかったけれど、氷帝の門扉よりもずっと大きくて豪華なそれが見える。
「大きい公園だね」
「さっき通った門から俺の家の敷地内だ」
「……え?えっ?」
跡部の視線を追うと、数百メートル先に家らしき建物がある。家、と表現するのは違うと琴璃は思った。異国の屋敷のようだった。公園と勘違いするのも無理はない広さの庭。決まりきったように噴水があり、石甃の道がどこまでも続いている。イギリスの跡部の家もここまでとはいかないけれどすごく大きかった。日本が本家のようなものなら、あれほどの敷地になるのも当然だろう。それにしても規模がすごすぎる。それでいて隅々まで美しく手入れがされているのは富者の表れだと感じる。琴璃の知ってる花も沢山咲いていた。けれどこれだけの種類と範囲なのは初めて見た。
「言葉が出ないって顔してるな」
「うん、あの、その、びっくりして頭が追いついてないの」
いつまでも立ち尽くしてるから、跡部は琴璃の手を取って歩くように促した。涼しげな木陰の道を抜けて。手を引かれ石畳の道を歩いてゆく。まるで映画のワンシーンみたいな雰囲気。
やがて視界が開けて、緑に囲まれてガゼボがあったた。そこは今いる場所より少し高い位置にあって、庭の創りが一望できる。
「わぁ」
思わず声が漏れるほど美しい光景だった。花壇がたくさんの花で埋め尽くされている。まさに絵本の中の世界だった。初めて跡部と会ってイギリスの家に連れてきてくれた時と重なる。イギリスの彼の家の庭には様々な種類の薔薇の花が咲いていた。今日初めて来たこの家にも同じように沢山の薔薇が咲いている。綺麗に剪定され、優雅に花は揺れている。当時は、季節は春が終わる頃だった。梅雨時に入る前の、薔薇が最も美しい季節。
「お前が最後に俺のもとへ別れを言いに来た日を思い出していた」
「うん」
琴璃も同じことを考えていた。この庭のせいだろうか、昨日聞かれて曖昧だったのに、今は不思議と思い出せる。
最後の日に跡部は泣いてる琴璃に薔薇をくれた。離れるのが悲しくて涙する彼女に。イギリスの花は薔薇なんだぜ、と得意げに言いながら差し出したそれは真っ白だった。
「景ちゃんが、薔薇の花をくれたんだよ。もう会えなくなっちゃうのが嫌で泣いてた私に。嬉しかったけど、余計悲しくなっちゃった」
「お前は泣くのに夢中だったからな。だから、俺の言葉なんてちっとも聞いちゃいなかった」
「言葉?元気でね、とか?」
2人の居る場所も薔薇に囲まれている。ガゼボの柱にはツル薔薇が美しく咲いていた。華やかな赤色やピンク色をしている。跡部はそのうちの1本に手を伸ばした。その色は、白だった。そして、それを難なく手折る。穢れのないまっさらな白。薔薇を手にする彼はとんでもなく様になっている。高校生なのにここまで薔薇が似合う人間は居ないと思う。
「また会えると言った。どこに行っても必ず見つけ出してやる、と」
離れても、どこに行ってもまた会えるから。幼かった琴璃には、それは別れに交わす口約束でとしか思ってなかった。記憶からは薄れていたのも無理はない。でも跡部はそうじゃなかった。じゃなきゃ白い色を選ばなかった。
氷帝で再会した時、すぐに琴璃とは気付けなかった。でも彼女のことを忘れたわけじゃなかった。間違いなく、琴璃は跡部の初恋だったのだから。
「偶然だろうが俺の力ではなかろうが、またお前を見つけたぜ」
跪き、その1輪の薔薇を琴璃へ差し出す。それはまるでプロポーズシーンのような。琴璃は静かに薔薇を受け取る。花の発する甘い香りが鼻腔をくすぐる。それは跡部に抱き締められた時に感じたものととても似ていた。彼が愛用してるコロンは薔薇の香りだったのだと知る。
「景ちゃん、まだ私、言えてない。だから、待って」
琴璃はゆっくり言葉を紡ぎ出す。昨日も言えず、今日も守ってもらっただけで自分の気持ちを伝えられてなかった。ちゃんと言わなきゃ。いつの間にか出ていた涙を拭って、大きく息を吸って。
「私、景ちゃんのことが大好き」
そして思いきり跡部の胸に飛び込んだ。とても画になる情景だったのに、琴璃が勢い良く飛びついたせいで最後は2人して地べたに座り込んだ。
「知ってるか、琴璃。薔薇は色によって花言葉が違う」
「そ、なの」
琴璃の頬から伝い落ちる涙を拭ってやる。今はそれどころじゃないようだ。彼女の手の中で咲く白い薔薇を愛おしく見つめ、両手で強く抱き締めた。
ほんの少し風が吹いた。心地よい程度の強さの春風。そのせいで庭中の薔薇たちが一斉に揺れる。それはまるで2人を祝福しているかのようだった。
白い薔薇の花言葉は、私はあなたにふさわしい、約束、などだそーです(他にもある)。1輪だと、一目惚れ、あなたしかいない、だそーです。
跡部さんちの庭って広くて美しいんだろなぁ
「やっぱりさっきの女に答えてやれば良かったか」
「何を?」
「お前は俺のものだと」
車は音も立てずに滑らかに走る。琴璃には今どこを走っているのか全く分からない。少なくとも、自宅の方面ではないことくらいは察した。東京のどのへんなのかな。走り始めて数分が経ち、気持ちがすっかり寛ぎ出していた頃。不意に跡部がそんなことを言ってくるもんだから琴璃の心臓はキュッとなった。と同時ににまた顔が熱くなる。
「だが、まだお前の口から聞いていなかったからな。ちゃんと返事を貰ってからにするぜ」
とっくに琴璃の気持ちを見抜いてるくせに。優しいんだが意地悪なんだか良く分からなくなってくる。
「……そんなことしなくても、もう分かってるくせに」
「フン、俺だけが言って終わる話なわけねぇだろ」
それはそうだけど。どうしても琴璃の口から自分が好きだと言わせたいらしい。暢気にこれからどこに行くんだろうとか考えてる場合じゃなくなってきた。そうこうしているうちに車は停車した。窓の外は交差点でも何かの店の前でもなかった。スモークガラスで分かりづらかったけれど、氷帝の門扉よりもずっと大きくて豪華なそれが見える。
「大きい公園だね」
「さっき通った門から俺の家の敷地内だ」
「……え?えっ?」
跡部の視線を追うと、数百メートル先に家らしき建物がある。家、と表現するのは違うと琴璃は思った。異国の屋敷のようだった。公園と勘違いするのも無理はない広さの庭。決まりきったように噴水があり、石甃の道がどこまでも続いている。イギリスの跡部の家もここまでとはいかないけれどすごく大きかった。日本が本家のようなものなら、あれほどの敷地になるのも当然だろう。それにしても規模がすごすぎる。それでいて隅々まで美しく手入れがされているのは富者の表れだと感じる。琴璃の知ってる花も沢山咲いていた。けれどこれだけの種類と範囲なのは初めて見た。
「言葉が出ないって顔してるな」
「うん、あの、その、びっくりして頭が追いついてないの」
いつまでも立ち尽くしてるから、跡部は琴璃の手を取って歩くように促した。涼しげな木陰の道を抜けて。手を引かれ石畳の道を歩いてゆく。まるで映画のワンシーンみたいな雰囲気。
やがて視界が開けて、緑に囲まれてガゼボがあったた。そこは今いる場所より少し高い位置にあって、庭の創りが一望できる。
「わぁ」
思わず声が漏れるほど美しい光景だった。花壇がたくさんの花で埋め尽くされている。まさに絵本の中の世界だった。初めて跡部と会ってイギリスの家に連れてきてくれた時と重なる。イギリスの彼の家の庭には様々な種類の薔薇の花が咲いていた。今日初めて来たこの家にも同じように沢山の薔薇が咲いている。綺麗に剪定され、優雅に花は揺れている。当時は、季節は春が終わる頃だった。梅雨時に入る前の、薔薇が最も美しい季節。
「お前が最後に俺のもとへ別れを言いに来た日を思い出していた」
「うん」
琴璃も同じことを考えていた。この庭のせいだろうか、昨日聞かれて曖昧だったのに、今は不思議と思い出せる。
最後の日に跡部は泣いてる琴璃に薔薇をくれた。離れるのが悲しくて涙する彼女に。イギリスの花は薔薇なんだぜ、と得意げに言いながら差し出したそれは真っ白だった。
「景ちゃんが、薔薇の花をくれたんだよ。もう会えなくなっちゃうのが嫌で泣いてた私に。嬉しかったけど、余計悲しくなっちゃった」
「お前は泣くのに夢中だったからな。だから、俺の言葉なんてちっとも聞いちゃいなかった」
「言葉?元気でね、とか?」
2人の居る場所も薔薇に囲まれている。ガゼボの柱にはツル薔薇が美しく咲いていた。華やかな赤色やピンク色をしている。跡部はそのうちの1本に手を伸ばした。その色は、白だった。そして、それを難なく手折る。穢れのないまっさらな白。薔薇を手にする彼はとんでもなく様になっている。高校生なのにここまで薔薇が似合う人間は居ないと思う。
「また会えると言った。どこに行っても必ず見つけ出してやる、と」
離れても、どこに行ってもまた会えるから。幼かった琴璃には、それは別れに交わす口約束でとしか思ってなかった。記憶からは薄れていたのも無理はない。でも跡部はそうじゃなかった。じゃなきゃ白い色を選ばなかった。
氷帝で再会した時、すぐに琴璃とは気付けなかった。でも彼女のことを忘れたわけじゃなかった。間違いなく、琴璃は跡部の初恋だったのだから。
「偶然だろうが俺の力ではなかろうが、またお前を見つけたぜ」
跪き、その1輪の薔薇を琴璃へ差し出す。それはまるでプロポーズシーンのような。琴璃は静かに薔薇を受け取る。花の発する甘い香りが鼻腔をくすぐる。それは跡部に抱き締められた時に感じたものととても似ていた。彼が愛用してるコロンは薔薇の香りだったのだと知る。
「景ちゃん、まだ私、言えてない。だから、待って」
琴璃はゆっくり言葉を紡ぎ出す。昨日も言えず、今日も守ってもらっただけで自分の気持ちを伝えられてなかった。ちゃんと言わなきゃ。いつの間にか出ていた涙を拭って、大きく息を吸って。
「私、景ちゃんのことが大好き」
そして思いきり跡部の胸に飛び込んだ。とても画になる情景だったのに、琴璃が勢い良く飛びついたせいで最後は2人して地べたに座り込んだ。
「知ってるか、琴璃。薔薇は色によって花言葉が違う」
「そ、なの」
琴璃の頬から伝い落ちる涙を拭ってやる。今はそれどころじゃないようだ。彼女の手の中で咲く白い薔薇を愛おしく見つめ、両手で強く抱き締めた。
ほんの少し風が吹いた。心地よい程度の強さの春風。そのせいで庭中の薔薇たちが一斉に揺れる。それはまるで2人を祝福しているかのようだった。
白い薔薇の花言葉は、私はあなたにふさわしい、約束、などだそーです(他にもある)。1輪だと、一目惚れ、あなたしかいない、だそーです。
跡部さんちの庭って広くて美しいんだろなぁ
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