a little story
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013充電満タン(赤也)
「あ、やべ」
スマホの充電器、学校に置いてきたらしい。残り7%はどうやったって明日までもたねぇ。
「しょーがねぇなあ……。おーい姉ちゃーん、充電器貸し、て……ええぇぇええっっ」
「ちょっともー何なの?びっくりするじゃん」
「いやそれ、こっちのセリフだから。なんで、なんで……」
いんの?姉貴の部屋に姉貴以外のもう1人の人間。その人を見た瞬間ぶったまげた。
「お邪魔してます」
「あ、どもっス……」
にこって笑った顔がめちゃくちゃ可愛い。隣で姉貴が超絶不機嫌な顔してるから比べるとますます可愛い。
「藤白です。いつもお姉さんにお世話になってます」
知ってるよ、藤白さんちの琴璃さんでしょ。まさかウチに来る日がやってくるだなんて想像しなかった。姉ちゃんナイス。
「赤也、琴璃ちゃん帰るから駅まで送ってってあげてよ」
「うえっ!?」
「大丈夫だよ、1人で帰れるから」
「や、行きます。全然余裕っス」
「ついでに牛乳と卵買ってきてー」
姉貴がなんか言ってるけど全然耳に入って来なかった。気付いたら玄関で靴履いてスタンバってる俺。外はもう真っ暗だった。俺の後ろをついてくる琴璃さん。やべぇ、何話すか。脳みそフル回転してたら、なんと向こうから話しかけてくれた。
「赤也くんはテニス部のエースなんだってね。凄いなあ」
「やー、それほどでも」
あるんスけど。格好つけたいじゃん、やっぱ。琴璃さんはテニスとか興味あんのかな。俺の活躍見たら絶対喜んでくれる、はず。
「いつか見てみたいな、赤也くんが試合してるとこ」
これは。もう、これって最高のロブっしょ、丸井先輩。これを逃したらたるんどる、って副部長なら怒鳴りそうなくらいのチャンスボール。スマッシュしないわけがないっしょ。
「来月に試合あるんスよ。俺は多分シングルス3で」
「そうなんだね、相手は強い学校?」
「や、全然大したことないかな。……いや、でもどうだろなぁ、ちょっとムズいかなぁ」
ちらっと琴璃さんのほうを見た。相変わらずにこにこして俺の後をついてくる。
「琴璃さんが、見に来てくれたら……勝てそうな気が、する」
「え?」
「琴璃さんに見に来てほしい、応援してほしい!そしたら俺めちゃめちゃ頑張るんで!」
こんな事言われるだなんて思ってなかったみたいで、びっくりしてた。大きい目がひときわ丸くなってる。ちょっとアグレッシブすぎたかな、なんて思ってたら。
「是非。よろしくね」
「や、や、」
やった……。俺マジで頑張るわ。あんたの為に、副部長の鉄槌にも耐えますんで。だから俺の姿、しっかり目に焼き付けてよね。
駅まで送って、鼻歌交じりに帰ったら姉貴に変な目で見られた。でもそんなの気にしない。俺は明日から生まれ変わるんだから。
「ていうか牛乳は」
「あ?」
014彼女の唇(跡部)
「跡部くん」
いきなり後ろから話しかけられた。振り向くと知らない女。朝から面倒だから無視しようとしたら、どうやらそういう類いのヤツではなかった。
「おはよう。今日は涼しいね。さっき車から降りるの見たよ」
女は機嫌良さそうに朝の挨拶をしてくる。何がそんなに楽しいのか分からねぇ。
「……ん、ちょっと待て。お前、琴璃か?」
「あはは、どうしたの跡部くん。私が何か別のものにでも見えた?」
今日の琴璃は雰囲気がまるで違う。その笑顔ですら気付けなかった程に一瞬誰かと思った。その理由とは。
「あ、これ?今朝急いでてコンタクトうまく入らなかったから」
言いながら琴璃は自分の顔を指差しながら笑う。紺縁の眼鏡が違和感の正体だった。眼鏡をかけているのを今までに見たことがなかったせいだ。
「眼鏡かけるの久しぶりだから慣れなくて。変かな?」
「いや?年相応に見えるぜ」
「えー、それって普段が子供っぽいって事?ひどい」
そう言って琴璃は頬を膨らませる。そういう仕草が幼稚なんだと気付かないもんなのか。眼鏡をかけようが中身は相も変わらずだ。
にしても眼鏡1つで大人しく見えるもんなのか。コイツにとっては格好な変身道具なんだな。
「……いや、違うな」
「何が?」
それだけじゃない事に気付いた。横を歩く琴璃はきょとんとした顔をしている。その頬に手を滑らせ眼鏡を外した。変身を解いた顔はいつもの無邪気な雰囲気に戻るのかと思いきや。
「どうしたの。そんなに……人の顔じっと見ないでよ」
「成る程そうか。これだな」
今度は琴璃の口元に指を滑らせる。少し暗みがかった赤い唇。人工的に作り出された色だ。証拠に、なぞった指にその色が移った。眼鏡の他に残っていた違和感はこれか。
「な、何するの」
指で剥がされたルージュの下から、本当の琴璃の唇の色が見える。血色のよい、薄い淡紅色のそれ。
「あーもう……とれちゃったよ」
悲しげに眉を下げたのも束の間で、今度は俺を静かに睨んでくる。
「どうせ、子供っぽいお前には似合わないって言いたいんでしょ」
「バァカ。僻むなよ」
そうだ、お前には似合わない。何の為に不相応な化粧をしてるのかは知らねえが、そんな余計な事をする必要は無い。
「そんなものを付けなくてもお前は充分魅力的だぜ」
「……嘘っぽい」
「お前な。素直に受け取れよ」
でもその後の琴璃の頬は微かに赤らんでいた。それは人工的な色ではない。反応だけは素直に表れるお前は、まだまだこんな色を纏うには早い。
015妻の嫉妬(忍足)
世の中の女の人の大半がドラッグストアーに行くとつい長居してまうらしいんやけど。うちの奥さんは異常やな。さっきから一歩も動かず同じ売り場をじっと見とる。俺がぐるっと回って戻ってきても、最初別れたとこと同じ場所におんねん。もうかれこれ5分は経ったんちゃうかな。こういう時に急かすと「やっぱいいや」てなるから余計な茶々入れせえへんのやけど。何をそんなに悩んどるんや。気になって後ろから覗き見すると、どうやらそこは柔軟剤売り場らしかった。ほんで琴璃は両手にそれぞれ別のボトルを持っとる。
「あ。ねぇ、どっちがいいかな」
俺の気配に気付いて、両手に持ったそれらを掲げて見せてきた。
「何をそんなに時間かけとん。好きな方にしたらええやん」
「それが決められないんだもん。新発売のやつどっちもいい匂いなんだよ、困っちゃう」
琴璃は一旦手にしてたボトルを置いて、代わりに傍に掛けられていたテスターを俺の顔に近付けてきた。嗅げ、っちゅー事ね。
「こっちがフローラルブーケ。で、こっちがアロマソープ」
「あー……どっちでもええんとちゃう」
「真面目に考えてよ!この匂いのワイシャツ着る事になるんだよ?」
「せやかて俺そんな、こだわりあらへんし」
「えー何でよ。会社で誰かとすれ違った時、ほんのりこの香りがしたらすっごい格好いいと思うよ」
「そうなん?」
「うん。女の人はきっと気がつくと思う」
なんでか分からんがドヤ顔で琴璃が言う。で、最終候補になったらしい2種類の柔軟剤と睨めっこを再開する。どないしよ。いつまでも続くで、これ。
「けど、ええの?」
「何が?」
「琴璃の言ったことがほんまなら、俺、女性陣からの好感度めっさ上がってまうで」
ニヤニヤしながら言ったら、琴璃は思った通りの顔つきになった。ほら、言わんこっちゃない。
「やっぱり、買うのやめよ」
「そんなに旦那さんがモテるの、嫌?」
琴璃は俺をじとーっと睨んでカートを転がす。もう完全に買う気が失せたようで。その後はさくさくと買うものを籠へ放り込んでく。
「そんなに心配せんでも俺は奥さん一筋やで」
そう言って、お揃いの歯ブラシと琴璃のお気に入りのヘアコロンを……入れかけた手を止める。
ま、分からんでもないけどな。俺も、 うちの奥さんのいい匂いに釣られて男が鼻の下伸ばしてたら、あんまええ気分せえへんからな。
「あ、やべ」
スマホの充電器、学校に置いてきたらしい。残り7%はどうやったって明日までもたねぇ。
「しょーがねぇなあ……。おーい姉ちゃーん、充電器貸し、て……ええぇぇええっっ」
「ちょっともー何なの?びっくりするじゃん」
「いやそれ、こっちのセリフだから。なんで、なんで……」
いんの?姉貴の部屋に姉貴以外のもう1人の人間。その人を見た瞬間ぶったまげた。
「お邪魔してます」
「あ、どもっス……」
にこって笑った顔がめちゃくちゃ可愛い。隣で姉貴が超絶不機嫌な顔してるから比べるとますます可愛い。
「藤白です。いつもお姉さんにお世話になってます」
知ってるよ、藤白さんちの琴璃さんでしょ。まさかウチに来る日がやってくるだなんて想像しなかった。姉ちゃんナイス。
「赤也、琴璃ちゃん帰るから駅まで送ってってあげてよ」
「うえっ!?」
「大丈夫だよ、1人で帰れるから」
「や、行きます。全然余裕っス」
「ついでに牛乳と卵買ってきてー」
姉貴がなんか言ってるけど全然耳に入って来なかった。気付いたら玄関で靴履いてスタンバってる俺。外はもう真っ暗だった。俺の後ろをついてくる琴璃さん。やべぇ、何話すか。脳みそフル回転してたら、なんと向こうから話しかけてくれた。
「赤也くんはテニス部のエースなんだってね。凄いなあ」
「やー、それほどでも」
あるんスけど。格好つけたいじゃん、やっぱ。琴璃さんはテニスとか興味あんのかな。俺の活躍見たら絶対喜んでくれる、はず。
「いつか見てみたいな、赤也くんが試合してるとこ」
これは。もう、これって最高のロブっしょ、丸井先輩。これを逃したらたるんどる、って副部長なら怒鳴りそうなくらいのチャンスボール。スマッシュしないわけがないっしょ。
「来月に試合あるんスよ。俺は多分シングルス3で」
「そうなんだね、相手は強い学校?」
「や、全然大したことないかな。……いや、でもどうだろなぁ、ちょっとムズいかなぁ」
ちらっと琴璃さんのほうを見た。相変わらずにこにこして俺の後をついてくる。
「琴璃さんが、見に来てくれたら……勝てそうな気が、する」
「え?」
「琴璃さんに見に来てほしい、応援してほしい!そしたら俺めちゃめちゃ頑張るんで!」
こんな事言われるだなんて思ってなかったみたいで、びっくりしてた。大きい目がひときわ丸くなってる。ちょっとアグレッシブすぎたかな、なんて思ってたら。
「是非。よろしくね」
「や、や、」
やった……。俺マジで頑張るわ。あんたの為に、副部長の鉄槌にも耐えますんで。だから俺の姿、しっかり目に焼き付けてよね。
駅まで送って、鼻歌交じりに帰ったら姉貴に変な目で見られた。でもそんなの気にしない。俺は明日から生まれ変わるんだから。
「ていうか牛乳は」
「あ?」
014彼女の唇(跡部)
「跡部くん」
いきなり後ろから話しかけられた。振り向くと知らない女。朝から面倒だから無視しようとしたら、どうやらそういう類いのヤツではなかった。
「おはよう。今日は涼しいね。さっき車から降りるの見たよ」
女は機嫌良さそうに朝の挨拶をしてくる。何がそんなに楽しいのか分からねぇ。
「……ん、ちょっと待て。お前、琴璃か?」
「あはは、どうしたの跡部くん。私が何か別のものにでも見えた?」
今日の琴璃は雰囲気がまるで違う。その笑顔ですら気付けなかった程に一瞬誰かと思った。その理由とは。
「あ、これ?今朝急いでてコンタクトうまく入らなかったから」
言いながら琴璃は自分の顔を指差しながら笑う。紺縁の眼鏡が違和感の正体だった。眼鏡をかけているのを今までに見たことがなかったせいだ。
「眼鏡かけるの久しぶりだから慣れなくて。変かな?」
「いや?年相応に見えるぜ」
「えー、それって普段が子供っぽいって事?ひどい」
そう言って琴璃は頬を膨らませる。そういう仕草が幼稚なんだと気付かないもんなのか。眼鏡をかけようが中身は相も変わらずだ。
にしても眼鏡1つで大人しく見えるもんなのか。コイツにとっては格好な変身道具なんだな。
「……いや、違うな」
「何が?」
それだけじゃない事に気付いた。横を歩く琴璃はきょとんとした顔をしている。その頬に手を滑らせ眼鏡を外した。変身を解いた顔はいつもの無邪気な雰囲気に戻るのかと思いきや。
「どうしたの。そんなに……人の顔じっと見ないでよ」
「成る程そうか。これだな」
今度は琴璃の口元に指を滑らせる。少し暗みがかった赤い唇。人工的に作り出された色だ。証拠に、なぞった指にその色が移った。眼鏡の他に残っていた違和感はこれか。
「な、何するの」
指で剥がされたルージュの下から、本当の琴璃の唇の色が見える。血色のよい、薄い淡紅色のそれ。
「あーもう……とれちゃったよ」
悲しげに眉を下げたのも束の間で、今度は俺を静かに睨んでくる。
「どうせ、子供っぽいお前には似合わないって言いたいんでしょ」
「バァカ。僻むなよ」
そうだ、お前には似合わない。何の為に不相応な化粧をしてるのかは知らねえが、そんな余計な事をする必要は無い。
「そんなものを付けなくてもお前は充分魅力的だぜ」
「……嘘っぽい」
「お前な。素直に受け取れよ」
でもその後の琴璃の頬は微かに赤らんでいた。それは人工的な色ではない。反応だけは素直に表れるお前は、まだまだこんな色を纏うには早い。
015妻の嫉妬(忍足)
世の中の女の人の大半がドラッグストアーに行くとつい長居してまうらしいんやけど。うちの奥さんは異常やな。さっきから一歩も動かず同じ売り場をじっと見とる。俺がぐるっと回って戻ってきても、最初別れたとこと同じ場所におんねん。もうかれこれ5分は経ったんちゃうかな。こういう時に急かすと「やっぱいいや」てなるから余計な茶々入れせえへんのやけど。何をそんなに悩んどるんや。気になって後ろから覗き見すると、どうやらそこは柔軟剤売り場らしかった。ほんで琴璃は両手にそれぞれ別のボトルを持っとる。
「あ。ねぇ、どっちがいいかな」
俺の気配に気付いて、両手に持ったそれらを掲げて見せてきた。
「何をそんなに時間かけとん。好きな方にしたらええやん」
「それが決められないんだもん。新発売のやつどっちもいい匂いなんだよ、困っちゃう」
琴璃は一旦手にしてたボトルを置いて、代わりに傍に掛けられていたテスターを俺の顔に近付けてきた。嗅げ、っちゅー事ね。
「こっちがフローラルブーケ。で、こっちがアロマソープ」
「あー……どっちでもええんとちゃう」
「真面目に考えてよ!この匂いのワイシャツ着る事になるんだよ?」
「せやかて俺そんな、こだわりあらへんし」
「えー何でよ。会社で誰かとすれ違った時、ほんのりこの香りがしたらすっごい格好いいと思うよ」
「そうなん?」
「うん。女の人はきっと気がつくと思う」
なんでか分からんがドヤ顔で琴璃が言う。で、最終候補になったらしい2種類の柔軟剤と睨めっこを再開する。どないしよ。いつまでも続くで、これ。
「けど、ええの?」
「何が?」
「琴璃の言ったことがほんまなら、俺、女性陣からの好感度めっさ上がってまうで」
ニヤニヤしながら言ったら、琴璃は思った通りの顔つきになった。ほら、言わんこっちゃない。
「やっぱり、買うのやめよ」
「そんなに旦那さんがモテるの、嫌?」
琴璃は俺をじとーっと睨んでカートを転がす。もう完全に買う気が失せたようで。その後はさくさくと買うものを籠へ放り込んでく。
「そんなに心配せんでも俺は奥さん一筋やで」
そう言って、お揃いの歯ブラシと琴璃のお気に入りのヘアコロンを……入れかけた手を止める。
ま、分からんでもないけどな。俺も、 うちの奥さんのいい匂いに釣られて男が鼻の下伸ばしてたら、あんまええ気分せえへんからな。