恋情アンチノミー
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またや。
今週に入ってからもう何度も感じている視線。ある時は図書館で。ある時は食堂で。そして今は中庭で、自分の死角ぎりぎりのところから見つめられている。
その視線には敵意とか圧力のようなものはない。どちらかというと観察されている感じがした。忍足はふと、顔を上げる。そして首を回すような自然な仕草をしながら、後ろを向いた。そこには1人の女子生徒の存在があった。あぁ、あの子やんと思った。
名前は確か、“琴璃”言うたっけ。こっちから名前を聞きだしたのもあって、忍足はちゃんと覚えていた。彼女とはこないだ部室で初めて会ったきりだ。生徒会の仕事の関係でテニス部を訪ねてきた1年の女子生徒。アウェー感のあるテニス部部室で緊張してたので、安心させるために名前を聞いて当たり障りのない会話をしたつもりだった。そんな彼女が、最近自分のことをこっそり陰から見ているのだ。それも1度や2度ではなかった。別の場所でも視線を感じると思ったら、そこでも彼女の姿をとらえた。偶然はそんなに続かない。琴璃は意図的に自分の近くにいる。それが分かるまでに時間はかからなかった。
常に離れたところから忍足のことを見つめている。それだけで、他には何もアクションを起こしてはこない。
他の女子ならば、忍足を見かけると大抵は話しかけたりしてくるのに琴璃は決して主張してくるわけではない。もしかしたら自分に話しかけるタイミングを伺っているのか。そう思って、忍足は時々隙を与えてみたりもした。けれど、相変わらず琴璃は遠くから忍足のことを見つめるばかりだった。
一体何が目的なんだろうか。まあ、ある程度は予想がついていた。こそこそとこちらを伺っている時点で恨みの類いではない。忍足はこういう視線を浴び慣れている。それもあってか、すぐに察しがついた。琴璃は自分に好意があるのだ。
だがそんなことが1週間も続くと、流石に気づかぬふりをするのも疲れてきた。ある日の昼休みの図書館で、忍足は窓際の席に座って小説を読んでいた。今日もまた微々たる視線を感じる。忍足は本を読むふりをしながら、体勢を横向きにし琴璃の姿を確認した。いきなり顔を上げて彼女をしっかりと見つめてみた。忍足の突然の行動に、不意を突かれた向こうは慌てて視線を逸らす。必死に本を読むふりをしている。そんなことしても意味はないのに。
忍足は立ち上がると、琴璃のそばまで近づいてゆく。そして、そのまま隣の席に座った。彼女はびっくりして目を白黒させる。反応が単純すぎて、忍足は思わず笑いたくなったがなんとかポーカーフェイスを保つ。頬杖をつきながら琴璃の顔をじっと見た。その丸く見開いた瞳を下から覗き込む。琴璃はどうしていいか分からず瞬きをしきりにしている。まるで蛇に睨まれた蛙やんけ、と思った。ここにきてもまだだんまりを決め込む度胸が逆に素晴らしいと思った。そういえば、こないだの部室でも彼女は跡部を相手になかなか腹が据わっていた。結構図太い性格しとるんかな。一瞬思ったけれど今はちっとも堂々とはしていない。至近距離から見つめられ、狼狽えているようにも見える。忍足は得意の観察眼で射抜く。もう間違いない。これは恋愛感情の含まれた表情だ。こういう子は、いつまで経っても行動に移さないタイプだというのを知っている。告白される側の経験則から分かる。何かきっかけでも無い限り、きっとこの子はいつまでたってもこのまんまや。
「なぁ」
「え」
警戒心露わの琴璃に、頬杖を付きながら体を近づける。たちまち彼女の頬に赤みがさす。僅かに手を伸ばせばもう触れられる距離になって、そのまん丸な瞳を覗き込みながら、忍足は静かに口を開いた。
「俺のこと好きやったら、好きって言うたらええんちゃうの?」
その日から、琴璃は忍足の前に一切姿を現さなくなった。
「どんだけ自分に自信があるんだよテメェは」
まさか“自信の塊”の代表格みたいな人間に言われるだなんて。軽くショックを覚えたが、よくよく考えたら、あんなこと自分に自信がなければ言えないわけだから、あながち間違ってはいない。
放課後の部活時間に昼休みの出来事を跡部に話したら、小馬鹿にしたように今の言葉を言ってきた。
「隠れてるつもりの相手にいきなり接近して、よくそんなことが言えたな」
「いや、けど、ずーっと俺のこと見とるんやで?隠れて何日も。跡部もそういう状況になったら言うやろ?見てるだけやのうてさっさと俺様に告白せんかい、紛いなこと」
「まぁ確かに常に見張られるのは不愉快だな。言いたいことがあるならコソコソ隠れてねぇではっきり言いやがれとは言うだろうよ」
「ほら。俺より辛辣な言い方やん」
「で?お前が自惚れも良いところな発言をした後、相手の顔はどうだったんだよ」
「口をぽかーんと開けて、その後すぐ真っ赤になって、逃げるように図書館から出ていってもうたわ」
「なら、もう付きまとわれることも無ぇんじゃねぇの」
「まぁ、そうなんやけど」
確かにあれから琴璃の姿を一度も見かけてはいない。だけど、跡部が指摘するように付きまとわれていた感じでもなかった。常に見張られていたのは気持ちいいものではないが、彼女からの熱視線は不快感を煽るようなものじゃなかった。だからなんとなく腑に落ちない。
あの時自分は、好きと言えばいいと促してみたけれど。そんなふうに言ったのはきっと、彼女があの場で好きだなんてことを言うようなタイプではないと確信していたから。それもあったんだと思う。言えないのに、言わそうとしたわけではない。あの発言をしたのは話題を広げるきっかけにしてやったつもりだったのだが。恐らく琴璃はからかわれたのだと思ったのだろう。だからあんなふうに怒って姿を見せなくなったのだ。忍足としては、琴璃は笑い飛ばしてくるか慌てるかのどちらかの反応を予想していた。だが結果的にはどちらでもなく、琴璃は嫌悪的な視線を忍足にぶつけてきた。見た感じ、琴璃はあんなジョークを受け止めてくれるようなタイプではない。むしろあのタイプは、言われたことをそっくりそのまま真に受けてまう性格やな。だからカッとなって逃げたっちゅーことか。冷静に考察するけれど、今更理解したところでなんの意味もない。
「俺、もしかしてあの子のこと傷つけたんかな」
「あぁん?恥をかかせた、の間違いだろ。何にせよ、お前のお節介な一言でソイツは見事に玉砕したってわけだ」
跡部の言う通り、忍足の一言のせいで琴璃の仄かな恋心は消えてなくなってしまった。そんなのは他人事この上ないのに、どうにも腑に落ちなかった。あの最後の、自分を睨んだ琴璃の顔が忘れられない。
今週に入ってからもう何度も感じている視線。ある時は図書館で。ある時は食堂で。そして今は中庭で、自分の死角ぎりぎりのところから見つめられている。
その視線には敵意とか圧力のようなものはない。どちらかというと観察されている感じがした。忍足はふと、顔を上げる。そして首を回すような自然な仕草をしながら、後ろを向いた。そこには1人の女子生徒の存在があった。あぁ、あの子やんと思った。
名前は確か、“琴璃”言うたっけ。こっちから名前を聞きだしたのもあって、忍足はちゃんと覚えていた。彼女とはこないだ部室で初めて会ったきりだ。生徒会の仕事の関係でテニス部を訪ねてきた1年の女子生徒。アウェー感のあるテニス部部室で緊張してたので、安心させるために名前を聞いて当たり障りのない会話をしたつもりだった。そんな彼女が、最近自分のことをこっそり陰から見ているのだ。それも1度や2度ではなかった。別の場所でも視線を感じると思ったら、そこでも彼女の姿をとらえた。偶然はそんなに続かない。琴璃は意図的に自分の近くにいる。それが分かるまでに時間はかからなかった。
常に離れたところから忍足のことを見つめている。それだけで、他には何もアクションを起こしてはこない。
他の女子ならば、忍足を見かけると大抵は話しかけたりしてくるのに琴璃は決して主張してくるわけではない。もしかしたら自分に話しかけるタイミングを伺っているのか。そう思って、忍足は時々隙を与えてみたりもした。けれど、相変わらず琴璃は遠くから忍足のことを見つめるばかりだった。
一体何が目的なんだろうか。まあ、ある程度は予想がついていた。こそこそとこちらを伺っている時点で恨みの類いではない。忍足はこういう視線を浴び慣れている。それもあってか、すぐに察しがついた。琴璃は自分に好意があるのだ。
だがそんなことが1週間も続くと、流石に気づかぬふりをするのも疲れてきた。ある日の昼休みの図書館で、忍足は窓際の席に座って小説を読んでいた。今日もまた微々たる視線を感じる。忍足は本を読むふりをしながら、体勢を横向きにし琴璃の姿を確認した。いきなり顔を上げて彼女をしっかりと見つめてみた。忍足の突然の行動に、不意を突かれた向こうは慌てて視線を逸らす。必死に本を読むふりをしている。そんなことしても意味はないのに。
忍足は立ち上がると、琴璃のそばまで近づいてゆく。そして、そのまま隣の席に座った。彼女はびっくりして目を白黒させる。反応が単純すぎて、忍足は思わず笑いたくなったがなんとかポーカーフェイスを保つ。頬杖をつきながら琴璃の顔をじっと見た。その丸く見開いた瞳を下から覗き込む。琴璃はどうしていいか分からず瞬きをしきりにしている。まるで蛇に睨まれた蛙やんけ、と思った。ここにきてもまだだんまりを決め込む度胸が逆に素晴らしいと思った。そういえば、こないだの部室でも彼女は跡部を相手になかなか腹が据わっていた。結構図太い性格しとるんかな。一瞬思ったけれど今はちっとも堂々とはしていない。至近距離から見つめられ、狼狽えているようにも見える。忍足は得意の観察眼で射抜く。もう間違いない。これは恋愛感情の含まれた表情だ。こういう子は、いつまで経っても行動に移さないタイプだというのを知っている。告白される側の経験則から分かる。何かきっかけでも無い限り、きっとこの子はいつまでたってもこのまんまや。
「なぁ」
「え」
警戒心露わの琴璃に、頬杖を付きながら体を近づける。たちまち彼女の頬に赤みがさす。僅かに手を伸ばせばもう触れられる距離になって、そのまん丸な瞳を覗き込みながら、忍足は静かに口を開いた。
「俺のこと好きやったら、好きって言うたらええんちゃうの?」
その日から、琴璃は忍足の前に一切姿を現さなくなった。
「どんだけ自分に自信があるんだよテメェは」
まさか“自信の塊”の代表格みたいな人間に言われるだなんて。軽くショックを覚えたが、よくよく考えたら、あんなこと自分に自信がなければ言えないわけだから、あながち間違ってはいない。
放課後の部活時間に昼休みの出来事を跡部に話したら、小馬鹿にしたように今の言葉を言ってきた。
「隠れてるつもりの相手にいきなり接近して、よくそんなことが言えたな」
「いや、けど、ずーっと俺のこと見とるんやで?隠れて何日も。跡部もそういう状況になったら言うやろ?見てるだけやのうてさっさと俺様に告白せんかい、紛いなこと」
「まぁ確かに常に見張られるのは不愉快だな。言いたいことがあるならコソコソ隠れてねぇではっきり言いやがれとは言うだろうよ」
「ほら。俺より辛辣な言い方やん」
「で?お前が自惚れも良いところな発言をした後、相手の顔はどうだったんだよ」
「口をぽかーんと開けて、その後すぐ真っ赤になって、逃げるように図書館から出ていってもうたわ」
「なら、もう付きまとわれることも無ぇんじゃねぇの」
「まぁ、そうなんやけど」
確かにあれから琴璃の姿を一度も見かけてはいない。だけど、跡部が指摘するように付きまとわれていた感じでもなかった。常に見張られていたのは気持ちいいものではないが、彼女からの熱視線は不快感を煽るようなものじゃなかった。だからなんとなく腑に落ちない。
あの時自分は、好きと言えばいいと促してみたけれど。そんなふうに言ったのはきっと、彼女があの場で好きだなんてことを言うようなタイプではないと確信していたから。それもあったんだと思う。言えないのに、言わそうとしたわけではない。あの発言をしたのは話題を広げるきっかけにしてやったつもりだったのだが。恐らく琴璃はからかわれたのだと思ったのだろう。だからあんなふうに怒って姿を見せなくなったのだ。忍足としては、琴璃は笑い飛ばしてくるか慌てるかのどちらかの反応を予想していた。だが結果的にはどちらでもなく、琴璃は嫌悪的な視線を忍足にぶつけてきた。見た感じ、琴璃はあんなジョークを受け止めてくれるようなタイプではない。むしろあのタイプは、言われたことをそっくりそのまま真に受けてまう性格やな。だからカッとなって逃げたっちゅーことか。冷静に考察するけれど、今更理解したところでなんの意味もない。
「俺、もしかしてあの子のこと傷つけたんかな」
「あぁん?恥をかかせた、の間違いだろ。何にせよ、お前のお節介な一言でソイツは見事に玉砕したってわけだ」
跡部の言う通り、忍足の一言のせいで琴璃の仄かな恋心は消えてなくなってしまった。そんなのは他人事この上ないのに、どうにも腑に落ちなかった。あの最後の、自分を睨んだ琴璃の顔が忘れられない。
