a little story
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004オススメ(跡部)
「そんなに盛大なため息吐くのは、理由を聞いてほしいってことか? 」
「え?あ、そんなつもり……ないけど」
俺の正面で琴璃がずっと机上の一点を見つめている。じっと動かないと思ったらついに嘆息したので指摘してやった。見ていてあまり愉快なものでもないからだ。
「いいから話せよ」
「……告白されたの、隣のクラスの人に。でもどうしようか悩んでる」
もっと深刻なものかと思えば。恋愛云々かよ。けれど聞いておいてそんな事は言えないので、静かに次の言葉を待つ事にする。
「その人名前も知らなかったんだよ。なのに急に言われて、ちょっと困っちゃった……」
「元々興味がなかったんだろ。なのに付き合おうか悩んでるのか」
「だって、話したら凄くいい人だったからさ。友達が言うには、その人優しくて面白いらしいしバスケ部のエースなんだって」
「だから?」
「だから……迷ってる」
要するに、名も知らぬ男は印象も良く人望も熱いと判明した。だから付き合ってみてもいいのでは、と思案しているんだろう。
「そこにお前の気持ちは存在するのか?立場や世間体でソイツと付き合ってその先に何を得る。隣にいられるという特権か?」
「それ、跡部くんに言われたくないよ。跡部くんだって、女子みんなに隣にいたいって憧れられるじゃない」
意外な事に琴璃は反論を述べてきた。それもごもっともな意見を。
「そうだな。皆、俺様の女になれるという特権を得たがる。それだけの為に知らない女が近付いてくる。なんて憐れな奴等だと思うぜ」
「そう、なんだね」
「外面だけを評価してくる相手からは何も得られない。だから俺は、俺自身が本当に必要な女を隣に置きたい」
「へーえ。それってどんな子?」
「そうだな、例えばもう随分と気が知れてるような女だ」
恋愛相談を平気で俺に出来るような。それでいて反論してくるような女。相談相手が俺で良かったな。徹底的に阻止してやろう。
「お前も、お前の事を愛しお前を必要としてくれる男を選ぶんだな」
「う、ん」
「というわけで、俺様はオススメだぜ?今言った条件を全てクリアしてやれる。あとはお前が俺に愛されたいと願うだけだ」
005クロスペンダント(鳳)
それ何?クリスチャンなの?何かのおまじない?
出会った頃に質問責めされたの、今でも覚えてますよ。だから俺はこう答えた。
『願い事が叶うように、願掛けみたいなものです』
『へぇー。どんな願い事?』
『それは……言えません』
『なんで?言えない事なの?』
『そうですね、半分正解です』
『半分は?』
『あまり人に話したら叶わないかもしれないですから。俺、結構本気で叶えたいんで』
『ふーん』
そこでようやく貴女の質問攻撃は終わった。内心はヒヤヒヤしてたんですよ。言い当てられたらどうしようか、って。でも貴女は優しい人だから、純粋に俺の願いが成就するように祈っててくれた。
『いつか叶うといいね。叶ったら、教えてね』
貴女の言葉に勇気をもらったんだ。だから俺は踏み出せた。あの日貴女に、俺の気持ちを伝える事ができた。
『先輩の事が、好きです』
あれから1年。去年と違うことは、貴女と2人きりでいられるようになった事。変わらず貴女が笑ってくれる。俺の為の笑顔だと思うと嬉しくてたまらない。
「ずっと付けてるね、それ。願い事はまだ叶わないの?」
「いえ、お陰様で叶いましたよ」
「そうなんだ!良かったね」
自分の事のように貴女が喜ぶ。俺は今、世界一幸せ者だと断言しても構わない。
「でも、まだ全部が叶ったわけじゃないんです」
「そうなんだ?」
「叶えるまでにあと100年かかりますから」
「それじゃこの世にいないよ。さては相当な野望を持ってるなあ?」
あはは、と声をあげて貴女が笑う。現実的には無理な話かもしれない。でも俺は本気なんだ。100年かも90年かも分からない残りの生涯を。貴女と共に居られたら。貴女がずっと、俺だけを見ていてくれたのなら。これ以上何を望もうか。
「ちなみに、この願いは先輩の力も必要なんです」
「えぇ!私そんなに生きられるかなあ。だってその頃とっくにお婆ちゃんだよ。何の力も貸してあげられないよ」
「いいえ、大丈夫です」
彼女の手を優しく握る。反対の手で胸の十字架に触れた。
「そうやって、笑っていてくれるだけでいいんですから」
だからこの先もずっと、俺の傍で笑っていてほしいんです。
006例のCM(跡部)
失敗は成功の素。挫折を味わって前に進める。
基本、ポジティブ思考だからそう言った言葉は大好きだ。けど今回は駄目。何を言い聞かせても弱った心には良薬にならない。私を叱る上司の声。同僚の哀れんだ目。後輩の素っ気ない返事。どれもこれもが鋭い刃みたいに私の心臓を貫いた。
こっちだって失敗したくてしたんじゃないんだよ、なんて言ったところで言い訳にしかならないんだよね。分かってるから言わない。今日はもう考えるの辞めよう。何もしないで早く寝よう。夕飯だって作らない。そう決めたから近所のコンビニで適当に買って家路についた。
「……あれ」
家の鍵があいている。やだ、まさか空き巣?一瞬凍りついたけど扉の向こうにその正体がいた。
「遅かったな。邪魔してるぜ」
「……いつからいたの?」
「ざっと1時間ほど前か?一般企業は毎日残業でお疲れなこった」
どうやら合鍵で入ったらしい。我が物顔で、景吾はリビングのソファに足を組んで座っている。
「そりゃ誰かと違って、一般の中小企業は残業なんか日常的ですよ」
「おい、何してる」
「何って、レンジ暖め。ご飯食べるんだもん」
「俺の分は」
「ないよ。だって来るなんて聞いてないもん。今日はもう何もしたくないの」
スーツの皺も気にせずにベッドに倒れ込んだ。レンジが鳴るまでじっとしてようと思ったのに。目の前にぬっと大きな影ができた。景吾が私を見下ろしている。
「どうした。今日はご機嫌ナナメだな」
「なんでもないよ。ちょっと……仕事でミスっちゃった。だからちょっと荒れてるだけ」
「そうか」
せっかく来てくれたのに八つ当たりするなんて余裕無さすぎ。自分が嫌いになりそうだ。レンジが鳴って再び起き上がる。行こうとする私の腕を景吾が掴まえた。
「俺様が来て良かったな。じゃなきゃ、今頃お前は泣きながら過ごしてたぜ」
「別に泣いたりしないよ……大人だもん」
「それだ、お前の悪い癖は」
景吾がにやりと笑い私を抱き寄せる。
「大人である前にお前は俺の女だ。こういう時は、堂々と俺に甘えてみろ」
相変わらず凄みのある言い方だなあ、と思いながらも内心は嬉しかった。そうだね、家に帰ってまで強がる必要ないよね。
「景吾ありがとう。ご飯あるもので何か作るよ。……あ」
さっき買ったものを思い出した。袋の中からそれを2つ取り出して、片方を彼に渡す。
「何だこれは」
「いちごオレみたいなもの。2本買ったからあげる」
「……俺様がこんなもの飲むと思うか?」
「えー、すごく美味しいのになぁ」
笑いながら冷蔵庫を覗き込む。今から作れて、このお坊っちゃまの口に合うもの、あるかしら。