愛しさが背中を押す時
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気づいたら、2人の元に駆け寄っていた。
「え、ちょちょちょ、な、跡部、なんで?」
「侑士くん、おはよう。あ、もう今ってこんにちはかな」
忍足は驚きが隠せないというのに、琴璃はというと朗らかに手を振ってきた。
「なんだ、テメーの連れだったのかよ」
2人が顔見知りだと分かり跡部は忍足を睨む。跡部の機嫌があまりよろしくない。そのことに瞬時に忍足は気がついた。琴璃は大丈夫だっただろうか。だがそんな忍足の気遣いを露とも知らず琴璃はにこにこ笑っている。
「遅れちゃってごめんね。試合って、これから?」
「いや、さっき終わってもうた」
「えぇ!」
「ちゅうか、琴璃ちゃん、なんで跡部なんかとおんの?」
「あぁ?なんだその言い草は。俺がテメーの女をここまで連れてきてやったんだろうが。もっと先に言うことあるだろうがよ」
「や、女やないんやけど……まぁ、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございました」
「フン」
2人して跡部に深々頭を下げる。琴璃が歳上だろうがそんなことはこの男には関係ないのだ。そして、自分が忍足の女呼ばわりされたというのに、琴璃はよく分かっていなかった。
「でも試合に間に合わなかったんだね……残念」
「けど、この後もまだまだ俺試合あるで。まぁ、勝ち進めばなんやけど」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ。勝つに決まってんだろが」
吐き捨てるように言って、跡部は皆がいるベンチのほうへ行ってしまった。琴璃がその後ろ姿をぼーっと見つめていた。その彼女の視線を見てなんだか、気のせいだと思いたいが忍足は小さな胸騒ぎを感じていた。自分だけが未だに焦っている。おずおず琴璃に話しかける。
「なぁ、もしかして……格好良いとか思っとる?あいつのこと」
「え?あ、ううん、すごい人だなって。侑士くんのお友達?」
「友達っちゅーか、まあ……友達か」
その表現で正しいのかふと悩むけど、間違いでもないから否定をしなかった。
「せやけどほんまびっくりしたわ。跡部とおるから、まさか自分ら知り合いやったんかと思った」
「実は道に迷っちゃって……分かんなくてうろうろしてたら向こうから来る人と目が合って、“氷帝学園のテニスの試合会場ってどこですか”って思い切って聞いたらついてこいって言われたの」
「あ、そなの」
「まさか道聞いた人が侑士くんのお友達だったなんてびっくりだね」
「ははは、せやな」
「でも、ちょっと恥ずかしい」
「ん?なにが?」
「道に迷うなんてさ。こんな、大学生にもなって。やっぱり私ってどんくさいね」
あははと困ったように笑う琴璃。でも忍足はつられて笑わなかった。結局忍足の思った通りで、琴璃はばっちり道に迷って遅刻したわけだが。“それ見た事か”とは全く思わなかった。
「琴璃ちゃんは、そのまんまがええと思う」
「え?」
「こないだ、俺が言いかけてやめたこと。あれ本当は今日のテニス見に来てって言うつもりやなかった。あぁ別に、来て欲しくなかったとか、そういう意味やないで」
「うん」
「琴璃ちゃんはやたらと“幼い”って見られることを嫌がっとるけど。そんなに嫌?」
「だって、なんか子供っぽいもの」
「そうかなぁ」
「……侑士くんだって、そう見えるでしょ?私のこと」
「全く」
「そう、なの?」
「俺は琴璃ちゃんのこと、そないなふうには思っとらんし。ま、天然な子やな、とは思ったんやけどな」
琴璃は何も言わず、ただ怪訝な顔で忍足を見つめる。
「歳が上とか下とか。大人っぽいとか子供っぽいとか。愛想良いとか悪いとか。そんなのその人の個性やから無理に直そうとせんでもええんとちゃう?あー、歳はどうにもならへんわ。若返んのなんて、どうやったって無理やな」
「……侑士くん」
「せやからもし、こないだ自分で言うてた、“どんくさい”っちゅーのを気にしてるんやったら、ちゃんと言うとこ思って。それにな、危なっかしくて見守っててやらんとな、って相手に思わせてくれるんは、欠点やなくて1つの魅力なんとちゃうの」
愛想が良いとか悪いとかはその人の個性。それはある種自分にも言い聞かせていた。自分の外見と内面を比べられて好きと言われ、改めて評価されて期待外れだと別れる選択をとられ。まるで“こうあるべき”だと押しつけられている気がして窮屈だった。だからいつからか人付き合いにおいては、自然と相手と話を合わせ自分の意見を殺すようにしていた。でも、そんな自分とは違い琴璃は全力で感情を表現する。自分にはできない素晴らしいと思うところ。それを彼女自身が“子供っぽい”と思い否定するのなら自分がしっかり伝えてやらないと。忍足はそう思ったのだ。
「ありがとう、侑士くん」
「や、なんや偉そうに語りすぎたわ」
こんなに喋ることは滅多にないのに。彼女が一生懸命聞いてくれたから少々饒舌になりすぎたのかもしれない。今になって少しだけこそばゆい。
「侑士くんが私よりずっと大人っぽいから、なんていうかその……焦っちゃって」
「焦る?」
「大人っぽい人には大人の雰囲気じゃないと対等に話せないな、なんて勝手に思っちゃってたの。だからこの前ね、恵里奈ちゃんがよく着てるような服買って、今日それ着てきたんだけど……全然似合わないや」
そういえば、と改めて琴璃を見る。今日の雰囲気はいつもと違う。黒いタイトスカートなんて、選ぶようなタイプじゃない。別に、似合わないなんてことはないけど普段彼女の持つ雰囲気とはぜんぜん違うファッションだった。
「けど、俺のために着てくれたんやろ?それはそれで似合ってんで」
「あ、ありが、とう」
その時向こうからワァッと歓声が聞こえる。氷帝と叫ぶコールと黄色い声が混ざり響き渡っている。
「お、試合どうなったかな。ほな、見に行こか」
「うん。あ、あの、侑士くん!」
「お?」
「“今の彼女”とは、夏でいったんお別れするんですよね……?」
振り向けば。琴璃が真っ赤な顔をしてこっちを見ていた。緊張しているのか、両手をグッと握り仁王立ちのポーズにで勇ましくも見える。せっかく彼女の思う“大人の女性”の格好でいるというのに、その可笑しな格好で台無しだ。ぷっと忍足は吹き出してしまった。
「なんやのその、けったいな言い方」
「あ、変だった、かな」
「まぁ、ええけど。せやな、この夏で俺は彼女とお別れや。ま、たまには会うと思うけど、今みたくずーっと相手してやることは無くなるんやろなぁ」
「……そうですか!」
それを聞いてものすごく嬉しそうに笑う琴璃。両手を胸の前で合わせとびきりの笑顔で喜んでいる。
「なんなんこの会話」
けれど琴璃はそれ以上のことは言ってこなかった。忍足の答えに納得と満足をしたようで、今はご機嫌に忍足のあとを着いてくる。雛鳥みたいやな、と思う。
正直。ちょっとだけ期待してた。もしかしなくとも“今の彼女と別れたら私と付き合って”まがいなことを言われるのかと思ってたが、そんな展開には成らず。単なる忍足の自惚れに終わった。
そもそも彼女はそんな図々しい人ではないから。“今は彼女を大事にしてね”。言葉をかけてくれるならばそんなふうに笑って言ってきそうな気がする。けれど別にそれは嫌味でも余裕から出る言葉でもなくて琴璃の本心からの思い。今夏最後のテニスに集中して欲しいからという気持ちを込めて、彼女ならそんな思いやりのある暖かな言葉を贈ってくれそうな気がした。
「よっしゃ。やったろか」
あの声援とコールを受けられるのもあと少しだから。自分の全力を出し切ろう。そしたらもっと、今自分の斜め後ろをついてくる彼女が喜んでくれる気がする。
次の試合は最高に格好良いテニスしたろ。柄にもなく、忍足はそんなことを思ったのだった。
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もし番外編書くとしたら、
“なかなか琴璃に歩み寄らない弟に業を煮やした恵里奈が、弟のセレブ友人跡部景吾くんと手を組んでちょっとしたイタズラを仕掛けて弟のポーカーフェイスを崩してやろう大作戦”
みたいな内容の話を書きたいです。長いな
忍足夢なのに跡部様を出張らせるような展開にしたい。忍足夢なのに、めっちゃ誘惑してもらうんだ
「え、ちょちょちょ、な、跡部、なんで?」
「侑士くん、おはよう。あ、もう今ってこんにちはかな」
忍足は驚きが隠せないというのに、琴璃はというと朗らかに手を振ってきた。
「なんだ、テメーの連れだったのかよ」
2人が顔見知りだと分かり跡部は忍足を睨む。跡部の機嫌があまりよろしくない。そのことに瞬時に忍足は気がついた。琴璃は大丈夫だっただろうか。だがそんな忍足の気遣いを露とも知らず琴璃はにこにこ笑っている。
「遅れちゃってごめんね。試合って、これから?」
「いや、さっき終わってもうた」
「えぇ!」
「ちゅうか、琴璃ちゃん、なんで跡部なんかとおんの?」
「あぁ?なんだその言い草は。俺がテメーの女をここまで連れてきてやったんだろうが。もっと先に言うことあるだろうがよ」
「や、女やないんやけど……まぁ、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございました」
「フン」
2人して跡部に深々頭を下げる。琴璃が歳上だろうがそんなことはこの男には関係ないのだ。そして、自分が忍足の女呼ばわりされたというのに、琴璃はよく分かっていなかった。
「でも試合に間に合わなかったんだね……残念」
「けど、この後もまだまだ俺試合あるで。まぁ、勝ち進めばなんやけど」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ。勝つに決まってんだろが」
吐き捨てるように言って、跡部は皆がいるベンチのほうへ行ってしまった。琴璃がその後ろ姿をぼーっと見つめていた。その彼女の視線を見てなんだか、気のせいだと思いたいが忍足は小さな胸騒ぎを感じていた。自分だけが未だに焦っている。おずおず琴璃に話しかける。
「なぁ、もしかして……格好良いとか思っとる?あいつのこと」
「え?あ、ううん、すごい人だなって。侑士くんのお友達?」
「友達っちゅーか、まあ……友達か」
その表現で正しいのかふと悩むけど、間違いでもないから否定をしなかった。
「せやけどほんまびっくりしたわ。跡部とおるから、まさか自分ら知り合いやったんかと思った」
「実は道に迷っちゃって……分かんなくてうろうろしてたら向こうから来る人と目が合って、“氷帝学園のテニスの試合会場ってどこですか”って思い切って聞いたらついてこいって言われたの」
「あ、そなの」
「まさか道聞いた人が侑士くんのお友達だったなんてびっくりだね」
「ははは、せやな」
「でも、ちょっと恥ずかしい」
「ん?なにが?」
「道に迷うなんてさ。こんな、大学生にもなって。やっぱり私ってどんくさいね」
あははと困ったように笑う琴璃。でも忍足はつられて笑わなかった。結局忍足の思った通りで、琴璃はばっちり道に迷って遅刻したわけだが。“それ見た事か”とは全く思わなかった。
「琴璃ちゃんは、そのまんまがええと思う」
「え?」
「こないだ、俺が言いかけてやめたこと。あれ本当は今日のテニス見に来てって言うつもりやなかった。あぁ別に、来て欲しくなかったとか、そういう意味やないで」
「うん」
「琴璃ちゃんはやたらと“幼い”って見られることを嫌がっとるけど。そんなに嫌?」
「だって、なんか子供っぽいもの」
「そうかなぁ」
「……侑士くんだって、そう見えるでしょ?私のこと」
「全く」
「そう、なの?」
「俺は琴璃ちゃんのこと、そないなふうには思っとらんし。ま、天然な子やな、とは思ったんやけどな」
琴璃は何も言わず、ただ怪訝な顔で忍足を見つめる。
「歳が上とか下とか。大人っぽいとか子供っぽいとか。愛想良いとか悪いとか。そんなのその人の個性やから無理に直そうとせんでもええんとちゃう?あー、歳はどうにもならへんわ。若返んのなんて、どうやったって無理やな」
「……侑士くん」
「せやからもし、こないだ自分で言うてた、“どんくさい”っちゅーのを気にしてるんやったら、ちゃんと言うとこ思って。それにな、危なっかしくて見守っててやらんとな、って相手に思わせてくれるんは、欠点やなくて1つの魅力なんとちゃうの」
愛想が良いとか悪いとかはその人の個性。それはある種自分にも言い聞かせていた。自分の外見と内面を比べられて好きと言われ、改めて評価されて期待外れだと別れる選択をとられ。まるで“こうあるべき”だと押しつけられている気がして窮屈だった。だからいつからか人付き合いにおいては、自然と相手と話を合わせ自分の意見を殺すようにしていた。でも、そんな自分とは違い琴璃は全力で感情を表現する。自分にはできない素晴らしいと思うところ。それを彼女自身が“子供っぽい”と思い否定するのなら自分がしっかり伝えてやらないと。忍足はそう思ったのだ。
「ありがとう、侑士くん」
「や、なんや偉そうに語りすぎたわ」
こんなに喋ることは滅多にないのに。彼女が一生懸命聞いてくれたから少々饒舌になりすぎたのかもしれない。今になって少しだけこそばゆい。
「侑士くんが私よりずっと大人っぽいから、なんていうかその……焦っちゃって」
「焦る?」
「大人っぽい人には大人の雰囲気じゃないと対等に話せないな、なんて勝手に思っちゃってたの。だからこの前ね、恵里奈ちゃんがよく着てるような服買って、今日それ着てきたんだけど……全然似合わないや」
そういえば、と改めて琴璃を見る。今日の雰囲気はいつもと違う。黒いタイトスカートなんて、選ぶようなタイプじゃない。別に、似合わないなんてことはないけど普段彼女の持つ雰囲気とはぜんぜん違うファッションだった。
「けど、俺のために着てくれたんやろ?それはそれで似合ってんで」
「あ、ありが、とう」
その時向こうからワァッと歓声が聞こえる。氷帝と叫ぶコールと黄色い声が混ざり響き渡っている。
「お、試合どうなったかな。ほな、見に行こか」
「うん。あ、あの、侑士くん!」
「お?」
「“今の彼女”とは、夏でいったんお別れするんですよね……?」
振り向けば。琴璃が真っ赤な顔をしてこっちを見ていた。緊張しているのか、両手をグッと握り仁王立ちのポーズにで勇ましくも見える。せっかく彼女の思う“大人の女性”の格好でいるというのに、その可笑しな格好で台無しだ。ぷっと忍足は吹き出してしまった。
「なんやのその、けったいな言い方」
「あ、変だった、かな」
「まぁ、ええけど。せやな、この夏で俺は彼女とお別れや。ま、たまには会うと思うけど、今みたくずーっと相手してやることは無くなるんやろなぁ」
「……そうですか!」
それを聞いてものすごく嬉しそうに笑う琴璃。両手を胸の前で合わせとびきりの笑顔で喜んでいる。
「なんなんこの会話」
けれど琴璃はそれ以上のことは言ってこなかった。忍足の答えに納得と満足をしたようで、今はご機嫌に忍足のあとを着いてくる。雛鳥みたいやな、と思う。
正直。ちょっとだけ期待してた。もしかしなくとも“今の彼女と別れたら私と付き合って”まがいなことを言われるのかと思ってたが、そんな展開には成らず。単なる忍足の自惚れに終わった。
そもそも彼女はそんな図々しい人ではないから。“今は彼女を大事にしてね”。言葉をかけてくれるならばそんなふうに笑って言ってきそうな気がする。けれど別にそれは嫌味でも余裕から出る言葉でもなくて琴璃の本心からの思い。今夏最後のテニスに集中して欲しいからという気持ちを込めて、彼女ならそんな思いやりのある暖かな言葉を贈ってくれそうな気がした。
「よっしゃ。やったろか」
あの声援とコールを受けられるのもあと少しだから。自分の全力を出し切ろう。そしたらもっと、今自分の斜め後ろをついてくる彼女が喜んでくれる気がする。
次の試合は最高に格好良いテニスしたろ。柄にもなく、忍足はそんなことを思ったのだった。
===============================================================
もし番外編書くとしたら、
“なかなか琴璃に歩み寄らない弟に業を煮やした恵里奈が、弟のセレブ友人跡部景吾くんと手を組んでちょっとしたイタズラを仕掛けて弟のポーカーフェイスを崩してやろう大作戦”
みたいな内容の話を書きたいです。長いな
忍足夢なのに跡部様を出張らせるような展開にしたい。忍足夢なのに、めっちゃ誘惑してもらうんだ
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