ウサギの声色
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「あーあ」
幸村は1人項垂れながら駅のホームを出た。最近の水曜のこの時間帯は途端に足取りが重くなる。日中は学校で何をしたのかちっとも思い出せない。気づいたら、放課後になって、電車に乗って、またこの掛り付けの病院に来ていた。機械的な流れで受付を済ませてから、広いロビーをすり抜けいつもの自分が来ている病棟に向かう。ここまでの流れも随分と慣れたものになってしまった。いつもの看護師の女性が幸村を見つけて挨拶をしてくる。すっかり顔見知りになってしまっている。嬉しいようで、でもやっぱり切ない。
「……あれ」
診察券を出した財布を鞄の中にしまう時、何かが底にあるのに気づいた。教科書やら他の荷物で潰されてくしゃくしゃになっていた。鞄の中から救出するとそれは縦長の封筒だった。今朝、家から出る際にたまたまポストを覗いたら入っていた自分宛ての手紙。テニス協会からのものだった。暫くじっと見つめてから、幸村は黙ってもう一度鞄の奥に押し込んだ。
プロになるための、大事な書類をこんなふうにしてしまっている。普段の自分だったら決してこんなふうには扱わないのに今はなにも考えたくない。プロになりたいのか、このままテニスを続けたいのかさえ、今は分からない。テニスと向き合うことを躊躇うのは、最近始まった通院生活に終止符を打ってからにしたい。
けどもし、このまま続くのだとしたら?そんな疑問がふとした時に浮かび上がっては自分の心をざわつかせる。病への恐怖、不安、孤独が頭の中でぐちゃぐちゃになって見えない敵となる。治らなかったら、だなんて後ろ向きなことばかり頭に浮かぶのだ。
診察室前の奥の待合室に向かう。エレベーターに乗りひとつ上の階へ。何人かかがすでに乗っていて、幸村はその人たちとは反対の奥の壁にもたれ掛かった。そして音に出ないため息を小さく吐いた。
今日は何をされるんだろう。何を言われるんだろう。考えるだけでどんどん足が重くなってゆく。担当の医者は“前回で終わりだ”と言っていたのにやっぱり嘘だった。だからやっぱり今日も、大して期待はしていない。
エレベーターを降り、角を曲がって少し開けた場所へ着く。いくつもある椅子のひとつに制服姿の女の子が座っていた。
「……琴璃ちゃん」
幸村に呼ばれ琴璃は読んでいた本から顔を上げた。自分を呼んだ相手が誰なのか分かって微笑む。患者しか入れないエリアだから当然跡部の姿はない。彼女も幸村と同じく、待合室で自分の番を待っているふうだった。一階の大きな総合ロビーとは違ってだいぶこぢんまりしているから琴璃の存在はすぐ見つけられた。彼女のかかっている心療内科も同じ階だったのを幸村は今初めて知った。病院 に来るといつも自分のことでいっぱいいっぱいだったから、周りに目を向ける余裕なんて無かった。
「キミも順番待ってるの?」
琴璃は頷く。今日も穏やかな表情をしている。いい笑顔なのに、この場に似つかわしくないなと思ってしまった。でも、ずっと張り詰めていた思いが彼女の顔を見たらなんだか和らいだ気がした。
彼女はいつもいたって平生だ。悩みは無いのだろうか。病院に来ることをストレスに感じないのだろうか。自分と言ったら、毎回こんなにも構えてしまうというのに。
幸村が隣に座ると琴璃は少し怪訝そうな顔になった。気の乱れを感じ取ったらしく、読んでいた文庫本をぱたんと閉じた。伺うように幸村の顔を覗き込んでくる。
「俺さ、テニスでは“神の子”なんて周りの人達に呼ばれてるんだ」
幸村の言葉に琴璃は分かったような分からないような、曖昧な頷き方をしてみせた。それでも幸村は構わず続ける。
「神様なんて……いないのにね」
彼女だったら聞いてくれる気がした。だから勝手に口が動いた。もう、見せかけの同情も、偽りの“大丈夫?”も欲しくなんかなかった。ただ静かに、自分が思いを吐露するのを聞いてもらうだけでいい。
「病気が憎いんだ。病院が、病室が。最近じゃ診察券を見るだけで気が滅入る。またあの日に戻るんじゃないかって。日夜ずっとパジャマ姿で、縛られた生活を送って、誰にも不安を言えなくて」
ぽつぽつと喋りだした気持ちだったけど、次第に勢いを増していく。隣の彼女は喋れないから、変な相づちも横槍も入らない。だから幸村が一方的に好き勝手に喋るのみ。それが今はすごく自分にとって都合が良かった。
「みんな心配してくれてるのは分かってるのに、受け止めきれなくて。こんなんじゃプロになるための道も遠のいてしまいそうでさ。病気が憎いよ。心底そう思う。何もかもを俺から奪おうとするんだよ」
“絶対治る”だなんて、なんの根拠もないまま信じ続けるのには限界があった。そんなに弱い精神力じゃないけれど、テニスとは全く違う世界のものだ。見えない敵を相手に、ゴールの分からない戦いを常に同じメンタルで太刀打ちするのはずっと大変なことなのだ。何も変わらない平和な日々を送れていたあの頃がすごく遠くて懐かしい。いつの間にこんなにこんなに脆く儚い人間になったんだろうか。病のことを考えたらキリがなくて。考えたところで答えも出なければ納得する案も浮かばない。このしがらみから解放されるには、病が完全に治ること。ただそれだけのことなのに、こうしていつまでも検査を強いられている。いつまでも、自分にぴたりと悪魔がついているようで――
「再検査結果が、怖いよ」
苦しげに本音を絞り出した。そして最後に幸村は項垂れてはーっと長いため息を吐く。膝の上で組んでいた両手に力を込めた。爪が食い込むくらいにきつく強く握り締める。けれど痛いのは指じゃない。もうずっと前から、体の中の見えない部分が悲鳴をあげていた。弱気になると自然と被害妄想ばかり膨らませてしまうから。自分の心と向き合うことをわざと避けていたけれど、本当は自分はこんなにも怖がっていたのだ。
幸村が放った弱音の後、たっぷりと30秒は沈黙があった。その間、隣の琴璃はぴくりとも動かなかった。どちらとも微動だにしない奇妙な時間が生まれた。でも、幸村はだんだんと沈黙が痛々しくなってきた。じわじわと、罪悪感に似たような気持ちが生まれだす。ぎゅっと瞳を閉じ、そして数秒してから再び開いた。
「ごめん、こんな一方的に暗いこと喋って。女の子に愚痴るとか、俺、情けないや」
琴璃が喋れないのを知っていて、自分は気の済むまで話し続けた。最低だと今更ながらに思った。
「どうしようもないね、俺。こんなことで狼狽えてて。もっと頑張らなくちゃいけないのに」
ごめんね。ちゃんと琴璃の顔を見て謝ろうと幸村は顔を上げた。けれど彼女は何故だか鞄の中に手を突っ込みiPadを取り出すと膝の上で広げ出したのだ。そして、ゆっくりと手を動かし始める。打ち込みながら琴璃はちらりと幸村を見る。“見て”と、言っているのが分かったから、幸村は画面を覗き込んだ。
“がんばらなくていい”
その一文だけが、真っさらな画面のど真ん中にあった。再びゆっくりと琴璃は指を動かし始める。
“がんばらなくちゃも、しっかりしなくちゃも必要ない
強要される強さなんて にせものだから”
たんたんと、決して早くはない彼女が文字を打つ音が鳴り続ける中、次々と言葉が姿を現す。
“不安なのも憎いのも怖いのも、ぜんぶ当たり前
ユキムラクンはちゃんと病気と向き合ってる
だから今度は、自分と向き合ってあげて
怖い、と感じたらそうだよねって
つらい、と思ったら当然だよって
自分の気持ちを否定しないであげて
なんでもないふうにしてたら、自分がかわいそうだよ”
琴璃は一度画面から幸村に目を向け、もう一度画面に目を戻し、文字を打ち込んだ。
“だいじょうぶ”
その時。左目に違和感を感じたと思うと何かがぼろりと目から落ちた。コンタクトなんかしてないのにこれはなんだ。幸村は自身の手で触れて確認する。指先が濡れた。涙だった。
「え、なにこれ」
いつの間にか右目からも同じ量で流れ落ちてきている。いきなりすぎて、本当に目玉が取れたのでも思ったくらいにびっくりした。
「泣いてるんだ、俺」
幸村の呟きに琴璃は頷いた。その目が優しげで真剣で、魅入ってしまいそうになるけれど幸村はすぐに我にかえる。泣くなんて、そんなつもりなかったのに。
「うわ……恥ずかし」
焦る気持ちが全身にまわる。あんなに冷えていた指先もあっという間に熱を取り戻した。おたおたする幸村に琴璃はハンカチをさし出す。何も言わずに微笑みながらそっと。何も言えない のが正しいのだけれど、きっと彼女が話せたのなら、今この瞬間間違いなく自分に“大丈夫だよ”と言ってくれている。そう思った。
「ありがとう」
受け取った淡いピンク色のそれも、もちろんウサギの絵柄がちょこんと隅に描かれていた。幸村はそっと目尻を拭う。ウサギが涙と一緒に不安を吸いとってくれているような、そんな気がした。
「ありがとう」
もう一度幸村が言ったその言葉に、琴璃はただ笑って返した。そして静かにiPadを鞄にしまう。
人に言われて大嫌いだった“大丈夫”が、こんなにも心にすとんと落ちてくるだなんて。怖いも憎いも当たり前なこと。持っちゃいけない感情なんてのは、この世に存在しないんだ。それを彼女が教えてくれた。ここ数日で初めて、心の底から救われた気がした。彼女から受け取った言葉は、音になっていなくとも、とてつもない力と勇気を幸村に与えてくれた。
幸村は1人項垂れながら駅のホームを出た。最近の水曜のこの時間帯は途端に足取りが重くなる。日中は学校で何をしたのかちっとも思い出せない。気づいたら、放課後になって、電車に乗って、またこの掛り付けの病院に来ていた。機械的な流れで受付を済ませてから、広いロビーをすり抜けいつもの自分が来ている病棟に向かう。ここまでの流れも随分と慣れたものになってしまった。いつもの看護師の女性が幸村を見つけて挨拶をしてくる。すっかり顔見知りになってしまっている。嬉しいようで、でもやっぱり切ない。
「……あれ」
診察券を出した財布を鞄の中にしまう時、何かが底にあるのに気づいた。教科書やら他の荷物で潰されてくしゃくしゃになっていた。鞄の中から救出するとそれは縦長の封筒だった。今朝、家から出る際にたまたまポストを覗いたら入っていた自分宛ての手紙。テニス協会からのものだった。暫くじっと見つめてから、幸村は黙ってもう一度鞄の奥に押し込んだ。
プロになるための、大事な書類をこんなふうにしてしまっている。普段の自分だったら決してこんなふうには扱わないのに今はなにも考えたくない。プロになりたいのか、このままテニスを続けたいのかさえ、今は分からない。テニスと向き合うことを躊躇うのは、最近始まった通院生活に終止符を打ってからにしたい。
けどもし、このまま続くのだとしたら?そんな疑問がふとした時に浮かび上がっては自分の心をざわつかせる。病への恐怖、不安、孤独が頭の中でぐちゃぐちゃになって見えない敵となる。治らなかったら、だなんて後ろ向きなことばかり頭に浮かぶのだ。
診察室前の奥の待合室に向かう。エレベーターに乗りひとつ上の階へ。何人かかがすでに乗っていて、幸村はその人たちとは反対の奥の壁にもたれ掛かった。そして音に出ないため息を小さく吐いた。
今日は何をされるんだろう。何を言われるんだろう。考えるだけでどんどん足が重くなってゆく。担当の医者は“前回で終わりだ”と言っていたのにやっぱり嘘だった。だからやっぱり今日も、大して期待はしていない。
エレベーターを降り、角を曲がって少し開けた場所へ着く。いくつもある椅子のひとつに制服姿の女の子が座っていた。
「……琴璃ちゃん」
幸村に呼ばれ琴璃は読んでいた本から顔を上げた。自分を呼んだ相手が誰なのか分かって微笑む。患者しか入れないエリアだから当然跡部の姿はない。彼女も幸村と同じく、待合室で自分の番を待っているふうだった。一階の大きな総合ロビーとは違ってだいぶこぢんまりしているから琴璃の存在はすぐ見つけられた。彼女のかかっている心療内科も同じ階だったのを幸村は今初めて知った。
「キミも順番待ってるの?」
琴璃は頷く。今日も穏やかな表情をしている。いい笑顔なのに、この場に似つかわしくないなと思ってしまった。でも、ずっと張り詰めていた思いが彼女の顔を見たらなんだか和らいだ気がした。
彼女はいつもいたって平生だ。悩みは無いのだろうか。病院に来ることをストレスに感じないのだろうか。自分と言ったら、毎回こんなにも構えてしまうというのに。
幸村が隣に座ると琴璃は少し怪訝そうな顔になった。気の乱れを感じ取ったらしく、読んでいた文庫本をぱたんと閉じた。伺うように幸村の顔を覗き込んでくる。
「俺さ、テニスでは“神の子”なんて周りの人達に呼ばれてるんだ」
幸村の言葉に琴璃は分かったような分からないような、曖昧な頷き方をしてみせた。それでも幸村は構わず続ける。
「神様なんて……いないのにね」
彼女だったら聞いてくれる気がした。だから勝手に口が動いた。もう、見せかけの同情も、偽りの“大丈夫?”も欲しくなんかなかった。ただ静かに、自分が思いを吐露するのを聞いてもらうだけでいい。
「病気が憎いんだ。病院が、病室が。最近じゃ診察券を見るだけで気が滅入る。またあの日に戻るんじゃないかって。日夜ずっとパジャマ姿で、縛られた生活を送って、誰にも不安を言えなくて」
ぽつぽつと喋りだした気持ちだったけど、次第に勢いを増していく。隣の彼女は喋れないから、変な相づちも横槍も入らない。だから幸村が一方的に好き勝手に喋るのみ。それが今はすごく自分にとって都合が良かった。
「みんな心配してくれてるのは分かってるのに、受け止めきれなくて。こんなんじゃプロになるための道も遠のいてしまいそうでさ。病気が憎いよ。心底そう思う。何もかもを俺から奪おうとするんだよ」
“絶対治る”だなんて、なんの根拠もないまま信じ続けるのには限界があった。そんなに弱い精神力じゃないけれど、テニスとは全く違う世界のものだ。見えない敵を相手に、ゴールの分からない戦いを常に同じメンタルで太刀打ちするのはずっと大変なことなのだ。何も変わらない平和な日々を送れていたあの頃がすごく遠くて懐かしい。いつの間にこんなにこんなに脆く儚い人間になったんだろうか。病のことを考えたらキリがなくて。考えたところで答えも出なければ納得する案も浮かばない。このしがらみから解放されるには、病が完全に治ること。ただそれだけのことなのに、こうしていつまでも検査を強いられている。いつまでも、自分にぴたりと悪魔がついているようで――
「再検査結果が、怖いよ」
苦しげに本音を絞り出した。そして最後に幸村は項垂れてはーっと長いため息を吐く。膝の上で組んでいた両手に力を込めた。爪が食い込むくらいにきつく強く握り締める。けれど痛いのは指じゃない。もうずっと前から、体の中の見えない部分が悲鳴をあげていた。弱気になると自然と被害妄想ばかり膨らませてしまうから。自分の心と向き合うことをわざと避けていたけれど、本当は自分はこんなにも怖がっていたのだ。
幸村が放った弱音の後、たっぷりと30秒は沈黙があった。その間、隣の琴璃はぴくりとも動かなかった。どちらとも微動だにしない奇妙な時間が生まれた。でも、幸村はだんだんと沈黙が痛々しくなってきた。じわじわと、罪悪感に似たような気持ちが生まれだす。ぎゅっと瞳を閉じ、そして数秒してから再び開いた。
「ごめん、こんな一方的に暗いこと喋って。女の子に愚痴るとか、俺、情けないや」
琴璃が喋れないのを知っていて、自分は気の済むまで話し続けた。最低だと今更ながらに思った。
「どうしようもないね、俺。こんなことで狼狽えてて。もっと頑張らなくちゃいけないのに」
ごめんね。ちゃんと琴璃の顔を見て謝ろうと幸村は顔を上げた。けれど彼女は何故だか鞄の中に手を突っ込みiPadを取り出すと膝の上で広げ出したのだ。そして、ゆっくりと手を動かし始める。打ち込みながら琴璃はちらりと幸村を見る。“見て”と、言っているのが分かったから、幸村は画面を覗き込んだ。
“がんばらなくていい”
その一文だけが、真っさらな画面のど真ん中にあった。再びゆっくりと琴璃は指を動かし始める。
“がんばらなくちゃも、しっかりしなくちゃも必要ない
強要される強さなんて にせものだから”
たんたんと、決して早くはない彼女が文字を打つ音が鳴り続ける中、次々と言葉が姿を現す。
“不安なのも憎いのも怖いのも、ぜんぶ当たり前
ユキムラクンはちゃんと病気と向き合ってる
だから今度は、自分と向き合ってあげて
怖い、と感じたらそうだよねって
つらい、と思ったら当然だよって
自分の気持ちを否定しないであげて
なんでもないふうにしてたら、自分がかわいそうだよ”
琴璃は一度画面から幸村に目を向け、もう一度画面に目を戻し、文字を打ち込んだ。
“だいじょうぶ”
その時。左目に違和感を感じたと思うと何かがぼろりと目から落ちた。コンタクトなんかしてないのにこれはなんだ。幸村は自身の手で触れて確認する。指先が濡れた。涙だった。
「え、なにこれ」
いつの間にか右目からも同じ量で流れ落ちてきている。いきなりすぎて、本当に目玉が取れたのでも思ったくらいにびっくりした。
「泣いてるんだ、俺」
幸村の呟きに琴璃は頷いた。その目が優しげで真剣で、魅入ってしまいそうになるけれど幸村はすぐに我にかえる。泣くなんて、そんなつもりなかったのに。
「うわ……恥ずかし」
焦る気持ちが全身にまわる。あんなに冷えていた指先もあっという間に熱を取り戻した。おたおたする幸村に琴璃はハンカチをさし出す。何も言わずに微笑みながらそっと。何も
「ありがとう」
受け取った淡いピンク色のそれも、もちろんウサギの絵柄がちょこんと隅に描かれていた。幸村はそっと目尻を拭う。ウサギが涙と一緒に不安を吸いとってくれているような、そんな気がした。
「ありがとう」
もう一度幸村が言ったその言葉に、琴璃はただ笑って返した。そして静かにiPadを鞄にしまう。
人に言われて大嫌いだった“大丈夫”が、こんなにも心にすとんと落ちてくるだなんて。怖いも憎いも当たり前なこと。持っちゃいけない感情なんてのは、この世に存在しないんだ。それを彼女が教えてくれた。ここ数日で初めて、心の底から救われた気がした。彼女から受け取った言葉は、音になっていなくとも、とてつもない力と勇気を幸村に与えてくれた。