物事は全て必然的に起きている
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「ん」
次の日の休み時間。琴璃が自分の席に座っていると丸井がやってきて何かを差し出してきた。それは1枚の、手のひらサイズよりはやや大きい紙だった。
「なぁに、これ?」
「お前にやる。昨日の礼だよ」
視線を彼から再び紙切れに移す。“ビュッフェ”という文字が真っ先に認識できるワードだった。
「こないだ横浜の駅の中にできた店らしいんだけどよ、これ持ってきゃ2時間スイーツ食べ放題できるんだよ」
「これを……私に?」
「誰かオンナ友達とでも行ってこいよ。あーでも、その券で行けるの2人までしかだからモメるなよ?」
「でも、丸井くんはいいの?誰かと行く為に使おうとしてたんじゃないの?……その、彼女とか」
「あ?彼女なんていねーよ。つーか、言わせんなよバカ」
「あ、ごめん。……そ、なんだ」
謝りながらも込み上げてくる嬉しい気持ち。目の前で笑うなんてできないので僅かに琴璃は俯いた。だって、嬉しいに決まってる。絶対彼女いると思ってた。けれど違うらしい。ずっと密かに気になってたことの真実が明かされて、しかも良い方の結果だったのですごく安心した。おまけになんだか勇気が湧いてきた。
「じゃあ、行こうよ」
「あ?」
「この券、私にくれるなら私は丸井くん誘う。だから一緒に行こう?こういうのは本当に行きたい人が行くべきだよ!」
「お、おお」
「どしたの?」
「いや、めちゃくちゃ力説してくるからびっくりした。なんかお前の熱いとこ見んの初めてだわ」
「そ、そうかな」
琴璃の友達の中にもスイーツ好きは沢山いるけれど、丸井や自分に匹敵するほどマニアじゃない。もともと丸井が行きたかったのならば、絶対に行くべきだと思ったのだ。それに、願うことならば一緒に行きたい。
「お前、いいヤツだな」
昨日と同じように丸井は屈託なく笑う。彼が笑うたびに鼓動が早鐘を打つ。今、間違いなく心臓がキュンと鳴ったんじゃないか。熱くなった顔をどうにか誤魔化して琴璃は「楽しみだね」と返事をした。想いを寄せてる人と一緒にスイーツバイキング。食べられる幸せと、丸井と一緒に行ける幸せが合わさって、本当は今すぐにでも飛び跳ねたいくらいの気分だ。頭の中ではとっくにジャンプしている。
「あ、けど俺テニス部あるからよ、終わってからになっちまうんだけど平気?」
「うん。全然いいよ、全然、いくらでも待つよ!」
「なんだそれ。お前、食えるからって途端に元気じゃんか」
それだけじゃないよ、と琴璃は心の中でだけ答える。
まだ言えないけど。言える日が果たして来るのかも分からないけど。今はそんなに気にしない。今はただ、早く放課後にならないかなぁ。それだけを考えて。
約束の時間。丸井にはテニスコートのそばで待ってるよう言われたので、琴璃は言われた通りその近くに居た。
全体練習は先ほど終わったらしく、レギュラーではない部員たちがコートの中で散らばったボールを拾ったりネットの後片付けをしていた。立海のテニス部は部員数があんなに沢山いるのに、その中でもレギュラーを努める彼は本当に凄いと思う。
「丸井くんは終わったのかな……」
コート周辺から部室のほうへ移動する。入口のドアをちらちら見ているとちょうど中から1人の部員が出てきた。琴璃とばっちり目が合った。
「ん?なんか用?」
「あ、や、丸井くん待ってて」
彼はなんだか目つきが怖かった。そのせいか、琴璃はたじろいでしまう。ついでにバカ正直に答えてしまったのも迫力負けしたせいだった。
「もしかしてアンタ、丸井先輩のカノジョ?」
「ち、違います。同じクラスなだけです」
「ふーん。なのに待ってるんだ?一緒に帰んの?」
「まぁ……はい」
しげしげと観察されている。丸井“先輩”と呼ぶからには彼は自分らより下の学年なんだろう。けれどやたら堂々としている。それより何より、ちょっととっつきにくいオーラが前面に出ている。友好的な印象は微塵も無い。
「くぉら赤也、何やってんだよおめーは」
「あ、丸井先輩」
そこへ丸井が現れてくれて琴璃はホッとした。赤也、と呼ばれたその彼は頭の後ろで両手を組んで欠伸を噛み殺す。先輩に対してこんな態度をとれるんだから、やはり彼はひと癖違うんだと思う。
「だーって、先輩のカノジョが現れたからどんな人かなあって気になって」
「だから彼女じゃないです!」
からかってるつもりなのか、またも赤也が言ってきたので琴璃は思わず反論する。自分でもちょっとびっくりするほど大きめの声が出た。でも丸井も目の前に居るのだからそこはきちんと訂正しておかないと。だって、もし彼が嫌な気持ちになったら申し訳ないから。
だがそんな琴璃の様子を見て、丸井はと言うと目を丸くしたままじっと琴璃を見ていた。その後に小さな舌打ちをしてからまた赤也に向き直ると、
「いってー!」
盛大なデコピンをお見舞いしてやった。赤也は額を両手で押さえぎゃあぎゃあ喚き出す。
「いきなり何するんスか!」
「おめーが絡むとロクなことねぇわ。さっさとジャッカルとでも帰りやがれ。藤白、行くぞ」
「あ、はいっ」
先に歩き出した丸井。後ろでまだ赤也が何か喚いてたけど琴璃はその背を追い掛ける。気のせいかもしれないけど、自分の思い過ごしかもしれないけど、彼の横顔がちょっと険しく見えた。
正門を出るまで丸井は琴璃に話し掛けてこなかった。琴璃も話し掛けなかった。なんだかそういう空気じゃないのを微かに察したのだ。てっきり彼のことだから、これからスイーツの食べ放題に行くのだからハイテンションで話し掛けてくれるかと思ったのに。そんな様子はまるで無く、むしろやたらと落ち着いている。
部活が疲れちゃったのかな。やっぱり私と行くのがあんまり気が進まないのかな。斜め後ろを歩きながら琴璃はあれこれと詮索してしまう。そういう性分なのだ。
どうしようか。だが考えてるうちに駅に着いてしまった。ここから一緒に電車に乗って店のある横浜方面へ向かうことになる。
――向かうんで、いいんだよね。
「あの、丸井くん」
「あ?」
「行くのって私と一緒で平気?その……、やっぱりやめる?」
「何言ってんのお前」
「だって……」
「俺と行きたくないってこと?」
「ち、ちがうよ!それを言うなら私のほうだよ!丸井くん本当は、私と行きたくないんじゃないかなって」
「はあ?なんでそうなるんだよ。いつ俺がそんなこと言ったよ」
「言ったわけじゃないけど……」
顔がムッとしててなんだか怖いし。でもさすがにそれは言えなかった。
「もしかして他にもなんか言われたのか?さっきのアイツに」
赤也のことをさしているんだと琴璃は分かった。彼は高圧的で怖かったけどあれ以上のことは言われてはいない。丸井とデザートビュッフェに行くか否かを躊躇っているのはあくまで琴璃自身の気持ちだった。本当は行きたいけど、彼が自分とだと100パーセント楽しめないのなら断ったほうがいいと思った。だからやめるかどうか提案したわけだが、逆に彼の眉間のシワがますます深く刻まれることになってしまった。今の自分の発言によって彼の不機嫌を増長させてしまったのだ。
「あのヤロウ、明日覚えてろよ」
「ち、ちがうの。あの後輩の子からは別に何も言われたりしてないよ」
とりあえず、赤也への要らぬ疑いは晴らしておくべく否定しておく。
「なんていうか、丸井くん元気無かったから。疲れてるならまた別の日でもいいし」
「疲れてんの?俺が?」
「うん。ちがう?」
「ぜんぜん。どっちかっつーと腹減って死にそう」
「そ、そうなの」
とてもそんな表情には見えなかったが。もしかして空腹で機嫌が悪かったのかな。そう思うようにした。
「俺そんなにめんどくせぇオーラ出してた?」
「めんどくさいなんて、そんなふうには思ったりしてないよ。でも顔が笑ってなかったからなんだか心配しちゃって」
「そっか。わりぃ」
ちょうどそこへ2人の乗る電車がホームに滑り込んできた。一緒に吹き込んで来る風が爽やかで心地良い。ついこないだまではあんなに冷たかったのに。もう春なんだな、と思う。扉が開いて次々人が降りてくる。琴璃は邪魔にならないように端で待っていた。ようやく人の波が収まったので電車に乗り込む為に足を動かす。背中に軽い力を感じた。
「んじゃ行こーぜ」
さっきよりも明らかに弾んだ声だった。どうやら機嫌は回復したらしい。丸井が琴璃の背を軽く押して共に電車に乗り込む。ちょうど2人分席が空いていたので並んで座る。隣を見ると思った以上に彼が近かった。電車の窓から夕陽が差し込んでくる。それに照らされた彼の赤い髪が透き通って見えた。
「どした?」
「ううん、なんでも」
緊張する。昨日のベンチよりも距離が近い。あと20分くらいはずっとこのまま。
「まず何食おっかな。お前は?何が好き?」
「好き、なのは……えっと、全部」
「はは!俺もだわ」
琴璃の答えに丸井は歯を見せてニッと笑った。
「藤白って本当面白いよな」
「えと、そうかな」
これは褒められているんだと思う。いいヤツだとか面白いヤツだとか、昨日も今日も沢山言われた。そのたびに彼を近くに感じる。でも、本当は“ただのいいヤツ”でおさまりたくない。そう思うのはワガママだろうか。
次の日の休み時間。琴璃が自分の席に座っていると丸井がやってきて何かを差し出してきた。それは1枚の、手のひらサイズよりはやや大きい紙だった。
「なぁに、これ?」
「お前にやる。昨日の礼だよ」
視線を彼から再び紙切れに移す。“ビュッフェ”という文字が真っ先に認識できるワードだった。
「こないだ横浜の駅の中にできた店らしいんだけどよ、これ持ってきゃ2時間スイーツ食べ放題できるんだよ」
「これを……私に?」
「誰かオンナ友達とでも行ってこいよ。あーでも、その券で行けるの2人までしかだからモメるなよ?」
「でも、丸井くんはいいの?誰かと行く為に使おうとしてたんじゃないの?……その、彼女とか」
「あ?彼女なんていねーよ。つーか、言わせんなよバカ」
「あ、ごめん。……そ、なんだ」
謝りながらも込み上げてくる嬉しい気持ち。目の前で笑うなんてできないので僅かに琴璃は俯いた。だって、嬉しいに決まってる。絶対彼女いると思ってた。けれど違うらしい。ずっと密かに気になってたことの真実が明かされて、しかも良い方の結果だったのですごく安心した。おまけになんだか勇気が湧いてきた。
「じゃあ、行こうよ」
「あ?」
「この券、私にくれるなら私は丸井くん誘う。だから一緒に行こう?こういうのは本当に行きたい人が行くべきだよ!」
「お、おお」
「どしたの?」
「いや、めちゃくちゃ力説してくるからびっくりした。なんかお前の熱いとこ見んの初めてだわ」
「そ、そうかな」
琴璃の友達の中にもスイーツ好きは沢山いるけれど、丸井や自分に匹敵するほどマニアじゃない。もともと丸井が行きたかったのならば、絶対に行くべきだと思ったのだ。それに、願うことならば一緒に行きたい。
「お前、いいヤツだな」
昨日と同じように丸井は屈託なく笑う。彼が笑うたびに鼓動が早鐘を打つ。今、間違いなく心臓がキュンと鳴ったんじゃないか。熱くなった顔をどうにか誤魔化して琴璃は「楽しみだね」と返事をした。想いを寄せてる人と一緒にスイーツバイキング。食べられる幸せと、丸井と一緒に行ける幸せが合わさって、本当は今すぐにでも飛び跳ねたいくらいの気分だ。頭の中ではとっくにジャンプしている。
「あ、けど俺テニス部あるからよ、終わってからになっちまうんだけど平気?」
「うん。全然いいよ、全然、いくらでも待つよ!」
「なんだそれ。お前、食えるからって途端に元気じゃんか」
それだけじゃないよ、と琴璃は心の中でだけ答える。
まだ言えないけど。言える日が果たして来るのかも分からないけど。今はそんなに気にしない。今はただ、早く放課後にならないかなぁ。それだけを考えて。
約束の時間。丸井にはテニスコートのそばで待ってるよう言われたので、琴璃は言われた通りその近くに居た。
全体練習は先ほど終わったらしく、レギュラーではない部員たちがコートの中で散らばったボールを拾ったりネットの後片付けをしていた。立海のテニス部は部員数があんなに沢山いるのに、その中でもレギュラーを努める彼は本当に凄いと思う。
「丸井くんは終わったのかな……」
コート周辺から部室のほうへ移動する。入口のドアをちらちら見ているとちょうど中から1人の部員が出てきた。琴璃とばっちり目が合った。
「ん?なんか用?」
「あ、や、丸井くん待ってて」
彼はなんだか目つきが怖かった。そのせいか、琴璃はたじろいでしまう。ついでにバカ正直に答えてしまったのも迫力負けしたせいだった。
「もしかしてアンタ、丸井先輩のカノジョ?」
「ち、違います。同じクラスなだけです」
「ふーん。なのに待ってるんだ?一緒に帰んの?」
「まぁ……はい」
しげしげと観察されている。丸井“先輩”と呼ぶからには彼は自分らより下の学年なんだろう。けれどやたら堂々としている。それより何より、ちょっととっつきにくいオーラが前面に出ている。友好的な印象は微塵も無い。
「くぉら赤也、何やってんだよおめーは」
「あ、丸井先輩」
そこへ丸井が現れてくれて琴璃はホッとした。赤也、と呼ばれたその彼は頭の後ろで両手を組んで欠伸を噛み殺す。先輩に対してこんな態度をとれるんだから、やはり彼はひと癖違うんだと思う。
「だーって、先輩のカノジョが現れたからどんな人かなあって気になって」
「だから彼女じゃないです!」
からかってるつもりなのか、またも赤也が言ってきたので琴璃は思わず反論する。自分でもちょっとびっくりするほど大きめの声が出た。でも丸井も目の前に居るのだからそこはきちんと訂正しておかないと。だって、もし彼が嫌な気持ちになったら申し訳ないから。
だがそんな琴璃の様子を見て、丸井はと言うと目を丸くしたままじっと琴璃を見ていた。その後に小さな舌打ちをしてからまた赤也に向き直ると、
「いってー!」
盛大なデコピンをお見舞いしてやった。赤也は額を両手で押さえぎゃあぎゃあ喚き出す。
「いきなり何するんスか!」
「おめーが絡むとロクなことねぇわ。さっさとジャッカルとでも帰りやがれ。藤白、行くぞ」
「あ、はいっ」
先に歩き出した丸井。後ろでまだ赤也が何か喚いてたけど琴璃はその背を追い掛ける。気のせいかもしれないけど、自分の思い過ごしかもしれないけど、彼の横顔がちょっと険しく見えた。
正門を出るまで丸井は琴璃に話し掛けてこなかった。琴璃も話し掛けなかった。なんだかそういう空気じゃないのを微かに察したのだ。てっきり彼のことだから、これからスイーツの食べ放題に行くのだからハイテンションで話し掛けてくれるかと思ったのに。そんな様子はまるで無く、むしろやたらと落ち着いている。
部活が疲れちゃったのかな。やっぱり私と行くのがあんまり気が進まないのかな。斜め後ろを歩きながら琴璃はあれこれと詮索してしまう。そういう性分なのだ。
どうしようか。だが考えてるうちに駅に着いてしまった。ここから一緒に電車に乗って店のある横浜方面へ向かうことになる。
――向かうんで、いいんだよね。
「あの、丸井くん」
「あ?」
「行くのって私と一緒で平気?その……、やっぱりやめる?」
「何言ってんのお前」
「だって……」
「俺と行きたくないってこと?」
「ち、ちがうよ!それを言うなら私のほうだよ!丸井くん本当は、私と行きたくないんじゃないかなって」
「はあ?なんでそうなるんだよ。いつ俺がそんなこと言ったよ」
「言ったわけじゃないけど……」
顔がムッとしててなんだか怖いし。でもさすがにそれは言えなかった。
「もしかして他にもなんか言われたのか?さっきのアイツに」
赤也のことをさしているんだと琴璃は分かった。彼は高圧的で怖かったけどあれ以上のことは言われてはいない。丸井とデザートビュッフェに行くか否かを躊躇っているのはあくまで琴璃自身の気持ちだった。本当は行きたいけど、彼が自分とだと100パーセント楽しめないのなら断ったほうがいいと思った。だからやめるかどうか提案したわけだが、逆に彼の眉間のシワがますます深く刻まれることになってしまった。今の自分の発言によって彼の不機嫌を増長させてしまったのだ。
「あのヤロウ、明日覚えてろよ」
「ち、ちがうの。あの後輩の子からは別に何も言われたりしてないよ」
とりあえず、赤也への要らぬ疑いは晴らしておくべく否定しておく。
「なんていうか、丸井くん元気無かったから。疲れてるならまた別の日でもいいし」
「疲れてんの?俺が?」
「うん。ちがう?」
「ぜんぜん。どっちかっつーと腹減って死にそう」
「そ、そうなの」
とてもそんな表情には見えなかったが。もしかして空腹で機嫌が悪かったのかな。そう思うようにした。
「俺そんなにめんどくせぇオーラ出してた?」
「めんどくさいなんて、そんなふうには思ったりしてないよ。でも顔が笑ってなかったからなんだか心配しちゃって」
「そっか。わりぃ」
ちょうどそこへ2人の乗る電車がホームに滑り込んできた。一緒に吹き込んで来る風が爽やかで心地良い。ついこないだまではあんなに冷たかったのに。もう春なんだな、と思う。扉が開いて次々人が降りてくる。琴璃は邪魔にならないように端で待っていた。ようやく人の波が収まったので電車に乗り込む為に足を動かす。背中に軽い力を感じた。
「んじゃ行こーぜ」
さっきよりも明らかに弾んだ声だった。どうやら機嫌は回復したらしい。丸井が琴璃の背を軽く押して共に電車に乗り込む。ちょうど2人分席が空いていたので並んで座る。隣を見ると思った以上に彼が近かった。電車の窓から夕陽が差し込んでくる。それに照らされた彼の赤い髪が透き通って見えた。
「どした?」
「ううん、なんでも」
緊張する。昨日のベンチよりも距離が近い。あと20分くらいはずっとこのまま。
「まず何食おっかな。お前は?何が好き?」
「好き、なのは……えっと、全部」
「はは!俺もだわ」
琴璃の答えに丸井は歯を見せてニッと笑った。
「藤白って本当面白いよな」
「えと、そうかな」
これは褒められているんだと思う。いいヤツだとか面白いヤツだとか、昨日も今日も沢山言われた。そのたびに彼を近くに感じる。でも、本当は“ただのいいヤツ”でおさまりたくない。そう思うのはワガママだろうか。