恋情アンチノミー
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「うどん、食べに行きませんか」
怒鳴られた翌日だというのに、何事もなかったかのように彼女は3年の教室に現れた。流石の忍足もこれには固まる。昼休みになって目の前に現れた琴璃が、机を挟んで仁王立ちして忍足のことを見つめている。聞き間違いでなければ今、彼女は自分にうどんを食べようと言ったのだ。
「別に、うどんじゃなくても食べたいもの食べるんでいいんですけど」
「えっと、そうやなくて」
言いかけようとした。でも、それ以上は言わなかった。食べに行こうと誘ってきた彼女の表情は、昨日とうって変わって沈んだ暗い顔をしていた。お通夜かいな、と思った。
思えばいつも自分に向けてくる顔は、険しいものか疑念の目をしているかのどちらかだった。けれど今は申し訳なさそうな顔をしている。その表情でもう、謝罪を訴えてきている。昨日の威勢は全く無い。
「ええで。ほな、行こか」
だから、忍足は何も深く聞かずに了承した。誘ってきたというのに、琴璃はとぼとぼした足取りで忍足のあとをついてくる。昨日といい今日といい、言ってることと中身が裏腹すぎて笑いたくなる。こんなにツッコミ甲斐のある子は初めてやな、と呑気に考えながら食堂に向かった。そして、うどんの乗ったお盆を置き、席につくと琴璃はまっすぐ忍足に向って頭を垂れてきた。
「昨日は酷いことを言ってすみませんでした。仮にも先輩に向かってきいていい口じゃなかったと反省してます」
「仮にも、は余計なんとちゃう?ま、ええけど。俺なんも気にしてへんで?それよりこうやって自分のほうから昼誘ってくれたことにびっくりしとるわ。昨日で完全に嫌われたかと思ったんに」
「別に……嫌うとかないです」
それだけ言って、琴璃は黙りこくる。視線はずっと、手元の箸に落としている。今日も均等に割れなかった歪な割り箸をずっと見つめている。
「ま、とりあえず食べよか。うどん伸びてまうよ」
「……はい」
忍足も琴璃も、こないだと同じものを選んだ。琴璃から誘われた昼食だけど、そこはやはり先輩で男だから、普通に奢ってあげた。琴璃はこんな性格だから連続して奢られることを頑なに拒んだのだが、「言うこときかんと大声出すで」という子供みたいな冗談を言ったらようやく彼女が折れた。
食べている間はなんの会話も生まれなかった。そこまで気まずいわけじゃないけれど、なんだか不思議な空気だった。美味しいはずなのに味わえない。琴璃の心理が読めないことと大いに関係している。思いがけない彼女の行動にますます疑問は募る。何をもって彼女は昼食を誘ってきたのだろうか。そんなことを考えながらのうどん完食だった。忍足よりも数分遅れて琴璃が完食した。残されたコップの中の水を一気飲みすると、真っすぐ忍足のことを見つめてきた。
「ご馳走様でした。それと、好きでした。じゃ」
「いやいやいやいや、いやいやいやいや。ちょい、待ちぃ」
こんなところで自分が関西人で良かったと思った。忍足は素晴らしき反射神経でつっこみを入れ、去ろうとする琴璃の腕を掴んだ。そのまま茫然としていたら逃がすところだった。退散に失敗した琴璃は困ったように眉を下げる。取り合えずもう一度座るように促すと、琴璃は素直に従った。
「言い逃げはアカンやろ」
「でも、別に返事とか欲しいわけじゃないんで」
「いや、そういうの一旦置いといて。まず、なんで過去形?もう俺のこと好きやないって意味?」
「そう……だと思います」
「え、うそ。ホンマに?」
「……はい」
頷くけれど、相変わらず彼女は浮かない表情をしている。顔は思いきり否定しているではないか。そんな嘘が忍足に通用するわけなかった。本当に自分のことが好きじゃないのならば、こんなふうに未練がましい顔になるものか。言うだけ言って、勢いでやり過ごしてしまおうだなんて。そんなやり口が俺に通用すると思ったんか。追い詰められた顔のまま、さっきからずっと視線を泳がせている琴璃。忍足は一瞬呆れかけた。けれど不器用すぎるその性格を思うと、それさえも彼女の愛嬌なのだなと謎に納得してしまう自分がいた。こんなにも振り回されたんは初めてやわ。思いながらも、俺も大概やな、と呟く。
「そっかそっか。ありがとお」
忍足は優しく言うと、琴璃の頭に手を優しく乗せた。途端に彼女は泣きそうに顔を歪める。そういう顔もできるんやな、と思った。
「じゃあ……」
再びゆっくり立ち上がろうとする琴璃だが、忍足はいま一度制する。
「待って。まだ終わっとらん。俺の話も聞いて」
「……何です?」
琴璃は目を真っ赤にさせて忍足を見つめ返す。彼女の必死すぎる形相に、こちらもこみ上げてくる笑いを我慢するのに必死になる。噴き出しそうなのをどうにか堪えながら、なんてことのないように言った。
「好き」
「……誰が」
「俺が」
「誰を」
「琴璃ちゃんを」
「………………なんで」
「理由は、まだよう分からん。そのうち分かるんとちゃう?今気づいたことやから、そこまで深く考えてられんわ」
「じゃ、それ嘘ですよ。思い過ごしです」
「はぁ?なんでやねん」
「一種の気の迷いってやつです」
「あんなぁ」
人の好意を頑なに寄せ付けない。素直に気持ちを表現できない。きっとそれは、無意識にバリアを張っているのだろう。傷つきたくないが故に、わざと彼女は距離をとろうとする。頑固で大真面目で、冗談のひとつも通じないけれど、本当はとても臆病な性格。そんな彼女に惹かれているなんて、やっぱり理屈なんかじゃ到底説明できないのだ。
「アカン、やっぱり一筋縄じゃいかんか。せやけど困ったなぁ。どうしたら信じてくれるん?」
「そんなこと言われましても」
「だって、信じてへんのやろ?」
「そりゃあ……」
「じゃあ、キスでもする?」
「……きっ」
「ははは。ウソ、ウソ。ウソやって。なぁ、ほんとにジョークやから。頼むからそんな怖い顔で睨まんといて。本気で凹むから」
満更冗談でもなかったのだが、こういう“ノリ”を嫌う子だというのを思い出す。何でも軽々しく言葉にすることを嫌がる子。そんな彼女が、一生懸命勇気を出して好きだと伝えてくれたのだ。意地を張って過去形にされたけど、それでもちゃんと気持ちは届いている。こんなにも迷惑そうな顔をして自分のことを見ているけど、この子は内心とっても喜んでる。その確信があった。顔や仕草からじゃ決して見破れない、彼女の本心を見透かすことは、複雑で難解で、時には矛盾めいたものさえ見えるけど。それでも、俺だけは分かっとんねん。忍足は心の内で自負する。
「ほな。これからも1つよろしゅう」
「はぁ……」
困惑気味に琴璃は返事をする。なんだか立場が逆になっている気がするのは否めない。だって、もともとは彼女から忍足のことを好きになってくれたのに。今の状況は誰がどう見ても、忍足のほうが琴璃に言い寄っているように見える。
「アイス、いる?」
「いいんですか?」
「ええで。ご馳走したる」
「ありがとうございます」
「ほんなら、キスは?」
「結構です」
「さいですか」
いつか、この子の牙城を崩せる日が来るだろうか。来なくちゃ困る。そしてそれができた時、琴璃はいったいどんなふうに笑顔を向けてくれるのか。想像したら案外可愛かった。つい、顔に出てしまっていたようで、「何ニヤついてるんですか」と冷たく言い放たれた。俺の彼女はまだまだ、手厳しい。
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あの曲中のあの歌詞を、会話のなかで言ってほしくて生まれた妄想でした。
モテる男は大変だろうなぁ
怒鳴られた翌日だというのに、何事もなかったかのように彼女は3年の教室に現れた。流石の忍足もこれには固まる。昼休みになって目の前に現れた琴璃が、机を挟んで仁王立ちして忍足のことを見つめている。聞き間違いでなければ今、彼女は自分にうどんを食べようと言ったのだ。
「別に、うどんじゃなくても食べたいもの食べるんでいいんですけど」
「えっと、そうやなくて」
言いかけようとした。でも、それ以上は言わなかった。食べに行こうと誘ってきた彼女の表情は、昨日とうって変わって沈んだ暗い顔をしていた。お通夜かいな、と思った。
思えばいつも自分に向けてくる顔は、険しいものか疑念の目をしているかのどちらかだった。けれど今は申し訳なさそうな顔をしている。その表情でもう、謝罪を訴えてきている。昨日の威勢は全く無い。
「ええで。ほな、行こか」
だから、忍足は何も深く聞かずに了承した。誘ってきたというのに、琴璃はとぼとぼした足取りで忍足のあとをついてくる。昨日といい今日といい、言ってることと中身が裏腹すぎて笑いたくなる。こんなにツッコミ甲斐のある子は初めてやな、と呑気に考えながら食堂に向かった。そして、うどんの乗ったお盆を置き、席につくと琴璃はまっすぐ忍足に向って頭を垂れてきた。
「昨日は酷いことを言ってすみませんでした。仮にも先輩に向かってきいていい口じゃなかったと反省してます」
「仮にも、は余計なんとちゃう?ま、ええけど。俺なんも気にしてへんで?それよりこうやって自分のほうから昼誘ってくれたことにびっくりしとるわ。昨日で完全に嫌われたかと思ったんに」
「別に……嫌うとかないです」
それだけ言って、琴璃は黙りこくる。視線はずっと、手元の箸に落としている。今日も均等に割れなかった歪な割り箸をずっと見つめている。
「ま、とりあえず食べよか。うどん伸びてまうよ」
「……はい」
忍足も琴璃も、こないだと同じものを選んだ。琴璃から誘われた昼食だけど、そこはやはり先輩で男だから、普通に奢ってあげた。琴璃はこんな性格だから連続して奢られることを頑なに拒んだのだが、「言うこときかんと大声出すで」という子供みたいな冗談を言ったらようやく彼女が折れた。
食べている間はなんの会話も生まれなかった。そこまで気まずいわけじゃないけれど、なんだか不思議な空気だった。美味しいはずなのに味わえない。琴璃の心理が読めないことと大いに関係している。思いがけない彼女の行動にますます疑問は募る。何をもって彼女は昼食を誘ってきたのだろうか。そんなことを考えながらのうどん完食だった。忍足よりも数分遅れて琴璃が完食した。残されたコップの中の水を一気飲みすると、真っすぐ忍足のことを見つめてきた。
「ご馳走様でした。それと、好きでした。じゃ」
「いやいやいやいや、いやいやいやいや。ちょい、待ちぃ」
こんなところで自分が関西人で良かったと思った。忍足は素晴らしき反射神経でつっこみを入れ、去ろうとする琴璃の腕を掴んだ。そのまま茫然としていたら逃がすところだった。退散に失敗した琴璃は困ったように眉を下げる。取り合えずもう一度座るように促すと、琴璃は素直に従った。
「言い逃げはアカンやろ」
「でも、別に返事とか欲しいわけじゃないんで」
「いや、そういうの一旦置いといて。まず、なんで過去形?もう俺のこと好きやないって意味?」
「そう……だと思います」
「え、うそ。ホンマに?」
「……はい」
頷くけれど、相変わらず彼女は浮かない表情をしている。顔は思いきり否定しているではないか。そんな嘘が忍足に通用するわけなかった。本当に自分のことが好きじゃないのならば、こんなふうに未練がましい顔になるものか。言うだけ言って、勢いでやり過ごしてしまおうだなんて。そんなやり口が俺に通用すると思ったんか。追い詰められた顔のまま、さっきからずっと視線を泳がせている琴璃。忍足は一瞬呆れかけた。けれど不器用すぎるその性格を思うと、それさえも彼女の愛嬌なのだなと謎に納得してしまう自分がいた。こんなにも振り回されたんは初めてやわ。思いながらも、俺も大概やな、と呟く。
「そっかそっか。ありがとお」
忍足は優しく言うと、琴璃の頭に手を優しく乗せた。途端に彼女は泣きそうに顔を歪める。そういう顔もできるんやな、と思った。
「じゃあ……」
再びゆっくり立ち上がろうとする琴璃だが、忍足はいま一度制する。
「待って。まだ終わっとらん。俺の話も聞いて」
「……何です?」
琴璃は目を真っ赤にさせて忍足を見つめ返す。彼女の必死すぎる形相に、こちらもこみ上げてくる笑いを我慢するのに必死になる。噴き出しそうなのをどうにか堪えながら、なんてことのないように言った。
「好き」
「……誰が」
「俺が」
「誰を」
「琴璃ちゃんを」
「………………なんで」
「理由は、まだよう分からん。そのうち分かるんとちゃう?今気づいたことやから、そこまで深く考えてられんわ」
「じゃ、それ嘘ですよ。思い過ごしです」
「はぁ?なんでやねん」
「一種の気の迷いってやつです」
「あんなぁ」
人の好意を頑なに寄せ付けない。素直に気持ちを表現できない。きっとそれは、無意識にバリアを張っているのだろう。傷つきたくないが故に、わざと彼女は距離をとろうとする。頑固で大真面目で、冗談のひとつも通じないけれど、本当はとても臆病な性格。そんな彼女に惹かれているなんて、やっぱり理屈なんかじゃ到底説明できないのだ。
「アカン、やっぱり一筋縄じゃいかんか。せやけど困ったなぁ。どうしたら信じてくれるん?」
「そんなこと言われましても」
「だって、信じてへんのやろ?」
「そりゃあ……」
「じゃあ、キスでもする?」
「……きっ」
「ははは。ウソ、ウソ。ウソやって。なぁ、ほんとにジョークやから。頼むからそんな怖い顔で睨まんといて。本気で凹むから」
満更冗談でもなかったのだが、こういう“ノリ”を嫌う子だというのを思い出す。何でも軽々しく言葉にすることを嫌がる子。そんな彼女が、一生懸命勇気を出して好きだと伝えてくれたのだ。意地を張って過去形にされたけど、それでもちゃんと気持ちは届いている。こんなにも迷惑そうな顔をして自分のことを見ているけど、この子は内心とっても喜んでる。その確信があった。顔や仕草からじゃ決して見破れない、彼女の本心を見透かすことは、複雑で難解で、時には矛盾めいたものさえ見えるけど。それでも、俺だけは分かっとんねん。忍足は心の内で自負する。
「ほな。これからも1つよろしゅう」
「はぁ……」
困惑気味に琴璃は返事をする。なんだか立場が逆になっている気がするのは否めない。だって、もともとは彼女から忍足のことを好きになってくれたのに。今の状況は誰がどう見ても、忍足のほうが琴璃に言い寄っているように見える。
「アイス、いる?」
「いいんですか?」
「ええで。ご馳走したる」
「ありがとうございます」
「ほんなら、キスは?」
「結構です」
「さいですか」
いつか、この子の牙城を崩せる日が来るだろうか。来なくちゃ困る。そしてそれができた時、琴璃はいったいどんなふうに笑顔を向けてくれるのか。想像したら案外可愛かった。つい、顔に出てしまっていたようで、「何ニヤついてるんですか」と冷たく言い放たれた。俺の彼女はまだまだ、手厳しい。
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あの曲中のあの歌詞を、会話のなかで言ってほしくて生まれた妄想でした。
モテる男は大変だろうなぁ
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