唯一無二のブルー
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「肉!食いたい」
放課後、跡部のクラスにいきなりジローが乗り込んできたかと思うとそう叫んだのだ。あまりにうるさくて聞かないから、仕方なく連れて行ってやることになった。
「他にも呼んでくるねぇ」
と、ジローが言って集まったのは3年の元レギュラー。もう部活を引退した身ではあの頃ほど時間に縛られることも無くなったから顔を揃えるのは容易かった。
跡部は悠々と助手席に乗り、野郎4人を後部座席に詰め込んで車は目的地まで走る。場所は都内の有名な鉄板焼き。
こんな場所に一般の男子高校生が食べに行くことなどそうそう無い。けれど氷帝テニス部の面子はもうそんなこと慣れっこだった。むしろそれを見越してジローは最初から跡部に懇願してきたのだ。
「俺らってなんだかんだ仲良しだよねー」
「だよな」
狭い席で呑気に言うジローと向日。両端の宍戸と忍足も同意こそしないが満更でもない顔をしている。テニス部を引退しても仲が切れないのは事実だから構わないのだが。けれど向日も忍足も宍戸も、タダで美味いものにありつけるからついてきたのが正直なところだった。そうでなきゃ普通に各々の放課後を楽しんでいる。
大通り沿いは交通量が多いため、一本外れた道で車から降りた。そこから徒歩で店に向かうのだが、目的地に着くまでのそのわずかな距離で、まさか声をかけられるとは思わなかった。
「あっれー、氷帝のみなさんじゃないっすか」
一斉に皆振り向けば見知った面々が。青学の、不二と菊丸と桃城の3人がいた。彼らは皆、両手に何やら荷物をぶら下げている。
「青学やん」
「どしたの?こんなところで」
「俺ら、今から肉食いに行くんだ」
「まじっすか?」
「へっへー、いいっしょ。しかも超高級な肉なんだよー」
跡部の采配で行けるのにジローが謎に威張っている。おまけに調子にも乗っていた。
「一緒に行く?」
「アホ。何勝手に誘っとんねん」
忍足が一応突っ込む。じゃなきゃ本気で桃城あたりは便乗してきそうだった。でも、向こうにもまともな人間はちゃんといた。不二がやんわりと、目を輝かせる桃城の前に一歩出る。
「ダメだよ、桃。早く戻らなきゃ手塚に怒られちゃうよ。せっかくだけど僕ら、文化祭の準備があるから」
「文化祭?」
「そーそー。俺らその買い出しの帰りだったんだよん」
「再来週にあるんだけど、跡部、琴璃から文化祭のこと聞いてないの?」
「……初耳だな」
再来週と言えば、彼女からは何やら予定があるから会えないと言われただけ。文化祭だなんてことは琴璃は一言も言ってなかった。
「つーか。不二先輩、なんで琴璃のやつが跡部さんにそんなん教えるんすか。てかそもそも、跡部さんってうちのマネージャーのこと知ってるんすか?」
「え」
跡部は桃城の問いかけに何も反応しなかった。どうやら本当に、琴璃は自分らが付き合っている事実を徹底して隠しているらしい。だが、たった今不二が墓穴を掘った。これでバレても俺のせいじゃねぇからな、と跡部は心の中で思う。
「あぁ、ほら、この前あった各校2名選抜合宿の時にさ。僕と手塚が選ばれて、琴璃も一緒に行ったやつ。あの時、氷帝は跡部と忍足だったんだよ。その合宿中に2人は知り合ったんだよ。ね?」
「……ああ」
平生を装いつつ不二が同意を求めてきた。仕方なく跡部は相槌を打つ。だからって、それだけで文化祭の日取りを教えるような仲になるものか。
「アホやんなぁ、桃城」
忍足だけが、ひとり静かにツッコミを打っていた。この場にいる奴等が鈍感ばかりでいてくれたおかげでそれ以上琴璃のことを深掘りされることもなかった。というか氷帝側の残り3人は、はなから肉のことしか考えていない。
「じゃあ、僕らはこれで」
これ以上話しているとボロが出ると思ったのだろう。行こうか、と仲間2人に促し不二は会話を早々に打ち切ろうとする。
「ほいじゃねー」
「よかったら来てくださいよ、うちの文化祭」
「おーたのしそー」
「自分ら、何やるん?」
「俺らはねぇ、お化け屋敷だよ」
「まじで?」
「そそ、結構本格的なやつ。特殊メイクとかしちゃうんだから!向日なんか、ちょービビると思うよん」
「うるっせー、なんで俺なんだよっ」
「いやマジで本格的っすよ。なんせ暗幕カーテン特注して、暗視ゴーグルじゃなきゃ見えないくらい真っ暗にするんすから」
歩き出していた跡部の足がぴたりと止まる。そのせいで後ろにいた連中に追い抜かされる。跡部早く行こうぜ、という宍戸の声も、聞こえているけれど跡部は反応しなかった。反応したのはそこじゃなかった。
お化け屋敷だとか特殊メイクがどうとかは、正直どうでも良い。問題は最後の桃城の言葉だ。もう一度青学のほうを振り返る。ちょうど桃城と菊丸は2人仲良く歩き出していて、わずかに不二と距離が空いていた。
「おい不二」
呼び掛けに振り向いて足を止めた不二は、跡部のほうを不思議そうに見る。
「あのマネージャー も脅かし役をやるのか」
一応、他の誰かに聞こえているかもしれないことを考えてそんな呼称をする。
「そうだよ?内容は秘密だからあんまり言えないけど、彼女も変装してお客さんを脅かしてもらうんだ」
「それはあいつが買って出たのか?」
「……ふふ、気になるの?跡部。だったら尚更、当日見にきたら?」
不二は、跡部は琴璃の変装について気になっていると思い込んでいる。だが跡部はそんなものどうでも良かった。興味がないと言えば嘘になるが、それよりも気になることがある。
「そうだな」
それだけ言って、跡部は再び足を動かす。
真っ暗な空間にいることは、琴璃にとったら地獄みたいなもんだ。なのに、仮装をして暗闇に潜んで客を脅かす役をすると言う。そんな芸当彼女にできるわけがない。大方、先を歩くあの破天荒な先輩どもに押されて断れなかったんだろうなと思った。
数メートル前でジローが早く来いと叫んでいる。不二と別れてからも、当然跡部は急がない。
「あとべー、にくーはやくー」
成程そういうことかと思った。琴璃が2週続けて会えないと言った理由。来週は文化祭の準備の追い込み、そして再来週は文化祭当日。だから彼女は自分と会えないと告げたのだ。歩きながら全てを理解した。
理由は分かった。だが問題は、なぜ琴璃は本当のことを言わなかったのだろう。学校の行事があるから会えないと。素直に言えばいいのに彼女は真実を告げなかった。彼女の真意は何なんだろうか。一瞬考えた。だがすぐにやめた。
「あっとべー、はやくったらぁ!」
そんなもの手に取るように分かる。
「ったく」
しょうがねぇな。言いながらようやく跡部はジローのほうを見る。早く早くと子供のように顔を綻ばせながら跡部が追い付くのを待っている。
アイツも。ジロー の半分くらい人に頼る性格があればな。
だが思ったところでそう簡単に助けを求めたりしてこないのだ、あの恋人は。
放課後、跡部のクラスにいきなりジローが乗り込んできたかと思うとそう叫んだのだ。あまりにうるさくて聞かないから、仕方なく連れて行ってやることになった。
「他にも呼んでくるねぇ」
と、ジローが言って集まったのは3年の元レギュラー。もう部活を引退した身ではあの頃ほど時間に縛られることも無くなったから顔を揃えるのは容易かった。
跡部は悠々と助手席に乗り、野郎4人を後部座席に詰め込んで車は目的地まで走る。場所は都内の有名な鉄板焼き。
こんな場所に一般の男子高校生が食べに行くことなどそうそう無い。けれど氷帝テニス部の面子はもうそんなこと慣れっこだった。むしろそれを見越してジローは最初から跡部に懇願してきたのだ。
「俺らってなんだかんだ仲良しだよねー」
「だよな」
狭い席で呑気に言うジローと向日。両端の宍戸と忍足も同意こそしないが満更でもない顔をしている。テニス部を引退しても仲が切れないのは事実だから構わないのだが。けれど向日も忍足も宍戸も、タダで美味いものにありつけるからついてきたのが正直なところだった。そうでなきゃ普通に各々の放課後を楽しんでいる。
大通り沿いは交通量が多いため、一本外れた道で車から降りた。そこから徒歩で店に向かうのだが、目的地に着くまでのそのわずかな距離で、まさか声をかけられるとは思わなかった。
「あっれー、氷帝のみなさんじゃないっすか」
一斉に皆振り向けば見知った面々が。青学の、不二と菊丸と桃城の3人がいた。彼らは皆、両手に何やら荷物をぶら下げている。
「青学やん」
「どしたの?こんなところで」
「俺ら、今から肉食いに行くんだ」
「まじっすか?」
「へっへー、いいっしょ。しかも超高級な肉なんだよー」
跡部の采配で行けるのにジローが謎に威張っている。おまけに調子にも乗っていた。
「一緒に行く?」
「アホ。何勝手に誘っとんねん」
忍足が一応突っ込む。じゃなきゃ本気で桃城あたりは便乗してきそうだった。でも、向こうにもまともな人間はちゃんといた。不二がやんわりと、目を輝かせる桃城の前に一歩出る。
「ダメだよ、桃。早く戻らなきゃ手塚に怒られちゃうよ。せっかくだけど僕ら、文化祭の準備があるから」
「文化祭?」
「そーそー。俺らその買い出しの帰りだったんだよん」
「再来週にあるんだけど、跡部、琴璃から文化祭のこと聞いてないの?」
「……初耳だな」
再来週と言えば、彼女からは何やら予定があるから会えないと言われただけ。文化祭だなんてことは琴璃は一言も言ってなかった。
「つーか。不二先輩、なんで琴璃のやつが跡部さんにそんなん教えるんすか。てかそもそも、跡部さんってうちのマネージャーのこと知ってるんすか?」
「え」
跡部は桃城の問いかけに何も反応しなかった。どうやら本当に、琴璃は自分らが付き合っている事実を徹底して隠しているらしい。だが、たった今不二が墓穴を掘った。これでバレても俺のせいじゃねぇからな、と跡部は心の中で思う。
「あぁ、ほら、この前あった各校2名選抜合宿の時にさ。僕と手塚が選ばれて、琴璃も一緒に行ったやつ。あの時、氷帝は跡部と忍足だったんだよ。その合宿中に2人は知り合ったんだよ。ね?」
「……ああ」
平生を装いつつ不二が同意を求めてきた。仕方なく跡部は相槌を打つ。だからって、それだけで文化祭の日取りを教えるような仲になるものか。
「アホやんなぁ、桃城」
忍足だけが、ひとり静かにツッコミを打っていた。この場にいる奴等が鈍感ばかりでいてくれたおかげでそれ以上琴璃のことを深掘りされることもなかった。というか氷帝側の残り3人は、はなから肉のことしか考えていない。
「じゃあ、僕らはこれで」
これ以上話しているとボロが出ると思ったのだろう。行こうか、と仲間2人に促し不二は会話を早々に打ち切ろうとする。
「ほいじゃねー」
「よかったら来てくださいよ、うちの文化祭」
「おーたのしそー」
「自分ら、何やるん?」
「俺らはねぇ、お化け屋敷だよ」
「まじで?」
「そそ、結構本格的なやつ。特殊メイクとかしちゃうんだから!向日なんか、ちょービビると思うよん」
「うるっせー、なんで俺なんだよっ」
「いやマジで本格的っすよ。なんせ暗幕カーテン特注して、暗視ゴーグルじゃなきゃ見えないくらい真っ暗にするんすから」
歩き出していた跡部の足がぴたりと止まる。そのせいで後ろにいた連中に追い抜かされる。跡部早く行こうぜ、という宍戸の声も、聞こえているけれど跡部は反応しなかった。反応したのはそこじゃなかった。
お化け屋敷だとか特殊メイクがどうとかは、正直どうでも良い。問題は最後の桃城の言葉だ。もう一度青学のほうを振り返る。ちょうど桃城と菊丸は2人仲良く歩き出していて、わずかに不二と距離が空いていた。
「おい不二」
呼び掛けに振り向いて足を止めた不二は、跡部のほうを不思議そうに見る。
「
一応、他の誰かに聞こえているかもしれないことを考えてそんな呼称をする。
「そうだよ?内容は秘密だからあんまり言えないけど、彼女も変装してお客さんを脅かしてもらうんだ」
「それはあいつが買って出たのか?」
「……ふふ、気になるの?跡部。だったら尚更、当日見にきたら?」
不二は、跡部は琴璃の変装について気になっていると思い込んでいる。だが跡部はそんなものどうでも良かった。興味がないと言えば嘘になるが、それよりも気になることがある。
「そうだな」
それだけ言って、跡部は再び足を動かす。
真っ暗な空間にいることは、琴璃にとったら地獄みたいなもんだ。なのに、仮装をして暗闇に潜んで客を脅かす役をすると言う。そんな芸当彼女にできるわけがない。大方、先を歩くあの破天荒な先輩どもに押されて断れなかったんだろうなと思った。
数メートル前でジローが早く来いと叫んでいる。不二と別れてからも、当然跡部は急がない。
「あとべー、にくーはやくー」
成程そういうことかと思った。琴璃が2週続けて会えないと言った理由。来週は文化祭の準備の追い込み、そして再来週は文化祭当日。だから彼女は自分と会えないと告げたのだ。歩きながら全てを理解した。
理由は分かった。だが問題は、なぜ琴璃は本当のことを言わなかったのだろう。学校の行事があるから会えないと。素直に言えばいいのに彼女は真実を告げなかった。彼女の真意は何なんだろうか。一瞬考えた。だがすぐにやめた。
「あっとべー、はやくったらぁ!」
そんなもの手に取るように分かる。
「ったく」
しょうがねぇな。言いながらようやく跡部はジローのほうを見る。早く早くと子供のように顔を綻ばせながら跡部が追い付くのを待っている。
アイツも。
だが思ったところでそう簡単に助けを求めたりしてこないのだ、あの恋人は。