放電彼女
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「向日、くん?」
「あ?」
授業終了のチャイムと同時にクラスメイトたちはぞろぞろ教室から出ていく。その音に殆ど負けていた声が、かろうじて耳に届いた。振り向くと、自分を呼んだのは後ろの席の琴璃だと知った。
「あの、お昼休みっていつも学食で食べてるの?」
「そうだけど……なんでだよ」
「わたしも今日行ってもいいかな。侑士くんが、一緒に食べないかって誘ってくれたの」
「お?」
まず。彼女に話しかけられたのが初めてだった。岳人は数秒間固まる。何の用かと思えばまさかの昼食の誘い。極めつけに、思っても見ない仲間の名前が飛び出した。それも下の名で。なんで、どうして、が頭の中を駆け巡る。
ふと。そう言えば忍足は彼女と友達宣言をしていたのを思い出した。あれはマジだったのか、と岳人は唖然とする。
「まあ、その、よく分かんねえんだけど行こうぜ」
とりあえず学食に行こう、という懸命な判断に至った。彼女がだんだん表情を強ばらせたから。ここで自分が問い詰めるよりも仲間と一緒に聞いたほうがいいと踏んだのだ。学食までの道程は一切の会話もせずに歩いた。琴璃は自前の弁当箱を持って、岳人の斜め後ろを歩いている。なかなかの気まずい空気感だった。
ようやく学食につくと、既に忍足とジローが席を確保していた。
「おー来た来た、こっちやで」
「今日宍戸は来ないってさー。……その子、誰?」
ジローが早速琴璃の存在に気付く。
「同じクラスのヤツだけど……」
岳人はちらりと忍足を見た。呑気に緑茶なんか飲んでいる。早く説明しろよ、という岳人の視線をわざと無視している。それに応えるように、琴璃が弁当箱を机に置いて一歩前に出た。
「藤白琴璃です。よろしくお願いします」
「ほえ?よろしく。………まさか、まさかまさかまさか!岳人の……!?」
「っ、ちげ――――」
「今日はいつもお昼食べてくれるクラスの子が休みで、侑士くんが一緒に食べないかって、誘ってくれました。あの……一緒に食べてもいいですか?」
「ははは!岳人だけ舞い上がっとるわ。琴璃ちゃん、ナイスな切り返しやったで」
忍足が笑いながら隣の椅子を引いた。どうぞ、と言われた琴璃は控えめにそこに座る。
「待って待って、情報が追い付かない。忍足と知り合い?しかも今、侑士くんって言った?」
さっきまでの岳人と同じような反応を今度はジローが見せる。聞きたい事が一気に押し寄せてきて軽く混乱している。
「侑士くんは氷帝に来て初めてのお友達です。転校してきて、その……いろいろ困ってたら助けてもらって、それから友達になりました」
「転校?……あれ、それってもしかして岳人が言ってた---」
「おいっ、ジロー」
すかさず横から岳人が割り込んでジローを止めた。岳人の、琴璃への第一印象は最悪だった件を暴露されたら困る。まさかそんな彼女と昼飯を食べるとは夢にも思わなかった。
「かわええやろ?琴璃ちゃん」
「うんうん、かわいい!俺はジローって呼んでね!」
琴璃は返事をするように笑ってみせた。けれどまだ緊張している。忍足に見せた時のような笑い方ではない。
「琴璃ちゃん、緊張しなくてええで。悪いヤツらではないから」
「何だよその言い草はよ!」
「よろしく、向日くん」
「あ、……おー」
「岳人の事も下の名前で呼んだって。めっさ喜ぶから」
「侑士てめえ……!」
友達として紹介しやすい男子生徒を考えた時に、真っ先に浮かんだのがこの2人だった。彼らなら細かい事気にせずに接してくれる。自慢の仲間。
「クラスは慣れたん?」
「うん、だいぶ。氷帝って広いね。教室がいっぱいあって迷っちゃいそう」
「そりゃーね。前の学校はここまででかくなかったでしょ?つかさ、琴璃ちゃんはなんで転校してきたの?」
ジローが直球の質問をぶつける。なんて言おう。琴璃は素直に答えるべきか困った。大体の人はきっと理解し難い理由だ。
「こら、そないデリケートな質問責めすんなて。質問すんならもっとこう、親睦を深められるような事聞かんと」
「えー。たとえば?」
「好きな食べ物とか、好きな色とか好きな芸能人とか場所とか本とか。ぎょーさんあるやろ」
「うげー。忍足の方ががっついてんじゃん」
「侑士が聞くと合コンみてーだな」
皆のやりとりを琴璃は笑って聞いていた。仲の良さが伝わってくる。こないだ中庭で見かけたように、忍足は信頼されてるのだなと思った。
「琴璃ちゃんはお弁当なんだ。自分で作ってきてんの?」
「あ、うん。たいしたもの入ってないんだけど」
ジローが覗き込む小ぶりな弁当箱は、いかにも女の子らしいサイズ感だ。
「あ、それ卵焼きじゃん!いーなー。俺のと交換しよ!」
ジローが高々と、楊枝にさした学食唐揚げを掲げて見せてる。琴璃は戸惑った。自信がない。卵焼きの味ではなく、これを受け取っても大丈夫か。反動で電気を引き起こさないかどうか、が。静電気くらいのレベルで収まるかの自信がない。
「アホ。女の子の弁当にたかるなんてダサい真似すんなや」
「あー俺のからあげ!」
どうしようと困っていたら、横から忍足の手が伸びてきて唐揚げを奪いとる。そのまま平然と口の中に入れてしまった。琴璃には分かった。彼がさりげなくフォローしてくれたんだと。
こうやって、忍足がまた助けてくれる。琴璃は忍足に対して感謝と、申し訳ない気持ちになった。あとは、男子生徒とご飯が食べられた事が純粋に嬉しかった。それは忍足が居てくれたから成し得たのだけど。
昼休みはあっという間に終わり、琴璃と岳人は同じクラスのため一緒に教室に帰っていった。
「ねえ。本当はなんなの?琴璃ちゃんと知り合ったワケ」
「なんやジローいきなり」
残った2人も各々の教室へ戻ろうとする時に、ジローが忍足を引き留めた。
「だっておかしーじゃん、友達なんて。クラスも別だしなんの接点もないのにさ。なんかしたの?怪しーこと?」
「ちゃうわ」
忍足が笑いながらジローを軽くどつく。
「転校生ってそれだけで気ぃ使うのに、あの子はその他にもいろいろ背負っとんのや」
「いろいろって、何?」
「それは追々、な。せやからジローも仲良くしたって。琴璃ちゃん女子テニに入るらしいから顔合わすこともあるやろうし」
「ふーん」
教えてもらえなくてジローは少し納得がいかないようだ。
「なんか大切にしてんだね、忍足」
忍足は何も答えなかった。代わりに静かに笑みを浮かべる。それは肯定と取れる顔つきだった。
友達に秘密を作るほど、彼は彼女を大切にしている。ジローは親友の珍しい一面を見た。
「あ?」
授業終了のチャイムと同時にクラスメイトたちはぞろぞろ教室から出ていく。その音に殆ど負けていた声が、かろうじて耳に届いた。振り向くと、自分を呼んだのは後ろの席の琴璃だと知った。
「あの、お昼休みっていつも学食で食べてるの?」
「そうだけど……なんでだよ」
「わたしも今日行ってもいいかな。侑士くんが、一緒に食べないかって誘ってくれたの」
「お?」
まず。彼女に話しかけられたのが初めてだった。岳人は数秒間固まる。何の用かと思えばまさかの昼食の誘い。極めつけに、思っても見ない仲間の名前が飛び出した。それも下の名で。なんで、どうして、が頭の中を駆け巡る。
ふと。そう言えば忍足は彼女と友達宣言をしていたのを思い出した。あれはマジだったのか、と岳人は唖然とする。
「まあ、その、よく分かんねえんだけど行こうぜ」
とりあえず学食に行こう、という懸命な判断に至った。彼女がだんだん表情を強ばらせたから。ここで自分が問い詰めるよりも仲間と一緒に聞いたほうがいいと踏んだのだ。学食までの道程は一切の会話もせずに歩いた。琴璃は自前の弁当箱を持って、岳人の斜め後ろを歩いている。なかなかの気まずい空気感だった。
ようやく学食につくと、既に忍足とジローが席を確保していた。
「おー来た来た、こっちやで」
「今日宍戸は来ないってさー。……その子、誰?」
ジローが早速琴璃の存在に気付く。
「同じクラスのヤツだけど……」
岳人はちらりと忍足を見た。呑気に緑茶なんか飲んでいる。早く説明しろよ、という岳人の視線をわざと無視している。それに応えるように、琴璃が弁当箱を机に置いて一歩前に出た。
「藤白琴璃です。よろしくお願いします」
「ほえ?よろしく。………まさか、まさかまさかまさか!岳人の……!?」
「っ、ちげ――――」
「今日はいつもお昼食べてくれるクラスの子が休みで、侑士くんが一緒に食べないかって、誘ってくれました。あの……一緒に食べてもいいですか?」
「ははは!岳人だけ舞い上がっとるわ。琴璃ちゃん、ナイスな切り返しやったで」
忍足が笑いながら隣の椅子を引いた。どうぞ、と言われた琴璃は控えめにそこに座る。
「待って待って、情報が追い付かない。忍足と知り合い?しかも今、侑士くんって言った?」
さっきまでの岳人と同じような反応を今度はジローが見せる。聞きたい事が一気に押し寄せてきて軽く混乱している。
「侑士くんは氷帝に来て初めてのお友達です。転校してきて、その……いろいろ困ってたら助けてもらって、それから友達になりました」
「転校?……あれ、それってもしかして岳人が言ってた---」
「おいっ、ジロー」
すかさず横から岳人が割り込んでジローを止めた。岳人の、琴璃への第一印象は最悪だった件を暴露されたら困る。まさかそんな彼女と昼飯を食べるとは夢にも思わなかった。
「かわええやろ?琴璃ちゃん」
「うんうん、かわいい!俺はジローって呼んでね!」
琴璃は返事をするように笑ってみせた。けれどまだ緊張している。忍足に見せた時のような笑い方ではない。
「琴璃ちゃん、緊張しなくてええで。悪いヤツらではないから」
「何だよその言い草はよ!」
「よろしく、向日くん」
「あ、……おー」
「岳人の事も下の名前で呼んだって。めっさ喜ぶから」
「侑士てめえ……!」
友達として紹介しやすい男子生徒を考えた時に、真っ先に浮かんだのがこの2人だった。彼らなら細かい事気にせずに接してくれる。自慢の仲間。
「クラスは慣れたん?」
「うん、だいぶ。氷帝って広いね。教室がいっぱいあって迷っちゃいそう」
「そりゃーね。前の学校はここまででかくなかったでしょ?つかさ、琴璃ちゃんはなんで転校してきたの?」
ジローが直球の質問をぶつける。なんて言おう。琴璃は素直に答えるべきか困った。大体の人はきっと理解し難い理由だ。
「こら、そないデリケートな質問責めすんなて。質問すんならもっとこう、親睦を深められるような事聞かんと」
「えー。たとえば?」
「好きな食べ物とか、好きな色とか好きな芸能人とか場所とか本とか。ぎょーさんあるやろ」
「うげー。忍足の方ががっついてんじゃん」
「侑士が聞くと合コンみてーだな」
皆のやりとりを琴璃は笑って聞いていた。仲の良さが伝わってくる。こないだ中庭で見かけたように、忍足は信頼されてるのだなと思った。
「琴璃ちゃんはお弁当なんだ。自分で作ってきてんの?」
「あ、うん。たいしたもの入ってないんだけど」
ジローが覗き込む小ぶりな弁当箱は、いかにも女の子らしいサイズ感だ。
「あ、それ卵焼きじゃん!いーなー。俺のと交換しよ!」
ジローが高々と、楊枝にさした学食唐揚げを掲げて見せてる。琴璃は戸惑った。自信がない。卵焼きの味ではなく、これを受け取っても大丈夫か。反動で電気を引き起こさないかどうか、が。静電気くらいのレベルで収まるかの自信がない。
「アホ。女の子の弁当にたかるなんてダサい真似すんなや」
「あー俺のからあげ!」
どうしようと困っていたら、横から忍足の手が伸びてきて唐揚げを奪いとる。そのまま平然と口の中に入れてしまった。琴璃には分かった。彼がさりげなくフォローしてくれたんだと。
こうやって、忍足がまた助けてくれる。琴璃は忍足に対して感謝と、申し訳ない気持ちになった。あとは、男子生徒とご飯が食べられた事が純粋に嬉しかった。それは忍足が居てくれたから成し得たのだけど。
昼休みはあっという間に終わり、琴璃と岳人は同じクラスのため一緒に教室に帰っていった。
「ねえ。本当はなんなの?琴璃ちゃんと知り合ったワケ」
「なんやジローいきなり」
残った2人も各々の教室へ戻ろうとする時に、ジローが忍足を引き留めた。
「だっておかしーじゃん、友達なんて。クラスも別だしなんの接点もないのにさ。なんかしたの?怪しーこと?」
「ちゃうわ」
忍足が笑いながらジローを軽くどつく。
「転校生ってそれだけで気ぃ使うのに、あの子はその他にもいろいろ背負っとんのや」
「いろいろって、何?」
「それは追々、な。せやからジローも仲良くしたって。琴璃ちゃん女子テニに入るらしいから顔合わすこともあるやろうし」
「ふーん」
教えてもらえなくてジローは少し納得がいかないようだ。
「なんか大切にしてんだね、忍足」
忍足は何も答えなかった。代わりに静かに笑みを浮かべる。それは肯定と取れる顔つきだった。
友達に秘密を作るほど、彼は彼女を大切にしている。ジローは親友の珍しい一面を見た。