唯一無二のブルー
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救出なのか強奪なのか微妙なやり方だったが、とりあえず琴璃の身柄を無事に確保した。よって、もうここには用はない。ジロー達はお化け屋敷に乗り気のようだったので構わず放っておく。役に立つだろうから、と跡部はその場に樺地も残していくことにした。だが。
「おお……これは実にリアルなフランケンシュタインができそうだぞ」
「すげーっ、これならうちが集客ダントツなんじゃなーい?」
「ああ。樺地くん、よろしく頼む」
跡部が樺地に残れと言った途端に青学連中が妙な盛り上がりを見せてきた。寄って集って彼の顔を覗き込んでいる。ついにはどこから取り出したのか大石が、先程桃城が琴璃の顔を白く塗りたくった刷毛を振り上げた。
「すごい、とてもお化けに向いてる顔つきだよ、キミは」
嬉々として樺地の顔にツギハギの模様を描く大石。本人の意向など全く無視している。あくまでもジローのおもり役で置いていくつもりで跡部は言ったのに、ちゃっかりお化けの一員にされているではないか。
「タダ働きやんけ」
冷静な忍足のツッコミは誰も聞いちゃいなかった。その隙に、さっさと跡部は琴璃を連れ出してしまった。
廊下を眉目秀麗な青年が、頭に斧が刺さったお化けを連れて歩いている。独特すぎる異彩を放っている。だからなのか、先程とは打って変わって誰1人声をかけてくるというツワモノはいなかった。だが注目はすごい。物凄いインパクトの絵面だから当然と言えば当然か。同じ空間にいる全生徒の視線を浴びているのは間違いなかった。
「言わなくて、ごめんなさい」
手を引かれながらお化けがポツリと呟いた。まさしく幽霊みたいに消え入りそうな声だった。琴璃は罰が悪くて、未だに跡部の顔を見れないでいる。
彼が来てくれなかったら。今頃半べそをかきながら暗い中でじっと耐えていた。否、耐えられたかどうかさえも怪しい。それを考えたら今更ながらにゾッとした。どうにか自分を奮い立たせてやり切ろうとしてたけど、やっぱり無理だったと思う。プチパニックになって過呼吸でも起こして大騒ぎになっていたかもしれない。
「お前のクラスはどこだ」
「へ」
「クラス単位でも何か出し物をしているんだろう。見てやるから連れていけ」
琴璃のクラスの出し物は喫茶店だった。けれどただの喫茶店ではない。仮装をテーマにしたコスプレ喫茶だった。クラスの生徒30名弱が皆、1人ずつ違う格好をする。何に扮装するかは打合せ時期にくじ引きで決められていた。皆平等になる為に男女別れず一斉に実施した。よって、男子が女装まがいの格好をする、という事例も発生した。ちょうど今、跡部の目の前をバニーガールの格好したいかつい男子生徒が通り過ぎた。何なんだ、これは。
「あれ、琴璃?今ってテニス部の店番じゃないの?って、どしたのその格好……と、え……ひ、氷帝の跡部様?」
「ああ、俺様だ」
琴璃に気付いたクラスメイトが近寄ってきたのだが、当たり前に隣にいる跡部の存在にぎょっとした。琴璃の友人もまた、テニス部でもないのに他校の跡部のことを知っている。本物の跡部景吾を見て、みるみる彼女のテンションが上がってゆく。やっぱりどこでも彼は顔が知られている。そのことに関して本人は別に驚くこともなく、相変わらず平然としている。
「うっそ、ねぇ、なんで?あんたどうして氷帝の跡部様といるの?」
「どうしても何も、俺は琴璃の彼氏だからな」
公に宣言すること本日2回目。琴璃の角度からは彼の横顔しか見えなかったけど、実に嬉しそうだった。あ、笑ってる、と思った。ずっと言いたくて堪らなかったんだろうな。ツッコミ担当の忍足もいないから琴璃は1人静かに思ったのだった。こんな派手好きな人が隠し事をするなんて、本当は絶対に嫌に決まっている。そんなのは琴璃も分かってた。けど、ここで言うか。爆弾発言を聞いた直後の友人はぽかんとしたまましばらく動かなかった。騒がれる前に素早く琴璃は「あとで説明するから」と彼女に耳打ちした。
「あの、テニス部のほうは抜けていいって言われたからこっちに来たの。クラスの出し物、見たいって言うから……」
言いながらもう一度チラリと隣の彼を見る。腕は組んでいるが、さっきまでの青学テニス部と対峙した時の不機嫌そうな顔はもうどこにもなく。むしろ清々しい表情をしている。それでいて、衝撃的にかっこいい。やっぱりこの人かっこいい。今更何思ってんだろうと自分でも思った。こんな状況でもそれを嫌でも感じてしまうだなんてどうかしてる。
「かっこいい……」
思わず自分の心の声が漏れたのかと思ったら、友人が祈るポーズで跡部を見ていた。やっぱり誰の目にも彼は格好良く映るのだ。友人は1人で勝手に興奮している。
「もーっ、あんたなんで教えてくれなかったのよう」
と、控えめにも騒ぎながら琴璃の両肩をむんずと掴んできた。こうなるから、教えたくなかったんです。琴璃は心のなかで呟いた。
「ねぇねぇ、そしたらさ、琴璃の衣装も見せてあげなよ」
「ええぇ……」
「なんだ、お前の仮装はそれじゃなかったのか」
「ちがっ!……これはテニス部のほうです!」
ちょっと声を荒げながら言うと、肩を強張らせ琴璃は跡部を残してカーテンで仕切られた“STAFF ONLY”の中へと消えていった。
「お待ちの間に、どうぞ、跡部様」
「あぁ」
喫茶店なのでちゃんと飲み物が出る。壁際の奥の席に案内された跡部は、琴璃の友人が運んできた紅茶を優雅に飲んだ。彼女の格好は可愛らしいメイド服を身に着けていた。周りを見渡すと、狼男やナース、侍なんかもいる。世界観が滅茶苦茶だった。でも、どれも衣装はなかなか精巧な創りをしている。
「実はみんなの衣装、どれも琴璃が中心になって作ったんですよ。あの子テニス部のマネージャーやってるから、裁縫する機会多いらしくて得意みたいで」
こんな所で琴璃の隠れざる特技を知った。と同時に、青学テニス部 に尽くしている実態も知ったことでほんの少しだけ胸がざわつく。別にそれがマネージャーである彼女の仕事だから当たり前なのに。でもどうせ彼女のことだ、必要以上のことを奴らに施しているに違いない。なんだかますますイラッとした。
「おまたせ、しました」
小さく上ずる声が聞こえた。
最初に目に留まったのは青。アイスブルーのような淡い涼しげな色のワンピースだった。その上にフリルたっぷりのエプロン。さっきまで斧を刺していた頭の上には、今は大きなリボンを乗せている。足元は白いタイツと底が厚めのブーツ。琴璃の仮装は不思議の国のアリスだった。じっと見つめる跡部。白塗り血まみれお化けとは似ても似つかない変貌ぶりだ。
「どーですかー?琴璃のアリス」
友人が弾んだ声で跡部に聞く。が、答える前に琴璃が前のめり気味になって騒ぎ出した。
「どうせ!馬子にも衣装だとか言いたいんでしょ!」
「何逆ギレしてんだよ。まだ何も言ってねぇだろうが」
ちゃんと言ってやろうと思ったのに。雰囲気をぶち壊すかのように琴璃は顔を赤くして仁王立ちで跡部と相対する。しかも何故か睨んでいる。けれどこういう所で意地っ張りが炸裂するのは跡部にとっちゃ予想の範疇だった。
「そんな遠くにいたんじゃ、よく分からないな」
言われて琴璃は思わずたじろぐ。要するにそれは、もっと近づけという意味。長い足を組んで優雅に座る彼は、心底面白そうに目を細めている。なんか、やっぱり、良い予感はしない。でも逆らう真似なんてできない。ここは青学で、しかも自分の教室の中なのに。ホームフィールドであるはずなのに相手の言う通りにするしかないなんて。逆らおうものなら何するか分からない。もしかしたら、アリスの世界のハートの女王なんかよりもずっと怖いかもしれない。琴璃はぎゅっとスカートの裾を握りしめ、ゆっくり1歩前に出た。
「おお……これは実にリアルなフランケンシュタインができそうだぞ」
「すげーっ、これならうちが集客ダントツなんじゃなーい?」
「ああ。樺地くん、よろしく頼む」
跡部が樺地に残れと言った途端に青学連中が妙な盛り上がりを見せてきた。寄って集って彼の顔を覗き込んでいる。ついにはどこから取り出したのか大石が、先程桃城が琴璃の顔を白く塗りたくった刷毛を振り上げた。
「すごい、とてもお化けに向いてる顔つきだよ、キミは」
嬉々として樺地の顔にツギハギの模様を描く大石。本人の意向など全く無視している。あくまでもジローのおもり役で置いていくつもりで跡部は言ったのに、ちゃっかりお化けの一員にされているではないか。
「タダ働きやんけ」
冷静な忍足のツッコミは誰も聞いちゃいなかった。その隙に、さっさと跡部は琴璃を連れ出してしまった。
廊下を眉目秀麗な青年が、頭に斧が刺さったお化けを連れて歩いている。独特すぎる異彩を放っている。だからなのか、先程とは打って変わって誰1人声をかけてくるというツワモノはいなかった。だが注目はすごい。物凄いインパクトの絵面だから当然と言えば当然か。同じ空間にいる全生徒の視線を浴びているのは間違いなかった。
「言わなくて、ごめんなさい」
手を引かれながらお化けがポツリと呟いた。まさしく幽霊みたいに消え入りそうな声だった。琴璃は罰が悪くて、未だに跡部の顔を見れないでいる。
彼が来てくれなかったら。今頃半べそをかきながら暗い中でじっと耐えていた。否、耐えられたかどうかさえも怪しい。それを考えたら今更ながらにゾッとした。どうにか自分を奮い立たせてやり切ろうとしてたけど、やっぱり無理だったと思う。プチパニックになって過呼吸でも起こして大騒ぎになっていたかもしれない。
「お前のクラスはどこだ」
「へ」
「クラス単位でも何か出し物をしているんだろう。見てやるから連れていけ」
琴璃のクラスの出し物は喫茶店だった。けれどただの喫茶店ではない。仮装をテーマにしたコスプレ喫茶だった。クラスの生徒30名弱が皆、1人ずつ違う格好をする。何に扮装するかは打合せ時期にくじ引きで決められていた。皆平等になる為に男女別れず一斉に実施した。よって、男子が女装まがいの格好をする、という事例も発生した。ちょうど今、跡部の目の前をバニーガールの格好したいかつい男子生徒が通り過ぎた。何なんだ、これは。
「あれ、琴璃?今ってテニス部の店番じゃないの?って、どしたのその格好……と、え……ひ、氷帝の跡部様?」
「ああ、俺様だ」
琴璃に気付いたクラスメイトが近寄ってきたのだが、当たり前に隣にいる跡部の存在にぎょっとした。琴璃の友人もまた、テニス部でもないのに他校の跡部のことを知っている。本物の跡部景吾を見て、みるみる彼女のテンションが上がってゆく。やっぱりどこでも彼は顔が知られている。そのことに関して本人は別に驚くこともなく、相変わらず平然としている。
「うっそ、ねぇ、なんで?あんたどうして氷帝の跡部様といるの?」
「どうしても何も、俺は琴璃の彼氏だからな」
公に宣言すること本日2回目。琴璃の角度からは彼の横顔しか見えなかったけど、実に嬉しそうだった。あ、笑ってる、と思った。ずっと言いたくて堪らなかったんだろうな。ツッコミ担当の忍足もいないから琴璃は1人静かに思ったのだった。こんな派手好きな人が隠し事をするなんて、本当は絶対に嫌に決まっている。そんなのは琴璃も分かってた。けど、ここで言うか。爆弾発言を聞いた直後の友人はぽかんとしたまましばらく動かなかった。騒がれる前に素早く琴璃は「あとで説明するから」と彼女に耳打ちした。
「あの、テニス部のほうは抜けていいって言われたからこっちに来たの。クラスの出し物、見たいって言うから……」
言いながらもう一度チラリと隣の彼を見る。腕は組んでいるが、さっきまでの青学テニス部と対峙した時の不機嫌そうな顔はもうどこにもなく。むしろ清々しい表情をしている。それでいて、衝撃的にかっこいい。やっぱりこの人かっこいい。今更何思ってんだろうと自分でも思った。こんな状況でもそれを嫌でも感じてしまうだなんてどうかしてる。
「かっこいい……」
思わず自分の心の声が漏れたのかと思ったら、友人が祈るポーズで跡部を見ていた。やっぱり誰の目にも彼は格好良く映るのだ。友人は1人で勝手に興奮している。
「もーっ、あんたなんで教えてくれなかったのよう」
と、控えめにも騒ぎながら琴璃の両肩をむんずと掴んできた。こうなるから、教えたくなかったんです。琴璃は心のなかで呟いた。
「ねぇねぇ、そしたらさ、琴璃の衣装も見せてあげなよ」
「ええぇ……」
「なんだ、お前の仮装はそれじゃなかったのか」
「ちがっ!……これはテニス部のほうです!」
ちょっと声を荒げながら言うと、肩を強張らせ琴璃は跡部を残してカーテンで仕切られた“STAFF ONLY”の中へと消えていった。
「お待ちの間に、どうぞ、跡部様」
「あぁ」
喫茶店なのでちゃんと飲み物が出る。壁際の奥の席に案内された跡部は、琴璃の友人が運んできた紅茶を優雅に飲んだ。彼女の格好は可愛らしいメイド服を身に着けていた。周りを見渡すと、狼男やナース、侍なんかもいる。世界観が滅茶苦茶だった。でも、どれも衣装はなかなか精巧な創りをしている。
「実はみんなの衣装、どれも琴璃が中心になって作ったんですよ。あの子テニス部のマネージャーやってるから、裁縫する機会多いらしくて得意みたいで」
こんな所で琴璃の隠れざる特技を知った。と同時に、
「おまたせ、しました」
小さく上ずる声が聞こえた。
最初に目に留まったのは青。アイスブルーのような淡い涼しげな色のワンピースだった。その上にフリルたっぷりのエプロン。さっきまで斧を刺していた頭の上には、今は大きなリボンを乗せている。足元は白いタイツと底が厚めのブーツ。琴璃の仮装は不思議の国のアリスだった。じっと見つめる跡部。白塗り血まみれお化けとは似ても似つかない変貌ぶりだ。
「どーですかー?琴璃のアリス」
友人が弾んだ声で跡部に聞く。が、答える前に琴璃が前のめり気味になって騒ぎ出した。
「どうせ!馬子にも衣装だとか言いたいんでしょ!」
「何逆ギレしてんだよ。まだ何も言ってねぇだろうが」
ちゃんと言ってやろうと思ったのに。雰囲気をぶち壊すかのように琴璃は顔を赤くして仁王立ちで跡部と相対する。しかも何故か睨んでいる。けれどこういう所で意地っ張りが炸裂するのは跡部にとっちゃ予想の範疇だった。
「そんな遠くにいたんじゃ、よく分からないな」
言われて琴璃は思わずたじろぐ。要するにそれは、もっと近づけという意味。長い足を組んで優雅に座る彼は、心底面白そうに目を細めている。なんか、やっぱり、良い予感はしない。でも逆らう真似なんてできない。ここは青学で、しかも自分の教室の中なのに。ホームフィールドであるはずなのに相手の言う通りにするしかないなんて。逆らおうものなら何するか分からない。もしかしたら、アリスの世界のハートの女王なんかよりもずっと怖いかもしれない。琴璃はぎゅっとスカートの裾を握りしめ、ゆっくり1歩前に出た。