誰かの何かになれたなら
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春休みに入ると一気に学校内は静かになる。先週で3年の先輩も卒業し、来月からは最終学年になるということが、どこか他人事のように感じていた。今以上に進路とか未来のことを意識するようになるのだろうか。正直今はあまりイメージができないから、いつもと変わらずテニスに打ち込む。今日も立海テニス部は朝早くから活動していた。
誰かを見送る“別れ”のための3月。まだ知らない誰かと“出会う”のが4月。同じ春という季節なのに、ひと月変わるだけで雰囲気も空気もまるで違う。
幸村は3月が好きだ。誕生月だからという理由ではなくて、静かでどこか名残を含んでいる空気がもともと好きだった。冬を乗り越え植物が芽吹く時期。花も一斉に咲いて景色が華やかになる。特に代表的なのはやはり桜の開花だろうか。普段花なんかに興味ない丸井や切原でさえ、桜の樹を見て「すげー」とか「やべぇ」とか言っている。単純で薄っぺらい感想であっても、どんな相手にも桜の花は静かに存在感を見せつけている。
立海の敷地内にも桜の樹がそれなりにある。最近は開花時期がどんどん早くなっていき、3月半ばに入った今でもうだいぶ蕾が開き、満開のタイミングを迎えようとしていた。
儚くて小さな花を沢山つけた枝が、風が吹くたびに揺れている。花弁がひらひらゆっくり落ちてくる様子はいつまでも見ていられる気がする。春の陽を浴びて、桜の花に囲まれてテニスができるこの時期がとても好きだ。この、僅か数週間にも満たない期間が貴重に思えるから、部活が始まる前も終わってからも、幸村は暇さえあれば桜を携帯で撮っていた。
「つかさ、おんなじの撮ってて飽きねーの?そんないっぱい撮って、あとでベストショット絞るのむずくね?」
携帯を構える幸村の背に声がかかる。水を挿すような言い方で丸井が絡んできたが、気分が萎えることもない。桜のお陰かもしれない。
「どれも違うんだよ。どれも、綺麗に咲いているからとっておきたいんだ」
「そんなんじゃすぐフォルダパンクするんじゃないスか」
丸井に続いて、花の写真になどまるで興味なさそうな切原も会話に入ってきた。花なんて何が面白いんだという口調。桜が咲き始めた頃こそ綺麗だと言っていたのに、今じゃほとんど空を見上げもしない。
でも、切原の言うことはごもっともだ。今はまだ平気でも、こんなペースで撮っていてはあっという間に容量がいっぱいになってしまう。
「じゃーさ、SNSにあげたら?ほぼ無限にアップできるし、あとで見返すのもラクだし」
「そーっすよ、それいい案」
「そんな簡単に言わないでくれよ」
なにせ幸村は、こういった動画や画像を投稿して共有し合う類いのものがあまり好きじゃなかった。だから今の今までSNSというものを敬遠していたのだ。使いこなすもあながち簡単とは言い切れない。そういう部分では真田と共感できるなと思った。
「簡単だって。最初ちょっと設定とか登録して、あとは好きなようにあげりゃいいんだからさ。別に、バズりたいとかそーゆう願望ないだろ?幸村くんは」
「まあ、うん」
「日記とかアルバムだと思ってやりゃいーって」
ならば紙の日記帳やアルバムを作成すればいいのではないか。そのほうが自分に合っている自覚がある。けれど携帯ひとつでできるSNSはもっと手軽で、いつでもどこでも記録を残せるのが強みなのは幸村でも分かる。
「まだなんか不安?」
「うーん、色々設定みたいなのをするのがどうも手間でめんどくさいんだよね」
「んじゃ、俺が登録までしてやるよ」
あまり乗り気ではない幸村に向かって、「ほら」と丸井は手のひらを見せてくる。これはもうデビュー確定らしい。言われるがまま幸村は丸井に携帯を渡すと、彼は慣れた手つきでアプリをインストールし始めた。
「メアドとアカウントとパスワードだけだぜ?あとの情報登録なんてほっときゃいいんだって」
「アカウント」
「そうそう。名前みたいなもん。どうする?本名でいい?」
「みんなはどうしてるの?」
「俺は本名でやってるっス」
「ちなみに本名でやると、友達が見つけてくれやすくなるってのがメリットだな」
「友達?」
「よーするに、スマホの連絡先に入ってる人が、同じSNSやってたら勝手に浮き上がってくるんスよ。ほら、今、幸村ぶちょーの画面にも俺らのが出てきたっしょ。これが、俺」
切原が、画面に出てきた何かのキャラクターらしきアイコンを指差す。真っ赤な舌を出していてなんだか不気味だった。
「その下の、“bun_bun”……から始まってるのが俺。ま、本名でなくとも番号知ってるとこうやって入ってきちまうんだけどよ。晒したくなきゃ設定でオフにしときゃ平気。あとで何とでもなる」
丸井が、リストみたいなものの中からいくつかのアカウント名を指差す。
「おー、めっちゃ友達いるじゃん幸村くん」
「まあ、それなりに連絡先入ってるからかな」
ということは、幸村と連絡先を交換している人間でSNSを利用している相手はこんなにもいるのか。考えてみたら、同じ世代の知り合いで利用していない人間のほうが割合的に少ないのかもしれない。テニス部レギュラーの中で、まだ自分と同じく疎い人間はどれくらいいるのだろう。真田と自分だけだったら、なんだか嫌だなと思った。
「ん?……ねぇ先輩、これ、跡部サンじゃないっスか?」
「え」
「んー?どれだよ」
「これっス」
切原が指差したとあるアカウントを丸井がタップした。現れたページにでかでかと映っている人物。正真正銘、氷帝の跡部だった。理由は全く分からないが、紙吹雪を浴びてステージの真ん中でキメポーズをとっている写真だった。
『準備を重ね、本日無事に開催することができた。
日頃の努力の賜物だ。
この先も未来永劫俺様についてきな。
Berausch dich an meiner makellosen Kunst.』
「……うわあ」
「なんスか、これ」
「知らねー……。なんか氷帝で祭りでもあったんじゃね?ジロくんにあとで聞いてみっか」
「いや、いいよ。それより俺、こんなふうにみんなに知られるのやだなぁ。もっと穏やかに、静かにやりたいよ。別に誰かに見せびらかすようなものを投稿しないから。あくまでも自分のためにやりたいんだよ」
「んーじゃあ本名避けたほうがいいな。ニックネームとかにしといたほうが身バレしなさそうだな。どうする?幸村くん」
「うん……まかせる」
「じゃーもう適当に決めちゃうぜ?」
もうこの時点で幸村はめんどくさくなっていた。あれこれ下準備が多すぎてすでに疲れてしまった。
丸井の説明を半分耳に入れながら幸村は思った。やっぱり紙の日記帳なら、表紙を1枚捲ってすぐに今日の出来事を書き出せるのにな。
プライバシー設定のあたりをしっかりしてもらい、2人の先生から簡単なレクチャーを受けてから、幸村は試しに今日撮った桜の写真をアップロードした。数分後、記念すべき最初の幸村の投稿に、どこの誰かも分からない人が“イイネ”を押してくれた。新鮮な気持ちだった。自分の撮った何気ない1枚が誰かに届いたということだ。顔も見えないどこかの誰かが、自分の撮った桜の写真に感動してくれたということなのか。自分のためにやってみようと思い立ったのに、こうやってどっかの誰かが見ていてくれる。それは不思議と心地のいいものだった。
家に帰ってから、幸村は今日撮った残りの桜の写真をアップした。1つの画面で写真を一覧で見ると、ピンク色の画像がずらりと並んでいる。はっきり言って面白味はない。夕飯を食べ入浴をすませてから再び携帯画面を開いてみた。ふと、冷静に見返してみたら、違いがあまり分からない。丸井に、どれも同じ写真と言われても仕方がないなと思った。
だが、驚くことにそのアップロードした30枚近くもの写真すべてに“イイネ”がされていたのだった。夕飯前には起きていなかった現象。反応をくれたのはどれも同じアイコンだから同じ人物ということか。桜の花弁が水たまりに落ちてるアイコン画像だった。アカウント名は“琴璃”。知らない人だ。女性ということしか分からない。けれどそれも確かなのか分からない。なんとなく雰囲気でそう思っただけだった。
たまたま幸村が連続して一気に投稿したのを見つけて、あちらも一気にイイネをしてくれたのか。
寝る前に幸村は懲りずにまた同じような桜の写真をアップした。翌朝“新規イイネ獲得”の通知が来ていた。昨夜の彼女がまた、代り映えしない桜の投稿に反応してくれた知らせだった。
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公式幸村くんはSNSに関して特に悪い印象を持ってないですが、このお話はそこらへんの設定を都合よくいじらせてもらいますm(__)mご了承ください。
今回、友情出演(?)して3人をドン引きさせた跡部さんはアニメ仕様でお送りしました。イメージは『跡部からの贈り物~キミに捧げるテニプリ祭り~』という、あの伝説の映画の跡部さんです。派手にSNSやってそう。フォロワー100万人とか普通にいそう。
ちなみに文中のドイツ語は“俺様の美技に酔いな”です。
誰かを見送る“別れ”のための3月。まだ知らない誰かと“出会う”のが4月。同じ春という季節なのに、ひと月変わるだけで雰囲気も空気もまるで違う。
幸村は3月が好きだ。誕生月だからという理由ではなくて、静かでどこか名残を含んでいる空気がもともと好きだった。冬を乗り越え植物が芽吹く時期。花も一斉に咲いて景色が華やかになる。特に代表的なのはやはり桜の開花だろうか。普段花なんかに興味ない丸井や切原でさえ、桜の樹を見て「すげー」とか「やべぇ」とか言っている。単純で薄っぺらい感想であっても、どんな相手にも桜の花は静かに存在感を見せつけている。
立海の敷地内にも桜の樹がそれなりにある。最近は開花時期がどんどん早くなっていき、3月半ばに入った今でもうだいぶ蕾が開き、満開のタイミングを迎えようとしていた。
儚くて小さな花を沢山つけた枝が、風が吹くたびに揺れている。花弁がひらひらゆっくり落ちてくる様子はいつまでも見ていられる気がする。春の陽を浴びて、桜の花に囲まれてテニスができるこの時期がとても好きだ。この、僅か数週間にも満たない期間が貴重に思えるから、部活が始まる前も終わってからも、幸村は暇さえあれば桜を携帯で撮っていた。
「つかさ、おんなじの撮ってて飽きねーの?そんないっぱい撮って、あとでベストショット絞るのむずくね?」
携帯を構える幸村の背に声がかかる。水を挿すような言い方で丸井が絡んできたが、気分が萎えることもない。桜のお陰かもしれない。
「どれも違うんだよ。どれも、綺麗に咲いているからとっておきたいんだ」
「そんなんじゃすぐフォルダパンクするんじゃないスか」
丸井に続いて、花の写真になどまるで興味なさそうな切原も会話に入ってきた。花なんて何が面白いんだという口調。桜が咲き始めた頃こそ綺麗だと言っていたのに、今じゃほとんど空を見上げもしない。
でも、切原の言うことはごもっともだ。今はまだ平気でも、こんなペースで撮っていてはあっという間に容量がいっぱいになってしまう。
「じゃーさ、SNSにあげたら?ほぼ無限にアップできるし、あとで見返すのもラクだし」
「そーっすよ、それいい案」
「そんな簡単に言わないでくれよ」
なにせ幸村は、こういった動画や画像を投稿して共有し合う類いのものがあまり好きじゃなかった。だから今の今までSNSというものを敬遠していたのだ。使いこなすもあながち簡単とは言い切れない。そういう部分では真田と共感できるなと思った。
「簡単だって。最初ちょっと設定とか登録して、あとは好きなようにあげりゃいいんだからさ。別に、バズりたいとかそーゆう願望ないだろ?幸村くんは」
「まあ、うん」
「日記とかアルバムだと思ってやりゃいーって」
ならば紙の日記帳やアルバムを作成すればいいのではないか。そのほうが自分に合っている自覚がある。けれど携帯ひとつでできるSNSはもっと手軽で、いつでもどこでも記録を残せるのが強みなのは幸村でも分かる。
「まだなんか不安?」
「うーん、色々設定みたいなのをするのがどうも手間でめんどくさいんだよね」
「んじゃ、俺が登録までしてやるよ」
あまり乗り気ではない幸村に向かって、「ほら」と丸井は手のひらを見せてくる。これはもうデビュー確定らしい。言われるがまま幸村は丸井に携帯を渡すと、彼は慣れた手つきでアプリをインストールし始めた。
「メアドとアカウントとパスワードだけだぜ?あとの情報登録なんてほっときゃいいんだって」
「アカウント」
「そうそう。名前みたいなもん。どうする?本名でいい?」
「みんなはどうしてるの?」
「俺は本名でやってるっス」
「ちなみに本名でやると、友達が見つけてくれやすくなるってのがメリットだな」
「友達?」
「よーするに、スマホの連絡先に入ってる人が、同じSNSやってたら勝手に浮き上がってくるんスよ。ほら、今、幸村ぶちょーの画面にも俺らのが出てきたっしょ。これが、俺」
切原が、画面に出てきた何かのキャラクターらしきアイコンを指差す。真っ赤な舌を出していてなんだか不気味だった。
「その下の、“bun_bun”……から始まってるのが俺。ま、本名でなくとも番号知ってるとこうやって入ってきちまうんだけどよ。晒したくなきゃ設定でオフにしときゃ平気。あとで何とでもなる」
丸井が、リストみたいなものの中からいくつかのアカウント名を指差す。
「おー、めっちゃ友達いるじゃん幸村くん」
「まあ、それなりに連絡先入ってるからかな」
ということは、幸村と連絡先を交換している人間でSNSを利用している相手はこんなにもいるのか。考えてみたら、同じ世代の知り合いで利用していない人間のほうが割合的に少ないのかもしれない。テニス部レギュラーの中で、まだ自分と同じく疎い人間はどれくらいいるのだろう。真田と自分だけだったら、なんだか嫌だなと思った。
「ん?……ねぇ先輩、これ、跡部サンじゃないっスか?」
「え」
「んー?どれだよ」
「これっス」
切原が指差したとあるアカウントを丸井がタップした。現れたページにでかでかと映っている人物。正真正銘、氷帝の跡部だった。理由は全く分からないが、紙吹雪を浴びてステージの真ん中でキメポーズをとっている写真だった。
『準備を重ね、本日無事に開催することができた。
日頃の努力の賜物だ。
この先も未来永劫俺様についてきな。
Berausch dich an meiner makellosen Kunst.』
「……うわあ」
「なんスか、これ」
「知らねー……。なんか氷帝で祭りでもあったんじゃね?ジロくんにあとで聞いてみっか」
「いや、いいよ。それより俺、こんなふうにみんなに知られるのやだなぁ。もっと穏やかに、静かにやりたいよ。別に誰かに見せびらかすようなものを投稿しないから。あくまでも自分のためにやりたいんだよ」
「んーじゃあ本名避けたほうがいいな。ニックネームとかにしといたほうが身バレしなさそうだな。どうする?幸村くん」
「うん……まかせる」
「じゃーもう適当に決めちゃうぜ?」
もうこの時点で幸村はめんどくさくなっていた。あれこれ下準備が多すぎてすでに疲れてしまった。
丸井の説明を半分耳に入れながら幸村は思った。やっぱり紙の日記帳なら、表紙を1枚捲ってすぐに今日の出来事を書き出せるのにな。
プライバシー設定のあたりをしっかりしてもらい、2人の先生から簡単なレクチャーを受けてから、幸村は試しに今日撮った桜の写真をアップロードした。数分後、記念すべき最初の幸村の投稿に、どこの誰かも分からない人が“イイネ”を押してくれた。新鮮な気持ちだった。自分の撮った何気ない1枚が誰かに届いたということだ。顔も見えないどこかの誰かが、自分の撮った桜の写真に感動してくれたということなのか。自分のためにやってみようと思い立ったのに、こうやってどっかの誰かが見ていてくれる。それは不思議と心地のいいものだった。
家に帰ってから、幸村は今日撮った残りの桜の写真をアップした。1つの画面で写真を一覧で見ると、ピンク色の画像がずらりと並んでいる。はっきり言って面白味はない。夕飯を食べ入浴をすませてから再び携帯画面を開いてみた。ふと、冷静に見返してみたら、違いがあまり分からない。丸井に、どれも同じ写真と言われても仕方がないなと思った。
だが、驚くことにそのアップロードした30枚近くもの写真すべてに“イイネ”がされていたのだった。夕飯前には起きていなかった現象。反応をくれたのはどれも同じアイコンだから同じ人物ということか。桜の花弁が水たまりに落ちてるアイコン画像だった。アカウント名は“琴璃”。知らない人だ。女性ということしか分からない。けれどそれも確かなのか分からない。なんとなく雰囲気でそう思っただけだった。
たまたま幸村が連続して一気に投稿したのを見つけて、あちらも一気にイイネをしてくれたのか。
寝る前に幸村は懲りずにまた同じような桜の写真をアップした。翌朝“新規イイネ獲得”の通知が来ていた。昨夜の彼女がまた、代り映えしない桜の投稿に反応してくれた知らせだった。
===============================================================
公式幸村くんはSNSに関して特に悪い印象を持ってないですが、このお話はそこらへんの設定を都合よくいじらせてもらいますm(__)mご了承ください。
今回、友情出演(?)して3人をドン引きさせた跡部さんはアニメ仕様でお送りしました。イメージは『跡部からの贈り物~キミに捧げるテニプリ祭り~』という、あの伝説の映画の跡部さんです。派手にSNSやってそう。フォロワー100万人とか普通にいそう。
ちなみに文中のドイツ語は“俺様の美技に酔いな”です。
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