放電彼女
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頭上からすぐにまた違う声がした。振り向くと忍足が琴璃のすぐ側に立っていた。
「この子、俺が保健室まで連れてくわ。友達やねん」
「そっか。んじゃよろしく」
男子生徒は急いでいたようであっさりその場を後にした。何人かの野次馬もあっという間に消え、2人だけが残される。やけに静かな空間になる。
「大丈夫?琴璃ちゃん。俺しかおらへんから落ち着いて」
「……うん」
暴れてた心臓がゆっくり落ち着きを取り戻してゆく。会いたくないと自分で避けたのに。来てくれて、助けてくれて、琴璃は心底安心した。涙が出てきた。それを忍足にバレないように急いで拭った。ちょうど琴璃の膝を確かめていたから気付かれずに済んだ。
「ん」
目の前に差し出された大きな手。琴璃は躊躇わず掴んだ。何も起こらなかった。
「侑士くんの手、あったかい」
「琴璃ちゃんの手がめっちゃ冷たいんや」
そう笑いながら、忍足はもう片方の手で琴璃の膝裏を持ち上げるように支えた。体が宙に浮き、琴璃は思わずきゃっと小さく叫んだ。
「ほな、行こか」
「ゆゆ、侑士くん降ろしてよ、わたし、歩けるよ」
「ええから大人しくしとき。歩いたら悪化するかもしれんし」
「……重くない?」
「むちゃくちゃ軽くて逆に心配になるわ」
本心なのか冗談なのか。いつもの調子でそう言う。忍足は構わず琴璃を抱えて歩き出す。琴璃はどういう顔をしていいか分からず自然を顔を落とす。自分の心臓が嫌というほど五月蝿かった。
「あかん、先生どこ行ったんやろ」
保健室には誰もいなかった。とりあえず琴璃をソファに座らせ、忍足もその隣に腰かけてみる。精々3人掛けのソファで、お互いに僅かに肩が触れるほどの距離。
「ごめんね。もう大丈夫だから行っていいよ」
「先生来るまでおるよ」
琴璃はそれ以上言えなかった。怒ってるわけじゃないのに、なんだか彼の言葉が刺さる。そのまま自然と話が途切れてしまう。今日の琴璃は何か変だと、忍足はなんとなく気付いてた。でも何かあったのか聞こうと思わなかった。その違和感の理由に自分も関係している気がしたから。なんとなく思った事だけど、こういう勘はよく当たる。
「足、痛い?氷でも持ってこよか」
「ううん、大丈夫」
琴璃はずっと俯いている。彼女に何かあったんだろうか。最近のやり取りを浮かべてみても思い当たる節がなかった。こんな泣きそうな横顔になる理由が分からない。
「侑士くん、あのね」
「うん、何?」
「あのね、もうわたし大丈夫だよ。友達もできたし男子と普通に喋れるようになったし、前より緊張しなくなったし」
「おお、そら良かったやん」
「……だから、もう、大丈夫なの」
琴璃は忍足のほうを見た。大きな黒目が弱々しく揺れている。
「大丈夫って、何が?」
「これからは、こんなに気にかけてくれなくて大丈夫だから。その……もう、いい、から」
大丈夫、を頻りに言う。言葉足らずでうまく伝わらない。言葉を選んでるせいだ。どうしたら相手が傷つかずに受け取ってくれるかを考えている。だからこんな回りくどい言い方になってしまう。言いたいことの半分も言葉で表せない。彼女はそういう子だ。友達だからもう分かる。彼女の本当の訴えも。
「仲良しな友達を辞めたいって意味?」
ちゃんと忍足には伝わっていた。琴璃が言わんとしている事。口下手であろうと賢しい忍足にはすぐ分かった。でもそれだけじゃない。
「琴璃ちゃんは本当にそう思っとるん?」
琴璃はもう忍足を見れなかった。俯いて、忍足の言葉を静かに聞く。全然、大丈夫なんかじゃない。視界が徐々に歪んでくる。
「ごめ、なさい」
「なんで泣くの?自分で言うたんやで」
琴璃が膝の上に涙を落とす。忍足は苦笑いをして、机の上からティッシュをとってやった。そして、優しく琴璃の背中に手を添える。小さく震える背中を。優しく擦ってやる。
「せやな。友達はもうやめよ」
「ごめん……」
ごめんなさい、と何度もうわ言のように謝る。心と言葉がちぐはぐだ。大丈夫、と口から出るたび心が訴えている。限界だと泣いている。それがとうとうこみ上げてきて、わぁっと泣いた瞬間、電気が身体中を走った。バチッと危険な音がしたがそれは一瞬だけ。忍足は驚きさえしたが飛び退いたりしなかった。変わらず琴璃の背を支える。
「まだ続きがあんねん俺の話」
琴璃の肩がぴくりと反応する。
「友達辞めて。ほんで俺の彼女になって?そしたらもっと近くで守れるし、一緒におれる」
「何、それ……」
「意味分からん?」
琴璃は答えない。口を僅かに開いて忍足をじっと見たまま。必死に忍足が言った言葉を理解しようとしている。どうしてそんな事を言うのか。ついさっき自分は彼を拒否したのに。
「ちょっと傷ついたんやで?この前。岳人たちに堂々と友達宣言しとる琴璃ちゃん見て。俺は1ミリも恋愛対象になれへんのかーって」
「でも、侑士くんモテるって聞いて、わたしなんかと居たら彼女が可哀想だって思ってて」
「彼女って、誰の?」
「侑士くん」
「は?ちょぉ待ち。俺に彼女おるっていつ言うた。おらんわ、そんな相手」
「でも、でもこれからできるかもしれないのに、もし彼女できたらその子にとったらわたしの存在なんか邪魔になるし……」
「あかん。この子ったら先読みしすぎや。なんちゅー被害妄想」
まさか彼女がそんな事を考えていたなんて。驚きと、ほんのちょっと呆れてしまう。でもそれがだんだん可笑しくなって、やがて愛しいと思えてくる。そんなに自分の事を考えていてくれたという事実に。
「ま、そういう性分やからしょうがないんやけど。そこに自分を当てはめてみるとか、考えないところがまた琴璃ちゃんらしくてかわええわ」
「そ、そんな事考えられないよ」
「おいで」
忍足が、琴璃に向かって両手を広げる。戸惑う琴璃に優しく微笑んでやる。
「心配せんでももう電気起こらへんで」
「なんで分かるの」
「んー?だって俺は琴璃の彼氏やから」
琴璃が思いきり忍足の胸に飛び込む。暖かい以外に感じたものは無かった。痛みも怖さもない。広い背中にしっかりと手を回しても、何も起こらなかった。もう何も怖くない。2人して笑った。たったそれだけの事なのに幸せなんだと感じる。誰かの温もりを感じたのは、琴璃にとって初めての事だった。それはとても温かくて落ち着くものだった。
間もなくして養護教諭が戻ってきたので手当てをしてもらった。帰る際に忍足がまた抱き上げようとしたので、琴璃は慌てて大丈夫だよ、と断った。養護教諭はあらあら、なんて穏やかに笑っていた。
「侑士くん、行かなくていいの?」
「ん?」
下駄箱を目指して2人はゆっくり廊下を歩く。琴璃の左手は忍足の右手に納まっている。さっきまで出来なかった事が当たり前にされている。
「今日って岳人くんたちと約束してるんじゃないの?」
「あ、せやった。忘れとった。今日行かれへんって連絡しとこ」
「え、え、なんで?」
「琴璃ちゃんと別れてそっち行くわけにいかんし」
「わたしは大丈夫だよ、1人で帰るからみんなのとこ行ってきて」
「なんでそうなるん。俺が、キミと、離れたくないの。お分かり?」
「う、うん」
ストレートに言われて赤くなる琴璃。何もかもが、初めての感覚で心がふわふわする。だけどふと思い出した。本当は自分もその中に交じりたかった事を。つまらない憶測で忍足を避けてしまった。今になって申し訳なく感じる。
「ごめんね。わたし、侑士くんを避けようとしてた」
「俺と友達辞めたくて、やろ?別に避けんでもフツーに友達辞めたいって言って良かったのに」
「そんな事言えるわけないよ。傷つけたくないもん」
「せやかて避けられるのも傷つくで」
「あ……」
「自分、めっさ不器用やんなぁ。そーゆう所がかわええからええんやけど」
窓のむこうは夕焼け空が見えた。2人の他に廊下に生徒は誰もいない。忍足は足を止めた。つられて琴璃も立ち止まる。向き合うように忍足が体を向けた。2人の目が合う。
「ほな、琴璃ちゃん。これからもヨロシクオネガイシマス」
「あ、はい、おねがいします」
「……で?」
「え?」
「ここはもう、キミの番やで?」
さっきのように忍足は両手を広げる。保健室と違って廊下はどこから人が出てくるか分からない。恥ずかしい気持ちを目で訴えても忍足はへらりと笑うだけだった。琴璃はそうっと距離を詰める。拳1つ分くらいになったくらいで、長身の彼を見上げた。足は大きな痣ができたけど実はそれほど痛くはない。だから、琴璃は思いきり背伸びして、忍足の首に抱きついた。思いきり力を込めて。好きだよ、と言ってみた。背中に暖かいものを感じる。彼の大きな優しい手。もう一度強く抱き締めたら、耳元で、よくできました、と声がした。
これで一旦終わりです。読んでくださった方有り難うございました^^
「この子、俺が保健室まで連れてくわ。友達やねん」
「そっか。んじゃよろしく」
男子生徒は急いでいたようであっさりその場を後にした。何人かの野次馬もあっという間に消え、2人だけが残される。やけに静かな空間になる。
「大丈夫?琴璃ちゃん。俺しかおらへんから落ち着いて」
「……うん」
暴れてた心臓がゆっくり落ち着きを取り戻してゆく。会いたくないと自分で避けたのに。来てくれて、助けてくれて、琴璃は心底安心した。涙が出てきた。それを忍足にバレないように急いで拭った。ちょうど琴璃の膝を確かめていたから気付かれずに済んだ。
「ん」
目の前に差し出された大きな手。琴璃は躊躇わず掴んだ。何も起こらなかった。
「侑士くんの手、あったかい」
「琴璃ちゃんの手がめっちゃ冷たいんや」
そう笑いながら、忍足はもう片方の手で琴璃の膝裏を持ち上げるように支えた。体が宙に浮き、琴璃は思わずきゃっと小さく叫んだ。
「ほな、行こか」
「ゆゆ、侑士くん降ろしてよ、わたし、歩けるよ」
「ええから大人しくしとき。歩いたら悪化するかもしれんし」
「……重くない?」
「むちゃくちゃ軽くて逆に心配になるわ」
本心なのか冗談なのか。いつもの調子でそう言う。忍足は構わず琴璃を抱えて歩き出す。琴璃はどういう顔をしていいか分からず自然を顔を落とす。自分の心臓が嫌というほど五月蝿かった。
「あかん、先生どこ行ったんやろ」
保健室には誰もいなかった。とりあえず琴璃をソファに座らせ、忍足もその隣に腰かけてみる。精々3人掛けのソファで、お互いに僅かに肩が触れるほどの距離。
「ごめんね。もう大丈夫だから行っていいよ」
「先生来るまでおるよ」
琴璃はそれ以上言えなかった。怒ってるわけじゃないのに、なんだか彼の言葉が刺さる。そのまま自然と話が途切れてしまう。今日の琴璃は何か変だと、忍足はなんとなく気付いてた。でも何かあったのか聞こうと思わなかった。その違和感の理由に自分も関係している気がしたから。なんとなく思った事だけど、こういう勘はよく当たる。
「足、痛い?氷でも持ってこよか」
「ううん、大丈夫」
琴璃はずっと俯いている。彼女に何かあったんだろうか。最近のやり取りを浮かべてみても思い当たる節がなかった。こんな泣きそうな横顔になる理由が分からない。
「侑士くん、あのね」
「うん、何?」
「あのね、もうわたし大丈夫だよ。友達もできたし男子と普通に喋れるようになったし、前より緊張しなくなったし」
「おお、そら良かったやん」
「……だから、もう、大丈夫なの」
琴璃は忍足のほうを見た。大きな黒目が弱々しく揺れている。
「大丈夫って、何が?」
「これからは、こんなに気にかけてくれなくて大丈夫だから。その……もう、いい、から」
大丈夫、を頻りに言う。言葉足らずでうまく伝わらない。言葉を選んでるせいだ。どうしたら相手が傷つかずに受け取ってくれるかを考えている。だからこんな回りくどい言い方になってしまう。言いたいことの半分も言葉で表せない。彼女はそういう子だ。友達だからもう分かる。彼女の本当の訴えも。
「仲良しな友達を辞めたいって意味?」
ちゃんと忍足には伝わっていた。琴璃が言わんとしている事。口下手であろうと賢しい忍足にはすぐ分かった。でもそれだけじゃない。
「琴璃ちゃんは本当にそう思っとるん?」
琴璃はもう忍足を見れなかった。俯いて、忍足の言葉を静かに聞く。全然、大丈夫なんかじゃない。視界が徐々に歪んでくる。
「ごめ、なさい」
「なんで泣くの?自分で言うたんやで」
琴璃が膝の上に涙を落とす。忍足は苦笑いをして、机の上からティッシュをとってやった。そして、優しく琴璃の背中に手を添える。小さく震える背中を。優しく擦ってやる。
「せやな。友達はもうやめよ」
「ごめん……」
ごめんなさい、と何度もうわ言のように謝る。心と言葉がちぐはぐだ。大丈夫、と口から出るたび心が訴えている。限界だと泣いている。それがとうとうこみ上げてきて、わぁっと泣いた瞬間、電気が身体中を走った。バチッと危険な音がしたがそれは一瞬だけ。忍足は驚きさえしたが飛び退いたりしなかった。変わらず琴璃の背を支える。
「まだ続きがあんねん俺の話」
琴璃の肩がぴくりと反応する。
「友達辞めて。ほんで俺の彼女になって?そしたらもっと近くで守れるし、一緒におれる」
「何、それ……」
「意味分からん?」
琴璃は答えない。口を僅かに開いて忍足をじっと見たまま。必死に忍足が言った言葉を理解しようとしている。どうしてそんな事を言うのか。ついさっき自分は彼を拒否したのに。
「ちょっと傷ついたんやで?この前。岳人たちに堂々と友達宣言しとる琴璃ちゃん見て。俺は1ミリも恋愛対象になれへんのかーって」
「でも、侑士くんモテるって聞いて、わたしなんかと居たら彼女が可哀想だって思ってて」
「彼女って、誰の?」
「侑士くん」
「は?ちょぉ待ち。俺に彼女おるっていつ言うた。おらんわ、そんな相手」
「でも、でもこれからできるかもしれないのに、もし彼女できたらその子にとったらわたしの存在なんか邪魔になるし……」
「あかん。この子ったら先読みしすぎや。なんちゅー被害妄想」
まさか彼女がそんな事を考えていたなんて。驚きと、ほんのちょっと呆れてしまう。でもそれがだんだん可笑しくなって、やがて愛しいと思えてくる。そんなに自分の事を考えていてくれたという事実に。
「ま、そういう性分やからしょうがないんやけど。そこに自分を当てはめてみるとか、考えないところがまた琴璃ちゃんらしくてかわええわ」
「そ、そんな事考えられないよ」
「おいで」
忍足が、琴璃に向かって両手を広げる。戸惑う琴璃に優しく微笑んでやる。
「心配せんでももう電気起こらへんで」
「なんで分かるの」
「んー?だって俺は琴璃の彼氏やから」
琴璃が思いきり忍足の胸に飛び込む。暖かい以外に感じたものは無かった。痛みも怖さもない。広い背中にしっかりと手を回しても、何も起こらなかった。もう何も怖くない。2人して笑った。たったそれだけの事なのに幸せなんだと感じる。誰かの温もりを感じたのは、琴璃にとって初めての事だった。それはとても温かくて落ち着くものだった。
間もなくして養護教諭が戻ってきたので手当てをしてもらった。帰る際に忍足がまた抱き上げようとしたので、琴璃は慌てて大丈夫だよ、と断った。養護教諭はあらあら、なんて穏やかに笑っていた。
「侑士くん、行かなくていいの?」
「ん?」
下駄箱を目指して2人はゆっくり廊下を歩く。琴璃の左手は忍足の右手に納まっている。さっきまで出来なかった事が当たり前にされている。
「今日って岳人くんたちと約束してるんじゃないの?」
「あ、せやった。忘れとった。今日行かれへんって連絡しとこ」
「え、え、なんで?」
「琴璃ちゃんと別れてそっち行くわけにいかんし」
「わたしは大丈夫だよ、1人で帰るからみんなのとこ行ってきて」
「なんでそうなるん。俺が、キミと、離れたくないの。お分かり?」
「う、うん」
ストレートに言われて赤くなる琴璃。何もかもが、初めての感覚で心がふわふわする。だけどふと思い出した。本当は自分もその中に交じりたかった事を。つまらない憶測で忍足を避けてしまった。今になって申し訳なく感じる。
「ごめんね。わたし、侑士くんを避けようとしてた」
「俺と友達辞めたくて、やろ?別に避けんでもフツーに友達辞めたいって言って良かったのに」
「そんな事言えるわけないよ。傷つけたくないもん」
「せやかて避けられるのも傷つくで」
「あ……」
「自分、めっさ不器用やんなぁ。そーゆう所がかわええからええんやけど」
窓のむこうは夕焼け空が見えた。2人の他に廊下に生徒は誰もいない。忍足は足を止めた。つられて琴璃も立ち止まる。向き合うように忍足が体を向けた。2人の目が合う。
「ほな、琴璃ちゃん。これからもヨロシクオネガイシマス」
「あ、はい、おねがいします」
「……で?」
「え?」
「ここはもう、キミの番やで?」
さっきのように忍足は両手を広げる。保健室と違って廊下はどこから人が出てくるか分からない。恥ずかしい気持ちを目で訴えても忍足はへらりと笑うだけだった。琴璃はそうっと距離を詰める。拳1つ分くらいになったくらいで、長身の彼を見上げた。足は大きな痣ができたけど実はそれほど痛くはない。だから、琴璃は思いきり背伸びして、忍足の首に抱きついた。思いきり力を込めて。好きだよ、と言ってみた。背中に暖かいものを感じる。彼の大きな優しい手。もう一度強く抱き締めたら、耳元で、よくできました、と声がした。
これで一旦終わりです。読んでくださった方有り難うございました^^
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