放電彼女
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だいぶ新しい生活環境には慣れた。内向的故に1人で行動する事ばかりだったけど、今は同じクラスの女友達ができた。一緒にお昼を食べたり移動教室で連れ立って行くような。女子はわりと集団行動を好むから。琴璃は1人でも慣れていたが、やはり同姓の友達がそばに居てくれると心強い。
「琴璃って、忍足くんと仲いいよね」
今日は自分たちの教室でお昼を食べている。友達が琴璃の前の席に座ったかと思うと、開口一番に忍足の事を聞いてきたのだ。
「侑士くんは転校してきて初めてできた友達なの」
「へえー、よく喋るんだ?」
「わりとそうかも。お昼ご飯一緒に食べてくれたりお薦めの本貸してくれたりするよ」
「ほーぉ」
適当な相槌なわりに友達はちゃんと聞いている。琴璃がすごく楽しそうに話すから意外だったのだ。クラスに慣れず若干浮いてた彼女だったのに忍足の事になると笑顔で話してくれるから。相当心を許しているんだな、と思った。
「昨日は、本のお返しにお弁当作って渡したんだけど、ちゃんと綺麗に完食してくれたんだ」
「マジ?」
「うん。いつもインスタントのものばっかり食べてるから、良かったら作るよって言ったの」
いつも見るたびにカップ麺やコンビニ弁当の類いを食べていたから。冗談混じりに、栄養がかたよっちゃうよと指摘した。まさか、ほな俺に弁当作ってくれへん?と返されるとは。冗談を言ったから冗談で返されたのだと思っていた。でも次の日、忍足は琴璃の弁当を期待して昼御飯を持ってこなかった。彼は本気なのだと分かり、弁当を作ってあげていったのだ。彼はとても喜んでくれた。反対に琴璃は不安で仕方なかったけど。料理は嫌いじゃないけど、誰かに振る舞うなんてした事なかったから。美味しそうに食べてくれた。それを見て琴璃も嬉しくなった。またいつか作ってあげると約束までしたほどに。
「なんかさあ、」
今日もお手製の弁当を食べながら友達の話を聞いている。
「それって付き合ってるんじゃなくて?」
「えっ、……ちがうよ」
友達の言葉を否定してそのまま琴璃は固まる。付き合うって。急に出てきた言葉。そんなふうに考えた事なかった。告白してないしされた覚えもない。でも考えたら恋人同士がするような事だ。普通の男子にはお弁当は作らないんだ。今さらそんな事に気付く。もしかして迷惑だったのかな、とも感じ始める。彼は優しいから、無理して受け取ってくれたのかもしれない。
「分かんないよ~?忍足くんのほうは琴璃に気があるかもしれないじゃん?」
「いや、絶対そんな感じじゃない、から。確実に、違うから」
「そんな全力で否定しなくてもさ」
付き合ってるとか。そんなふうに誰かから見られてるなんて思いもしなかった。確かに仲がいいのは自分でも認識してる。最近じゃ何の用事もないのに他愛ない事でメールのやり取りをしている日がある。でもそれはいち友達としてやっていた事だった。
「じゃあ琴璃は?どう思ってんの?」
「え?」
自分は忍足をどう思ってるか。“どう”とは、異性としての意味だというくらい琴璃も分かってる。それを踏まえても、そういうふうに考えた事は今までになかった。
「侑士くんは、大事な友達だよ。……本当に」
「そっか」
友達に気付かれないように琴璃は小さくため息を吐いた。
「ねーでもさ、忍足くんって彼女いないのかね?テニス部だしモテるでしょ、彼」
「彼女……」
「そういう話しないの?忍足くんと」
「彼女の話は……、聞いたことないかも」
「そっか。まー琴璃と仲良くしてくれるんだから、いないか」
「え?」
「だって彼女いたら、ここまで別の女の子と親しくならないでしょ」
特定の相手がいないから琴璃とこんなに親密にしてるんじゃない?、と友達は言う。
「もしくは他校に彼女がいる説。で、あんまりうまくいってないから、琴璃に癒し求めに近付いてる」
「そんな人じゃないよ、侑士くん……たぶん」
そんな酷い事をする人じゃない。何の根拠もないが、忍足は彼女を大事にするタイプだと勝手に想像してしまう。
「でも……そっか。彼女がいるかもしれないのか」
どうしてこんなに沈んでいるんだろうか。
忍足のお陰で琴璃は学校生活に慣れる事ができた。彼のテニス部の友達とも知り合えた。男子の苦手意識を少しずつ克服する事もできた。総て彼のお陰でこれ以上ないほど感謝してる。大切にしたいと思ってる。でもそれは“友達”として考えている事。
彼はとてもいい人だから彼女がいたって変じゃないのに。聞いたら教えてくれるのかもしれない。友達だから、別に聞いても失礼にはならないと思う。でも聞く気がない。というか、知りたくなかった。
そこでもし、彼女がいるという事実だったとしたら。琴璃の存在は彼女をどんな気持ちにするだろう。“恋人の女友達”はあまり良い印象ではない。知らない女が彼氏に付きまとっているふうに思うかもしれない。それを考えたら胸が苦しくなった。彼の優しさに甘えて、もしかしたら彼の大切な人を傷つけているかもしれないなんて、考えただけで泣きそうになった。
その日の放課後、初めて琴璃は忍足の誘いを断った。部活がオフだから帰りに何か食べに行こうかと連絡が来たが、予定があると嘘をついた。こうやって誘ってくれるんだからやっぱり彼女は居ないのかもしれない。だとしてもこのままじゃいけない。そんなふうに思い始める。
「あれ。琴璃帰んの?」
「岳人くん……」
教室から出ていこうとしたところを岳人に呼び止められる。この間のお昼の一件で打ち解けられ、今では下の名前で呼びあう仲だ。彼は鞄を担ぎ、これから帰るようだった。
「侑士から連絡来なかったか?帰りに駅前のファミレス寄ろーぜ。女子テニも今日、練習無いだろ?」
「今日は、ちょっと予定があって……ごめんね」
「ふーん。そっか。じゃ、しょうがねえ」
「うん。せっかく誘ってくれたのにごめんね」
「おう。また明日な」
嘘をついてしまい胸が痛む。避けてるわけじゃないのに、どうしても今日は一緒に帰れそうもなかった。心がモヤモヤする。明日になったらこのモヤモヤした気持ちは消えるのだろうか。多分変わらないと思う。忍足の彼女の存在を確認しない限り、ずっとこんな気分のままなんだろう。聞くにしてもどうやって聞いたらいいだろうか。ストレートに聞けば相手も答えてくれるだろうがそんな勇気は到底無い。どうしようどうしよう、と考えながら廊下を歩く。もうずっと、お昼の後から頭の中は忍足の事でいっぱいになってる。考えて、思い詰めて、また被害妄想を生み出している。だから、自分が歩く先がもう階段だという事に気付けなかった。
「あっ」
声は出たが見事に踏み外してしまった。一瞬の出来事だった。なんだどうしたと周りの生徒が琴璃に寄ってくる。
「どうしたのー?大丈夫?」
「、はい、すみません……」
「立てる?膝、めっちゃ痛そうだよ」
言われて自身の膝を見ると紫に腫れ上がっている。琴璃は泣きたくなった。膝が痛いからではない。自分を見る周りの皆が怖いと感じた。こんなに他人に囲まれて注目される事に慣れてないから。緊張と萎縮でどうにかなりそうだった。
「大丈夫か?手、貸しな」
知らない男子生徒だった。ご親切に琴璃を立ち上がらせようと手を差し出してきた。琴璃には怖くて堪らない。この手を掴めば必ず放電する。かといって拒否できる状況じゃない。
「俺が連れてくわ」
「琴璃って、忍足くんと仲いいよね」
今日は自分たちの教室でお昼を食べている。友達が琴璃の前の席に座ったかと思うと、開口一番に忍足の事を聞いてきたのだ。
「侑士くんは転校してきて初めてできた友達なの」
「へえー、よく喋るんだ?」
「わりとそうかも。お昼ご飯一緒に食べてくれたりお薦めの本貸してくれたりするよ」
「ほーぉ」
適当な相槌なわりに友達はちゃんと聞いている。琴璃がすごく楽しそうに話すから意外だったのだ。クラスに慣れず若干浮いてた彼女だったのに忍足の事になると笑顔で話してくれるから。相当心を許しているんだな、と思った。
「昨日は、本のお返しにお弁当作って渡したんだけど、ちゃんと綺麗に完食してくれたんだ」
「マジ?」
「うん。いつもインスタントのものばっかり食べてるから、良かったら作るよって言ったの」
いつも見るたびにカップ麺やコンビニ弁当の類いを食べていたから。冗談混じりに、栄養がかたよっちゃうよと指摘した。まさか、ほな俺に弁当作ってくれへん?と返されるとは。冗談を言ったから冗談で返されたのだと思っていた。でも次の日、忍足は琴璃の弁当を期待して昼御飯を持ってこなかった。彼は本気なのだと分かり、弁当を作ってあげていったのだ。彼はとても喜んでくれた。反対に琴璃は不安で仕方なかったけど。料理は嫌いじゃないけど、誰かに振る舞うなんてした事なかったから。美味しそうに食べてくれた。それを見て琴璃も嬉しくなった。またいつか作ってあげると約束までしたほどに。
「なんかさあ、」
今日もお手製の弁当を食べながら友達の話を聞いている。
「それって付き合ってるんじゃなくて?」
「えっ、……ちがうよ」
友達の言葉を否定してそのまま琴璃は固まる。付き合うって。急に出てきた言葉。そんなふうに考えた事なかった。告白してないしされた覚えもない。でも考えたら恋人同士がするような事だ。普通の男子にはお弁当は作らないんだ。今さらそんな事に気付く。もしかして迷惑だったのかな、とも感じ始める。彼は優しいから、無理して受け取ってくれたのかもしれない。
「分かんないよ~?忍足くんのほうは琴璃に気があるかもしれないじゃん?」
「いや、絶対そんな感じじゃない、から。確実に、違うから」
「そんな全力で否定しなくてもさ」
付き合ってるとか。そんなふうに誰かから見られてるなんて思いもしなかった。確かに仲がいいのは自分でも認識してる。最近じゃ何の用事もないのに他愛ない事でメールのやり取りをしている日がある。でもそれはいち友達としてやっていた事だった。
「じゃあ琴璃は?どう思ってんの?」
「え?」
自分は忍足をどう思ってるか。“どう”とは、異性としての意味だというくらい琴璃も分かってる。それを踏まえても、そういうふうに考えた事は今までになかった。
「侑士くんは、大事な友達だよ。……本当に」
「そっか」
友達に気付かれないように琴璃は小さくため息を吐いた。
「ねーでもさ、忍足くんって彼女いないのかね?テニス部だしモテるでしょ、彼」
「彼女……」
「そういう話しないの?忍足くんと」
「彼女の話は……、聞いたことないかも」
「そっか。まー琴璃と仲良くしてくれるんだから、いないか」
「え?」
「だって彼女いたら、ここまで別の女の子と親しくならないでしょ」
特定の相手がいないから琴璃とこんなに親密にしてるんじゃない?、と友達は言う。
「もしくは他校に彼女がいる説。で、あんまりうまくいってないから、琴璃に癒し求めに近付いてる」
「そんな人じゃないよ、侑士くん……たぶん」
そんな酷い事をする人じゃない。何の根拠もないが、忍足は彼女を大事にするタイプだと勝手に想像してしまう。
「でも……そっか。彼女がいるかもしれないのか」
どうしてこんなに沈んでいるんだろうか。
忍足のお陰で琴璃は学校生活に慣れる事ができた。彼のテニス部の友達とも知り合えた。男子の苦手意識を少しずつ克服する事もできた。総て彼のお陰でこれ以上ないほど感謝してる。大切にしたいと思ってる。でもそれは“友達”として考えている事。
彼はとてもいい人だから彼女がいたって変じゃないのに。聞いたら教えてくれるのかもしれない。友達だから、別に聞いても失礼にはならないと思う。でも聞く気がない。というか、知りたくなかった。
そこでもし、彼女がいるという事実だったとしたら。琴璃の存在は彼女をどんな気持ちにするだろう。“恋人の女友達”はあまり良い印象ではない。知らない女が彼氏に付きまとっているふうに思うかもしれない。それを考えたら胸が苦しくなった。彼の優しさに甘えて、もしかしたら彼の大切な人を傷つけているかもしれないなんて、考えただけで泣きそうになった。
その日の放課後、初めて琴璃は忍足の誘いを断った。部活がオフだから帰りに何か食べに行こうかと連絡が来たが、予定があると嘘をついた。こうやって誘ってくれるんだからやっぱり彼女は居ないのかもしれない。だとしてもこのままじゃいけない。そんなふうに思い始める。
「あれ。琴璃帰んの?」
「岳人くん……」
教室から出ていこうとしたところを岳人に呼び止められる。この間のお昼の一件で打ち解けられ、今では下の名前で呼びあう仲だ。彼は鞄を担ぎ、これから帰るようだった。
「侑士から連絡来なかったか?帰りに駅前のファミレス寄ろーぜ。女子テニも今日、練習無いだろ?」
「今日は、ちょっと予定があって……ごめんね」
「ふーん。そっか。じゃ、しょうがねえ」
「うん。せっかく誘ってくれたのにごめんね」
「おう。また明日な」
嘘をついてしまい胸が痛む。避けてるわけじゃないのに、どうしても今日は一緒に帰れそうもなかった。心がモヤモヤする。明日になったらこのモヤモヤした気持ちは消えるのだろうか。多分変わらないと思う。忍足の彼女の存在を確認しない限り、ずっとこんな気分のままなんだろう。聞くにしてもどうやって聞いたらいいだろうか。ストレートに聞けば相手も答えてくれるだろうがそんな勇気は到底無い。どうしようどうしよう、と考えながら廊下を歩く。もうずっと、お昼の後から頭の中は忍足の事でいっぱいになってる。考えて、思い詰めて、また被害妄想を生み出している。だから、自分が歩く先がもう階段だという事に気付けなかった。
「あっ」
声は出たが見事に踏み外してしまった。一瞬の出来事だった。なんだどうしたと周りの生徒が琴璃に寄ってくる。
「どうしたのー?大丈夫?」
「、はい、すみません……」
「立てる?膝、めっちゃ痛そうだよ」
言われて自身の膝を見ると紫に腫れ上がっている。琴璃は泣きたくなった。膝が痛いからではない。自分を見る周りの皆が怖いと感じた。こんなに他人に囲まれて注目される事に慣れてないから。緊張と萎縮でどうにかなりそうだった。
「大丈夫か?手、貸しな」
知らない男子生徒だった。ご親切に琴璃を立ち上がらせようと手を差し出してきた。琴璃には怖くて堪らない。この手を掴めば必ず放電する。かといって拒否できる状況じゃない。
「俺が連れてくわ」