物事は全て必然的に起きている
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店内の客は8割強が女性だった。ほとんどが女同士で来ていてケーキバイキングを楽しんでいる。そのうち何組かはカップルのような人達もいた。それも大人の人達ばかり。仕事帰りなのかまでは定かではないが、自分達のように制服姿でスイーツを食べに来ている客はほぼ見当たらない。別にこの店はドレスコードのようなものは必要ない。けれど、こんなにも客層が自分らと離れていると多少は緊張してしまうものなのに。
「うーわ、どうするよおい」
ここに着いてから今に至るまで丸井の機嫌は絶好調だった。一時あんなにムスッとしていたのに今やまるで別人みたいにニヤけ顔がおさまらずにいる。さっきからちょっと大きめの独り言が止まらない。彼の心の中の感嘆の叫びが漏れ出てしまっている。
席に案内され簡単な説明を受けている間も、丸井の視線と意識はスイーツのほうに一直線だった。ちっとも店員の話を聞いていないから琴璃は可笑しくて笑いを堪えるのが必死だった。
「んじゃあ、行くか藤白」
「あ、うん」
格好つけた言い方で琴璃を呼ぶけど足取りはだいぶ浮ついている。別にもともと普段の彼もクールというわけじゃない。でも派手な馬鹿騒ぎをするような人ではない。琴璃の中の丸井の印象はそんなふうだったのに、昨日今日で彼に対するイメージが変わってゆく。全然知らなかった。本気で嬉しい時はこんなふうに笑うこと。好きなもの食べてる時はあんなふうにテンション高くなること。琴璃の知らなかった彼の一面がひとつずつ増えていく。そのたびにドキドキするし、瞳がそらせなくなる。距離が縮まるとこんなにも楽しい。そばにいられて、こんなに幸せ。
皿に乗せたフルーツタルトがきらきらしている。ワゴンには琴璃が大好きなケーキが沢山陳列されていた。目移りしながらいくつか選んでみたけど、やっぱりどれも食べたくなっちゃうな。幸せな悩みってこういうことだと思う。
琴璃が席についてから数分くらいしてから丸井が両手に皿を持って戻ってきた。それを嬉しそうにテーブルに置く。隙間なく甘い物たちが乗せられていてまさしく食いしん坊の象徴のような盛り方だった。
「すごいね、丸井くん。これ、もしかしなくとも……全種類?」
「当たりめーだろ。来たからには全部制覇しねぇと意味ねーじゃん。おっしゃ、食おうぜ」
「うん」
昨日は隣りに座って食べた。すごく美味しかった。今日は、向かい合って食べている。一口口に含む度に好きな人が満面の笑みを見せてくれる。最高の特等席だと思った。
「ん?どした?」
「なんか、デートみたいだなって」
しまったと思った。今完全に気を抜いていた。どうにか誤魔化したいのにじわじわ顔が熱くなってゆく。琴璃は無理矢理に咳払いをしてこの気まずい空気をどうにか断ち切ろうとした。
「ごめん、うそうそ、何でもない。あははは」
丸井の顔が怖くて見れなかった。呆れてるのか、バカにした目をして琴璃を見てるのか。それを確かめる勇気が無かったからただひたすらテーブルの上の食べかけのスイーツを見る。狼狽えた気持ちを落ち着かせようと琴璃が紅茶のカップに手を伸ばした時。
「デートじゃねぇの?」
「え?」
「少なくとも俺はそう思ってたんだけど」
ぼそりと丸井が言う。が、その後は沈黙が生まれた。琴璃はそうっと顔を上げる。目の前の丸井はバツが悪そうな顔をしていた。少しだけ頬を赤らめて、頬杖をついてそっぽを向いていた。
「うーわ。なんか、俺だせぇ」
「……ほ」
「ほ?」
「ほんとに、そう思ってくれてたの?」
「……お前なぁ、こんなとこで嘘つくわけねーだろが」
流石に食べながらする話ではないと思ったようで丸井はフォークを置いた。はぁ、と項垂れて溜め息をこぼす。でも次に顔を上げた時は笑っておらず、真剣な顔つきになっていた。思わず琴璃はドキリとしてしまう。
「本当は、ここへは最初からお前を誘いたかったんだよ。けど、カッコつけて“昨日の礼”だとか言ってお前にチケット渡したわけ。でももし、俺がすすめたとおりお前が友達と行くことになってたら……マジでカッコ悪かった」
「そうだったんだ」
「昨日だって、お前がたまたま交差点渡るとこ見つけてさ。駅と反対方向に行くから気になってついてったら、まさかのケーキ屋の列に並んだから俺もそうした」
「そうだったの?後ろに丸井くんがいたのはほんとに偶然かと思ってた」
たまたま丸井が自分の後ろに並んでいたのかと思っていたのに、それよりも前から彼は琴璃の存在を認識していたという事実。しかもあとをつけられていたなんて。
「……キモイって言うなよ」
「言わないよ。でも、それなら話しかけてくれたって良かったのに」
「俺あんま“演技”とかできねーんだよ。偶然装ったふうに会話なんてできるかっつーの。それに、並んでるうちに人気のシュークリームの行列だって分かったら、正直そっちのほうが気になっちまって」
「……それって、私、シュークリームに負けたってこと?」
小さく小さく呟いた。なんかちょっとショックだった。でも、少年のような瞳でスイーツを愛す彼だから仕方ない。愛嬌の1つみたいなもんだ。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない。なんか丸井くんらしいなって思っただけ」
「は?」
「丸井くんはほんとに食いしん坊なんだねって」
「んだよそれ。お前バカにしてんだろ」
絶対に偶然だと思ってたのに。同じ行列に並んでたことは偶然じゃなかった。もしかしてあの時、シュークリームが売り切れたのも偶然じゃなかったのかも。だとすると、一緒に公園で食べる展開になったのも今日ここに一緒に来れたのも運命なんじゃないか。そんなふうに考えてしまう。この昨日からの奇跡みたいな幸せが、本当は必然的に訪れることになっていたのだとしたら。今ここで、思いを伝えないと駄目だと思った。
「してないよ。そういうところが好きって言いたかったの」
にっこり笑って琴璃は言った。それを聞いて今度は丸井が顔を硬直させる。さっきよりも目の泳ぎ方が尋常じゃない。
「……お前さ。そーゆうことよくそんな普通に言えるよな」
丸井は再びフォークを握り、ショートケーキのてっぺんの苺に突き刺す。明らかに照れ隠しなのが琴璃でも分かった。
「けど、サンキュ」
そして、苺といい勝負なくらいに顔を真っ赤にして呟いた。スイーツを頬張った時に見せる満面の笑みとはまた別の、まだ恥ずかしさが抜けない顔。そんな彼の幸せそうな顔が間違いなく、今日1番の甘いデザートだ。
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“ハニカミ”と“青春”代表の丸井くんが大好きです。
「うーわ、どうするよおい」
ここに着いてから今に至るまで丸井の機嫌は絶好調だった。一時あんなにムスッとしていたのに今やまるで別人みたいにニヤけ顔がおさまらずにいる。さっきからちょっと大きめの独り言が止まらない。彼の心の中の感嘆の叫びが漏れ出てしまっている。
席に案内され簡単な説明を受けている間も、丸井の視線と意識はスイーツのほうに一直線だった。ちっとも店員の話を聞いていないから琴璃は可笑しくて笑いを堪えるのが必死だった。
「んじゃあ、行くか藤白」
「あ、うん」
格好つけた言い方で琴璃を呼ぶけど足取りはだいぶ浮ついている。別にもともと普段の彼もクールというわけじゃない。でも派手な馬鹿騒ぎをするような人ではない。琴璃の中の丸井の印象はそんなふうだったのに、昨日今日で彼に対するイメージが変わってゆく。全然知らなかった。本気で嬉しい時はこんなふうに笑うこと。好きなもの食べてる時はあんなふうにテンション高くなること。琴璃の知らなかった彼の一面がひとつずつ増えていく。そのたびにドキドキするし、瞳がそらせなくなる。距離が縮まるとこんなにも楽しい。そばにいられて、こんなに幸せ。
皿に乗せたフルーツタルトがきらきらしている。ワゴンには琴璃が大好きなケーキが沢山陳列されていた。目移りしながらいくつか選んでみたけど、やっぱりどれも食べたくなっちゃうな。幸せな悩みってこういうことだと思う。
琴璃が席についてから数分くらいしてから丸井が両手に皿を持って戻ってきた。それを嬉しそうにテーブルに置く。隙間なく甘い物たちが乗せられていてまさしく食いしん坊の象徴のような盛り方だった。
「すごいね、丸井くん。これ、もしかしなくとも……全種類?」
「当たりめーだろ。来たからには全部制覇しねぇと意味ねーじゃん。おっしゃ、食おうぜ」
「うん」
昨日は隣りに座って食べた。すごく美味しかった。今日は、向かい合って食べている。一口口に含む度に好きな人が満面の笑みを見せてくれる。最高の特等席だと思った。
「ん?どした?」
「なんか、デートみたいだなって」
しまったと思った。今完全に気を抜いていた。どうにか誤魔化したいのにじわじわ顔が熱くなってゆく。琴璃は無理矢理に咳払いをしてこの気まずい空気をどうにか断ち切ろうとした。
「ごめん、うそうそ、何でもない。あははは」
丸井の顔が怖くて見れなかった。呆れてるのか、バカにした目をして琴璃を見てるのか。それを確かめる勇気が無かったからただひたすらテーブルの上の食べかけのスイーツを見る。狼狽えた気持ちを落ち着かせようと琴璃が紅茶のカップに手を伸ばした時。
「デートじゃねぇの?」
「え?」
「少なくとも俺はそう思ってたんだけど」
ぼそりと丸井が言う。が、その後は沈黙が生まれた。琴璃はそうっと顔を上げる。目の前の丸井はバツが悪そうな顔をしていた。少しだけ頬を赤らめて、頬杖をついてそっぽを向いていた。
「うーわ。なんか、俺だせぇ」
「……ほ」
「ほ?」
「ほんとに、そう思ってくれてたの?」
「……お前なぁ、こんなとこで嘘つくわけねーだろが」
流石に食べながらする話ではないと思ったようで丸井はフォークを置いた。はぁ、と項垂れて溜め息をこぼす。でも次に顔を上げた時は笑っておらず、真剣な顔つきになっていた。思わず琴璃はドキリとしてしまう。
「本当は、ここへは最初からお前を誘いたかったんだよ。けど、カッコつけて“昨日の礼”だとか言ってお前にチケット渡したわけ。でももし、俺がすすめたとおりお前が友達と行くことになってたら……マジでカッコ悪かった」
「そうだったんだ」
「昨日だって、お前がたまたま交差点渡るとこ見つけてさ。駅と反対方向に行くから気になってついてったら、まさかのケーキ屋の列に並んだから俺もそうした」
「そうだったの?後ろに丸井くんがいたのはほんとに偶然かと思ってた」
たまたま丸井が自分の後ろに並んでいたのかと思っていたのに、それよりも前から彼は琴璃の存在を認識していたという事実。しかもあとをつけられていたなんて。
「……キモイって言うなよ」
「言わないよ。でも、それなら話しかけてくれたって良かったのに」
「俺あんま“演技”とかできねーんだよ。偶然装ったふうに会話なんてできるかっつーの。それに、並んでるうちに人気のシュークリームの行列だって分かったら、正直そっちのほうが気になっちまって」
「……それって、私、シュークリームに負けたってこと?」
小さく小さく呟いた。なんかちょっとショックだった。でも、少年のような瞳でスイーツを愛す彼だから仕方ない。愛嬌の1つみたいなもんだ。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない。なんか丸井くんらしいなって思っただけ」
「は?」
「丸井くんはほんとに食いしん坊なんだねって」
「んだよそれ。お前バカにしてんだろ」
絶対に偶然だと思ってたのに。同じ行列に並んでたことは偶然じゃなかった。もしかしてあの時、シュークリームが売り切れたのも偶然じゃなかったのかも。だとすると、一緒に公園で食べる展開になったのも今日ここに一緒に来れたのも運命なんじゃないか。そんなふうに考えてしまう。この昨日からの奇跡みたいな幸せが、本当は必然的に訪れることになっていたのだとしたら。今ここで、思いを伝えないと駄目だと思った。
「してないよ。そういうところが好きって言いたかったの」
にっこり笑って琴璃は言った。それを聞いて今度は丸井が顔を硬直させる。さっきよりも目の泳ぎ方が尋常じゃない。
「……お前さ。そーゆうことよくそんな普通に言えるよな」
丸井は再びフォークを握り、ショートケーキのてっぺんの苺に突き刺す。明らかに照れ隠しなのが琴璃でも分かった。
「けど、サンキュ」
そして、苺といい勝負なくらいに顔を真っ赤にして呟いた。スイーツを頬張った時に見せる満面の笑みとはまた別の、まだ恥ずかしさが抜けない顔。そんな彼の幸せそうな顔が間違いなく、今日1番の甘いデザートだ。
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“ハニカミ”と“青春”代表の丸井くんが大好きです。
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