恋情アンチノミー
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今、自分が見えているものを疑った。ここは1学年の教室の階であり、数分前に昼休みになったばかりだ。じゃあどうして3年の彼がいるのだろうか。それも、自分なんかに会いに。
「まいど」
「……なんで」
いるんですか、と琴璃が聞くより先に忍足が口を開く。
「昼飯食べに学食行こう思ったら誰も捕まらんかった。1人で食べるなんて、そんなん寂しすぎるやん?せやから一緒に、どお?」
にこにこ顔で、そんな提案を持ち掛けてきた。当然琴璃は笑うなんてできない。午前中の授業が終わって、昼休みになったので購買にでも行こうかと思っていた。教室のドアを出たすぐ先に、壁に寄りかかって腕組をしている人物を見つけた時は瞬時に5度見くらいしたくらいだ。忍足は琴璃を見つけると、至極自然な流れで近寄ってきた。今度こそ琴璃は引いた。気づかないふりをして去ろうとも考えたが、当然のように失敗に終わったのである。
そもそもこの人はどういう神経をしてるんだと疑う。友達が捕まらないからと言って、それをどうして私に求める。学年も性別も違う相手を誘うなんて、おかしいと思わないのか。1人が寂しいとか言ってる時点で共感しがたい。いっそ大人しく独りで食べたらいいじゃないか。冗談じゃない。琴璃は俄然断るつもりでいた。
「あの――」
「昼飯付きおうてくれたらもれなくご馳走すんで」
「……」
「ついでにアイスも買ったるで」
次の言葉はもう出なかった。大人しく並んで食堂に向かう自分がいた。
「自分、何にするん?」
琴璃が券売機を押す。そこを横から覗きこまれた。今日はいちいち距離が近すぎる。狼狽える琴璃を余所に忍足は隣で券売機に千円札を入れる。
「あったかいおうどん?ええやん、俺もそれにしよ」
と言って同じのをもう1枚発券した。ついでにかき揚げ天ぷらも買っていた。聞かれてもないのに、琴璃のぶんまで買ってくれた。
まんまと買収された。絶対に断るつもりでいたのに。嫌ですと言う気満々だったのに、こうも容易く寝返ってしまうとは。情けないと思う反面、今月お小遣いがわりとピンチだったからこんな簡単な誘いに乗ってしまったんだと思うしかない。
窓際の2人掛けのテーブル席が空いていたのでそこへ座る。うどんの湯気を挟んで2人は向き合っている。食事だというのに、琴璃だけが表情険しく、まるで対峙しているかのような顔つきをしている。
「普段は和食派?」
「どちらかと言えば」
「ふぅん」
「……あの、私に何か用ですか」
「ん?せやからさっき言うたやんか。昼飯誘いに来たって」
そんなわけないでしょ、と琴璃は心の内で突っ込む。いったいこの人は何がしたいんだ。ちっとも分からない。この人が自分にこだわる理由をひたすら考える。だってそんなに、というか全然仲良くなんかない。こっちはもう、進んでこの人を避けてるというのに。何故にそっちからアクションを起こしてくるのだろうか。
「もしかして……私が好きって言わなかったから、意地になってるんですか?」
「ハハハ!」
必死に考えて、やっぱりこれしかないと思ったから聞いたのに。琴璃の推理は外れた。忍足は腹を抱えそうなくらいに笑っている。そんなに面白いことかと思った。
「……違うんですか?」
「俺、そんなちっさいヤツに見える?」
「だって、こんなふうにお昼ご飯に私を誘う理由がありません。だから、何がなんでも言わせたいのかと思って」
「ひどいなぁ」
笑いながら忍足は割り箸を割る。すごく綺麗な真っ二つになって、琴璃に自慢気に見せてきたから琴璃は薄いリアクションを取った。続いて自分も割り箸を割る。物凄い不均等に割れたのが悔しくて忍足を睨むと、「八つ当たりやん」と肩をすくめながら言われた。
「なんやろな、今日誰も昼飯食べる相手おらんってなって、最初に思い浮かんだ顔が自分やったんや」
「どうして」
「分からん。琴璃ちゃんは、俺と昼飯一緒すんの、嫌?」
「……別に今さらそんなこと思わないですけど。奢ってもらったし。ところでもう食べていいですか?うどんも伸びますし」
「あぁ、はい、どーぞ」
食べ物に罪なんかない。美味しいうちにいただかなくては。天ぷらもつけてもらって、なかなか豪華なお昼ご飯になった。普段は、サンドイッチ1つとかおにぎり1つと野菜ジュースで済ます質素なものだった。あまり昼ご飯に興味がなかった。だから今日は予想外にこのような食事にあやかることができて少しだけ心が弾んだ。決してそんな心の内を彼に伝えることはないが。
「怪我したとこはどうなん?」
「もう大丈夫です」
「そら良かった。あんな真正面からぶつかってくから、てっきりハードルが苦手なんかと思った」
「別に。そういうわけじゃないですけど、あの時はちょっと考え事してて」
「ふぅん」
考え事の元凶が、今自分の前でうどんをすすっている。この出汁は関東風やなとか、呑気なことを言って笑いかけてくる。
どうしてくれる、と思った。この沸々と湧いてくる感情は何なんだ。怒りとは違う、でも彼を見ていると急加速する気持ち。頭のいいこの人なら、聞いたら答えを教えてくれるんだろうか。あなたを見てると気持ちが落ち着きません。いつもの自分じゃいられません。だけど決して不快なものではありません。これって何ですか?どうしたら楽になりますか?
「どしたん?」
「え……あ……唐辛子が、強すぎたかもしれないです」
「なんや、入れすぎたん?水、飲み。お代わりいる?」
「いえ、大丈夫です」
苦し紛れについた嘘にも、彼は本気で相手をしてくれる。初めて会話した日も、保健室に運んでくれた時も、そして今も。自分のことを気にかけてくれるような眼差しをしている。
――遠くから見てるだけでよかったのに。
名前を覚えられ、話しかけられ、事の成り行きでお姫さまだっこまでされて。今は一緒にお昼ご飯を食べている。周りに人はいるけれど、2人で、互いにしか聞こえない音量で喋りながらうどんをすすっている。食べ終わって、「アイス何がいい?」と聞いてくるレンズ越しの彼の瞳には、私の顔だけが映っている。
どうしてくれる。再び琴璃は思った。
もう好きじゃないなんて、今さら自信持って言えないじゃないか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ファンブック見る限り、氷帝はカフェテリアなる施設でとても優雅なイメージですが、この話では食券買って頼む普通の食堂でお送りします。そのほうが忍足っぽいので。
「まいど」
「……なんで」
いるんですか、と琴璃が聞くより先に忍足が口を開く。
「昼飯食べに学食行こう思ったら誰も捕まらんかった。1人で食べるなんて、そんなん寂しすぎるやん?せやから一緒に、どお?」
にこにこ顔で、そんな提案を持ち掛けてきた。当然琴璃は笑うなんてできない。午前中の授業が終わって、昼休みになったので購買にでも行こうかと思っていた。教室のドアを出たすぐ先に、壁に寄りかかって腕組をしている人物を見つけた時は瞬時に5度見くらいしたくらいだ。忍足は琴璃を見つけると、至極自然な流れで近寄ってきた。今度こそ琴璃は引いた。気づかないふりをして去ろうとも考えたが、当然のように失敗に終わったのである。
そもそもこの人はどういう神経をしてるんだと疑う。友達が捕まらないからと言って、それをどうして私に求める。学年も性別も違う相手を誘うなんて、おかしいと思わないのか。1人が寂しいとか言ってる時点で共感しがたい。いっそ大人しく独りで食べたらいいじゃないか。冗談じゃない。琴璃は俄然断るつもりでいた。
「あの――」
「昼飯付きおうてくれたらもれなくご馳走すんで」
「……」
「ついでにアイスも買ったるで」
次の言葉はもう出なかった。大人しく並んで食堂に向かう自分がいた。
「自分、何にするん?」
琴璃が券売機を押す。そこを横から覗きこまれた。今日はいちいち距離が近すぎる。狼狽える琴璃を余所に忍足は隣で券売機に千円札を入れる。
「あったかいおうどん?ええやん、俺もそれにしよ」
と言って同じのをもう1枚発券した。ついでにかき揚げ天ぷらも買っていた。聞かれてもないのに、琴璃のぶんまで買ってくれた。
まんまと買収された。絶対に断るつもりでいたのに。嫌ですと言う気満々だったのに、こうも容易く寝返ってしまうとは。情けないと思う反面、今月お小遣いがわりとピンチだったからこんな簡単な誘いに乗ってしまったんだと思うしかない。
窓際の2人掛けのテーブル席が空いていたのでそこへ座る。うどんの湯気を挟んで2人は向き合っている。食事だというのに、琴璃だけが表情険しく、まるで対峙しているかのような顔つきをしている。
「普段は和食派?」
「どちらかと言えば」
「ふぅん」
「……あの、私に何か用ですか」
「ん?せやからさっき言うたやんか。昼飯誘いに来たって」
そんなわけないでしょ、と琴璃は心の内で突っ込む。いったいこの人は何がしたいんだ。ちっとも分からない。この人が自分にこだわる理由をひたすら考える。だってそんなに、というか全然仲良くなんかない。こっちはもう、進んでこの人を避けてるというのに。何故にそっちからアクションを起こしてくるのだろうか。
「もしかして……私が好きって言わなかったから、意地になってるんですか?」
「ハハハ!」
必死に考えて、やっぱりこれしかないと思ったから聞いたのに。琴璃の推理は外れた。忍足は腹を抱えそうなくらいに笑っている。そんなに面白いことかと思った。
「……違うんですか?」
「俺、そんなちっさいヤツに見える?」
「だって、こんなふうにお昼ご飯に私を誘う理由がありません。だから、何がなんでも言わせたいのかと思って」
「ひどいなぁ」
笑いながら忍足は割り箸を割る。すごく綺麗な真っ二つになって、琴璃に自慢気に見せてきたから琴璃は薄いリアクションを取った。続いて自分も割り箸を割る。物凄い不均等に割れたのが悔しくて忍足を睨むと、「八つ当たりやん」と肩をすくめながら言われた。
「なんやろな、今日誰も昼飯食べる相手おらんってなって、最初に思い浮かんだ顔が自分やったんや」
「どうして」
「分からん。琴璃ちゃんは、俺と昼飯一緒すんの、嫌?」
「……別に今さらそんなこと思わないですけど。奢ってもらったし。ところでもう食べていいですか?うどんも伸びますし」
「あぁ、はい、どーぞ」
食べ物に罪なんかない。美味しいうちにいただかなくては。天ぷらもつけてもらって、なかなか豪華なお昼ご飯になった。普段は、サンドイッチ1つとかおにぎり1つと野菜ジュースで済ます質素なものだった。あまり昼ご飯に興味がなかった。だから今日は予想外にこのような食事にあやかることができて少しだけ心が弾んだ。決してそんな心の内を彼に伝えることはないが。
「怪我したとこはどうなん?」
「もう大丈夫です」
「そら良かった。あんな真正面からぶつかってくから、てっきりハードルが苦手なんかと思った」
「別に。そういうわけじゃないですけど、あの時はちょっと考え事してて」
「ふぅん」
考え事の元凶が、今自分の前でうどんをすすっている。この出汁は関東風やなとか、呑気なことを言って笑いかけてくる。
どうしてくれる、と思った。この沸々と湧いてくる感情は何なんだ。怒りとは違う、でも彼を見ていると急加速する気持ち。頭のいいこの人なら、聞いたら答えを教えてくれるんだろうか。あなたを見てると気持ちが落ち着きません。いつもの自分じゃいられません。だけど決して不快なものではありません。これって何ですか?どうしたら楽になりますか?
「どしたん?」
「え……あ……唐辛子が、強すぎたかもしれないです」
「なんや、入れすぎたん?水、飲み。お代わりいる?」
「いえ、大丈夫です」
苦し紛れについた嘘にも、彼は本気で相手をしてくれる。初めて会話した日も、保健室に運んでくれた時も、そして今も。自分のことを気にかけてくれるような眼差しをしている。
――遠くから見てるだけでよかったのに。
名前を覚えられ、話しかけられ、事の成り行きでお姫さまだっこまでされて。今は一緒にお昼ご飯を食べている。周りに人はいるけれど、2人で、互いにしか聞こえない音量で喋りながらうどんをすすっている。食べ終わって、「アイス何がいい?」と聞いてくるレンズ越しの彼の瞳には、私の顔だけが映っている。
どうしてくれる。再び琴璃は思った。
もう好きじゃないなんて、今さら自信持って言えないじゃないか。
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ファンブック見る限り、氷帝はカフェテリアなる施設でとても優雅なイメージですが、この話では食券買って頼む普通の食堂でお送りします。そのほうが忍足っぽいので。
